臨床外科 70巻5号 (2015年5月)

特集 外科医が知っておくべき がん薬物療法の副作用とその対策

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 外科医のみならず,がん治療に携わる医師は「集学的治療」の遂行に力を尽くさねばならない.また,支持療法なども含めた様々の立場からの総力を結集した「チーム医療」と「マネジメント」が重要である.このようななか,がん薬物療法に関しては腫瘍内科医がその中心的存在であることはいうまでもないが,わが国における現状では多くの外科医がそれを担っているのも事実である.

 外科医にとってがん薬物療法は「進行・再発がん」に対して行うことはもとより,術前・術後の「補助療法」として施行する機会も多く,その効果および薬剤選択に関する最新の知識を有することと同時に,有害事象,副作用に対する対応はますます重要性を増している.

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はじめに

 わが国はかつてどの国も経験したことがないほど急速に高齢社会を迎えており,それとともにがん患者の絶対数も急速に増加している.しかし,医療資源はその急速な変化に追いついているとはいえない.

 わが国では,がん医療の推進のため,がん対策基本法に基づくがん対策推進基本計画が制定され,平成24年にはその改訂が行われた.そこには,がんによる死亡率を20%減少させることをその目標の一つに掲げ,がんになっても安心して暮らせる社会の構築を目指すことが明記されている1).また,がん医療にあたっては,地域の医療機関と連携した早期発見,放射線診断医や病理診断医を交えたキャンサーボードの実施,手術や化学療法,放射線治療などを組み合わせた集学的治療,がんと診断されたときからの緩和ケアや精神心理的苦痛への対応,看護師やそのほかの医療従事者との連携など,さらなるチーム医療推進の必要性が指摘されている.しかし,それぞれの専門医不足は深刻であることも報告されている2).専門医不足の状況で,どのようにがん医療の質を向上させることができるのかが大きな課題となっている.

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【ポイント】

◆EBM(evidence based medicine)に基づいた治療を行うことが重要である.

◆薬剤の特性をしっかりと熟知したうえで薬剤の用量などをマネジメントすることが重要である.

◆患者個々に応じた治療が必要であるため,緻密なマネジメントと副作用対策が必要である.

◆医師,薬剤師,看護師など多職種との連携を重要視したチーム医療で行うことが重要である.

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【ポイント】

◆B型肝炎ウイルス(HBV)は感染既往例でも,肝細胞内にその遺伝子cccDNAが組み込まれている.

◆化学療法時のHBV再活性化とその結果生じるde novo B型肝炎は,宿主因子と薬剤の組み合わせにより発症リスクが異なる.

de novo B型肝炎は劇症化しやすく予後不良である.多くは化学療法終了後1年以内に発症し,HBV-DNAの増加が先行している.

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【ポイント】

◆化学療法の有害事象は,評価する職種や個人によって異ならないように共通の基準であるCTCAE v4.0を用いて判定する.

◆有害事象のGradeは,診察時ではなくコース中の最悪Gradeを用い,持続期間も参考にして総合的に判断する.

◆医療者がGrade判定をしても,患者個人によって有害事象に対する受け止め方の程度は異なることを理解する.

CVポートとアクセスルート 浅尾 高行
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【ポイント】

◆抗癌剤投与中の患者のブラッドアクセスは必要性とリスクを考慮し慎重に選択する.

◆超音波ガイド下穿刺は中心静脈アクセスに伴う合併症の予防に有効である.

◆末梢静脈点滴における血管外漏出には早期発見と迅速な対応が求められる.

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【ポイント】

◆すでに発生した発熱性好中球減少症にはリスクに合わせた抗菌薬を投与し,G-CSFの治療的投与は,骨髄機能の回復をみながら行う.

◆G-CSFの予防投与は,化学療法の治療目的,発熱性好中球減少発生リスクに応じて使用を考慮する.

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【ポイント】

◆担癌患者は貧血を合併することが多く,さらに化学療法による骨髄抑制作用により,大多数の患者に貧血が併発する.

◆Hb値<11 g/dLで貧血に対するアセスメントを開始し,Hb値<7〜8 g/dLでは輸血を考慮する.

◆通常,血小板値1万/μL未満の場合,また血小板値2万/μL未満でも出血のリスクがある場合は血小板輸血を考慮する.

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【ポイント】

◆急性期の制吐の成否が遅発期の悪心・嘔吐に影響するため,万全の予防によって悪心・嘔吐を未然に防ぐことが重要である.治療アドヒアランスを下げることは,治療成績にも直結する.

◆リスク分類に応じた予防措置を徹底する.NK1受容体拮抗薬と5-HT3受容体拮抗薬は作用部位・機序が異なるため,それぞれに見合った対応が必要である.

◆患者関連因子として,年齢,性別,飲酒習慣なども催吐リスクに影響しうる.

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【ポイント】

◆下痢は,コリン作動性である早発性タイプと消化管粘膜障害である遅発性タイプの2種類に分類できる.

◆便秘は,自律神経障害に起因するタイプ,不安・緊張による痙攣性,食事量低下による弛緩性,他の薬物による医原性に分類できる.

◆イリノテカン(CPT-11)では,急性下痢ならびに遅発性下痢を引き起こし,重篤化することがあるので予防対策が重要である.

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【ポイント】

◆肝臓は抗がん剤の代謝に関連する主要な臓器であり,さまざまな抗がん剤またはその代謝産物により肝障害が引き起こされる.

◆薬物性肝障害に特徴的な症状はないため,使用される抗がん剤における肝障害の特徴を理解するとともに,血液検査による定期的な経過観察を行う.

◆肝臓専門医との連携を強化し,適切なタイミングで専門医による治療を開始することで重篤化を阻止することが重要である.

◆化学療法後の肝切除に際し,脂肪肝炎,類洞閉塞症候群などの肝障害を理解し,適正な化学療法施行期間,肝切除までの休薬期間,肝予備能に応じた肝切除術式を選択することが必要である.

腎障害 茂木 晃 , 桑野 博行
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【ポイント】

◆がん薬物療法に伴う腎障害は,様々な原因によって発症し,幅広い症候を呈する.

◆腎は多くの薬剤の排泄に関与し,腎機能は薬物動態に大きく影響するため,腎障害はがん薬物療法の実施に大きな影響を及ぼしうる.

◆腎障害の予防や早期発見が最も重要であり,腎機能障害のある患者においては,投与量の調整(dose modification)が必要となる.

末梢神経障害 宮田 佳典
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【ポイント】

◆末梢神経障害をきたしやすい薬剤と閾値投与量および特徴的な症状を理解する.

◆神経症状を拾い上げるためにアンケートなどを有効に利用する.

◆完全な予防および治療薬は存在しない.Stop-and-Goを意識することが重要である.

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【ポイント】

◆過敏症の同義語はアレルギー反応であり,最も注意すべきなのは即時型アレルギーのアナフィラキシー型である.原因となる癌化学療法薬剤を理解しておく.

◆インフュージョンリアクションは,広義には薬物投与中または投与開始後24時間以内に発現する薬物有害反応の総称であり,狭義にはモノクローナル抗体投与により生じる有害事象とされる.原因となる癌化学療法薬剤を理解しておく.

◆過敏症,インフュージョンリアクション発症時には,重篤な状態になる確率が高いアナフィラキシー反応であるか否かを判断することが重要である.

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【ポイント】

◆化学療法による皮膚障害は身体的,精神的苦痛を伴いQOLの低下を招くため治療法を熟知する必要がある.

◆カペシタビンによる手足症候群は予防と早期対処(全身療法,局所療法,薬剤の減量・休薬)が重要である.

◆分子標的薬は早期から様々な症状を伴う皮膚障害を起こす一方で,抗腫瘍効果との相関が報告されている.

肺障害 加藤 健志
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【ポイント】

◆発生機序:①直接的細胞傷害作用,②間接的細胞傷害作用(炎症反応,免疫学的機序を介す)に分けられる.

◆原因となる抗癌剤:ほとんどすべての抗癌剤で起こる危険性があると認識せねばならない.

◆アセスメント,対応:臨床検査・画像所見・病理学的所見に基づいて総合的に行い,早期に発見し,抗癌剤投与を中止する.重症症例や改善しない場合はステロイド薬の投与となるが,早期に専門医を受診する(ステロイドパルス療法など).

心毒性 秋吉 清百合 , 大野 真司
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【ポイント】

◆アントラサイクリン系薬剤には,非可逆性の蓄積性心毒性があるため,総投与量と定期的心機能評価が重要である.

◆トラスツズマブによる左室機能障害は可逆性であり,定期的な心機能評価を行い,休薬,再開を駆使する必要がある.

◆化学療法開始前,治療中,治療終了後における心機能評価と自覚症状のチェックが重要である.

脱毛 分田 貴子 , 瀬戸 泰之
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【ポイント】

◆がん治療に伴う脱毛は,医療者の想像以上に患者の苦痛となっており,QOLを低下させている.

◆タキサン系,アントラサイクリン系,アルキル化薬ならびにイリノテカンを含むレジメンで脱毛発現率が高いが,個人差も大きい.

◆明確なエビデンスのある予防法はなく,ウィッグなどの情報にアクセスしやすい環境が必要である.

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はじめに

 新しい術式が開発され普及していく過程は,術式ごとに大きく異なる.図1に示されるように,腹腔鏡下胆囊摘出術が70〜80%施行されるようになるまでは数年の経過であったが,腹腔鏡下ドナー腎摘出術が30〜40%の施行率になるまでには10年以上を要した.一方,腹腔鏡下子宮摘出術は10%の施行率にとどまっており,普及の兆しは10年経っても明らかでない1).新規薬剤が開発され,市場に出回るまでには第Ⅰ相試験(少数健常人での安全性試験)から第Ⅲ相試験(大規模患者群での有効性・安全性検証試験)が必要であり,全世界で共通の薬事承認の過程と規制が存在する.しかし,新しい術式の承認には,このような規制は存在しない.新規手術技術の評価にはquality controlの行き届いた均質な手術技術による比較が求められる.そのため,いわゆる前向きランダム化比較試験(RCT)は新規術式の評価には向いていない部分がある.新しい術式はlearning curveの存在により,施行できない外科医ができるようになるための時間が必要であり,新薬の処方とは異なり,必ずしもすべての外科医が均質な術式を提供できるとは限らない.

 わが国では国民皆保険に立脚した診療報酬制度があり,新規技術が保険収載されるためには安全性と普及性に対する一定の評価が求められる.腹腔鏡下肝切除(部分切除と外側区域切除)は先進医療から保険収載されたが,その過程で先進医療専門家会議と厚生労働省は同術式の安全性と普及性を評価し,施設基準を厳しく定めたうえで,2010年春に初めて保険収載した.すべての手術はそれを安全で確実に施行できる外科医と,その効果を享受し負担を許容する患者との間の契約により施行される.内視鏡外科手術には低侵襲性・高整容性という患者にアピールする側面がある一方で,体腔外からの手術操作に伴う動作制限による手術手技の難易度の高さを併せもつ.これは外科医からみると手技習熟の困難性となる.新しい術式が開発(innovation)され,発展(development)し,調査(exploration)され,評価(assessment)され,広く普及し長期観察(long term)されるに至る経過が,IDEALグループにより初めて表1のように定義された1)

 新しい術式が広く普及するためには,少なくとも既存の術式より明らかに勝った点があることが必要である.腹腔鏡下肝切除術(LLR)は,拡大視効果や気腹圧による出血量の減少など,開腹肝切除術(OLR)と比べて論理的な優位性をもつとされる2).一方で,解剖誤認による重大脈管損傷やコントロール困難な出血など,LLR特有のリスクがあることも否定できない.全世界でLLRはすでに1万例近く報告され,2014年春に行われたオンライン調査(INSTALL study)では東アジア,ヨーロッパ,南北アメリカで急速に普及していることが明らかとなり3),この新しい術式の安全性と効果,および価値に対する一定の評価ができる状況となった.

 岩手県盛岡市で開催された第2回腹腔鏡下肝切除術国際コンセンサス会議(ICCLLR 2014,10月4〜6日)では,エビデンスに基づく推奨が発表され,短期成績や長期成績を中心にLLRの現状と今後の方向性が示された.同会議からは主論文4)を中心に,これまでに13編の論文発表がなされ5〜14),腹腔鏡下肝切除の今後の発展と安全な普及に大きく貢献するものと思われる.議長を務めた筆者とエキスパートおよび審査員として参加した共著者が,同会議のポイントと意義を解説する.

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■■はじめに

 胃上部早期胃癌に対しては,根治性のみならず術後QOLの向上を目的としてこれまでにさまざまな再建法の工夫が開発されてきた.内視鏡外科手術に関するアンケート調査—第12回集計結果報告1)では,胃癌に対する腹腔鏡下噴門側胃切除術(LAPG)は,2012〜2013年に約780例施行されていた.そのうち主な術後合併症は,吻合部狭窄6.4%,縫合不全5%と報告されている.当科では,1999年に開腹術における細径胃管を用いた再建法を考案し2),本術式を腹腔鏡下手術にも応用してきた.

 本術式は,噴門側胃切除術の短所として挙げられる,①手技が煩雑であること,②術後の逆流の発生,③術後の食物排泄遅延(残胃の蠕動不良に伴う残胃容量と排泄能のアンバランス)の発生,を改善・予防し,本来の長所である,①食物摂取量の維持,②栄養状態の改善に寄与する術式を目標として開発された.

 そのため,次のような特徴を有する.

1)長い細径胃管(長さ20 cm,幅3 cm)による再建.

2)胃管の口側はコブラ頭状の形態とする(偽穹窿部:pseudo-fundus).

3)胃管の幽門部(幽門輪から約5 cm)は修飾を加えない.

4)食道胃管吻合は,リニア・ステイプラーにて側側吻合する.

5)食道を胃管にon-layとし,密着縫合する.

 本術式の適応は,胃上部の早期胃癌としており,郭清もD1郭清を基本としている.幽門部の蠕動反射に支障を与えないよう,幽門上・下のリンパ節郭清は行わない.本稿では,当科で行っている長い細径胃管を用いた体腔内再建法について紹介する.

 以下,エンドGIA:コヴィディエン製リニア・ステイプラー,GIA-C:エンドGIAキャメルカートリッジ,GIA-P:エンドGIAパープルカートリッジ,ILA100:コヴィディエン製リニア・ステイプラー,とする.

具体的事例から考える 外科手術に関するリスクアセスメント・2

誤認をどう防ぐか 石川 雅彦
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 外科手術における誤認では,患者誤認や部位誤認,術式の誤認など,さまざまなインシデント・アクシデントが発生し,術後に患者・医療者双方に影響が及ぶ例が少なくない.本稿では,日本医療機能評価機構の「医療事故情報収集等事業」の公開データ検索1)を用いて,外科手術における誤認事例を抽出し,発生概要,発生要因と再発防止策について検討した.

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 立川メディカルセンターは新潟県長岡市を中心に展開する,医療・介護・福祉・予防の複合グループで,急性期医療を担う立川綜合病院,亜急性期・慢性期・介護・リハビリテーションを担う悠遊健康村病院,精神医療を中心とした柏崎厚生病院,精神障害者地域支援センター,健診センター,訪問看護センター,老人保健施設,認知症高齢者グループホーム,さらに晴麗看護学校,および晴陵リハビリテーション学院などからなります.

 立川綜合病院は,JR長岡駅からほど近い市街地にあり,481床,22診療科,在籍医師数73名の総合病院です.現在は新幹線の窓からみえますが,平成28年秋,新病院に移転予定です.当院は循環器・脳血管センターを擁し,循環器内科のカテーテル検査件数は年間1,600件以上,心臓血管外科手術件数は550例,脳血管障害に対するカテーテル治療も180例前後と全国的にも有数の症例数があります.あわせて腎透析センターを併設しているため,消化器一般外科では,循環器疾患や,脳血管障害,慢性腎不全などの合併疾患を有する方,ご高齢の方の手術が必然的に多くなっています.それでも,循環器科や麻酔科の協力のもと,他院で心臓が悪くて手術できないと言われた方に対しても積極的に手術を行っており,患者さんは元気に退院されていきます.当院へご紹介をいただく,合併疾患をお持ちの患者さんは多くいらっしゃいますが,当院からそのような患者さんを紹介できる病院はありません.私たちは当院が最後の砦と考え,責任感と自覚を持って日々診療にあたっています.

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要旨

当院では2009年から連続する成人Nuck管水腫6例に摘出術を施行し,病理学的検討を行った.このうち2例で子宮内膜症,1例で出血に伴う慢性炎症を認めた.そこで,カルテ登録のあった過去3例を含めた自験例9例と医学中央雑誌で検索した報告例20例の計29例を対象に,成人Nuck管水腫における病理学的な併存病変を中心に検討した.病理学的検討が行われた自験例のうち43%で子宮内膜症が合併しており,Nuck管水腫の成人例では病理学的変化の合併は低率ではないことが示唆された.子宮内膜症の合併は有痛例で多かったが,自験例では無痛例にも合併を認めたことより,成人Nuck管水腫では全例に摘出術を第一選択とすべきと考えた.

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要旨

症例は64歳,女性.13年前に尿路結石・副甲状腺機能亢進症を伴う甲状腺左葉内副甲状腺腺腫疑いでVANS手術を施行した.核出時,腫瘤損傷をきたした.病理結果は甲状腺内副甲状腺腺腫であった.10年前より当院への受診はなく,副甲状腺機能亢進症を他院で指摘され,当院を再受診した.超音波検査で,甲状腺左葉上極内のみに1.5 cmの低エコー腫瘤を認めた.MIBIシンチでも甲状腺左葉上極内のみに集積が認められた.甲状腺左葉内副甲状腺腺腫再発疑いで甲状腺左葉切除を行ったが,病理結果は初回と同様の所見であった.術後のCa値などは正常値であり,再発は認めていない.慎重な術中操作を行い,腺腫損傷時は10年以上の厳重な経過観察は肝要である.

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要旨

63歳,男性.内視鏡検査で胃前庭部にⅡa+Ⅱc病変,壁深達度T1b(SM)の低分化腺癌が見つかった.CT,MRIで転移巣として矛盾のない肝腫瘍がみられ,超音波検査では境界不明瞭な低エコー像で,造影後血管相でまだらな低エコー像を呈した.典型的ではないものの肝転移を否定できず,肝生検を行い,治療方針を決定することとした.肝生検では肉芽腫と診断され,腹腔鏡下幽門側胃切除術を施行した.術後に肺門リンパ節生検により類上皮肉芽腫が確認され,サルコイドーシスの診断基準を満たし,肝病変は肝サルコイドーシスと診断された.遠隔転移と鑑別を要する病変を有する症例の術前検査や治療方針,術式の選択には十分注意する必要がある.

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要旨

症例は45歳,男性.人間ドッグの超音波検査で肝腫瘤を指摘され当科を受診した.血液検査所見で肝炎ウイルスは陰性で肝胆道系酵素,腫瘍マーカーも正常範囲内であった.画像検査所見で肝S5に37 mm大の類円形腫瘍を認め,造影パターンなどからは非典型的であるが肝細胞癌などの悪性腫瘍の可能性を否定できず,S5亜区域切除を施行した.病理,免疫組織学的検査所見で,腫瘍は平滑筋細胞が密に増殖し,human melanoma black-45, smooth muscle actinなどが陽性で,肝PEComaの診断となった.Malignant potentialのある腫瘍であり,肝腫瘍の診断,治療の際には念頭に置く必要がある.

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要旨

症例は78歳,男性.胃の検診で異常を指摘され,当院を紹介されて受診し,精査で胃癌と診断され,腹腔鏡下幽門側胃切除術を施行した.術後6日目より発熱を認め,全身精査をしたが熱源を同定できなかった.しかし,血液培養にてYersinia enterocoliticaを検出して菌血症と診断し,抗菌薬投与を継続した.術後11日目より腰痛が出現し,腰椎MRIを施行したところ化膿性脊椎炎の所見を認めた.その後も保存的加療・抗菌薬投与を続け,症状は改善し,術後74日目に軽快退院した.化膿性脊椎炎は,診断の遅れから適切な治療開始がなされない場合,重篤な後遺症を残す可能性がある.術後に発熱・腰痛を認めた際には,鑑別疾患として化膿性脊椎炎も念頭に精査・加療を行う必要があると考えられた.

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要旨

腹腔鏡下幽門保存胃切除後の胃々吻合は,大きな吻合口が必要なため,通常上腹部の小切開創から直視下に行われることが多く,体腔内吻合の報告は少ない.今回,筆者らは腹腔鏡下幽門保存胃切除後に体腔内で三角吻合を行う術式を開発し,改良を重ねてきた.その概要は,近位側と遠位側に開けた小孔から自動縫合器を挿入して1回目の後壁吻合(内翻)を行い,大きな共通孔を自動縫合器2回(外翻)を用いて閉鎖するものである.現在まで経過良好であり,比較的容易に導入可能な術式であると思われるため,手術手技を中心に報告する.

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 わが国でも「がんサバイバーシップ」という概念がようやく普及し始めている.がんサバイバーシップとは「がん経験者がその家族や仲間とともに充実した社会生活を送ることを重視した考え方」を意味している.かつて,がんは不治の病として長期の入院などにより患者は社会から切り離されてきた.しかし,今では早期発見や治療法の進歩などにより生存期間が延長し,多くのがんは長くつきあう慢性疾患として,がんと共に暮らすことが普通の時代になりつつある.

 がん体験者は患者であると同時に生活者であり,社会人でもある.2012年に閣議決定された第2期がん対策推進基本計画では,「がんになっても安心して暮らせる社会の構築」が全体目標の一つに加えられた.今日,がんは日本人の死亡原因の第1位で年間に約36万人ががんで死亡しているが,一方で,直近のデータでは2014年に約81万人が新たにがんに罹患すると推計されている.したがって年間に約40万人以上のがん経験者が増える計算になる.就労を含めたサバイバーシップの充実は大きな政策課題といえる.

ひとやすみ・124

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 有史以来,人類は常に食糧難に苛まれてきた.そこで食べられるときには食べる習慣が身に付き,また飢餓に耐える遺伝子が優良遺伝子として脈々と伝えられてきた.人類にとって大きな関心事である,食物にまつわる小話を紹介する.

 私の研修医時代の40年ほど前には研修医手当が少ないため,医局や屋上への踊り場を改造して病院内に寝泊りしていた.そして,たまに仲間と外に食べに行くこともあったが,通常は夜遅くに職員食堂で冷えた定食をひとり寂しく食べたものである.現代は電子レンジで簡単に温められ,便利な時代になったものである.

1200字通信・78

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 気掛かりなニュースを耳にしたので,今回も「鏡視下」について書かせていただきます.

 そのニュースとは,「某大学で,肝臓の鏡視下手術後,立て続けに8名の患者さんが亡くなられた」というものでした.その後,「大学の倫理委員会への申請もせず,患者さんや家族への十分なインフォームド・コンセントもないままに,適応外と思われる症例にまで鏡視下手術を行い,揚句,不正な保険請求をしていた」と報道されました.今回は,その人数の多さから,これまでの単発のトラブルとは異質なものを感じていましたが,昨年暮れには,同じ教室でそれまでの開腹手術でも,通常の3倍以上の死亡率であったとの報道がなされました.今の時点では,一方的な報道だけですので,真相の早急な解明が待たれるところです

昨日の患者

尾を引くトラウマ 中川 国利
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 人は強烈な恐怖を体験すると,何時までも心に残るものである.そして少しでも同じ恐怖に陥る危険性がある場合には,決して同じ轍を踏もうとはしない.たまたま罹患した肛門周囲膿瘍に伴う壊疽性筋膜炎で死の恐怖を感じ,対処的に造設した人工肛門の閉鎖さえ拒否し続ける患者さんを紹介する.

 40歳代後半のSさんが,肛門周囲膿瘍で来院した.炎症が著明で,発赤や圧痛を臀部や下腹部にまで認めた.また圧迫すると捻髪音を,CT検査では皮下にガス像を認めた.そこでFournier症候群と診断し,腰椎麻酔下に切開して膿汁を排出するとともに壊死した組織を除去した.また強力な抗菌薬を大量に点滴するとともに,創を朝夕洗浄した.しかしながら糖尿病もあり,炎症は胸壁や頸部の皮下にまで及んだ.炎症が重篤化して敗血症,さらにはDICにさえなった.そこで回診のたびに病室で,局所麻酔下の切開ドレナージを繰り返した.また肛門周囲の感染をコントロールするため,人工肛門を造設した.

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あとがき 桑野 博行
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 外科学の最近の発展は目覚ましいものがあることは衆目の一致するところである.外科治療においては,鏡視下手術に代表される,所謂「低侵襲手術」の進歩は患者のQOLに大きく寄与している.しかしながら,「外科治療」というものは,いかに「低侵襲」であるとしても,何らかの,幾許かの負担を生体にもたらすこともまた事実である.

 外科手術は,例えばがんに対する根治性などを目的とする一方で,その手段たる治療は可能な範囲で「低侵襲化」を図ることが求められており,その客観的指標としての予後や患者QOLの面からの評価がなされている.確かにこれは外科学の一義的目的であり「王道」であると考えられる.しかしまた一方で,「外科学」を通した「医学」の発展には,その多少を問わず外科による「侵襲」や「臓器切除」によって,その「欠損」から浮かび上がってくる「真実」からもたらされた数々の輝かしい研究成果が大きく寄与していることも真実である.

基本情報

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臨床外科
70巻5号 (2015年5月)
電子版ISSN:1882-1278 印刷版ISSN:0386-9857 医学書院

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