看護学雑誌 72巻5号 (2008年5月)

特集 プリセプター必読 新人が聞けないこと 先輩が言えないこと

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5月.入職から1か月を経た新人看護師にとっては,気を引き締めるべき時期といえるでしょう.入職してすぐの頃は,新人は何でも質問し,プリセプターもひとつひとつに答えていたところが,この時期を境に,互いが「一度は習ったんだから」と一人で仕事を進めていく場面が増えてきます.人員不足のなか,早期の一人立ちのためには避けて通れないプロセスとはいえ,もっともヒヤリ・ハットや事故が心配される場面といえるでしょう.

本特集では,「新人が聞きにくいこと」を通して,事故を防ぎつつ,新人の独り立ちを成功させるプロセスを探ります.新人が聞きにくいこと,言われたくないこと,あるいは先輩が言いにくいこと.効果的な院内教育のための最重要キーワードを確認してみましょう.

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ストーリー

「わかったふりをしたお陰で……」

1年目の新人

外科病棟勤務

 総合病院に就職し,外科に配属されてあっという間に2か月が経ちました.朝,病院に行く時は一番気が重く,無事に1日が終わるかなあと心配な毎日です.プリセプターはとても優しい人なのですが,この頃は勤務が一緒になることが少なくなり,あまり話をしていません.病棟の先輩たちの中には厳しい人もいますが,どの人もわからないことを聞くと嫌な顔をしないで応対してくれます.でも先輩方も忙しいので,術後の観察やケアを一緒にやってもらいたいなと思っても,遠慮してしまったり,先輩と時間を合わせようとすると患者さんを待たせてしまうことになるので,なんとなく自分一人でやっていることが多いです.

 5月後半から,手術室への患者さんの送り迎えや術後の観察などを一人で任されるようになりました.ちょうどそのころ,術後患者さんを手術室に迎えにいったとき,手術室看護師からこんな申し送りを受けました.

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ストーリー

「患者さんに断られると,それ以上は言えない」

1年目の新人

内科病棟勤務

 80歳の女性,野村さんが狭心症の症状を訴え,検査のために入院していました.入院当初は環境の変化のせいか,夜中にトイレに向かう際,転びそうになったところを発見され,ナースコールマットを敷いていました.症状が軽快したので,入院後初めて入浴することになりました.私は野村さんに入浴を勧めると,「午後に娘が来てくれるから,そのときに娘にやってもらいます.いいんですよ,お忙しいのにもったいない……」と遠慮がちに断られました.しばらくして,もう一度入浴を勧めましたが,やはり断られました.私は,入浴介助をするなら午前中しか時間がなく,午後は手術室から戻ってくる患者さんもいるため無理だなあと思っていましたし,そこまで患者さんが拒否するならムリに介助する必要もないと思い,家族にまかせることにしました.

 午後になって,娘さんが来院し,入浴を介助されました.ところが,娘さんが脱衣所で着替えなどを準備して目を離したすきに,野村さんは浴室で足を滑らせ,膝を打撲してしまいました.「家のお風呂とは勝手が違ってねえ……」と野村さんと娘さんは笑っていましたが,私はインシデント・レポートを書くことになりました.

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ストーリー

「私って,やっぱりできない新人!?」

1年目の新人

内科病棟勤務

 夜勤をしていたときのことでした.患者さんたちの夕食が終わり,夜6時半頃から内服の介助が必要な患者さんのところを回っていました.4人部屋のうち2人の患者さんの内服薬をワゴンの上に置き,自分なりに間違えないように注意していました.

 いくつかの病室を回っているうちにナースコールが鳴り,点滴のつなぎ換え,トイレ介助,点滴漏れのある患者さんのルートの取り直し,術後患者さんの観察など,次々にやることが多く,なかなか内服介助ができずにいました.

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ストーリー

「私も大変なのに……」

3年目の先輩

外科病棟勤務

 総合病院に勤務して3年目のAさんは,病棟でも中堅といわれるようになりました.リーダーや夜勤など病棟の業務は一通りできるようになり,患者さんからも信頼されています.

 病棟には,がんの患者さんも多く,終末期を過ごしている方も多くいらっしゃいます.今の自分の受け持ちの患者さんは,癌で痛みが強く麻薬を点滴の中にいれてコントロールされています.受け持ちナースとしての責任を強く感じられ,特に夜勤では自分が一番上の立場になることもしばしばで,この患者さんたちを守らなきゃならないということを強く感じています.

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小説の「アイテム」として消費されてきた「癌」

――新作『キュア』の発行おめでとうございます.癌を患った若手外科医が主人公の本作ですが,キュア(=治療)というタイトルに意外な印象を受けました.

田口 私がこれまで作家として,ずっとケアのことを追いかけてきたことをご存知の方は,「どうしてキュア?」って思うかもしれませんね.ただ,書き始めた段階では「キュア」というより,「癌をテーマにした小説を書きたい」ということが中心でした.ある癌患者の友人から「現代の文学は癌を消費しすぎている」ということを言われて,私自身,作家として癌を消費してきたことに気づかされたんです.

懸賞論文受賞作 クレーマーを“つくらない”患者対応の極意

大賞

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選評

 今回の懸賞論文に応募されたたくさんの投稿のなかで,非常に多かったのが,「クレーム対応」について論じたものでした.そのなかで,本論は「クレーム以前」にしっかりと焦点があてられていました.「クレームの芽」を発見する3つのアンテナ,主治医に言いつけてはいけない,検温時の“そんなことがあったんですかモード”,看護師側の事情は患者にとっては「そんなの関係ね~」など,臨床現場の看護師にしか書けない極意が,軽快な筆致で描き出されています.

副賞

怒りの蔓(つる) 中沢 裕里
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選評

 クレーム内容そのものはごく些細なことなのに,その訴えは激しい怒りに満ちている.こうした場合,対応した看護師は「なぜそんなことでここまで怒るのか」と理不尽に感じ,「クレーマー」「困難な患者」として認識することになります.しかし,その怒りは,本当にそのクレーム内容だけに起因するものなのでしょうか? 「クレーマー」の怒りを形作るメカニズムを,「怒りの蔓(つる)」というキーワードで解きほぐしています.

佳作

「なんで私なの?」 小沢 由美
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選評

 受付から回ってくるクレーマーらしき患者からの電話.「なんで私なの?」と思いながらも話を聞く.案の定,長時間にわたる電話で極端な主張を受け続ける.しかし,そうした患者も,原因となる「何か」が解消された瞬間,まるで氷が解けるように穏やかになることがある.事例をとおして,接遇以前に,看護ケアをしっかりと行なうことがクレーマー化を未然に防ぐことにつながることを説いています.

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選評

 病院と在宅で体験した具体的な2つの事例が,それぞれ貴重な示唆を与えてくれます.なかでも前者は,クリティカルパスという便利なツールが,ときに看護することを阻害し,結果としてクレームを生むばかりでなく,患者の苦痛を長引かせてしまうおそれがあると警鐘を鳴らしています.

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選評

 「クレーマーをつくらない」という募集テーマに対し,「つ」「く」「ら」「な」「い」を頭文字にとった5か条での対応法を呈示しています.「つ」=「強く出ても,下手に出ても」,「ら」=「楽な方法を選択しない」など,現場の「知恵」にあふれた提案がまとめられています.

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選評

 外来患者のトリアージを担当する看護師長による,クレーム対応の現状報告です.医師不足などを背景に,外来患者の重症度によって診療・対応を判断するトリアージへの取り組みが各病院で行なわれていますが,当然,患者からのクレーム発生率が高く,そこで培われた知見は,一般科でも応用範囲の広いものと考えられます.

カラー特集

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 当たり前の治療法,当たり前の禁忌,当たり前のルーティンワーク……医療を取り巻くすべての「当たり前」には歴史がある.そんな「当たり前」に気づかせてくれるのが医学史という分野だが,日々の臨床に忙しい医療者には,なかなか医学の歴史書に目を通す時間はないだろう.

 このたび刊行された『まんが 医学の歴史』は,全編まんがによる「医学の歴史」書である.内容としては,看護学雑誌上で2003~2005年の間にわたって連載されたもの(32話)なので,弊誌読者にとってはなじみ深いものかもしれないが,大幅に描き下ろし(20話)を追加しており,呪術的医療からヒトゲノムにいたる医学の歴史をつぶさに知ることができる.

巻頭カラー連載 A-LSD!病床からの誘惑・12【最終回】

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 三年近く病院で暮らしながら、甲谷さんは、〈HOTEL ALS〉と小さな看板をかかげる、色鮮やかで楽しそうなホテルの絵を描いた。どんなホテルなんだろう、ここは。どんなもてなしが待っているのか。「もしかして、動けない、話せない、あなたの状態を味わわせてくれる、体験型宿泊施設だったりして?!」と尋ねる私に、「ホテルで休んで、生の流れを変えたい。人生を休憩したい。生の見方を変えようとした」と、彼は答えた。

 「ホテル」と「病院(hospital)」が、同じく、「暖かいもてなし」を意味する「hospitium」につながる「hospes」というラテン語を語源としていることを知ったのは、ずいぶん後のことだ。

連載 医療機器とともに学ぶ―カラダのしくみ・2

血圧のはなし(後編) 堀川 由夫
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 今回は実際の血圧測定の方法とその意味するところを理解していきましょう.

 血圧の話は幅広いですが,ここではモニター情報としての血圧測定に限定します.みなさんがよくご存じの血圧測定法は,上腕に巻いた駆血帯の圧を減じていきながらコロトコフ音を聴取する聴診法でしょう.コロトコフはロシアの医学者で,現在普及している聴診法の原理を編み出した人です.コロトコフが聴診法により血圧を測定したのは1905年のことで,血圧測定の仕組みは基本的に100年以上変わっていません.一方で,血圧測定機器の発展は日進月歩で,現在の自動血圧計は必ずしもコロトコフ音を聴取しているわけではありません.それにも関わらず,歴史的経緯から私たちは伝統的なマンシェットによる血圧測定を「真の値」として優先しがちです.自動血圧計でうまく測れないときに,「実測してみて!」とマンシェットでの測定を指示したりしますよね? では,コロトコフ法だけが「実測法」で他の方法は「推定値」なのでしょうか?

連載 かかわるチカラ―糖尿病療養指導の現場学・2

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事例「インスリンを打つのがつらい」

宮田さん(2)

「インスリンの回数が増えてちぐはぐな感じがする……」

 (前回までのあらすじ)宮田さんは50代女性.この1年間,HbA1c10~12%台が続いており,インスリンも半年前に2回打ちから4回打ちに変わった.1回目の生活相談では指示カロリー(1600kcal)は守っているが,インスリン4回打ちについて「そんなに必要なのかなって思う.食事のたびに打つのがつらい」という言葉がきかれ,また「間食がどうしてもやめられない」とのことであった.私は,宮田さんに1日の生活を振り返ってもらい,どこで血糖をコントロールするための生活を調整すればいいのか一緒に考えた.その結果,間食の回数を減らし,その分,ストレスがたまらないように昼の食事の直後に間食を食べるなどの具体策を見出し,血糖値の推移をみることとした.

 しかし,1か月後の診療日,宮田さんは2回目の生活相談にはあらわれなかったのである.

連載 こんな方法もあるかもしれない―介護発,武術経由の身体論・5

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寝たままの状態で移乗するには「力」がいる

 手術室での身体介助技術を質問されたことがあります.手術後にストレッチャーに麻酔がかかって寝たままの状態で移動させることが,大変きついということです.確かに意識のない状態で,しかも手術の直後という条件では,力まかせに強引な持ち方は絶対にできません.最大限慎重に,しかも,ゆっくりとソフトな移乗を心がけねばならないので,結局筋力を最大限に発揮して,被介助者の重さに耐えながら介助しているそうです.その結果,肩や腰を痛めてしまい,コルセットが手放せなくなっているとのことでした.

 また,訪問入浴をされている方からも,ベッドから浴槽へ寝たままの状態での移動を質問されたことがあります.特に在宅の場合,病院や施設と比べてスペース的にも狭く,持ち上げたままで室内を移動してベッドから離れた場所にある浴槽に入浴させることもあり,その時の身体的な負担は相当なものだということです.

連載 医療の零度―次世代医療への省察・2

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 前回1),医療における「考え方」の矛盾対立は医療と医療者を危機に陥れるため,誰もが共通了解に至れるような「原理」を取りだす必要があると論じた.そのうえで,「原理」を構築する「方法」とその設計思想の「超メタ理論」が未整備であると指摘した.そこで今回は,「方法」の設計思想となる「超メタ理論」として,「構造構成主義(structural constructivism)」2)について論じる.

連載 世界の感受の只中で・13

リハビリ・1 天田 城介
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 「この本は2006年度に行われた,政府による診療報酬改定に端を発した,リハビリテーション医療(リハビリ)打ち切り反対闘争の,私の論説を集録したものである.リハビリを続けなければ,社会から脱落するもの,生命の危険さえあるものにたいして,医療を打ち切るというむごい制度改悪に私は怒った.(中略)国民皆保険以来始めての,医療保険からの患者切り捨てである.今回設けられた日数制限により,長期のリハビリ医療を必要とする多くの患者は,保険診療の対象からははずされることになるのだ.回復を断念せざるを得ない./これは,世界が羨む国民皆保険を達成した日本の,医療制度の根幹を揺るがす問題である.このまま医療制限が続けば,早晩公的医療保険は崩壊する.(中略)だからこの問題は,リハビリという一部の人だけが直接の関心を持つ医療問題ではない.この国の医療と福祉の未来,ひいては弱者の生存権までかかった,重要な問題なのである.」

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 本書は,千葉大学看護学部老人看護学分野の研究者たちの20年余におよぶ糖尿病看護研究の集大成である.1つの専門分野に特化した研究の世代を超えた蓄積は,糖尿病看護の実践家はもとより多くの看護の研究者たちに感慨を持って読まれるのではないだろうか.

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編集後記 鳥居 , 吉田
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●弊誌の新しい取り組みの1つとして昨年から企画している懸賞論文「クレーマーを“つくらない”患者対応の極意」.予想以上の応募者多数につき掲載号が1号遅れてしまいましたが,無事,6本の受賞作を掲載することができました/懸賞論文を読んでから個人的に取り組むようになったのは,自分の「怒りの蔦」がぐぐっと伸びそうになったときに,その蔦を「観察してみる」ということ.怒りの蔦が,どんな種から,どんな栄養をもらって,どんなふうに伸びてきたかを眺めているうちに,ぐんぐん伸びていた蔦がしゅるしゅると元気を失って消えていく……こともありました/その他の受賞作や,新人・先輩のコミュニケーションを扱った今回の特集記事にも共通するのは「正確に」というキーワード.「今,何が起きているのか」を正確に認識していないとき,どうしても問題は複雑にこじれて,解決不能に見えてしまう.何事もまずは「正確に」がスタートなんだと再確認しました.【鳥居】

基本情報

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看護学雑誌
72巻5号 (2008年5月)
電子版ISSN:1345-2746 印刷版ISSN:0386-9830 医学書院

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