呼吸と循環 45巻5号 (1997年5月)

特集 僧帽弁弁膜症治療の現況

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 PTMC(percutaneous transvenous mitralcommissurotomy,経皮的経静脈的僧帽弁交連裂開術)とは,僧帽弁狭窄症(MS)患者に対し図11)のように大腿静脈より進めたバルーンカテーテルを経心房中隔的に左房内に進め,さらに狭窄した僧帽弁口を通り左室まで進めた後に,バルーンを拡張させることで,癒着した僧帽弁交連部を裂開し,僧帽弁狭窄の程度を軽減させる治療法である.PTMCはInoueが1984年に初めて報告2)したが,それにやや遅れてLockら3)のlong bal—loon(single balloon,double balloon)を用いる方法(図2)や,左室から左房へretrogradeにバルーンを挿入する方法4)などが開発され施行されてきた.PTMCと同様にバルーンを用いるPTCA(percutaneous transluminal coronary angio—plasty)は当時すでに急速に世界中に広まりつつあったが,井上は全く独自にこの方法を研究開発した5).しかし,国内ではリウマチ熱の患者が減少していたこともあってか,あまり大きな注目を浴びることもなかったのに対し,アジアの開発途上国などをはじめ,むしろ海外で大きく注目されることとなった.

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 僧帽弁狭窄症の治療

 僧帽弁狭窄症の治療には大きく人工弁置換術(MVR),経皮的僧帽弁交連切開術(PTMC),直視下僧帽弁交連切開術(OMC)の3つがある.僧帽弁狭窄症の症状は弁口面積の狭小化により生じ,正常の弁口面積は約4〜6cm2であるが1.5cm2以下となると臨床症状が出現し,1cm2以下になるとかなり身体活動の制限が生じる.したがって,弁口面積が1.5cm2以下で臨床症状のある場合(NYHA分類でII度以上)が上記治療の適応となる.どの治療を選択するかは僧帽弁の形態や逆流の程度などを考慮して行われる.その他に合併症の出現,例えば心房細動や血栓塞栓症など,がある場合には個々にその適応を検討することとなる.

 PTMCは1984年にはじめて臨床応用され1)広く行われるようになってきた.経静脈的に施行できるため侵襲が少なく繰り返し施行可能である.また,短期的にはOMCとほぼ同等の弁口面積が得られるため2,3),OMCの適応と考えられる症例にはPTMCが施行され,OMC症例は減少した.図1にわれわれの施設での僧帽弁疾患(僧帽弁狭窄症,僧帽弁逆流症)に対する侵襲的治療の年度別の集計を示す.1987年よりPTMCを施行しているが,それを境にOMCは年々減少している.PTMCは1991年をピークとしてその後は減少している.MVRはほぼ横ばいで,僧帽弁形成術が年々増加している.これはリウマチ性僧帽弁疾患の減少と僧帽弁逸脱症の増加を反映していると考えられる.PTMCの適応は弁の変性が軽度(Wil—kinsらのecho score index;表1で8点以下)で僧帽弁逆流が軽度なもの(Sellers分類でII度以下)とされている.PTMCやOMCは長期の報告では術後の再狭窄が問題となっており,術前に予想できないかが検討されている4)

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 はじめに

 僧帽弁閉鎖不全症の病因には,リウマチ性弁膜症,僧帽弁逸脱症,虚血性心疾患に起因する僧帽弁乳頭筋機能不全や急性心筋梗塞後の僧帽弁乳頭筋断裂,感染性心内膜炎による僧帽弁破壊,心内膜床欠損症などの先天性心疾患に起因する僧帽弁弁尖裂隙(クレフト),Marfan症候群に起因する僧帽弁の変性など多くの原因がある(表1).大川は高齢者剖検5,000例中に552例(11%)の弁膜症がみられ,内僧帽弁狭窄(MS)は33例(6.0%),僧帽弁逆流(MR)は209例(37.9%)であったと報告している1).この209例のMRの成因としては,乳頭筋機能不全が112例(53.6%),僧帽弁逸脱40例(19.1%),弁輪石灰化24例(11.5%),腱索断裂15例(7.2%),先天性7例(3.3%),リウマチ性5例(2.4%),乳頭筋断裂5例(2.4%),感染性心内膜炎1例(0.5%)であり,われわれが経験する外科手術症例と多少その頻度は異なっている.心臓外科手術症例でみられる僧帽弁逆流の成因は,リウマチ性,腱索断裂を含む僧帽弁逸脱症,感染性心内膜炎の三大要因をなし,それらに加えて虚血性心疾患や先天性心疾患,あるいはMarfan症候群などに起因した僧帽弁逆流が少数例加わる.

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 はじめに

 一般に僧帽弁閉鎖不全症(Mitral regurgita—tion;MR)の手術適応を患者に説く時,明らかな心不全症状があって初めて外科治療の効果を,周術期に患者が受ける負担を上回る利益として説明できるものである.あるいは自覚症状がないかごく軽度の場合にも,左室機能の低下傾向を外科治療によって食い止める意義を納得させることができるものである.ところが,ほとんど症状がなくて左室機能の低下所見も見出せない場合は,例え高度の逆流が認められても,即手術適応とするには外科医といえども躊躇するのが普通である.手術そのものの危険性と術中術後に起こり得る様々な合併症を懸念するだけではない.術後遠隔期には,弁置換を行えば抗凝固療法によって患者の生活を少なからず制限することになり,それでも一定の頻度で人工弁の合併症を覚悟せざるを得ず,また弁形成術を行っても時には逆流の再発を来すこともあり,結果的に術前以上のQOLが保証されないとも限らないからである.よく似た事情は外科治療ならずとも,最近のカテーテル治療にも共通するところで,予防的あるいは先取りの侵襲的治療には慎重であり過ぎることはないといってよい.

 しかしながら,MRに対する弁形成術の進歩・普及とともに,手術適応が徐々にではあるがより早期に考慮されるようになっていることも日常診療の場で経験される事実である.自らの患者が弁形成術を受けて理想的な状態で帰ってくるという,内科医の体験が積み重なって適応の早期化が加速される現象としてみることができる.確かに,これを支持するような弁形成術の優れた成績が数多く報告されているが,問題は,それぞれに異なる個々の症例に即した外科的治療方針をどのように考えるかである.自験例を紹介しながら,MRに対する弁形成術の早期適用について私見を述べる.

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 はじめに

 僧帽弁閉鎖不全症は僧帽弁以外に弁輪や腱索,乳頭筋およびその付着部左室壁を含めた僧帽弁複合体の構造的,機能的異常により生じ,その成因上リウマチ性か非リウマチ性かに大別される.リウマチ性のものでは弁膜の肥厚や交連部の癒合,さらには腱索や乳頭筋の肥厚,短縮や弁輪部の硬化縮小が生じ通常僧帽弁狭窄兼閉鎖不全症の形を呈するため,従来より僧帽弁置換術が施行されてきた.しかしながら,リウマチ性のものは近年減少し,これに対して,拡張型心筋症や虚血性心疾患など,心筋収縮不全から左室拡大を呈する病態における二次的な機能的閉鎖不全(乳頭筋機能不全を含む)や僧帽弁逸脱症候群が増えるに伴い,僧帽弁形成術による修復が積極的に行われ手術成績は飛躍的に向上した.このような経緯をふまえて手術時期も再検討されつつある.特に術前の左心機能は術後の左心機能や遠隔予後に深く関わっているため,術前に僧帽弁逆流の成因および逆流の程度のみならず左室機能を正確に把握することは至適な手術時期決定をするうえできわめて重要である.

巻頭言

一休みしませんか 山木戸 道郎
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 雑誌『呼吸と循環』は,筆者が医学部を卒業した頃にはすでに幅広く読まれていたように思う.医学書院に尋ねてみたら,44年前に慶應大学の笹本浩教授(故人)が中心となって創刊されたという.おそらく,肺機能検査法が臨床に導入された時期に一致するものと思われる.以来,休むことなく呼吸と循環に関する情報を私どもに提供してくれている.

 言うまでもなく,「呼吸と循環」の主役は肺と心である.両臓器は,私どもがこの世に生を受けてから死ぬまで,片時も休むことなく働きつづけている.例えば心臓は,1分間に80回収縮するとして,1日には11万回を超えるほどの働きを示すのである.人生80年にしたら,その仕事量は天文学的な数値になるであろうことは,想像にかたくない.

綜説

NIPPVによる呼吸管理 鈴川 正之
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 NIPPV(Noninvasive Positive Pressure Ven—tilation—非侵襲的陽圧換気法,NPPVとも略される)とは,気管内挿管や気管切開を行わないで陽圧換気を行う方法である.この場合,マスクCPAPのように吸気と呼気の圧が同じものは含めない.

 非侵襲的な換気法は歴史的に新しい方法ではない.もともと陰圧型の「鉄の肺」のような非侵襲的人工呼吸が主流であったものが,ポリオの流行後,気管内挿管による陽圧呼吸管理の効率よい治療効果が認識されたことによって,侵襲的呼吸管理(気管内挿管による呼吸管理)が主流となり,非侵襲的方法はどちらかというと補助的呼吸管理法として位置づけられてきた.

Bedside Teaching

FDG-PETによる肺癌診断 井出 満
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 従来,肺の孤立性腫瘤は胸部X線写真,CT検査あるいは磁気共鳴画像(MR)などによって形態的な変化を評価するのが通常であった.肺の孤立性陰影の大きさが3cm以上,石灰化がないこと,辺縁が不整であることなどの所見があれば悪性と診断されるが,画像診断のみでは判定に苦慮する場合も多い.

 そこで,診断を確定する目的で,侵襲的な検査である気管支鏡,縦隔鏡あるいは生検法などを行う必要があった.

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 ここでいう「心不全」とは「うっ血性」心不全を意味し,「重症心不全」とはNYHA心機能分類IIIないしIV度の症例を指すことにする.また,心不全は「生理学的疾患名」であるから,心不全の基礎疾患の変遷について論じるためには,その原因的疾患や解剖学的疾患別に検討する必要がある.

 そもそも川崎医大内科循環器部門の開講時から四半世紀が経過したが,筆者はこの比較的短期間でも心臓血管系疾患の変遷が著しいことに気づいたため,現在との比較のうえでこの課題を論じるのは意義深いことと思われる.

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 肺細動静脈(直径100μm以下)や毛細血管により構成される肺血管床およびその予備能を評価する方法として,DSAを用いた肺動脈wedge angiographyの有用性を報告する.正常群5例,慢性肺気腫群5例を対象とした.通常の右心カテーテル検査後に,DSAによる肺動脈wedge angiographyを施行した.正常群では認められない肺血管床の減少が慢性肺気腫群では認められた.肺血管床に関心領域を設定し,time-density curveを作成したところ,局所の肺血管床の減少が定量的に評価可能であった.また,局所肺動脈に硝酸イソソルビドを注入することにより,肺血管床予備能も評価可能であった.本法を用いることによって,肺血管床の減少や予備能が評価可能であり,さらに低酸素性肺血管攣縮も視覚的・定量的に評価できる可能性が示唆された.

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 【背景】原発性肺高血圧症(PPH)に対して約10年前から血管拡張薬療法(VDT)が導入されたが,適応基準は確立されていない.この研究はPPHの自然歴を検討し,VDTの簡便な適応基準を示すことを目的とした.【方法】対象は右心カテーテル検査後の予後が明らかにされた51例.肺循環動態と予後との関係をみた.【結果】2年以内死亡,2年以上生存で区別すると,前者は心係数が低く肺血管抵抗が高かった.心係数を2.4l/min/m2,肺動脈収縮期圧を90mmHgで4象限に区分し,心係数>2.4,肺動脈収縮期圧<90 mmHgをsubset I,以下反時計回りにII, III, IVとすると,この順に各subset間で有意差を以て平均生存期間が短縮した.【結論】PPHのVDTに対する簡便な適応基準を示した.VDTはsubset I・IIが良い適応であり,III・IVは慎重に対処すべきである.

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 Vasosealの臨床的有効性ならびに安全性を封筒法による無作為試験により,用手的圧迫法と比較検討した.185例を対象にVagoseal群(V群)93例,用予的圧迫群(M群)92例に振り分けられた.平均止血時間はV群8.1±4.3分,M群25.4±6.3分とV群がM群に比し有意に短く(p<0.05),鎮痛剤ならびに眠剤の使用頻度はそれぞれV群9/93例(9.7%),12/93例(12.9%),M群53/92例(57.6%),63/92例(68.5%)とV群がM群に比し有意に使用頻度が少なかった(p<0.01).合併症として,再出血はV群7/93例(7.5%),M群7/92例(7.6%),血腫形成はV群5/93例(5.3%),M群5/92例(5.4%)と有意差を認めず,穿刺部痛の持続はV群1/93例(1.1%),M群7/92例(7.6%)とV群がM群に比し有意に少なかった(p<0.05).希望調査にて,42/45例(93.3%)がVasosealを次回の止血法として選択し,以前用手的圧迫を経験した患者の自覚症状からみた苦痛度は,Vasosealにより10→3.9±2.1に有意に軽減された(p<0.01).

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 慢性心不全患者の運動時に連続的に動脈血酸素飽和度(SaO2)を測定し,その測定意義について検討した.対象は心不全患者16名(平均年齢63±11歳)で,健常者12名(平均年齢60±12歳)を対照とした.方法は全例にトレッドミルによる多段階運動負荷試験を行い,同時にパルスオキシメーターを用いSaO2を連続測定した.また,心不全群では安静時の血中ノルアドレナリン濃度とANP濃度を測定した.心不全患者は,運動時に3%以上のSaO2下降を示す高度低下群(6名)と3%未満の軽度低下群(10名)に分類できた.一方,対照群では運動にて変化しなかった.高度低下群は軽度低下群に比しNYHA心機能分類III度の頻度が多く,血中ノルアドレナリン濃度とANP濃度が有意に上昇しており,重症例と推察された.したがって,今回の検討では,慢性心不全患者の運動時のSaO2下降を非観血的に測定することが可能で,心肺機能障害の重症度の評価に有用であることを明らかにした.

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 心室中隔中部から心尖部に及ぶ大きな無収縮領域が出現したため,一過性の左室流出路狭窄を呈した高齢の2症例を経験した.連続波ドプラで測定した左室流出路の最高血流速は各々4m/sec,3.5m/secで,収縮期僧帽弁前方運動がみられた.左室壁運動が正常化した1週間後では,収縮期雑音および収縮期僧帽弁前方運動は消失し,左室流出路の最高血流速も各々0.7m/sec,1.2m/secとほぼ正常化した.拡張末期における大動脈と中隔基部のなす角は,症例1では急性期78度,1週間後84度,症例2では急性期110度,1週間後135度であり,ともに急性期のほうが鋭角であった.左室流出路狭窄が生じた原因は,前壁中隔から心尖部の大きな無収縮領域の出現により中隔基部が大動脈に対しよりS状となり,加えて中隔基部の壁運動が障害きれず,むしろ亢進したためと考えられた.

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 今回われわれは,経食道心エコー図にて大動脈弁位の機械弁(Björk-Shiley弁,B-S弁)置換術後の血栓弁を明瞭に観察しえた症例を経験した.症例は48歳,男性で,労作時呼吸困難と胸痛を主訴に入院した.聴診で,収縮期駆出性雑音と拡張早期雑音を聴取した.経胸壁心エコー・ドプラ法では,左室—大動脈圧較差は155mmHgと著しい上昇を認め,人工弁狭窄が疑われた.しかし,断層図からは明らかな血栓の描出は困難であった.経食道アプローチによれば,B-S弁のminor orificeの大動脈側から左冠状動脈入口部付近にかけて付着した血栓の描出が可能であった.本例は,緊急手術を施行され,心エコー図での所見が確認された.TEEは大動脈弁位の血栓化B-S弁の描出に有用であった.

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 7カ月前に開心術を施行した74歳男性に薬物アレルギーによる紅斑および頸部リンパ節腫脹が出現し,その後胸水貯留,発熱が加わったため入院した.入院後胸水貯留とリンパ節腫脹が増悪し,それに伴い自己免疫性溶血性貧血と特発性血小板減少症を合併したエバンス症候群が出現した.67Gaシンチグラムでは全身のリンパ節への異常集積を認めた.頸部リンパ節生検および臨床経過より免疫芽球性リンパ節症(IBL)と診断し,プレドニゾロンによる治療を行った.治療により解熱し,腫脹したリンパ節も縮小するにしたがいエバンス症候群の改善を認め,同時に胸水も減少した.

 IBLに胸水を合併することは稀だが,胸水の性状,治療に対する反応より本症例における胸水はIBLの一病変と考えられた.IBLが開心術後に発症したという報告があり,本症例も発症に開心術が関与していた可能性があると思われた.

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 症例は49歳,フィリピン人女性.僧帽弁狭窄兼閉鎖不全症,三尖弁閉鎖不全症による両心不全で緊急僧帽弁置換術,三尖弁輪縫縮術を施行した.術後心不全,呼吸不全の治療に5日間のスワンガンツ・カテーテル,9日間の気管内挿管と中心静脈カテーテルの留置を必要とした.この間,トロンボテストは20%台で推移したが,術後7日目に心エコー図法で心房中隔に付着した右房血栓を認め,一部が三尖弁を越えて右室内へ陥入していた.血栓溶解療法に消失傾向がなく,術後10日目体外循環下に8.4gの赤色血栓を摘出した.その後の経過は良好で,患者は再手術後40日目に退院した.全経過を通じ左房血栓は認めなかった.心房細動と三尖弁逆流減少による血流停滞,心房中隔切開の影響,長期間のカテーテルの留置などが右房血栓の原因と考えられた.右房血栓は稀だが,肺梗塞の危険があり,内科的治療に抵抗する場合は外科的除去を考慮すべきである.

Topics Respiration & Circulation

気管支喘息のChronotherapy 馬島 徹
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 ■最近の動向 気管支喘息患者の症状に周期性のあることは古くから知られていた.月経前に症状の増悪するような概月変動や,夜間に咳・喘鳴あるいは息切れによって目が覚めたり,胸部圧迫感などを感じる概日リズム(Circadian rhythm)などが特徴の一つにあげられている.喘息患者ではpeak flow(PEFR)は朝に低くなり,特にNocturnal asthmaでは午前4時頃に発作がみられることが多い.概日リズムには様々な誘因があげられている.Martinは,①夜間のコーチゾルの低下,②エピネフリンの低下,③炎症の増強,④迷走神経の緊張,⑤体温の低下などが原因であるとまとめている(Nocturnal Asthma,Futura Publishing Co.,1993,p71).一方,Postmaらは夜間喘息患者は非夜間喘息と比べ循環血中好酸球数は増加しているが,気管支洗浄液中の好酸球数や活性化指標,ヒスタミン,炎症性伝達物質には差はみられず,夜間喘息はより重症な喘息でありasthma with noctur—nal symptomであると述べている(Am J Respir Care Med 150:S83,1994).夜間喘息の病態についてはまだ議論の多いところではあるが,近年,夜間喘息に対して時間概念を取り入れた時間治療法(Chronotherapy)が行われている.これは生体リズムに合わせ,必要なときに必要な治療を行い,合理的で副作用を軽減することを目的とした治療法である.気管支喘息に対するChronotherapyについて,時間概念を取り入れた経口ステロイド薬,吸入ステロイド薬およびテオフィリン薬の夜間喘息に対する治療を紹介する.

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 ■最近の動向 虚血性疾患が死因の第一位である欧米では,1995年のアメリカ心臓病学会虚血性心疾患予防ガイドラインで『すべての更年期以降の女性にエストロゲン投与を考慮すべき』との勧告が出されたこともあり,更年期以降の女性に対するホルモン補充療法が頻繁に行われている.エストロゲン投与は虚血性心疾患発症を半減させるが,その機序として第一に血中脂質プロファイル改善(LDL-コレステロールの低下,HDL-コレステロールの増加)が考えられる.しかし疫学データから,脂質改善はエストロゲンの虚血性心疾患発症予防効果の約25%に関与するのみとされ,他の機序としてエストロゲンの内皮細胞型NO合成酵素誘導作用によるNO生成亢進,カルシウムチャネル拮抗作用,抗酸化作用などが想定されてきた.最近では,カリウムチャネル開口作用,エンドセリン受容体拮抗作用,各種サイトカインに対する作用などの関与が報告されている.長期に及ぶホルモン補充療法に際し,子宮内膜癌発症防止の観点から,子宮残存者へはプロゲステロン併用が必須となることがPEPI Studyにより明らかとなった.プロゲステロン併用はエストロゲンの効果に一部拮抗するが(HDL—コレステロール上昇の減少など),臨床効果はエストロゲン単独と遜色ないとされている.しかし,乳癌発症促進の有無,骨粗鬆症への効果を含めた臨床的有用性の確立には無作為大規模臨床試験が不可欠であり,現在米国で虚血性心疾患の二次予防試験としてHERS(1998年に終了),一次予防試験としてWHI(2005年に終了)が進行中である.

基本情報

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呼吸と循環
45巻5号 (1997年5月)
電子版ISSN:1882-1200 印刷版ISSN:0452-3458 医学書院

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