Topics Respiration & Circulation
遺伝子導入と血管保護
森下 竜一
1
,
荻原 俊男
1
1大阪大学医学部第四内科
pp.419-420
発行日 1997年4月15日
Published Date 1997/4/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1404900039
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■最近の動向 遺伝子欠損症に対する遺伝子補充療法として考えられた遺伝子治療は,LDL受容体遺伝子欠損症である家族性高脂血症などの第一世代の遺伝子治療から,複雑な病態である閉塞性動脈硬化症や経皮血管拡張術後再狭窄などの第二世代の遺伝子治療に広がってきた.特に,血管病変に対する遺伝子治療は,数年前までは遺伝子治療の対象ですらなかったが,多くの動物実験での成功をふまえ,現在最もその成果が期待されている.遺伝子導入による血管病変の治療は,動物実験のレベルから臨床において有用性を検討される段階に入った.
外因性遺伝子をベクターと呼ばれる遺伝子の運び屋を用いて血管局所に導入する純粋な遺伝子治療とアンチセンスオリゴヌクレオチドなどの核酸医薬を用いる遺伝子治療が考案されている.1995年血管内皮増殖因子(VEGF)遺伝子の閉塞性動脈硬化症に対する遺伝子治療が開始されて以来,VEGF遺伝子導入による冠血管拡張術後再狭窄の治療,癌遺伝子c-mycに対するアンチセンスオリゴヌクレオチドによる再狭窄の治療,そして,冠動脈静脈バイパス術後再狭窄に対するおとり型核酸医薬(E2Fデコイ)による治療がアメリカで認可され,臨床治験に入っている.今後,これらの治験の結果が明らかになるにつれ,更に血管病変における遺伝子治療の重要性が増すことになるであろう.これらの疾患の患者数は単一遺伝子欠損症に比べ,飛躍的に多く(例えば,再狭窄に関しては日本で年間40,000人と推定されている),多額の医療費を使っており,医療経済面からも期待されている.
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