総合リハビリテーション 46巻3号 (2018年3月)

特集 訪問リハビリテーション

今月のハイライト
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 訪問リハビリテーションは生活期のリハビリテーションに位置づけられ,高齢者のリハビリテーションなど地域包括ケアシステムにおいても重要なサービスと考えられています.医療保険および介護保険制度において,医療機関からの提供のほか,訪問看護ステーションからの療法士の訪問サービスも訪問看護の一環として実施されています.その効果などエビデンスに関するデータが不足していること,担当スタッフの質の担保,地域格差などの問題も指摘されています.今回,現在の訪問リハビリテーションの状況を俯瞰し,都市部から地方に至る各地域レベルでの活動の実際をご紹介いただく特集を企画しました.

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はじめに

 「訪問リハビリテーション」は,医師の指示の下に対象者の居宅に理学療法士,作業療法士,言語聴覚士(以下,療法士)が訪問しその専門性を生かし,自立支援を行う医療サービスである.制度上は医療保険および介護保険ともに医療機関(病院,診療所,老人保健施設)からの提供を「訪問リハビリテーション」と位置付けられているが,訪問看護ステーションからの療法士の訪問もサービス提供量が多い.こちらは訪問看護の一環として位置付けられているものの,内容的には同等であると考えられる.このように制度的な違いはあるものの,本稿では,この双方を「訪問リハビリテーション」して論ずるものとする.

 さて,「訪問リハビリテーション」の領域と対象者を正確に把握する全国調査資料は現状では見当たらない.そのような背景を踏まえつつ,日本訪問リハビリテーション協会の会員施設に対する実態調査からその対象疾患別(様態を含む)の項目・割合をみていくと図11)のようになる.

 この調査では,1位が脳血管疾患,次に骨関節疾患,以下,神経変性疾患,内部障害(循環器系疾患,呼吸器系疾患など),認知症などの順となっている.このようにみていくと,生活機能に障がいがもらされる疾患が中心であることはいうまでもなく,多岐にわたっているといえる.また,訪問リハビリテーション事業所の8〜9割は介護保険の対象であり,高齢障がい者の対象が非常に多い.もちろん,発達障害や精神疾患,事故などによる若年障がい者も対象であるが,40歳未満の対象者は4.8%と少ないのが現状である1)

 このように,本稿では対象の多数を占め,かつ比較的実態のつかみやすい介護保険対象領域の現状と課題に絞り,以下の項目について述べる.まず,訪問リハビリテーションの提供量の推移について,次に介護保険制度下において質を担保するための課題,地域包括ケアにおける訪問リハビリテーションの課題,訪問療法士の教育および専門分化に関する課題の順に論ずる.

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はじめに

 筆者は東京都リハビリテーション病院(以下,当院)地域リハビリテーション科赴任後の2004年より訪問リハビリテーションにかかわるようになった.高齢者の急増,それとともに日本の人口はピークを迎え,時代の必然として地域包括ケアシステムの構築が言われている.なかでも都市部では高齢者の増加率は著しく1)その対応が急務とされている.介護保険の訪問系サービスの中では利用率が約2%と低い訪問リハビリテーションだが2),ここでは当院の現状・課題からこれからの都市部における訪問リハビリテーションの活動の未来について述べる.

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はじめに

 熊本市は,九州の中央,熊本県の西北部に位置し,人口76万の地方中核都市である.2012年4月に政令指定都市に移行した.本テーマの中規模都市に該当する.熊本市は2014年時点では,高齢化率23.1%,認定率(要介護・支援者/第一号被保険者数)21.3%で年々増加し,訪問リハビリテーションの需要は増している.

 われわれは,訪問リハビリテーションが制度化する以前の1986年より訪問リハビリテーションを開始した.その長年の経験を蓄積し,研究を行い,訪問リハビリテーションを体系化した.

 本稿では,熊本市の訪問リハビリテーションの現況と医療法人社団寿量会(以下,当法人)の訪問リハビリテーションの活動の実際を紹介し,今後の課題も述べる.

鳥取県西部地域の現状 角田 賢
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はじめに

 錦海リハビリテーション病院(以下,当院)は,鳥取県米子市にある48床の回復期リハビリテーション専門病院である.開院時から回復期リハビリテーションに特化した医療を行っているが,開院当初から回復期退院後の生活期をサポートするためにリハビリテーションに特化した短時間型通所リハビリテーションを,翌年からは訪問リハビリテーションも開始し,回復期から生活期までリハビリテーションに特化した医療を地域に提供している.

 鳥取県は全国で最も人口の少ない都道府県である.人口はわずか56万人であり,全国の政令指定都市の人口や東京都の世田谷区や墨田区といった区1つの人口さえも下回っている.高齢化も中山間地を中心に,全国の先頭を切って進行している地域の1つである.

 当院のある鳥取県西部二次医療圏の人口はおよそ20万人で,鳥取大学医学部附属病院などの地域の中核病院が集中する米子市とその隣の境港市の2市とその周辺の町村から成り立っている.二次医療圏全体でみると人口あたりの医師数,看護師数は全国平均を大きく上回っており,医療資源の潤沢な地域となっている.リハビリテーション資源でみても,人口あたりの回復期リハビリテーション病棟病床数は全国平均の2.5倍,療法士数はおよそ2倍であり,比較的恵まれた地域といえるが,二次医療圏内での医療資源の偏在は著しく(図1),周辺中山間地域の町村では深刻な高齢化,人口減少の進行とともに医療提供体制も厳しい状態となっており,介護保険による生活期リハビリテーションサービスもこれらの町村ではごく限られたものとなっているのが現状である.

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はじめに

 昨今,わが国では,台風や地震など甚大な被害をもたらす自然災害が多発している.リハビリテーション分野においても,その災害や被災地ごとのニーズに合わせた対応が迫られる機会が増加していると考える.

 今回は,そのなかでも今も十分な復興を遂げられているとは言い難いほど,被害が大きかった東日本大震災後の被災地におけるリハビリテーションの活動について,「一般財団法人訪問リハビリテーション振興財団」(以下,訪問リハビリテーション財団)の活動を通して述べてみたい.

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 「思えば遠くへ来たもんだ」は,武田鉄矢率いる海援隊の楽曲である.故郷を遠く離れた九州人には思い入れが強い曲といえる.1978年(昭和53年)の古い曲だが,「贈る言葉」とともにご存知の方も多いであろう.2017年7月に鹿児島から日本医科大学へ異動した小生は,まだまだ東京ビギナーであり(脱稿時点で半年間),この曲をネットで再生すること数十回.決してホームシックにかかっている訳ではなく,むしろ文化の違いを楽しんでいる.そこで最近感じたことをリハビリテーション医療中心に勝手気ままに書いてみることにした.あらかじめ断っておくが,あくまでも私見が多く,関東圏の先生方はお気を悪くされないで目をお通しいただきたい.

 まず何が違う? かであるが,文化が違う.東京のほうが,ヒトが多い,モノが高い,何でも手に入る,居酒屋は狭いなどなど.仕事上の出会いは圧倒的に多い.時間の流れは圧倒的に速く感じる.東京のヒトは冷たい! といわれるが,半分正解で半分間違い.江戸っ子を親子3代にわたって下町に住んでいると定義づけるならば約1割が江戸っ子であるからして,東京のヒトそのものの議論が無意味だろう.リハビリテーション専門誌としてはポイントがずれてしまいそうなので,まずは九州のリハビリテーション医療について述べる.

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はじめに

 123I-meta-iodobenzyguanidine(MIBG)心筋シンチグラフィは心臓交感神経節後線維の障害を検出する画像検査である.Parkinson病(Parkinson disease;PD)やLewy小体型認知症(dementia with Lewy bodies;DLB)などのLewy小体病では交感神経節後線維が障害されるため心臓への集積が低下する.認知症においては,DLBとAlzheimer病(Alzheimer disease;AD)との鑑別に有用であり,近年知見が追加されている.

 また,ドパミン神経脱落の程度を可視化するドパミントランスポーターシンチグラフィ(dopamine transporter single photon emission computed tomography;DAT SPECT)が,2014年1月よりわが国でも使用可能となっている.DAT SPECTは線条体の集積を評価することで,PD,多系統萎縮症(multiple system atrophy;MSA),進行性核上性麻痺(progressive supranuclear palsy;PSP),大脳皮質基底核変性症(corticobasal degeneration;CBD)などの黒質線条体ドパミン神経の変性脱落を伴う神経変性疾患の診断に有用である.

 本稿では,MIBG心筋シンチグラフィとDAT SPECTの検査の概要と注意点,認知症診断における両者の有用性について概説する.

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時代の背景

 わが国では,地方自治体を中心に乳幼児健康診査が行われ,小児の成長発達における問題の早期発見に重要な役割を果たしてきた.しかしながら,この半世紀で時代背景,子どもの概念,育児のあり方や,小児の疾病構造も大きく変化を遂げた.このような変化を背景に,1950〜60年代には栄養の改善,先天性股関節脱臼の早期発見が重要視され,1970年代には脳性麻痺の早期発見,そして1980年代には知的障害を含む障害の早期発見・対応,肥満,う歯などの健診が加わった.1990年代には育児不安,産後うつ病,若年出産,児童虐待などの心理社会的アセスメントが加わり,2000年代になると発達障害(自閉症を含む)の早期発見,子育て・家族支援の視点が重要視されてきた.このような時代のニーズに沿った形で,健診内容やあり方もブラッシュアップが必要である.

実践講座 脳卒中患者の体力評価・3

全身持久力の評価 伊佐地 隆
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はじめに—脳卒中患者の全身持久力評価の重要性

 脳卒中の治療管理,リハビリテーションを考えたとき,その究極の目的は,体力のなかでも総合力を表すとされる全身持久力の低下を最小限にとどめることといっても過言ではないだろう.

 全身持久力は,脳卒中発症後さまざまな要因で低下しやすい1).発症直後は,意識障害や安静臥床の必要性から絶食(輸液のみ)とされて経口・経腸の栄養が休止し,一定期間,本来必要な栄養素,栄養量が確保できない状態を余儀なくされる.急性期は,自力での動作ができないことから身体,精神両面で活動ができない時間が長く,気道感染,尿路感染,消化器症状などを合併すると消耗が早まる.回復期では,多めのリハビリテーションが行われるがなお介助で行われることも多く,移動は安全を考えて車椅子だったり,必要時だけの監視介助の歩行だったりして,自分の力を十分に使えない状態が続く.退院後の生活期では,活動や参加の場が縮小し,制限制約された状況にとどまりやすい.

 リハビリテーション医療では,急性期には経口・経腸栄養のない期間を極力短くして筋量の減少を避け,早期からの適切なリハビリテーションにより廃用性の合併症を予防する.回復期では,早期に日常生活動作(activities of daily living;ADL)の獲得をめざして機能回復を促進し動作練習を行い活動性を確保する.生活期には介護保険領域とも連携し,活動目的を設定し,参加の場を確保する.これらはすべて全身持久力に影響する身体資源が減少しないよう考慮したものである.しかしながら現実としては,退院しても発症前に比べて疲れやすく,歩行スピードも遅く,歩行や活動の時間も短く,社会生活は制限され出かけていける場所も限られるというように,全身持久力が低下していることがうかがわれる.

 一般に脳卒中患者は全身持久力が低下しているという報告がほとんどである.それは全身持久力というものをいろいろな方法で評価されてわかった結果である.一方でそれはトレーニングによって改善するともいわれており1),目標とすべき数値として示すものでもある.漠然としてではなく,数値として全身持久力を知ること,それが片麻痺患者の全身持久力を考える第一歩となることから,本稿では脳卒中患者の全身持久力の評価について概説する.

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はじめに

 近年,ロボット工学が進歩し,医療・介護分野の現場でも,さまざまなロボット機器の導入が始まっている.『脳卒中治療ガイドライン2015』1)では,早期の日常生活動作(activities of daily living;ADL)の向上と社会復帰を図るためには発症後早期から積極的なリハビリテーションを行うことが強く勧められており,特に早期から歩行獲得を目的とした歩行練習の実施が必要となる.しかし,重症例においては歩行介助量が大きいため歩行練習の実施が難しく,可能であっても練習量を確保することには大きな困難さを伴う.このような歩行練習における安全性・再現性・労作耐久性の問題の克服には,ロボットの導入が望ましいと思われる.ロボットを用いたリハビリテーションはsystematic reviewにおいて,発症3か月以内の歩行不能例で,自立歩行の獲得という恩恵が得られると報告されており2),ガイドラインでも推奨されている(グレードB).

 2007年よりトヨタ自動車株式会社と藤田保健衛生大学が共同で開発した歩行練習アシスト(Gait Exercise Assist Robot;GEAR)が,2014年より国内約20施設において運用開始されており,岡山リハビリテーション病院(以下,当院)でも8月より導入している.GEARは長下肢ロボット,低床型トレッドミル,安全懸架装置,ロボット免荷装置,患者用モニタ,操作パネルから構成される3).ロボット足底部の圧力センサと膝関節角度から歩行周期を判断し,適切なタイミングで膝関節の屈曲・伸展のアシストを行う4).さらにアシスト量の調整や視覚・聴覚的フィードバックなどの多彩な機能が搭載されている3-5).予備的研究では通常練習群と比較して,GEAR練習群では歩行改善効率が高いことが報告されている5).GEARは,Lokomat®やGait Trainerと比較すると多彩な機能をもち,冗長性が高いため,患者の個別性にあわせた調整や課題の設定が重要となる.単に“ロボットを使う”だけで効果が得られるのかは定かではないため,“ロボットを使いこなす”という実践的観点が重要となる.

 現在までに当院にて14例にGEARを施行した結果,上述の予備研究と同様に,重症例において恩恵が得られる傾向にある.今回,予後予測では歩行獲得困難と思われた症例に,GEARによる歩行練習を実施し,短期間で歩行獲得に至るという良好な結果を得たので,介入経過を含めて報告する.

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要旨 【目的】介護予防・日常生活支援総合事業(新総合事業)の移行に向け,自治会の互助活動である校区福祉委員会活動が要支援者の介護予防や生活支援の担い手として地域の受け皿になり得るかどうかを調査することを目的とした.【対象】大阪府堺市南区にある19の小学校区にある各自治会が運営する校区福祉委員会活動を対象とした.【方法】校区福祉委員会活動のうち,要支援者の生活支援に該当する「個別援助活動」と介護予防に該当する「いきいきサロン」と「地域リハビリ」に対し,現状の活動内容を把握するためアンケートを実施した.【結果】19校区のうち17校区から回答が得られた.見守りや安否確認を目的とする「個別援助活動」は全校区に実施されていたが,「家事援助活動」など,生活支援に該当する活動を実施しない自治会が多いことが明らかになった.さらに「地域リハビリ」では保健師や地域包括支援センター職員など,専門家による運動指導や体力測定を行っていることが判明した.【結語】新総合事業導入後,「共助」による要支援者の介護予防や生活支援を補完するには,自治会による「互助」活動が今後一層求められる.そのためには,担い手となる住民への意識づくりと,住民主体の介護予防の取り組みを強化するため,市町村は新総合事業を通じ,リハビリテーション専門職の活用を積極的に図る必要があると考える.

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はじめに

 顔面麻痺には中枢性麻痺と末梢性麻痺の2つがあり,末梢性顔面神経麻痺は一側顔面全体が,中枢性顔面神経麻痺は顔の一側下半分が麻痺する.両者とも一般に回復は良好であるが,なかには重度麻痺を残すこともある.

 脳卒中における顔面麻痺は中枢性麻痺であるが,多くは保存的に治療され,また訓練法の文献は比較的少ないようである.しかし患者に詳しく聞いてみると,美容上の問題だけでなく「口角から食べ物がこぼれる」,「よだれが出る」,「しゃべりにくい」などを訴えることが少なくない.

 筆者らは最近,脳卒中による重度顔面麻痺患者に対してスプリントを作製した.その結果,良好な回復を得ただけでなく,装着中に「食べ物が食べやすくなった」,「しゃべりやすくなった」などといって,睡眠以外の食事を含む時間帯にずっと装着していた3例を経験した.特に症例3は発病後17か月経過した慢性例であったにもかかわらず回復がみられた.そこで本稿では,これら3例について報告する.

連載 職業リハビリテーション関連機関の知識

障害者職業センター 田代 知恵
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 障害者雇用に向けた取り組みは,「専門的な技術」「就労支援に関わる情報等の活用」が必須であり,「障害者本人・雇用主・就労支援関係者を包括的に支える仕組み」が就労支援を進めていくセーフティネットの役割を果たすと考える.本稿では,障害者本人,雇用主,就労支援関係者の3者に対する専門的な支援の中核を担う障害者職業センターについて紹介する.

連載 患者会・支援団体の活動

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組織概要

 1959年(昭和34年)に箱根療養所を中心に被災労働者と一部傷痍軍人で約750名21支部の規模で設立された.戦後,全国の炭鉱で落盤事故が多発し労災の脊髄損傷者が多数存在した.このことが会設立の大きな誘因である.

 したがって,翌年1960年4月に労災・終身年金制度の実現に当会が大きくかかわったことはいうまでもない.このように発足当時は労働災害の内容充実と内部の情報交換が活動の中心であったようだ.

Sweet Spot 文学に見るリハビリテーション

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 スイスの法学者カール・ヒルティの『病める魂』(陶山務訳,第一書房)は,1907年というメビウスが病跡学(Pathographie)という言葉を提起した年に発表された作品であるが,そこにはいくつかの病跡学的な見解が示されている.たとえば,ヒルティは,神経病患者にとって働くことの意味を強調したうえで,「時には非常に衰弱せる状態の下に於いてすら,その最良の仕事が,人類にいつまでも有益な仕事をなした者が,決して少なくはない」として,病的な状態でも最良の仕事をした例に,カーライルやルソー,パウロらの名前を挙げている.

 また,ヒルティは,「天才が神経病者,否半狂人であるという説は正しくない」としながらも,「かかる状態を知らずして偉大なる芸術家や詩人となった者もまたいないということだけは,たしか」で,「偉大なる芸術家や詩人は,こうした伏態を「経過」しなければならぬし,また彼の精神は,かかる病の時代を通じて初めて開花することが屡々ある」と,芸術的な才能の開花には一時的な狂気が必要だとする,病跡学的な認識も語っている.

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 1960年代の新宿を舞台にした寺山修司の1966年の同名小説を映画化した「あゝ荒野 前篇・後篇」(監督/岸善幸)は,時代を2021年に設定.奨学金を返済できない若者たちに兵役を課す経済的徴兵制に反対する集会や爆破テロなど,街には不穏な空気が漂っている.全篇,ボクシングの物語でありながら,オリンピック後,<戦争する国>になった日本の近未来予想図である.自殺志願者を集める学生サークル,3.11の影を引きずる人々,高齢者ケアの現場などもコラージュされる.

 本作の主人公,ボクサーの新宿新次(菅田将暉)とバリカン健二(ヤン・イクチュン)の父親がともに海外に派兵された自衛官ゆえ,筆者は寺山による「戦争は知らない」の歌詞の一節を想起した.「戦争の日を 何も知らない だけど私に 父はいない 父を思えば ああ荒野に 赤い夕陽が夕陽が沈む」(URC『反戦歌Compilation』2004).荒野とは,都会のビル群のことか.派兵先では,健二の父が上官,新次の父が部下.制裁する側,制裁される側の関係でもあった.帰還後,両者は心を病む.健二は,父の暴力に晒され,新次は,父の自死を機に母からも捨てられる.健二も新次も戦争後遺症としての機能不全家族の被害者であり,愛着上の問題を抱える.これはむしろ,近未来の先取りである.

私の3冊

私の3冊 根本 明宜

学会印象記

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 第40回総合リハビリテーション研究大会が2017年11月11日(土),12日(日)に富山市ボルファートとやまで開催された.北陸は晩秋の雰囲気で外は肌寒い感じであったが,会場では先生方の熱いお話を聞くことができた.この大会は「総合リハビリテーション」という内容に即して,医学的リハビリテーション,社会的リハビリテーション,職業的リハビリテーション,教育的リハビリテーションなどの観点から多職種が協働して障害者にリハビリテーションを行う趣旨で開催されており,今回は過去40回で初めて介護職の田中雅子先生(富山県介護福祉士会会長)が実行委員長をされ,テーマは「総合リハビリテーションの新機軸—リハビリテーションと介護福祉の融合」で,特色ある講演,シンポジウムであった.

 まず40回の節目ということで上田敏先生(日本障害者リハビリテーション協会顧問)が「総合リハビリテーション研究大会40年の歩みとこれからの展望」という特別講演をされた.第1回大会は1977年9月で,本会の発案者は小川孟氏(元東京都板橋福祉工場長,元横浜市総合リハビリテーションセンター長)で,上田先生など各分野の若手の方々が実行委員会を構成して開催されたそうである.その後少しずつ規模を拡大して開催されてきた.講演では毎回の大会の様子や関係者の写真が示され,大変歴史を感じるものであった.さらに今回はそれ以前の日本のリハビリテーションの歴史についてもお話しされ,筆者は日本のリハビリテーションは高木憲次先生から始まるものと思っていたが,その前の時代もあったことに驚いた.日本の近代史と当時の状況に合わせたリハビリテーションの講演は大変興味深く聞かせていただいた.そして最後に今後のあるべき姿についても語られた.

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 このたび,伊藤利之先生監修の下,小池純子・半澤直美・高橋秀寿・橋本圭司の4氏を編者に配した『こどものリハビリテーション医学—発達支援と療育 第3版』が医学書院より上梓された.表紙は淡いピンクを基調に,大きさの異なるさまざまな立方体が並んでおり,こどものリハビリテーションの個別性・多様性を表現しているかのようだ.

 400ページを超える本書は全11章で構成され,各章はさらに節・項に細分化され,医師を中心に理学療法士,作業療法士,言語聴覚士などを含む62名の執筆陣が各テーマに関する最新の知見を過不足なくコンパクトにまとめている.一読してそのテーマの下に知っておくべきエッセンスを理解することができ,紹介されている成書や文献にも大いに興味をそそられる.

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 このたび,森ノ宮医療大の工藤慎太郎先生の編著による,『運動機能障害の「なぜ?」がわかる評価戦略』が上梓されました.まずは,書籍の編集ならびに執筆にかかわられた先生方の情熱と労力に敬意を表します.

 工藤先生ならびに執筆者の一人である森田竜治先生(おおすみ整形外科)は,私が岐阜市にある平成医療専門学院(現・平成医療短期大学)で教員をしていたころの教え子です.学生時代の工藤先生と森田先生は,たぶん(笑)……優秀な学生だったと思うのですが,詳しい成績までは覚えていません.当時の教え子たちの顔を思い浮かべますと,よい意味での野心家で,現状に満足しない向上心と強い探求心を持った,原石のような学生が毎年いたような気がします.このような原石が臨床に出て,自己研さんし,さまざまな努力を積み上げて磨かれることで,自ら光を放つ「真のリーダー」になると信じています.そのリーダーとしての証が,書籍の執筆という作業です.工藤先生は,これらのプロセスを,先頭に立って実践している若き理学療法士であり,今後ますます活躍が期待される理学療法士の一人といっても過言ではないと思います.

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 半場道子先生のご講演は何度か拝聴したことがある.痛みに関する脳科学,神経科学についての最新のお話で,大変興味深くお聞きした.しかしながら,あまり馴染みのない脳の解剖用語や限られた講演時間の中で,先生が話されたことを全て理解できたとはいえなかった.一度,先生の知識と考え方をまとまった形でうかがいたいと願っていたところ,書籍執筆のお話をお聞きし,上梓されたらぜひ拝読したいと申し上げた.本書を拝受後,3日ほどで読ませていただいた.

 本書は,慢性痛を侵害受容性,神経障害性,非器質性に分け,そのメカニズムについて脳科学,神経科学の観点から最新の知見を紹介している.近年の機能的脳画像法や基礎医学的な研究成果を基に,脳を中心とする神経系のダイナミックな機能を解説している.さらに,解明されたメカニズムを基に慢性痛に対する各種の治療法と,その科学的根拠について述べている.それぞれ興味深い内容であるが,中でも“骨格筋は分泌器官であり,筋活動は慢性痛の軽減に有効である.また,筋活動により多くの疾患の原因となる慢性炎症を抑制でき,疾患の予防につながる”という事実は大変興味深く,日常診療でも患者さんの指導に役立てたい知識である.

お知らせ

知覚連動システムと老化プロセス

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目次

文献抄録

次号予告

編集後記
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 近所のお豆腐屋さん.昔ながらの素朴なおいしさと,店主のおじいさんの人柄で地元ではちょっとした人気店です.ここのところ閉まっているようなので心配していたところ,シャッターに紙が貼られているのを見つけました.「お客様各位 ご心配をおかけします.足腰のリハビリに努力していますが,短期間では思うような結果に行きつけず,2月一杯リハビリに専念して今後のことを考えたいと思います.目標は週に何日かでも営業したい気力でいます.今しばらくお時間をいただきたくお願いいたします」.そして,貼り紙の余白部分をよく見ると小さな文字がびっしり.「おじいちゃんのお豆腐おいしくて大好きです.早く元気になってください」「おじいさん頑張って」「ガンモ楽しみにしています」「お大事にしてください.油揚げ大好きです」「ゆっくり休んでまた戻ってきて!」「応援してます!」などなど…….もう書き込むところがないぐらいです.そして翌日お店の前を通りかかると新たな貼り紙がありました.「元気の出るお言葉ありがとう.ほんとにうれしかったです(店主)」.

 春はすぐそこまで来ています.

基本情報

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総合リハビリテーション
46巻3号 (2018年3月)
電子版ISSN:1882-1340 印刷版ISSN:0386-9822 医学書院

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