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LAMとmTORシグナル伝達系
リンパ脈管筋腫症(lymphangioleiomyomatosis;LAM)は,平滑筋様細胞の形態を示すLAM細胞が肺,体軸リンパ系(肺門・縦隔,縦隔,上腹部から骨盤部にかけての後腹膜腔)で増殖して病変を形成し,病変内にリンパ管新生を伴う腫瘍性疾患である.LAM細胞は,腫瘍抑制遺伝子として機能するTSC1遺伝子あるいはTSC2遺伝子のどちらか一方の遺伝子変異により形質転換した腫瘍細胞である.しかし,どのような細胞がLAM細胞の前駆細胞normal counterpartであるのかは解明されていない.
TSC1とTSC2遺伝子は,約130kDaのハマルチン(hamartin),約180kDaのツベリン(tuberin)をそれぞれコードし,両者はハマルチン/ツベリン複合体を形成して,ラパマイシン標的蛋白質(mammalian/mechanistic target of rapamycin;mTOR)につながる細胞内シグナル伝達系で機能することが明らかとなった(図1)1〜4).mTORは2,549個のアミノ酸残基よりなる巨大な蛋白質分子であり,セリン・スレオニンキナーゼ(リン酸化酵素)として機能する.mTORは細胞内で単一の蛋白として存在するのではなく,他の蛋白質と複合体を形成して機能する(図1).mTOR complex 1(mTORC1)とmTOR complex 2(mTORC2)の2種類があり,mTORC1は,細胞外からのインスリンやその他の細胞増殖因子,エネルギー状態,アミノ酸やグルコースなどの細胞外栄養素,などの情報が集約され,蛋白質合成を促進し,細胞の大きさや増殖を制御している.その他,脂質や核酸の合成,オートファジー,リソゾームなどの細胞内小器官の生合成やエネルギー代謝など,様々な細胞内プロセスを制御している.一方,mTORC2はPKCαやRhoキナーゼなどを調節してアクチン細胞骨格の形成や,解糖系などの代謝制御,Aktを活性化して細胞生存を制御する.ハマルチン/ツベリン複合体は,Rhebを抑制することにより間接的にmTORC1を抑制的に制御している.そのため,TSC1あるいはTSC2遺伝子変異によりハマルチン/ツベリン複合体が機能を失うと,恒常的にmTORC1が活性化された状態となり,LAM細胞は増殖すると考えられる.mTORC1を活性化する経路は,細胞増殖因子—PI3K—Akt—TSC1/TSC2—Rhebと伝わる経路が中心であるが,TSC1/TSC2複合体には様々な刺激が集まり,mTORC1を複雑に制御している.例えば,Ras-ERK経路やWnt—GSK経路,低栄養(エネルギー)・低酸素条件のようなエネルギー飢餓状態はAMPKを介したシグナルがTSC1/TSC2複合体に集まる.一方,細胞外のアミノ酸(特にロイシンやイソロイシン)はRagA/B・RagC/Dを介してmTORC1のリソゾームへの局在化と活性化を誘導することが知られている.一方,mTORC2はPI3Kにより活性化されることが明らかにされているが,その他の活性化機構は不明である.
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