呼吸と循環 45巻4号 (1997年4月)

特集 肺動脈血栓塞栓症の基礎と臨床

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 はじめに

 肺動脈血栓塞栓症は血栓性塞栓子が肺動脈を閉塞する疾患であり,単に肺血栓塞栓症ともいわれる1).肺血栓塞栓症がわが国では少ないことはよく知られたことであるが,近年増加の傾向にあることは,各施設での臨床例の報告が増加したことより知ることができる.しかし,その実態は依然不明である.肺血栓塞栓症は認識しなければ決して診断できない疾患であり,増加の原因については今日の診断技術の進歩も当然考えられるが,それだけでは説明できないものがある.生活様式の欧米化,高齢化2)の要素の関与が想定されているが,臨床例の増加に対する確たる証拠は示されていない.一方では,院内発生の症例の増加に関しては,最先端医療の導入など医療・医術の高度化の要素も考慮に入れなければならない.

 肺血栓塞栓症は急性から慢性まで,さらにまた軽症から重症まで多彩な病態を示す疾患群であり単純なものではない.そのため,その疫学を述べるに当たっては,疫学の根拠となる疾患の定義をはっきりさせる必要がある.臨床症状を全く表さないような,たまたま病理組織診断でのみ発見されるような臨床下のものから,致死性急性肺血栓塞栓症,さらには肺高血圧を伴う慢性肺血栓塞栓症までがある.

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 はじめに

 肺血栓塞栓症の危険因子としては,①外傷,火傷,外科手術などによる長期臥床安静状態,②肥満,③うっ血性心不全,④悪性腫瘍,⑤妊娠,⑥経口避妊薬,⑦多血症,⑧深部静脈血栓症,⑨下肢静脈瘤,⑩肺血栓塞栓症の既往などがあげられる1).なかでも深部静脈血栓症,長期臥床安静状態,外科手術,肥満は重要である2).そこで,本稿では,肺血栓塞栓症について,まず病因,特に深部静脈血栓症との関係について述べた後,形態学,病態に分けて解説する.

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 はじめに

 肺血栓塞栓症(PE)の血栓源の約90%以上を占めるのは,下肢および骨盤内の深部静脈血栓症(DVT:Deep Vein Thrombosis)であり,このDVT形成に関する素因を有するか否かを検証することは,診断,治療,ひいては再発の予防という観点から極めて重要であると考えられる.

 血管が損傷を受け出血が起こると,その傷害部をふさぎ,出血を止めるために止血血栓が形成される。この止血血栓形成機構は極めて精密に制御されており,血管壁に何の傷害もないときは血液は決して凝固することなく血管内を流れている.いったん傷害が起こると血栓止血反応がスイッチオンされ,そのようにして開始された血栓形成は,決して行きすぎることなく,適度な大きさの血栓を形成し終了する,この制御機構は,血小板系,凝固線溶系,内皮細胞系などがさまざまなバランスをとって関与していると考えられるが,このバランスの障害により,止血血栓が過度に進行すれば血栓性疾患が惹起されることになる.血栓性素因とは,先天的に,もしくはなんらかの基礎疾患により後天的にこのバランス状態の破綻を来すような原因があり,その結果,容易に血栓形成が起こりやすくなっている状態を示している.

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 はじめに

 肺動脈血栓塞栓症(以下PTE)は急性PTE(以下APTE)と慢性PTEに分類される.慢性PTEはその定義に統一見解はないが,通常は「thrombo—embolic pulmonary hypertension」の概念で理解されている.その診断は肺高血圧症の診断と,肺高血圧症の原因疾患たるCOPDなどの肺実質性疾患,左心不全,veno-occulusive diseaseなどの前毛細血管性のものを除外すること,更に肺血管床内の血栓の証明により成し遂げられる.血栓の画像診断は基本的にはAPTEと同様である.そこで本稿では診断がより困難で早期の診断治療を求められるAPTEの診断について解説する.

 APTEの問題点は,約30年間にわたる臨床研究にもかかわらずunderdiagnosisと依然改善されない死亡率にある.死亡率は確定診断され,適切な治療が行われたものでは8%,診断未確定例では32%といわれており1),改善されない死亡率もunderdiagnosisに起因するところが大である.underdiagnosisの実情はPTEと剖検診断されたものの生前診断率で評価しているが,最近の最も高い生前診断率ですら34%にとどまる2).この原因は肺血管床を閉塞した血栓の大きさ,閉塞部位,肺梗塞の有無,心肺疾患などの基礎疾患の有無による非特異的臨床病像によるものである.

 したがって,ここでは診断により直結する臨床病像のまとめと,150余例の経験より重症度に応じた診断手順について述べる.

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 はじめに

 肺血栓塞栓症は,塞栓子の急激な肺動脈の閉塞により発症した急性肺塞栓症と,繰り返す肺塞栓症などにより持続性の肺高血圧を呈した慢性反復性肺塞栓症の2つに分類される.肺血栓塞栓症の内科的治療は,病型や重症度,急性期か慢性期かによって異なる.基本的には急性期の圧負荷に対する右心機能の維持と肺血流の再開通を図り,さらには再発防止の手段を講じることである.重篤例では,まず呼吸循環に対する救急処置を行い,同時に本症が疑われた場合には,直ちにヘパリンを投与する.その後,診断のための検査を進め,本症が確診されればヘパリンによる抗凝固療法に加え血栓溶解療法を併用する.急性期を乗り越えた後は経口抗凝固薬の投与とともに,器質的疾患や機能的凝固異常の検索,肺塞栓症の原因となる血栓塞栓源の探索を行い,本症の再発や進展を防止する.

 本稿では急性肺血栓塞栓症と慢性肺血栓塞栓性肺高血圧症に分けて,内科的治療を概説する.

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 はじめに

 肺動脈血栓塞栓症に対する外科治療は,他の外科治療における区別以上に,明確に急性肺塞栓症(acute pulmonary embolism)と慢性肺血栓(塞栓)症(chronic pulmonary thromboembolism)に分けて考察することが大切である.その理由は,この両者は発症時期の相違に帰せられるのではなく,疾患の成因,外科治療に当たっての概念,適応,そして手術手技が全く異なることにある.端的には,この両者は,同一の疾患としてそれぞれが時期的な相違における一つの延長線上にあるのではなくて,ことによると独立した別個の疾患ではないだろうかと考えるほどである.その主たる理由は,急性肺塞栓の病因,病態についてはほぼ明確な合意がすでに存在しているのに対して,慢性肺血栓(塞栓)症の病因に関しては未だ不明なところが多いことに帰せられよう.またもし,この両者が同一線上にある疾患であると理解した場合には,亜急性期または亜慢性期の病態も存在するはずである.しかし,少なくとも外科的観点からはこのような考えはないとも言える.したがって,この項では,それぞれを別個に,かつ外科治療に限って記述することとする.

巻頭言

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 患者が気管支喘息と診断されて,まず最初に発する質問で最も多いものは,「喘息は治りますか?」という質問であろう,この質問に正確に答えることは難しい,なぜなら喘息の治癒に関する論文は少なく,治ったといっても,あくまでその時点での臨床症状が一定期間なかったという報告がほとんどであり,気道炎症や気道過敏性などの病態が完全に消失しているかどうかは不明な場合が多い.また,小児では発育成長に関連して自然寛解が存在する.ゆえに成人と小児では治癒率—これは寛解率と呼ぶべき—が全く異なる.よって,最初の質問に対する答えも全く違ってくる.多数の成人喘息を治療してきて実感することは,気管支喘息は間違いなく慢性で完治困難な疾患であるという事実である.

 近年気管支喘息は種々の器質的病変を伴っていることが認識されている.そして,気管支喘息の器質的病変と難治化との関連が世界的にも注目を集めているが,最近,気道壁の線維性の変化が可逆的であるとする報告もある.気管支喘息が本当に治癒する疾患なのか否か,職業性喘息など特殊なものだけでなく,一般的なアトピー型,非アトピー型喘息での多数例における長期follow upが病理学的検索まで含めて今後なされるべきであろう.そして,もし治癒可能な疾患であるならば,どのような治療がそれを可能とするのかを徹底的に追及すべきである.しかし,科学的な治癒論とは別に,われわれ医療者は「喘息治癒論」に慎重であるべきだと思う.最も大きな問題として,喘息死がなかなか減少しない現実が存在する.不十分な治療や会社や学校を優先させた結果が,喘息死につながる場合もあり得るという事実は,医療的にも社会的にも一定のコンセンサスが必要であるように思う.少なくとも成人喘息において,現時点での患者や社会へのメッセージは,世界的ガイドラインGINA(global initiative for asthma)と同じように「喘息はコントロール可能な疾患であるが治癒しない」とすることが妥当ではないだろうか.過大な期待を患者に与えることにより,せっかく得られた良好なコントロールを「治癒」と錯覚してしまい,その結果増える可能性が大きい不定期受診例や喘息死を作り出すことは賢明な方針ではない.確かに気管支喘息を「不治の疾患」としてしまうことは社会的にも大きな問題があるであろう.入学,就職,そして結婚といった患者自身の選択だけではなく他者の選択が重きをなす場面で,それが決定的に不利になる可能性も存在する.しかしそれは「喘息が適切な治療により全く普通の社会生活が送れる」というはっきりしたメッセージを医療者側が社会に送っていれば問題はかなり減ずるはずである.

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 はじめに

 医学的には65歳以上を高齢者と呼んでいるが,高齢者における高血圧の病態は,それ以前の若年〜中年者の高血圧とは異なっており,診断と治療方針の決定に特別な配慮が必要である.すなわち,高齢高血圧者は加齢によって主要臓器の血流低下,自動調節能の障害,電解質・調圧系ホメオスターシスの破綻,さらに多くの合併症などの特徴を持っが,これらは治療上重要な意味を持つ1).このような年代の高血圧治療はその妥当性と限界をわきまえたうえで治療すべきである.さらに生活の質(Quality of Life:QOL)やコンプライアンスについても配慮が必要である.

Bedside Teaching

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 はじめに

 1997年はGruentzigが最初に第1例日の経皮的冠動脈形成術(PTCA)を行ってから,ちょうど20年が経過したことになる.今や,PTCAの虚血性心疾患に対する有効性は次々と証明され,最近では3枝病変に対しても冠動脈バイパス手術に劣らない臨床成績を挙げられることが大規模比較試験の結果からも明らかとなっている1,2).さらに,この20年の問に,最初のバルーンによるPTCA(POBA=Plain Old Balloon Angioplasty)のみならず,各種の新しい器具(ニュー・ディバイス;new devices)による治療法が出現してきた.特に,冠動脈内ステントの出現はPOBAによるPTCAのいろいろな限界を乗り越える役目を果たし,今日のPTCAは冠動脈内ステント植え込み術を抜きには語れず,また実際の治療も行えないほどになってきた.

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 歴史と背景

 標準状態(pH=7.400,PCO2=40 mmHg,体温=37℃)における血液の酸素飽和度が50%であるときの酸素分圧がP50と定義されている.この値は酸素ヘモグロビン解離曲線(Oxyhemoglobin dissociation curve:以下ODCと記す)の移動を表現している.したがって,P50を知ることは生体の酸素需給を考えるうえで重要であり,その意義,重要性について述べた報告も多い1〜4).しかし,ODC自体がS字状曲線でありP50を求めることは容易なことではなく臨床応用されるに至っていない.現在,P50を求めるには,主な方法として,①ODCを描画し,そのグラフから実際に値を読みとる,②1点の測定でP50を計算式から求める5),③パーソナルコンピューターを用いてP50を求める,などの方法がある.

 ①の方法は,描画する機械が大がかりであり,臨床応用は困難である.②も測定された酸素分圧を標準状態に補正する必要があり,血液ガスと酸素飽和度の測定精度,温度管理などが問題となる.③の方法もプログラミングの知識を必要とするが,コンピューターの高性能化がそれをカバーしている.今回われわれが紹介する方法は③に含まれる.

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 虚血性心疾患に対して経皮的冠動脈形成術(PTCA)バルーン拡張中に出現する側副血行の臨床的意義を検討した.対象は左冠動脈前下行枝(LAD)に対するPTCA症例28例で,内訳は,急性心筋梗塞(AMI)7例,陳旧性心筋梗塞(OMI)9例,狭心症(AP)12例である.PTCA中に対側造影および同側造影を施行しRentrop分類に従ってG0〜G3の4段階に分類した.また,ドップラーガイドワイヤーによる側副血行の血流速度と同時に心電図と冠動脈内心電図のST変化を記録した.その結果,心電図のST変化および側副血行の血流速度が,ともに冠動脈造影上の側副血行の分類と有意に対応していることが明らかとなった.対側造影およびドップラーガイドワイヤーを用いることにより,バルーン拡張中の側副血行をより定量的に評価することが可能であり,今後さらに詳細な検討が期待しうる.

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 症例は40歳,男性.1991年5月に不全型ベーチェット病(腸管型)による回盲部切除後,サラゾピリン内服中であったが,1992年9月に突然の呼吸困難を主訴に緊急入院.大動脈弁閉鎖不全症(AR)による急性左心不全であった.内科治療抵抗性で大動脈弁置換術を施行したが,左冠尖の破壊と左バルサルバ洞動脈瘤の穿孔があり,組織学的に本症に合致していた.術後10日目に弁置換後のリーク(漏れ)によるARが出現し再手術をした.現在,ステロイドなどの投与により約3年間経過観察中である.ARを伴ったベーチェット病の報告は,われわれの調べた限りでは本例を含めて63例で,34例は人工弁置換を行っていた.術後合併症としてリークが多かった.ARに弁置換術を行って長期経過観察した例は少なく,2年以上の生存が確認されたのは4例であった.ARを合併した本症の長期生存のためには,ステロイドなどによる活動性の抑制が重要と思われた.

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 症例は61歳,女性.胸痛を主訴に入院した.12時間後急性心筋梗塞を発症し,心原性ショックに陥り大動脈内バルーンパンピング法にて循環補助を施行した.冠動脈造影上,左冠動脈主幹部に狭窄病変を認め経皮的冠動脈形成術(PTCA)を施行するも開大が得られず,パーフュージョンカテーテルを留置した.その後解離性大動脈瘤(DeBakey I型)の圧迫による左冠動脈主幹部狭窄がショックの原因であることが判明した.7日後,多臓器不全も改善傾向になったため,上行大動脈人工血管置換術および左冠動脈前下行枝に冠動脈バイパス手術(CABG)を施行した.パーフュージョンカテーテルはPTCA後の急性冠閉塞の際に緊急CABGまでの短時間使用が一般的であるが,心原性ショックにより手術の施行が難しい場合には救命を第一に考え,パーフュージョンカテーテルを使用し全身状態が改善しだい血行再建法を施行するのも一法である.

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 近年の冠動脈造影の普及により先天性冠動脈奇形をしばしば認めるようになってきている.今回,単冠動脈症を合併した肥大型心筋症の1例を経験したので報告する.症例は34歳,男性.自覚症状は認めない.健康診断にて心雑音を聴取され,精査目的で入院となった.心エコー図検査では左室壁の不均一な肥厚,特に心室中隔から心尖部に強い肥厚を認めた.Mモード心エコー図では僧帽弁の収縮期前方運動(SAM)を認めた.これらの所見より肥大型心筋症と診断された.心臓カテーテル検査にて左室造影で左室収縮は正常であったが,冠動脈造影で左冠動脈のみの単冠動脈を認めた.本例は肥大型心筋症に単冠動脈症を合併している稀な1例と考えられた.これらは互いに突然死の可能性の高い疾患であり,今後慎重な経過観察が必要と考えられた.

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 経過中,胸痛なく発熱を主訴として入院し喀血にて死亡した解離性大動脈瘤のきわめて稀な剖検例を経験したので報告する.患者は67歳の男性で,不明熱の精査目的で入院した.入院時,脈拍,血圧に左右差があり,CRP 6.9 mg/dlと炎症所見を認め,胸部X線写真にて大動脈弓および縦隔陰影の拡大を認めた.入院5日目,誘因なく喀血し,胸部CTにて解離性大動脈瘤の切迫破裂と診断した.炎症所見が強く局所感染の可能性より緊急手術の適応とはならず保存的に治療したが,再度大量に喀血し死亡した.剖検にて下行大動脈部の解離腔から左肺上葉への穿通を認めた.解離性大動脈瘤で胸腔内出血を認めず喀血を来す例は稀であるが,本症例においては,拡張した動脈瘤による局所の圧迫および線維性癒着に二次感染が加わり動脈壁の脆弱化が起こり,気腫性病変部へ瘻孔を形成したことが原因と推察された.

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 ほぼ等頻度の2つの心室副調律を呈した高度房室ブロックの1例を報告する.症例は67歳,男性,6カ月前の心電図は洞調律(72/分),左軸偏位,右脚ブロックでPR 0.19秒,今回動悸で受診時は高度房室ブロックで,2つの心室調律を認めたが,互いにresetされることなくそれぞれ独自の周期性を示した.2つの心室副調律はいずれも右脚ブロック型で,片方は左軸偏位,他方は右軸偏位を呈し,それぞれ35,34でほぼ等頻度の自動能を有した.ホルターではこれとは別に保護ブロックを有さない左脚ブロック型(毎分32)心室補充収縮を認めた,2つの副調律が補充収縮よりもやや周期が短いため補充収縮はほとんど出現せず,また2つの副調律はほぼ等頻度のため互いに交錯して出る時期もある一方で,同期しはじめると長時間にわたり片方の副調律が単独に出る時期もあった.以上高度房室ブロックの症例において,左脚の前枝と後枝に2つの心室副中枢を,右脚ブロック遠位端に心室補充中枢を有するきわめて稀な1例を報告した.

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 Bartter症候群は1962年にBartterらが初めて報告した二次性アルドステロン症の一種である.病因としては,プロスタグランジン(PG)過剰産生説,C1再吸収障害説などが報告されているが,その病態は今なお完全には解明されていない.以前から本症候群に対しin—domethacinが治療薬として用いられているが,indomethacin有効例では腎由来のPGと考えられている尿中PG-Eが上昇していることが多く,尿中PG-Eが正常な症例に同薬が有効であった報告は極めて少ない.今回われわれは尿中PG-Eが正常であるBartter症候群の1例を経験し,試験的に投与したindomethacinにより血漿レニン活性,アルドステロン濃度の改善を認めた.本症候群では尿中PG-E値にかかわらずindomethacin療法を試みるべきであると考えられた.

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 血管ベーチェットが疑われた腹部大動脈瘤の1例を経験した.症例は68歳,男性.37歳時に副睾丸炎の既往がある.発熱,体重減少,関節痛があり,口腔潰瘍,右上腹部拍動性腫瘤の精査目的で入院となった.入院時,白血球増加,CRP上昇,血沈の亢進を認め,抗核抗体陽性,HLA typingではB51が検出された.腹部CT上,大動脈壁の肥厚および石灰化を伴う嚢状大動脈瘤を認めた.腹部大動脈造影では上腸間膜動脈下部の嚢状大動脈瘤を認めた.経過が急速であり,血管ベーチェットの大動脈瘤と考え,人工血管置換術を施行した.周囲への癒着,浸潤は認めず,病理組織では炎症細胞の浸潤と中膜弾性線維の破壊を認めた.高齢発症であるが,臨床経過,検査所見,組織所見より血管ベーチェットによる腹部大動脈瘤が考えられた.血管ベーチェットの動脈瘤は予後不良であることから,同疾患が疑われた場合,外科手術も念頭においた早期診断,治療が重要と考えられた.

Topics Respiration & Circulation

肺癌の遺伝子異常 鈴木 幸男
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 ■最近の動向 近年,分子腫瘍学(molecular oncology)の進歩により,肺癌などの悪性腫瘍の発生とその進展の機序については,長い時間的経過で複数の癌遺伝子の活性化や癌抑制遺伝子の不活性化が多段階的に蓄積されて,正常細胞が前癌細胞を経て癌細胞へと転化することが明らかにされてきた.癌遺伝子(oncogene)は突然変異,遺伝子増幅,染色体転座などにより活性化され,その遺伝子産物が異常に発現すると細胞増殖を促進する.癌抑制遺伝子(tumor suppressor gene)はその遺伝子産物が細胞増殖を抑制しており,その遺伝子が不活化されると細胞が増殖する.肺癌では癌遺伝子としてrasやmyc遺伝子,癌抑制遺伝子としてp53やRb遺伝子が注目されている.ras遺伝子族にはK-ras,H-ras,N-rasがあり,細胞膜に局在するGTP結合蛋白質をコードし,細胞内情報伝達系に関与する.肺腺癌の20〜30%の症例でK-ras遺伝子の点突然変異を認め,GTPase活性の低下によりGTP結合蛋白質が増加し,細胞増殖が促進される.この点突然変異は喫煙者の腺癌に高頻度(60%以上)であり,タバコ中の発癌物質によって惹起されることが報告されている.K-ras遺伝子の点突然変異陽性の腺癌症例は陰性の腺癌症例に比べて予後不良との報告がある.また,肺癌ではmyc遺伝子族(c-myc,N-myc,L-myc)の遺伝子増幅を認め,小細胞癌の25%,非小細胞癌の10%に認められ,特にc-myc遺伝子の遺伝子増幅は肺小細胞癌の予後不良を示す因子と言われている.一方,癌抑制遺伝子としてp53遺伝子の変異頻度は小細胞癌の80%,非小細胞癌の50%に認められ,p53遺伝子異常の発現頻度と喫煙量の問に高い相関があり,肺癌のタバコ発癌における重要な遺伝子であると考えられている,さらに非小細胞癌患者の術後予後因子であるとの報告が多い.またRb遺伝子の不活性化は小細胞癌の90%以上,非小細胞癌の10〜30%に認められる.近い将来,これらの遺伝子異常を明らかにすることにより肺癌のハイリスクグループの選別,高悪性度群の臨床的層別化,遺伝子治療の導入など臨床の場への還元が可能になると期待される.

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 ■最近の動向 遺伝子欠損症に対する遺伝子補充療法として考えられた遺伝子治療は,LDL受容体遺伝子欠損症である家族性高脂血症などの第一世代の遺伝子治療から,複雑な病態である閉塞性動脈硬化症や経皮血管拡張術後再狭窄などの第二世代の遺伝子治療に広がってきた.特に,血管病変に対する遺伝子治療は,数年前までは遺伝子治療の対象ですらなかったが,多くの動物実験での成功をふまえ,現在最もその成果が期待されている.遺伝子導入による血管病変の治療は,動物実験のレベルから臨床において有用性を検討される段階に入った.

 外因性遺伝子をベクターと呼ばれる遺伝子の運び屋を用いて血管局所に導入する純粋な遺伝子治療とアンチセンスオリゴヌクレオチドなどの核酸医薬を用いる遺伝子治療が考案されている.1995年血管内皮増殖因子(VEGF)遺伝子の閉塞性動脈硬化症に対する遺伝子治療が開始されて以来,VEGF遺伝子導入による冠血管拡張術後再狭窄の治療,癌遺伝子c-mycに対するアンチセンスオリゴヌクレオチドによる再狭窄の治療,そして,冠動脈静脈バイパス術後再狭窄に対するおとり型核酸医薬(E2Fデコイ)による治療がアメリカで認可され,臨床治験に入っている.今後,これらの治験の結果が明らかになるにつれ,更に血管病変における遺伝子治療の重要性が増すことになるであろう.これらの疾患の患者数は単一遺伝子欠損症に比べ,飛躍的に多く(例えば,再狭窄に関しては日本で年間40,000人と推定されている),多額の医療費を使っており,医療経済面からも期待されている.

基本情報

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呼吸と循環
45巻4号 (1997年4月)
電子版ISSN:1882-1200 印刷版ISSN:0452-3458 医学書院

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