Sweet Spot 映画に見るリハビリテーション
「あゝ荒野 前篇・後篇」—ボクシングと吃音障害という寺山修司の世界を近未来に立ち上げる
二通 諭
1
1札幌学院大学人文学部人間科学科
pp.291
発行日 2018年3月10日
Published Date 2018/3/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1552201258
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1960年代の新宿を舞台にした寺山修司の1966年の同名小説を映画化した「あゝ荒野 前篇・後篇」(監督/岸善幸)は,時代を2021年に設定.奨学金を返済できない若者たちに兵役を課す経済的徴兵制に反対する集会や爆破テロなど,街には不穏な空気が漂っている.全篇,ボクシングの物語でありながら,オリンピック後,<戦争する国>になった日本の近未来予想図である.自殺志願者を集める学生サークル,3.11の影を引きずる人々,高齢者ケアの現場などもコラージュされる.
本作の主人公,ボクサーの新宿新次(菅田将暉)とバリカン健二(ヤン・イクチュン)の父親がともに海外に派兵された自衛官ゆえ,筆者は寺山による「戦争は知らない」の歌詞の一節を想起した.「戦争の日を 何も知らない だけど私に 父はいない 父を思えば ああ荒野に 赤い夕陽が夕陽が沈む」(URC『反戦歌Compilation』2004).荒野とは,都会のビル群のことか.派兵先では,健二の父が上官,新次の父が部下.制裁する側,制裁される側の関係でもあった.帰還後,両者は心を病む.健二は,父の暴力に晒され,新次は,父の自死を機に母からも捨てられる.健二も新次も戦争後遺症としての機能不全家族の被害者であり,愛着上の問題を抱える.これはむしろ,近未来の先取りである.
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