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はじめに
新しい術式が開発され普及していく過程は,術式ごとに大きく異なる.図1に示されるように,腹腔鏡下胆囊摘出術が70〜80%施行されるようになるまでは数年の経過であったが,腹腔鏡下ドナー腎摘出術が30〜40%の施行率になるまでには10年以上を要した.一方,腹腔鏡下子宮摘出術は10%の施行率にとどまっており,普及の兆しは10年経っても明らかでない1).新規薬剤が開発され,市場に出回るまでには第Ⅰ相試験(少数健常人での安全性試験)から第Ⅲ相試験(大規模患者群での有効性・安全性検証試験)が必要であり,全世界で共通の薬事承認の過程と規制が存在する.しかし,新しい術式の承認には,このような規制は存在しない.新規手術技術の評価にはquality controlの行き届いた均質な手術技術による比較が求められる.そのため,いわゆる前向きランダム化比較試験(RCT)は新規術式の評価には向いていない部分がある.新しい術式はlearning curveの存在により,施行できない外科医ができるようになるための時間が必要であり,新薬の処方とは異なり,必ずしもすべての外科医が均質な術式を提供できるとは限らない.
わが国では国民皆保険に立脚した診療報酬制度があり,新規技術が保険収載されるためには安全性と普及性に対する一定の評価が求められる.腹腔鏡下肝切除(部分切除と外側区域切除)は先進医療から保険収載されたが,その過程で先進医療専門家会議と厚生労働省は同術式の安全性と普及性を評価し,施設基準を厳しく定めたうえで,2010年春に初めて保険収載した.すべての手術はそれを安全で確実に施行できる外科医と,その効果を享受し負担を許容する患者との間の契約により施行される.内視鏡外科手術には低侵襲性・高整容性という患者にアピールする側面がある一方で,体腔外からの手術操作に伴う動作制限による手術手技の難易度の高さを併せもつ.これは外科医からみると手技習熟の困難性となる.新しい術式が開発(innovation)され,発展(development)し,調査(exploration)され,評価(assessment)され,広く普及し長期観察(long term)されるに至る経過が,IDEALグループにより初めて表1のように定義された1).
新しい術式が広く普及するためには,少なくとも既存の術式より明らかに勝った点があることが必要である.腹腔鏡下肝切除術(LLR)は,拡大視効果や気腹圧による出血量の減少など,開腹肝切除術(OLR)と比べて論理的な優位性をもつとされる2).一方で,解剖誤認による重大脈管損傷やコントロール困難な出血など,LLR特有のリスクがあることも否定できない.全世界でLLRはすでに1万例近く報告され,2014年春に行われたオンライン調査(INSTALL study)では東アジア,ヨーロッパ,南北アメリカで急速に普及していることが明らかとなり3),この新しい術式の安全性と効果,および価値に対する一定の評価ができる状況となった.
岩手県盛岡市で開催された第2回腹腔鏡下肝切除術国際コンセンサス会議(ICCLLR 2014,10月4〜6日)では,エビデンスに基づく推奨が発表され,短期成績や長期成績を中心にLLRの現状と今後の方向性が示された.同会議からは主論文4)を中心に,これまでに13編の論文発表がなされ5〜14),腹腔鏡下肝切除の今後の発展と安全な普及に大きく貢献するものと思われる.議長を務めた筆者とエキスパートおよび審査員として参加した共著者が,同会議のポイントと意義を解説する.
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