Sweet Spot 文学に見るリハビリテーション
ヒルティの『病める魂』—法学者による病跡学
高橋 正雄
1
1筑波大学人間系
pp.290
発行日 2018年3月10日
Published Date 2018/3/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1552201257
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スイスの法学者カール・ヒルティの『病める魂』(陶山務訳,第一書房)は,1907年というメビウスが病跡学(Pathographie)という言葉を提起した年に発表された作品であるが,そこにはいくつかの病跡学的な見解が示されている.たとえば,ヒルティは,神経病患者にとって働くことの意味を強調したうえで,「時には非常に衰弱せる状態の下に於いてすら,その最良の仕事が,人類にいつまでも有益な仕事をなした者が,決して少なくはない」として,病的な状態でも最良の仕事をした例に,カーライルやルソー,パウロらの名前を挙げている.
また,ヒルティは,「天才が神経病者,否半狂人であるという説は正しくない」としながらも,「かかる状態を知らずして偉大なる芸術家や詩人となった者もまたいないということだけは,たしか」で,「偉大なる芸術家や詩人は,こうした伏態を「経過」しなければならぬし,また彼の精神は,かかる病の時代を通じて初めて開花することが屡々ある」と,芸術的な才能の開花には一時的な狂気が必要だとする,病跡学的な認識も語っている.
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