昨日の患者
尾を引くトラウマ
中川 国利
1
1宮城県赤十字血液センター
pp.606
発行日 2015年5月20日
Published Date 2015/5/20
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1407210752
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- 文献概要
人は強烈な恐怖を体験すると,何時までも心に残るものである.そして少しでも同じ恐怖に陥る危険性がある場合には,決して同じ轍を踏もうとはしない.たまたま罹患した肛門周囲膿瘍に伴う壊疽性筋膜炎で死の恐怖を感じ,対処的に造設した人工肛門の閉鎖さえ拒否し続ける患者さんを紹介する.
40歳代後半のSさんが,肛門周囲膿瘍で来院した.炎症が著明で,発赤や圧痛を臀部や下腹部にまで認めた.また圧迫すると捻髪音を,CT検査では皮下にガス像を認めた.そこでFournier症候群と診断し,腰椎麻酔下に切開して膿汁を排出するとともに壊死した組織を除去した.また強力な抗菌薬を大量に点滴するとともに,創を朝夕洗浄した.しかしながら糖尿病もあり,炎症は胸壁や頸部の皮下にまで及んだ.炎症が重篤化して敗血症,さらにはDICにさえなった.そこで回診のたびに病室で,局所麻酔下の切開ドレナージを繰り返した.また肛門周囲の感染をコントロールするため,人工肛門を造設した.
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