整形・災害外科 64巻2号 (2021年2月)

特集 整形外科領域における関節リウマチ診療の現状と将来

田中 栄
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関節リウマチ(rheumatoid arthritis;RA)の診療について,皆さんはどのような印象をお持ちだろうか。「新しい薬剤がどんどん出てきて覚えられない」「様々な部位に問題があるので治療が難しい」そして「合併症が多くて対応できない」などネガティブな印象を持っておられる方も多いことと思う。若い整形外科医に「リウマチ離れ」がみられる理由として,このようなネガティブな印象が挙げられるだろう。しかしこれらの懸念は裏を返すと,「有効な薬剤が次々と現れている」「色々な関節の治療(手術)ができる」とポジティブに捉えることも可能である。

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要旨:関節リウマチがヨーロッパにおいて科学的に記載されたのは19世紀になってからである。それ以来欧米では内科医が中心となってリウマチ学は発展してきたが,日本におけるリウマチ学は独自の発展を遂げ,整形外科医(整形リウマチ医)がその発展に大きく寄与してきた。近年の薬物療法の複雑化によって整形リウマチ医は減少傾向にあるが,このような時代においても運動器のプロフェッショナルである整形外科医のリウマチ診療への関与は重要である。

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要旨:関節リウマチ(RA)患者に対するtreat to target(T2T)アプローチでは治療の主目標は寛解であるが,長期罹病患者では低疾患活動性が代替目標とされている。特に合併症を有する患者や,副作用発現例,関節破壊が既に進行している患者,経済的問題のある患者では治療ゴールを下げざるをえないのが実情である。T2Tでは関節破壊,身体機能障害を防止するために疾患活動性の制御,つまり炎症を抑制することに焦点があてられてきた。一方で,RA患者は,疾患のコントロールや,T2Tに沿った治療,治療薬の減量よりも,疼痛・疲労,関節腫脹の改善,健康関連QOLをより重要視しているということもわかってきている。T2Tにおいて,疼痛,機能障害,関節破壊の程度に加え,治療の評価としてのpatient reported outcome(PRO)を重視しながら非薬物治療を組み入れ,外科的治療を適宜組み入れていく戦略の実践が求められる。

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要旨:関節リウマチの画像評価は,これまで単純X線がゴールドスタンダードであったが,滑膜炎や早期の骨関節破壊の同定に関しては不向きとされる。近年の画像機器の進歩は著しく,関節エコー,MRI(magnetic resonance imaging)検査,CT(computed tomography)検査,PET(positron emission tomography)-CT検査など,飛躍的な技術革新によりその検査対象や解析能力が拡大している。最新の機器や解析方法に熟知し,関節リウマチの早期診断・早期治療につなげることが重要である。

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要旨:関節リウマチに対して様々な新規薬剤の登場により,手術療法の適応と選択が変わりつつある。以前は薬物によりコントロールできなかった炎症性滑膜に対しては外科的に積極的に滑膜切除を行っていたが,現在ではその適応はかなり限定してきている。一方で,関節機能を回復する人工関節に関しては,変形性関節症による手術件数の増加傾向に比べると決して増えてはいないものの,依然としてその適応がある症例も存在する。またさらに病勢が安定化することで,より高いレベルでのquality of lifeが求められることも多く,新しい外科的治療の時代が築かれる可能性が期待されている。最近では,手指や足趾に対して機能のみならず整容面までも求められるようになってきており,MTXに加えて生物学的製剤やJAK阻害薬など新規薬剤が登場した今でも,手術適応や術式の変遷に関しては,まだしばらくその推移を注目して見守る必要がある。

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要旨:関節リウマチ(RA)の薬物治療の進歩により,RA上肢手術は新しい時代を迎えている。骨脆弱性や感染リスクなどのRA特有の問題点を踏まえ,除痛や機能回復,外観改善などの手術の目標を確認し,介入のタイミングを計る。手術の種類では滑膜切除術や関節形成術などの関節温存手術と,人工関節置換術や固定術など関節温存ではない手術があり,関節破壊の進行や各関節の特徴を考慮して適応を判断する。具体的な手術治療については関節ごとに詳述する。作業療法士との治療連携が術後成績を大きく左右し,その重要性は非常に大きい。タイトコントロール時代の今日,RA上肢手術は今後増加する可能性がある。様々な方法があり,機能面のみならず,外観も改善させることができるなど,今後もまだ進化していくことが期待される。薬物治療だけでなく,これからはRA上肢手術にもさらに注目が集まり,興味を持ち続けていただくことができるよう努力していきたい。

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要旨:近年,関節リウマチの手術では手指・足趾関節の手術の割合が高くなり,下肢大関節の割合が減少してきた。当院では2020年特有の傾向として人工膝関節の割合が高く推移しており,COVID-19による社会情勢の変化が影響している可能性がある。足趾では,母趾に対してはDLMO法,外側趾には中足骨骨切り術を行っているが,足趾の過度な直線化を避けるため,最近は骨切り部の固定に吸収性骨片接合材料を使用し,足趾自体は軟部組織の解離と自然な肢位でのテープ固定としている。膝・股関節では手術数が経年的に減少しており,骨棘形成を伴った変形例が経年的に増加している。平均Larsen gradeは股関節では手術の10年前から,膝関節では手術の4~5年前から両関節とも約0.4/年で直線的に悪化していた。手術に至るような関節炎の持続例では関節破壊が一旦進行を始めると,破壊の程度は一定であることを意味する可能性がある。

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要旨:関節リウマチの薬物治療は大きく進歩し,生物学的製剤の治療においては,安全性についても15年以上の実臨床下での知見が蓄積されてきた。この薬物治療の背景の中で,炎症抑制下で,身体機能向上,より高いQOLを目指す整形外科手術が増加してきている。一方,薬物治療の効果が不十分,もしくは高齢,長期罹病,合併症などで薬物治療の制限もある患者が手術に至ることも少なからず存在する。いずれにしても,現在の治療ストラテジーにおける手術療法は,薬物治療の理解なしにはありえない。個々の症例において,適切な休薬期間を置くなど,周術期薬物治療管理を行い,より安全性を高める必要がある。

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要旨:関節リウマチの薬物治療は大きく変貌を遂げ,わが国においては,特に膝の手術件数が減少,それに替わって手や足の小関節の手術件数が増える傾向にある。一方,関節リウマチは,様々な手術合併症のリスクである。その対策はおよそ通常の手術合併症への対応で問題ないが,抗リウマチ薬はsurgical site infection(SSI)をはじめとする整形外科周術期合併症のリスクであるために薬剤管理にも十分気を配る必要がある。関節リウマチ患者は患者数も多く手術も一定割合行われているため,リウマチ性疾患を専門としない整形外科医も,周術期管理,特に抗リウマチ薬の休薬については理解して適切な対応を行う必要がある。

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要旨:関節リウマチ患者に対してリハビリテーション治療を行うことで,患者の身体機能が改善することが報告されている。関節リウマチに対する患者教育,運動療法,作業療法は『関節リウマチ診療ガイドライン2014』において強く推奨されている。関節リウマチ患者の長期の機能と日常生活動作を維持するために,薬物療法に加え積極的なリハビリテーション治療の実施が望まれる。

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要旨:関節リウマチは骨粗鬆症とそれに伴う骨折のリスクを上昇させる疾患である。関節リウマチ患者に特化した骨粗鬆症診療ガイドラインは現在のところ存在しないため,リウマチ性骨粗鬆症を予防し,患者の日常生活活動を維持するためには,原発性骨粗鬆症の治療開始基準(2015年版)と『ステロイド性骨粗鬆症の管理と治療ガイドライン(2014年版)』を参考に骨粗鬆症治療を進めるべきである。具体的にはリウマチ自体の疾患活動性の制御,ステロイド薬の減量・中止,さらに運動などの生活指導を行った上で,ビスホスホネート薬とデノスマブを中心とする薬物治療を積極的に行うことが重要である。

Personal View

AIを活用した医療 眞島 任史
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AI(人工知能)は1950年代の第一次ブーム,機械学習を取り入れた1980年代の第二次ブーム,深層学習を取り入れた第三次ブームを経て,現在AIという言葉はいたるところで見聞きします。AIを応用することで,もはやマンパワーは必要ないのではないかといわれるようになってきました。AIを使っていると主張するだけで会社を1つや2つ起こすことができるといわれる一方で,AIには限界があります。

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成人脊柱変形(adult spinal deformity;ASD)には,成人期の脊柱変形すべてが含まれ,病態も様々である。本手術は,変性後側弯症によるバランス不良から起立位保持や歩行の障害をきたした例,後弯変形により胃食道逆流症を呈している例などに対する矯正固定術である。すなわち,SRS-Schwab分類で,冠状面変形の有無にかかわらずsagittal modifiers(pelvic incidence minus lumbar lordosis;PI-LL,global alignment,pelvic tilt;PT)がすべて(+)以上の患者が対象となる。脊柱管や椎間孔の狭窄による神経症状の有無は問わない。

スポーツ医学 つれづれ草

先達はあらまほしき 武藤 芳照
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1969(昭和44)年1月18~19日の東京大学安田講堂事件の攻防戦をテレビ画面で眺めつつ,高校3年生として大学受験の勉強をしていた。そして,その年の東大入試は中止となった。そのことにより人生の進路を大きく変えさせられた受験生が数多く居たことだろう。

医療のグローバル化とその課題

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アジアの中でも,社会経済的,地理的,歴史的な理由で日本より一足早く医療のグローバリズムに踏み切った代表的な国としてシンガポールとタイが挙げられる。外国人患者を受け入れる医療ツーリズム(medical tourism;治療・健診/検診・美容/健康増進などを目的として国外に移動すること)を推進する供給側の国にとっては,外貨獲得により自国の医療水準や産業基盤の底上げが図れるというメリットがある。

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要旨:ブタは,ヒトとの類似点が多いことから,橋渡し研究に用いる実験動物として着目されている。しかし,いわゆる家畜ブタの体重は200kg以上であることから,実験に使用することは容易ではない。そこで,体重が家畜ブタの1/10であるマイクロミニピッグが開発された。このブタはCTやMRIといった診断治療機器を用いた研究に使用できることから,新たに開発した医薬品や医療機器を実証するための実験動物として高いポテンシャルを有している。

机上の想いのままに

ストア派とエピクロス派 西野 仁樹
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私は,腎臓疾患という持病で蛋白・塩分制限を課されているし,太ってもいるので,食事制限をストイックにしなければならない。でもなかなか守れず,ときおり夜中に飢餓道に落ちる。

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要旨:大腿骨近位部骨折は入院から48時間以内の早期手術が推奨されている。大腿骨近位部骨折患者の受傷から入院までの経過日数による入院時の栄養,炎症などの検査値に及ぼす影響を検討した。対象は2016年1月1日から2017年9月14日までの65歳以上の大腿骨近位部骨折患者150症例である。受傷後1日以内の入院患者は74%であった。受傷から入院まで2日以降の群は1日以内の群と比較して,有意に血清アルブミン値,平均ヘモグロビン値が低く,血清C-reactive protein値が高値で,低栄養状態,炎症徴候を呈していた。大腿骨近位部骨折は受傷から入院までの期間の短縮を含めた早期手術が重要であると考えられた。

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要旨:がん患者の運動器障害に対して,整形外科の積極的な関わりが求められており,cancer boardの設立などにより一定の成果を上げている。しかしながら,cancer boardが開設できていないがん治療における地方中規模病院での骨転移診療の現状は,よくわかっていない。そこで当院を含めた中規模病院での骨転移診療の現状を調査し,それを踏まえてがん治療科医師へのアンケート調査を行うことで,骨転移診療の問題点を明らかにした。整形外科の関与を求める割合は,これまでの報告よりも少なく,関与状況に関しては約7割が現状で良いと回答した。地方中規模病院でのがん患者の運動器障害に対するADLおよびQOL向上には,現状以上に整形外科およびがん治療科医師の意識を変える必要がある。

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要旨:足関節外果裂離骨折を伴う腓骨筋腱脱臼を合併した距骨外側突起骨折を経験したので報告する。症例は42歳男性で,足関節を背屈強制され受傷した。右足関節外果周囲の腫脹,圧痛を主訴に受診,単純X線像で右足関節外果裂離骨片を,CTにて距骨外側突起骨折を認めた。骨折観血的手術を施行中に腓骨筋腱脱臼を合併していることが判明し軟部制動術を追加した。両疾患とも見落とされることがあるため,注意深く診断し治療を行うことが重要である。

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要旨:感染性偽関節の治療は局所の感染の沈静化と骨・軟部組織欠損の再建の2つを達成する必要がある。大腿骨感染性偽関節の2例に対してMasquelet法を用いて治療し,感染の沈静化・骨癒合を獲得した。Masquelet法はmicrosurgeryの技術が不要で手技も簡便であり,治療期間も比較的短期間で済む有用な方法であるが,感染性偽関節に適用する場合には,感染の沈静化の適切な評価と,骨欠損形態に応じた骨の適切な固定が重要と考えられた。

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整形・災害外科
64巻2号 (2021年2月)
電子版ISSN: 印刷版ISSN:0387-4095 金原出版

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