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患者が気管支喘息と診断されて,まず最初に発する質問で最も多いものは,「喘息は治りますか?」という質問であろう,この質問に正確に答えることは難しい,なぜなら喘息の治癒に関する論文は少なく,治ったといっても,あくまでその時点での臨床症状が一定期間なかったという報告がほとんどであり,気道炎症や気道過敏性などの病態が完全に消失しているかどうかは不明な場合が多い.また,小児では発育成長に関連して自然寛解が存在する.ゆえに成人と小児では治癒率—これは寛解率と呼ぶべき—が全く異なる.よって,最初の質問に対する答えも全く違ってくる.多数の成人喘息を治療してきて実感することは,気管支喘息は間違いなく慢性で完治困難な疾患であるという事実である.
近年気管支喘息は種々の器質的病変を伴っていることが認識されている.そして,気管支喘息の器質的病変と難治化との関連が世界的にも注目を集めているが,最近,気道壁の線維性の変化が可逆的であるとする報告もある.気管支喘息が本当に治癒する疾患なのか否か,職業性喘息など特殊なものだけでなく,一般的なアトピー型,非アトピー型喘息での多数例における長期follow upが病理学的検索まで含めて今後なされるべきであろう.そして,もし治癒可能な疾患であるならば,どのような治療がそれを可能とするのかを徹底的に追及すべきである.しかし,科学的な治癒論とは別に,われわれ医療者は「喘息治癒論」に慎重であるべきだと思う.最も大きな問題として,喘息死がなかなか減少しない現実が存在する.不十分な治療や会社や学校を優先させた結果が,喘息死につながる場合もあり得るという事実は,医療的にも社会的にも一定のコンセンサスが必要であるように思う.少なくとも成人喘息において,現時点での患者や社会へのメッセージは,世界的ガイドラインGINA(global initiative for asthma)と同じように「喘息はコントロール可能な疾患であるが治癒しない」とすることが妥当ではないだろうか.過大な期待を患者に与えることにより,せっかく得られた良好なコントロールを「治癒」と錯覚してしまい,その結果増える可能性が大きい不定期受診例や喘息死を作り出すことは賢明な方針ではない.確かに気管支喘息を「不治の疾患」としてしまうことは社会的にも大きな問題があるであろう.入学,就職,そして結婚といった患者自身の選択だけではなく他者の選択が重きをなす場面で,それが決定的に不利になる可能性も存在する.しかしそれは「喘息が適切な治療により全く普通の社会生活が送れる」というはっきりしたメッセージを医療者側が社会に送っていれば問題はかなり減ずるはずである.
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