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健康情報学の基盤
健康情報学“health informatics”とは,人間の健康や疾病,医療に関する情報を幅広く扱う新しい学問である1,2).医学・医療,そしてパブリック・ヘルスは,本来,人間の生・老・病・死を広く対象とするものであることから,京都大学の健康情報学では,「生・老・病・死に向き合う時,人間を支え,力づけられるような情報・コミュニケーションの在り方を問う」実践的な学問領域の形成を目指している3).
著名な臨床医であるOslerや日野原によると「医学は不確実性の科学(science of uncertainty)であり,確率の技術(art of probability)」である.これは個人レベルの臨床医学・医療だけでなく,人間集団を対象とするパブリック・ヘルスにも当てはまる.一方,情報はデジタル理論の創始者であるShannonによると「(意思決定において)不確実性(uncertainty)を減ずるもの」である.医療や健康に関わる様々な事象では,期待する結果(疾病予防,治療効果,生活の質の向上など)が得られるかどうか,多因子が複雑に絡む.このような不確実性の高い現実の意思決定において求められる合理性と論理,そして倫理は,後述する根拠に基づく医療(evidence-based medicine;EBM)を生んだ4).evidence-basedの視点からはエビデンス≒(定量的な)情報と捉えられる(定性的な情報であるナラティブに関しては後段で述べる).EBM,特にMuir Grayが拡大した根拠に基づく保健医療(evidence-based Healthcare;EBH)の概念は健康情報学の大きな柱の一つと言える.EBHでは行動・意思決定に影響を与える3要因として情報(evidence),資源(resource),価値(value)を挙げられている5).健康情報学は,情報を「つくる・つたえる・つかう」という視点から,「社会における情報の循環」として,そのダイナミズムを把握し,医療者に限らず,患者・家族などの医療の利用者,生活者全般に役立つこと,そして個人から社会レベルの意思決定の支援を想定している(図1)1,2,6).そのため,対象とする従来の公衆衛生や臨床の枠組みにこだわらず,疫学研究によるエビデンスの創出と関連する社会制度や情報倫理,健康・医療情報の評価・集約・伝達・共有,リテラシーやコミュニケーションなどの幅広い課題を扱う.用いる研究手法は疫学を基盤とし,データ統合型研究(システマティックレビュー,決断分析など)から,人間,文献,インターネット情報を対象とした質的研究やデータマイニングなど多岐にわたる7〜9).また対象課題の設定・アプローチに関しては“micro(個人レベル)”,“meso(地域・組織レベル)”,“macro(社会・環境レベル)”の相互関連性を重視する.
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