循環器ジャーナル 72巻4号 (2024年10月発行)

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特集　循環器診断マスター—「ロジック」と「暗黙知」で診断の真髄に迫る

序文

循環器診断マスター—「ロジック」と「暗黙知」で診断の真髄に迫る小田倉　弘典 72巻4号 , 2024年10月 , pp.516-517

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　本書を目にした医療者の中には，「循環器領域で今さら診断？」と軽く一瞥した方も少なくないように思われる．そう，古来より循環器の領域では，「診断」よりも「治療」がメインストリームと思われてきた，というか思われがちであった．現実問題，Fantastic Fourしかり，最先端デバイス治療しかり．これら治療の武器により，患者の状態が「良くなる」ことを目のあたりにできるわけであり，それは興味深いし取り組みがいがあるのは当然である．それに比べると「診断」の歴史は古く，しかもそのフォーマットに大きな変化はあまりないようにも思える．

　しかし，はたして私たちは，循環器領域における診断の意味を真剣に考えたことがあるだろうか．そもそも「診断」とはどういった行為なのだろう．私なりの言葉で言えば，“患者の発する「言葉」（＝問診）および患者に起きている「現象」（＝身体所見）という一次情報を，数値や画像情報と言う二次情報に変換し（あるいは変換せずに），最終的に特定の物質的状態を本質とする疾患概念へと還元（原因づけ）すること”である．恐ろしく抽象的な言い方になってしまったが，例えば「心房細動」を例に取ろう．「胸がどきどきする」「胸に違和感がある」といった患者の言葉．そして脈が不整，脈拍数が多いといった現象．これら一次情報を，「心電図」という二次情報を通じて，肺静脈の自動興奮と心房内での電気的興奮のリエントリー回路，という物質的状態へと還元すること，すなわち「心房細動」の疾患概念を確定することである．このように書くと直線的で単純な図式が思い浮かぶが，そうではない．まず患者の言葉や身体所見には無数のバリエーションがある．患者自身も，自分の身体に起きている現象をどう言葉にしてよいかわからない場合がある．また，「胸が痛い」という言葉ひとつをとっても，様々な疾患概念が想起される．さらに一次情報から二次情報への変換過程やそこから疾患概念への導出の際には，様々な診断エラーが忍び込む．こう考えると，治療のほうが，診断が決まればエビデンスやガイドラインを用いながらの道筋はある意味立てやすく，より単純な側面があると言えるかもしれない．

Ⅰ.総論

循環器疾患を診断するには？小田倉　弘典 72巻4号 , 2024年10月 , pp.519-525

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POINT

●仮説演繹法に基づく臨床推論を精緻化することで，確定疾患に到達することが求められる．

●循環器疾患は，緊急性が高いにもかかわらず非典型的な症状/検査所見を示す場合が多い．

●仮説演繹法にも限界があり，形式知の精緻化のみならず暗黙知を集合させることが重要である．

Ⅱ.急性期外来

急性冠症候群を見逃さないためには？杉崎　陽一郎 72巻4号 , 2024年10月 , pp.526-534

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POINT

●胸痛を認めず非典型的な症状のみを主訴に受診した患者がACSであることもあり，そういった症例を見逃さないため，問診からの診断の感度は高め，心電図の閾値は低めにしておく．

●受診10分以内の心電図を心がけ，ST変化を見逃さない．特に見逃しやすい心電図に注意．

●初回検査時および1時間後の高感度トロポニン測定を用いて，rule in/rule outを行う．

急性肺血栓塞栓症を見逃さないためには？佐藤　大樹 , 千葉　直貴 , 安田　聡 72巻4号 , 2024年10月 , pp.535-541

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POINT

●肺血栓塞栓症は非特異的な症状を呈するため，肺血栓塞栓症を起こしうる背景やリスク因子を理解する．

●メカニカルサポートや線溶治療などの緊急処置が必要な循環動態の所見を理解する．

急性大動脈解離を見逃さないためには？伊藤　校輝 72巻4号 , 2024年10月 , pp.542-548

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POINT

●非典型的な症状であっても，否定されるまでは疑う姿勢で診断を進める．

●確定診断は単純および造影CT検査を中心として行う．

●存在診断を確実に行い，可能であればentryの位置と解離の進展範囲，偽腔の血流状態および病期を把握する．

急性心不全を見逃さないためには？本川　哲史 72巻4号 , 2024年10月 , pp.550-557

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POINT

●呼吸器疾患，特に喘息との鑑別に注意する．心不全患者を喘息と判断し見逃さない．

●Ⅲ音や頸静脈怒張は心不全の陽性的中率が高い．

●BNP/NT pro-BNPは除外診断に特に有用である．

●心エコー図検査では，右心カテーテル検査と対比して血行動態評価を行う．

頻脈性不整脈の鑑別法は？高麗　謙吾 72巻4号 , 2024年10月 , pp.558-565

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POINT

●頻脈性不整脈の主訴は動悸だけではない．診断には発作時心電図の捕捉が重要となる．

●診断を進めながら，同時に器質的心疾患の合併と突然死リスクを評価する．

●適切な心電図モニタの選択が診断につながる．

失神：心原性と非心原性の鑑別法は？佐藤　宏行 72巻4号 , 2024年10月 , pp.566-574

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POINT

●失神とは，一過性の脳の低灌流による意識消失であり，体位保持困難となり，自然に完全に意識が回復する症候と定義される．

●一過性意識消失（TLOC）では失神以外に「てんかんによる痙攣」も鑑別に挙げる．

●失神の鑑別診断は，反射性，起立性低血圧，心原性の3つに分けて考える．

●心原性を強く疑う病歴や心電図所見を認識し，非心原性と鑑別を進める．

ショック：心原性ショックと他のショックとの鑑別法は？伊藤　健太 72巻4号 , 2024年10月 , pp.576-579

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POINT

●鑑別診断と治療を同時並行で進める．

●速やかに解除可能な閉塞性ショックを見逃さない．

●身体所見から結果を予測しながら，検査を併用する．

Ⅲ.慢性期外来

胸痛：歩いてきた胸痛患者．重症心疾患を見逃さないためには？田中　健二郎 72巻4号 , 2024年10月 , pp.580-584

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POINT

●患者さんの訴え：「胸痛」の鑑別すべき疾患群の想像→問診・身体所見を予想→検査を選択→大まかな診断

●胸痛：「心原性」「心因性」「心臓以外の疾患」「その他」

●問診：「胸痛・胸部症状の性状」「症状出現様式」「持続時間」「随伴症状」「その他」を聴取するところから始まり，患者さんの背景や症状誘発状況，危険因子の状況，家族歴なども丁寧に聞いていくことが大切である．

呼吸困難：心不全かどうか？大原　貴裕 72巻4号 , 2024年10月 , pp.585-591

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POINT

●呼吸困難の背景には様々な重症度の多様な疾患がありえる．

●様々なバイアスのかかる臨床現場では，病歴，身体所見，検査の各レベルで推論と検証を繰り返して次の行動を選択し，適切な診断に結びつける必要がある．

下腿浮腫：心不全かどうか？夜久　英憲 72巻4号 , 2024年10月 , pp.592-596

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POINT

●浮腫の問診，身体所見のポイントは，その原因・病態を意識すれば，自ずと見えてくる．

●浮腫の原因は，「心」「腎」「肝」「内分泌」「薬剤」「その他」と繰り返し唱えて覚えよう．

●「その他」の原因で意外と多い“慢性静脈不全”をお忘れなく．

動悸：不整脈かどうか？小田倉　弘典 72巻4号 , 2024年10月 , pp.598-603

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POINT

●患者の言語表現→「動悸」という症状概念の想起→鑑別疾患のリスト化→問診→身体診察→検査→確定診断という手順で診断を考える

●動悸は大きく「不整脈（心原性）」「心因性」「心疾患以外の疾患，誘引（による随伴症状）」の3つに分けて考える．

●問診は，動悸の性状→発症停止様式と持続時間→随伴症状→患者背景/誘発因子の順に聞いていく．

視診で心疾患を疑ったら？石井　奈津子 , 山崎　直仁 72巻4号 , 2024年10月 , pp.604-610

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POINT

●患者が診察室に入ってきた瞬間から，歩行様式・歩行スピードを含めて視診の開始である．

●頸静脈の診察は座位・臥位の両方で評価し，呼吸負荷や歩行負荷での変化にも注目する．

●心不全の病態に迫る，視診と心疾患を合併する基礎疾患の視診に分けて考える．

心雑音：外来で心雑音が聞こえたときの対処法は？山崎　直仁 72巻4号 , 2024年10月 , pp.611-615

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POINT

●外来で聴取される心雑音の大多数は，大動脈弁硬化に由来する駆出性収縮期雑音である．

●収縮期雑音の音調が高調で，Ⅰ音・Ⅱ音が明瞭に聴取できないときは，逆流性雑音を疑う．

●収縮期雑音のピークの時相が収縮期の中間〜後半にあれば，その雑音は病的である．

胸部X線写真（心血管陰影）の異常を見たら？岩永　史郎 72巻4号 , 2024年10月 , pp.616-625

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POINT

●経験を積むと胸部X線写真で基本的な器質的心大血管疾患を診断できる．

●肺うっ血や肺水腫，胸水貯留の重症度を把握でき，心不全診療に有用な検査である．

●肺血管陰影で肺高血圧，左心不全による肺うっ血，肺血流量増加を鑑別できる．

HFpEF（左室駆出率が保たれた心不全）を疑ったら？大西　勝也 72巻4号 , 2024年10月 , pp.626-633

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POINT

●HFpEFの診断をしているのか，心不全の診断をしているのかを把握する．

●心不全の診断には，うっ血の評価が重要である．HFpEFの場合，運動負荷時にしか症状が出ない場合がある．

●HFpEFでは併存症が多く，その併存症自身が鑑別疾患ともなる．

弁膜症を疑ったら？菅原　政貴 72巻4号 , 2024年10月 , pp.634-643

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POINT

●息切れなどの心不全を疑う症状，病歴＋心雑音＝弁膜症を疑う．

●弁膜症の診断や病態把握には心エコー図検査は不可欠である．

●弁膜症の病態や心機能，併存症，身体機能で治療方針が変わってくる．

心筋疾患を疑ったら？鍋田　健 72巻4号 , 2024年10月 , pp.644-651

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POINT

●心筋症は簡便に行える検査でスクリーニングを行い，確定診断につなげる．

●形態・機能から肥大型心筋症様，拡張型心筋症様のいずれかを確認することが重要である．

●疾患を知らないと診断はできないため，各疾患ポイントとなる所見は押さえておきたい．

心膜炎・心筋炎を疑ったら？那須　崇人 72巻4号 , 2024年10月 , pp.652-656

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POINT

●心膜炎の定義を知る．

●収縮性心膜炎は疑うことから始まる．

●心筋炎は急性増悪する可能性があることを知る．

感染性心内膜炎を疑ったら？菊池　航紀 72巻4号 , 2024年10月 , pp.658-664

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POINT

●感染性心内膜炎（IE）は診断が困難で，不明熱の原因となりうる重要な疾患である．

●Duke-ISCVID criteriaを用い，血管現象や免疫現象を評価し，確定診断に役立てる．

●典型的微生物を理解し，抗菌薬投与前に適切に血液培養検査を行うことが重要である．

先天性心疾患（成人）を疑ったら？折田　巧 , 齋藤　秀輝 72巻4号 , 2024年10月 , pp.665-671

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POINT

●先天性心疾患患者の多くが成人となることに加え，成人期に初めて指摘される先天性心疾患も存在する．

●特に心房中隔欠損症（ASD）は成人期に診断されることも多く，経胸壁心臓超音波で短絡を見逃さない努力が必要である．

高血圧：治療までにすべきことは？尾股　慧 , 伊藤　貞嘉 72巻4号 , 2024年10月 , pp.672-676

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POINT

●高血圧症はその病態を鑑別することで，より個別的な治療を提供できる可能性がある疾患である．

●レニン・アルドステロン測定は，原発性アルドステロン症の鑑別のみならず，本態性高血圧の病態理解と治療最適化においても有用である．

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目次 72巻4号 , 2024年10月 , pp.514-515

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バックナンバーのご案内 72巻4号 , 2024年10月 , pp.678

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奥付 72巻4号 , 2024年10月 , pp.680

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電子版ISSN：2432-3292 印刷版ISSN：2432-3284 医学書院

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