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はじめに
20世紀後半の世界は,資本主義と社会主義という二大イデオロギーの対立に終始した.前世紀の最後にソ連や東欧諸国の崩壊,中国の路線変更によって,前者が後者を駆逐したかに見える.しかし,実際には,医療や福祉や労働政策において後者が前者に与えた影響は大きかった.
なかでも昨年5月の国会で承認され,本年1月に施行された難病新法は,難病患者の救済を多面的に行う世界に誇れる政策であろう.57疾患が対象だった稀少難病の医療費助成を300疾患にまで拡大し,難病患者の就労をサポートし,難病に関する調査を進め,新治療法の開発を推進するという内容である.この政策が実を結ぶかどうかは,患者はもとより医療従事者の努力,行政の努力によるところ大である.しかし,いくら医療費の補助があっても,また,就労ができたとしても,新治療が承認され,患者さんが将来に展望を持つことができなければ意味がない.ここで,大きく立ちはだかっているのが,今や医療のなかにまで深く入り込んだ製薬業界における市場原理主義である.言い換えれば,株主への背任を避けるために,儲からない薬は作りたくても作れない,売りたくても売れない,という製薬企業の「業」である.
厚労省は,難病政策の成果の一つとして,リンパ脈管筋腫症(LAM)に対するシロリムスの薬事承認を挙げ,様々な場面で紹介してくださっている.医師主導治験に携わった当事者として,嬉しい反面,『それは,結果論でしょ! 真実はちょっと違う!』と叫びたくなる衝動に駆られることも多い.シロリムスの薬事承認が上手く行ったのは,たまたま難病新法の成立と企業のM & Aという幸運が重なったためで,儲からない稀少疾患の新薬を上市することは,市場原理の浸透により,ますます困難な状況になっていると思う.『難病新薬の開発は,医師主導治験で決まり!』のような短絡は,営利企業との複雑怪奇な折衝の舞台裏をご存じない方の台詞だろう.
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