整形・災害外科 64巻1号 (2021年1月)

特集 超音波による骨折治療

占部 憲
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低出力超音波パルス(low-intensity pulsed ultrasound;LIPUS)を用いた超音波骨折治療器は1994年に米国で医療機器として承認を受けた。日本では1997年に薬事上承認され,1998年に四肢長管骨の難治性骨折に対する治療法として保険収載された。2006年4月には手足を含む四肢の難治性骨折に適応が拡大され,同年10月には四肢の観血的手術後新鮮骨折に対する治療が先進医療として承認された。この先進医療のうち開放骨折と粉砕骨折に対する観血的手術は2008年に保険収載され,2012年にはすべての新鮮骨折に対する観血的手術が保険収載された。その後2016年には骨切り術と偽関節手術にも適応が拡大された。

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要旨:低出力超音波パルス(LIPUS)の有効性が報告されたのが1983年,その10年ほど後にExogen装置が米国食品医薬品局の承認を得てからはや4半世紀になる。その間に明らかになったLIPUSの作用機序は大まかに記すと次のようになる。① 低出力超音波パルスの波動がナノモーションを引き起こすことにより,代替の物理的刺激が骨折部の細胞に到達する。② 細胞膜表面で細胞外基質タンパクと結合したα5β1などのインテグリンの受容体がナノモーションを感受し,歪みが細胞内側で生化学的シグナルに変換され,細胞内伝達経路に入る。③ 主にリン酸化の授受の連続によるシグナル伝達の結果,誘導体型酵素シクロオキシゲナーゼ(COX-2)が発現され,骨形成に重要な役割を担う生理活性物質PGE2が産生される。④ PGE2が多様な経路で骨代謝を活性化することにより,骨折が治癒する。その他の経絡を含めてLIPUSに対する細胞レベルの応答はかなり解明された感もあるが,骨代謝における免疫系の関与の研究が近年急速に進み,骨折治癒の理解も深まった。それに伴い,LIPUSの作用機序で理解すべき全身性の効果が浮かび上がってきたともいえるが,実は1990年前後に注目された骨折治癒の全身性効果と深く関わっている。LIPUS照射により “contralateral” の骨折の治癒が促進された症例など検討の余地があり,免疫系の応答を含めた複雑な生体反応を視野に,まだまだLIPUS治療の汎用性を広げられるのではないだろうか。

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要旨:新鮮骨折に対して,補助療法としてLIPUSを併用した場合の骨癒合促進効果を検討したランダム化比較臨床試験(RCT)がいくつかある。X線学的骨癒合期間の平均値をアウトカムとし,LIPUS群とコントロール群で比較した研究のメタアナリシスでは,LIPUS群で骨癒合期間が短縮されていた。一方,よく計画された大規模RCTの結果はLIPUSの効果に否定的だったが,コンプライアンスが43%と著しく低く,結果の解釈に問題を残した。四肢長管骨の偽関節に対してのLIPUS単独での治療効果を検討したコホート研究とケースシリーズをまとめると,全体として80%近くの有効率が示されている。Oligo/atrophic型の偽関節では,LIPUS単独での治療効果が低いので,偽関節手術を行った後に補助療法としてLIPUSを使用するのがよいだろう。仮骨延長術におけるLIPUSの効果を検討した少数例の非ランダム化比較試験の報告がある。メタアナリシスの結果では,LIPUSの骨癒合促進効果に肯定的であり,異質性も極めて小さかった。

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要旨:新鮮骨折に対する低出力超音波パルス(LIPUS)治療の効果は骨癒合期間の短縮が認められ,特に遷延癒合発生率の低下などが知られており,特に遷延化傾向の危惧される要因がある骨折に対してより効果を発揮することが報告されている。一方,難治性骨折に対するLIPUS治療の効果は術後早期にLIPUS治療を導入するほど癒合率は高いことが示されている。LIPUS治療の有効性判断は術後4〜5カ月のX線所見で判断しうるとしており,術後4カ月の時点におけるX線所見で骨癒合傾向の認められない症例に対しては再手術を考慮することが重要とされている。LIPUS治療の成績不良因子は受傷後(あるいは最終手術後)からLIPUS治療導入までの期間,骨折部固定性不良,骨折部最大間隙,骨折部感染が知られている。骨折部固定性不良例における成績不良の原因やLIPUS治療照射部位を決定する際の留意点などの考察を基礎的研究の結果をもとに行った。

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要旨:低出力超音波パルス(LIPUS)は骨折部に照射されて初めて効果を発揮する。したがってLIPUSを確実に骨折部に照射させるためにはLIPUSプローブの向きや方向を調整することは非常に重要である。われわれは大腿骨骨幹部骨折術後LIPUS照射をX線マーキング法,超音波ターゲティング法,LIPUSなし(コントロール)の3群で比較した結果,超音波ターゲティング法が仮骨形成,骨癒合ともに早期に生じていた。したがって大腿部のような軟部組織の厚い(LIPUSプローブから骨折部までに距離がある)部分のLIPUSターゲティング法は,超音波断層検査機を利用した確実なターゲティングを行うことが重要であると考えられた。

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要旨:低出力超音波パルス(LIPUS)照射の効力を最大限に発揮させるためには,LIPUSが骨折部に正確かつ,毎日20分間欠かさず照射されなければならない。LIPUSを正確に照射するためには,超音波を用いて骨折部を確認し皮膚をマーキングする方法が有効である。一方,毎日欠かさずLIPUS照射を行うことには,患者のアドヒアランスが関与している。そこで手術を行った新鮮骨折症例に対するLIPUS照射のアドヒアランスの実態をLIPUS実行率として調査し,それに関与する因子について調査した。新鮮骨折76例に対するLIPUS実行率は84.9%であった。LIPUS実行率が80%以上の群をアドヒアランス良好群,80%未満の群をアドヒアランス不良群と定義し,それぞれの年齢,LIPUSの機種,LIPUS借用日数,骨癒合率を比較した。年齢のみに2群間で有意差がみられ,不良群で年齢が若かった。若年者に対しては骨癒合が得られるまで,LIPUS照射のモチベーションを保つように医師が働きかけることが必要である。

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要旨:大腿骨転子部骨折は高齢女性に多い脆弱骨折で,骨接合術が推奨されているが,術後早期からの荷重,運動負荷を求められる。また多くの症例は急性期医療機関で手術を行い回復期医療機関でリハビリテーション医療を行う地域医療連携が必要となり,回復期を含む入院期間は長期となる。したがって本骨折に対しては,転院した回復期医療機関において円滑にリハビリテーションが遂行でき,骨癒合が促進され,さらに診療報酬算定期限内に退院できることが必要となる。骨接合術後翌日より低出力超音波パルス(LIPUS)を行うことで仮骨出現までの期間が約29%短縮し,術後の荷重時痛も低減した。また骨癒合までの期間は約19%短縮した。術後翌日よりLIPUSを行うことで術後から回復期病棟を退院するまでの期間は中央値で13日短縮した。本骨折においてLIPUSは骨癒合を促進するのみならず,在院日数を短縮し,医療経済的にも有用と思われる。

長管骨骨折に対する治療 木浪 陽
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要旨:手術加療された新鮮骨折に対する低出力超音波パルス(LIPUS)治療は2008年に本邦で保険適用となったが,世界的には治療効果のエビデンスは未だ明確でない。本邦での手術加療された新鮮骨折に対するLIPUSの治療効果を調べた4研究(前ら4)2012年,Kinamiら3)2013年,内山ら5)2014年,Watanabeら6)2018年)は条件も結果も異なるが,まとめると大腿骨・脛骨骨幹部骨折全般に対して20〜30%の骨癒合期間短縮効果を期待できるといえる。臨床的には,骨癒合期間短縮効果や偽関節化予防効果を目的として,早期社会復帰が必要な症例,高度粉砕骨折,非定型骨折,人工関節周囲骨折などに積極的に使用しており,有益であった。しかしコンプライアンスが悪く再手術となった症例もあり,今後はコンプライアンスの向上がLIPUS治療には最も重要であると考える。

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要旨:わが国において難治性骨折超音波治療法は遷延治癒・偽関節を対象に1998年保険適用となり,現在では四肢の長管骨に加え手足の骨も適応となっている。これまでの臨床研究で低出力超音波パルス(LIPUS)治療による骨癒合率は,遷延治癒74〜90%,偽関節33〜87%と報告されている。多くの研究で偽関節手術によって得られる骨癒合率と同等と評価されている。骨折後経過期間が短いほど骨癒合が得られやすく,最終手術から6カ月以内にLIPUS治療を開始すると骨癒合率が高いと報告されている。骨折部不安定性,8〜9mm以上の骨折部間隙,非肥厚性偽関節,髄内釘固定などはLIPUS治療が不成功に陥りやすい因子とされている。LIPUS治療が有効か否かを判定する時期は開始後4〜6カ月が適当と考えられる。LIPUS治療を有効活用するためには,患者コンプライアンスを高めるための努力,正確な照射部位・照射方法の指導に留意すべきである。

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要旨:低出力超音波パルス(LIPUS)の骨癒合促進効果は骨折や偽関節などで臨床的に報告されているが,open wedge高位脛骨骨切り術(OWHTO)におけるLIPUSの有用性は未だ不明である。本研究の目的はOWHTO術後,骨切り開大部におけるLIPUSの骨癒合促進効果を調べることである。対象はOWHTO(骨移植なし)を施行し,LIPUSを術後,外側ヒンジ部に照射したL群45膝とLIPUSなしのC群45膝である。臨床評価はVAS,JOA scoreを用い,骨形成は骨切り開大部を外側から4つのzoneに分けgap fillingの進行度を経時的に術後6週,3,6,12カ月まで評価した。VASは術後6週と術後3カ月でL群の方がC群に比べて有意に低値であったが,JOA scoreは両群間で有意な差はなかった。Gap fillingの進行度は,L群が8.0%,15.0%,27.2%,46.0%(術後6週,3,6,12カ月)に対してC群は7.7%,15.2%,26.3%,44.0%と両群間で有意な差はなかった。本研究の結果から,OWHTO術後,LIPUSの骨癒合促進効果は認めなかった。今後,Echoを用いた照射部位のマーキング,照射部位,照射時期についてさらなる検討が必要である。

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要旨:適切な骨折治療を行うには治癒過程の理解が重要である。治癒反応は,よく制御された様々な細胞反応からなる。仮骨形成では骨芽細胞や軟骨細胞の細胞増殖や細胞分化が起き,局所性制御因子による制御を受けている。近年,治癒過程を非侵襲的に刺激する治療法が使われており,骨折に対する積極的保存療法と呼んでいる。現在主に使われている,低出力超音波パルス(LIPUS)のような細胞分化を刺激するタイプと,治癒反応の局所制御因子である成長因子などの細胞増殖を主に刺激するタイプが今後期待される。これらの組み合わせで,より効果的な治療となりうる。人口ピラミッド変動に伴い骨折治療状況も大きく変化している。増加している高齢者脆弱性骨折患者にも,減少している生産年齢人口世代の骨折患者にも,より良い社会復帰が求められている。このような治療状況変化に対応するには,骨折治癒過程を促進する治療方法の発展がより必要になっていくと思われる。

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これは地獄の中学・高校6年間のサッカー人生で,鬼監督が幾度となく我々部員に言って聞かせた言葉である。当時は,その言葉の意味も理解する間もなく,365日中,地獄のキーパー練習に耐えていた。くる日もくる日も同じ練習の繰り返しに曜日の感覚もなくなっていた。苦行でしかなかった。中学3年の7月,東京都大会の決勝の日,前半0−1でハーフタイムを迎えた。東京都の代表になれず,このまま高校へ行って,また地獄の日々かと暗くなった。とその時,監督がこう言った。「お前ら3−2で勝つから安心して後半行け」。いつもの修羅の顔はなく,悟りを開いた高僧のように見えた。試合終了の笛が鳴った。3−2で優勝した。監督の言ったとおりになった。15年間の人生で感じたことのない達成感を覚えた。「おめえら,いい顔してる」。その時の監督の笑顔は忘れない。

整形外科手術 名人のknow-how

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1997年SmithとFoleyにより腰椎椎間板ヘルニアの低侵襲手術として開発された内視鏡下腰椎椎間板摘出術(microendoscopic discectomy;MED)手術1)は,顕微鏡下手術の安全性と内視鏡独特の視野と経皮侵入による低侵襲を併せもった術式である。モニター,カメラなどの光学周辺機器の進歩,手術操作器機の開発,発展により,安全な手術操作が可能となり,脊椎内視鏡下後方除圧手術として,その手術適応は腰椎から頚椎疾患へと拡大されている2)〜4)。そのMEDシステムの特徴は,斜視鏡を用いた視野特性であり,通常の真上からでは見えない部分に対し,斜めからの覗き込むような視野が獲得できる点である。すなわち,手術視点が皮膚よりも下,脊柱管内にあり,また,斜視鏡からの視野特性により末広がりの視野の獲得が可能となり,神経組織の圧迫に関与しない筋,靱帯,椎間関節などの組織をできる限り温存することができる。

スポーツ医学 つれづれ草

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新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大に伴い,日々の生活や社会活動が自粛・抑制され,心身共に自由さが損なわれている。

医療のグローバル化とその課題

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本稿の依頼を頂いた2019年には毎年最高を記録するインバウンド観光客に湧き,東京オリンピックに向け2020年は日本中が明るい未来に期待していた。

新しい医療技術

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要旨:低ホスファターゼ症(HPP)に対する根本的治療法として,アスフォターゼアルファによる酵素補充療法(enzyme replacement therapy;ERT)が開発された。ERTは重症型HPPの生命予後を劇的に改善して長期生存を可能にし,骨石灰化促進作用を介して患者の運動機能を著しく向上させた。重症型HPP患者の延命により,骨脆弱性や変形など整形外科的な対応が今後必要となる可能性がある。

机上の想いのままに

書かれた文章と談話 西野 仁樹
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朱子学の完成者である南宋の朱熹が,政治的にはまったくの失敗者であり,科挙は通ったが成績は下位にとどまり,州知事程度の地方下級官吏にしかなれなかったことは著明な事実である。

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要旨:骨粗鬆症患者では,デノスマブ休薬後に多発椎体骨折の割合が増加することが報告されているが,関節リウマチ患者に関するデータは限られている。本研究では関節リウマチ患者におけるデノスマブ休薬後の骨折発生状況を後方視的観察研究により調査した。DESIRABLE試験に参加後,同じ医療機関に通院中の患者を対象に,骨折発生数と骨折の詳細について検討した。調査対象患者81人はいずれもデノスマブの投与間隔が12カ月を超えており,そのうち骨折を生じた患者は2人であった。これらは外傷性の左膝蓋骨骨折と腰椎圧迫骨折であり,転帰はそれぞれ回復と軽快であった。1人は骨密度が低下しており,骨折時に骨粗鬆症治療薬を服用していた。デノスマブ休薬前と比較して骨折の増加は認められなかったが,デノスマブ休薬後の多発椎体骨折が認められた。関節リウマチ患者は元来骨折リスクが高いことを考慮すると,骨折の発生には注意が必要と考える。

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要旨:大腿骨近位部骨折患者の術後せん妄は,合併症,入院期間,医療費に関係している。大腿骨近位部骨折患者の術後せん妄発症率とリスク因子を検討した。対象は2017年6月1日から2018年12月31日までの65歳以上の大腿骨近位部骨折患者167症例である。術後せん妄の診断はConfusion Assessment Method(CAM)日本語版で行った。対象患者の平均年齢は83.2歳で,術後せん妄発症率は31.1%であった。術後せん妄発症には年齢,術前フレイル,認知症が有意に関係し,多変量解析では,フレイル(オッズ比6.31,95%信頼区間:2.93〜13.60,p<0.001)が独立したリスク因子であった。せん妄は最も多い術後合併症の一つであり,術後せん妄対策が望まれる。

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要旨:特発性大腿骨顆部壊死(SONK)は一般的に単純X線やMRIを用いて診断する。われわれは超音波診断装置(US)を用いてSONKの評価を行った結果,大腿骨顆部の血流シグナルの有無でSONKと変形性膝関節症の鑑別ができる可能性があることを報告している。本研究では膝内側部痛に対してUSを用いてSONKの有無を調査することを目的とした。対象は膝内側部痛で受診しX線を撮像した37例を対象とした。全例に大腿骨顆部に対して短軸・長軸にプローブを走査し新生血管の有無を評価した。後日MRIを撮像し,半月板断裂形態およびSONKの有無を確認した。USにて37例中7例に新生血管を認め,MRIにおいてもその7例全例にSONKを認めた(感度0.89,特異度0.97,p<0.01)。SONK所見を認めた7例はすべて内側半月板後根損傷(MMPRT)を伴っており,そのうち5例は初期のSONKであった。X線像では描出されない初期の症例に対しUSを用いることで早期にSONKを診断できる可能性が示唆された。

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整形・災害外科
64巻1号 (2021年1月)
電子版ISSN: 印刷版ISSN:0387-4095 金原出版

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