生体の科学 72巻5号 (2021年10月)

増大特集 脳とからだ

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 脳が体内の様々な情報を集約し生体の恒常性を保つための制御シグナルを発することは,内分泌系や自律神経系において古くから研究されてきました。近年,このような脳と体の相互作用には,腸管内の細菌叢やそれと反応する免疫系など,より多くの因子が関わり,単に代謝系の恒常性維持などだけでなく,“こころ”を含む脳の機能維持に深く関わることが明らかになってきました。『生体の科学』ではこの度,この分野の発展に大きく貢献されている研究者の皆様にご協力をいただき,「脳とからだ」という題で,この分野の発展を鳥瞰できる特集を編集しました。

  第Ⅰ章の「腸,免疫系,脳の相互作用」では,多発性硬化症に代表される免疫性神経疾患の発症や進行へ及ぼす腸内細菌叢の影響,T細胞活性化による不安の亢進,さらには自律神経系が及ぼす免疫系細胞の動態や炎症反応への影響など,神経と免疫の幅広い相互作用について論じられています。

Ⅰ.腸,免疫系,脳の相互作用

腸内環境と神経疾患 三宅 幸子
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 神経疾患では,多発性硬化症のような免疫疾患ばかりでなく,パーキンソン病などに代表される変性疾患においても,炎症反応などの免疫応答が病態形成に関与することがわかってきた。一方,生体の半数以上のリンパ球が存在し,腸内細菌叢と相互作用する免疫組織として腸管が注目されている。多発性硬化症やパーキンソン病では炎症の促進につながるdysbiosisがみられ,病態への関与が示唆されている。

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 次世代シーケンサーの普及により,多発性硬化症患者が健常人とは異なる腸内細菌叢を有することが明らかになってきた。また,患者糞便を疾患モデルマウスに移植することにより,腸内細菌叢の変化が中枢神経系の炎症や脱髄に影響することも示さている。本稿では,多発性硬化症患者の腸内細菌叢の特徴とその宿主への作用機序,更には腸内細菌を起点とした予防・治療の可能性について述べる。

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 免疫系と脳神経系は複雑に相互作用していることが明らかになってきている。本稿では,免疫系と脳神経系との相互作用のなかでも,末梢の免疫細胞,特にT細胞の活性化が不安を亢進させるメカニズムに焦点を当てる。具体的には,近年明らかにされてきた“母体免疫活性化に起因する不安様行動の亢進”“恒常的T細胞活性化に起因する不安様行動の亢進”“ストレスに起因する亢進した不安様行動におけるT細胞の役割”という3点のトピックを紹介する。

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 免疫機能による神経系制御や神経機能による免疫系制御に関する知見が,この10数年の間に多数報告されている1)。この免疫機能と神経機能を相互理解することが,自己免疫性,神経障害性および感染性疾患の解明に必須となりつつある。多発性硬化症は神経免疫システムが大きく関わる代表的疾患である。また,様々な環境要因による神経免疫システムの変調が,その病態発症や再発,並びに,病型や薬物感受性に大きく影響する。本稿ではこれらに関する最近の知見と今後の展望について述べる。

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 近年,腸内細菌は宿主のストレス反応や行動特性に影響することが明らかにされている。筆者らの人工菌叢マウスを用いた検討では,無菌マウスは通常のspecific pathogen free環境下で飼育されたマウスと比較し,ストレス応答が有意に増強していた。また,無菌マウスは,通常の腸内細菌を有するマウスと比較し,多動で不安レベルが高かった。以上の結果は,腸内細菌は成長後のストレス反応や行動特性にも影響することを示している。

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 社会や環境から受けるストレスは抑うつなど情動変化を引き起こし,うつ病などの精神疾患のリスク因子となる。近年,ストレスによる情動変容における炎症応答の重要性が確立され,ストレスにおける末梢および中枢の免疫細胞の役割の研究が進められている。反復ストレスは内分泌系や自律神経系の活性化を引き起こし,単球や好中球などミエロイド系細胞の動員とその活性化を引き起こす。更に,内側前頭前皮質などの特定の脳領域においてミクログリア活性化を誘導し,神経細胞の樹状突起の退縮を伴った情動変容を促す。また,これらの炎症メカニズムに転写・エピゲノム制御の関与が推測される。これらの知見はストレス応答がエピゲノム変化として記憶され,炎症応答を修飾して情動変容を引き起こすことを示唆し,ストレスによる炎症応答を対象とした新たな創薬標的となる可能性が期待される。

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 交感神経系は生体が恒常性を維持するうえで重要なシステムであり,以前から研究が進められてきた。最近の研究によって,より多様な臓器で機能を持つことが明らかになりつつあり,骨髄も注目を集める臓器の一つである。交感神経系は骨髄において,造血幹細胞の維持に関わり,骨髄細胞の移動も制御している。一方,骨代謝の側面からみると,交感神経系は骨芽細胞の分化および骨形成を抑制する。本稿ではこれらの最新の知見に加え,筆者らが生体イメージングの系を用いて明らかにした,急性炎症初期の好中球の動態に対する機能の研究を紹介する。更に,生体イメージングを利用した交感神経系の機能の探索における課題と,今後の展望についても述べる。

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 神経系が免疫系に多大な影響を及ぼしていることは古くから指摘されてきたが,そのメカニズムは長らく不明であった。しかし近年,神経系と免疫系の相互作用のメカニズムが急速に明らかになりつつある。とりわけ,自律神経系が多様な分子機構を介して免疫応答を制御していることが明らかになった。ここでは,交感神経によるリンパ球動態の制御に焦点を当て,その分子機構を解説すると共に,その生理的意義と治療応用の可能性について考察する。

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 腸管内の免疫細胞は,環境に応じて分化や機能を変化させる。腸管免疫を変化させる主要な環境因子の一つとして,神経が近年着目されている。免疫調節に関わる様々な神経機能が矢継ぎ早に報告されているが,腸管恒常性に最も大事とされる制御性T細胞に関わる神経の存在については不明瞭なままであった。そこで筆者らは,制御性T細胞の分化・機能に関わる神経の同定を試みた。本稿では,当教室で実施した研究成果について紹介する1)

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 これまでに筆者らは,局所神経活性化が固有の血管に免疫細胞の中枢への侵入口を形成するゲートウェイ反射を報告してきた。本稿では,これまでに報告してきたゲートウェイ反射を介した血液脳関門の制御と,組織特異的な病態誘導との関係について論じる。

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 脳血管障害や外傷など脳や脊髄の障害は,感染症のリスクを高める。その機序として,自律神経や視床下部-下垂体-副腎系など,免疫を制御する神経経路の破綻による免疫能の低下が指摘されている。本稿では,中枢神経の障害において,脳と免疫系をつなぐ神経の変化が,免疫機能へおよぼす影響とその病態について,最近の研究動向を概説する。免疫を制御する神経基盤とその病態の理解は,新たな治療戦略へつながると期待される。

Ⅱ.グリアと脳の相互作用

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 甲状腺ホルモンは,脳の発達・成長の段階で必須なホルモンであるだけでなく,成熟した脳でも重要な機能があり,亢進症・低下症は様々な精神症状を引き起こし,高齢では認知症・アルツハイマー病のリスクファクターとなっている。甲状腺機能異常の発症には顕著な性差があるが,そのメカニズムは不明である。本稿では,細胞レベル,および甲状腺機能異常症のモデルマウスを用いた組織レベルで,グリア細胞と神経突起のスパインに対する甲状腺ホルモンの作用とその性差・週齢差について示し,認知症を含む様々な精神神経症状のメカニズム解明,有効な予防法の確立に向けた今後の展望を述べる。

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 うつ病や認知症の発症・進展,慢性疲労症候群や感染症での疲労感の誘発など,様々な病態に中枢神経炎症が深く関わることが明らかになってきた。神経炎症はミクログリアやアストロサイトの活性化により誘発されることはよく知られている。一方,神経炎症を抑制・制御する脳内の細胞についてはよくわかっていない。最近,NG2を発現するグリア前駆細胞がミクログリアの活性化を制御し,神経炎症の抑制に寄与する可能性を見いだした。

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 末梢神経の損傷や機能不全,あるいは皮膚の炎症などにより,慢性的な痛みや痒みが生じる。動物モデルでの基礎研究から,神経障害や炎症によってグリア細胞が形態や遺伝子発現変化を伴い活性化状態となり,周囲の神経活動に異常を生じさせることがわかってきた。本稿では,脊髄後角や脳のミクログリアとアストロサイトによって作り出される神経の機能異常と痛みや痒みのメカニズムについて概説する。

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 自閉症スペクトラム障害(ASD)は免疫系の異常に伴う疾患であることが示唆されつつある。疫学的な調査から,妊娠時の感染に伴う母体免疫活性化がASD発症リスクを高めるとする報告がなされていた。近年確立された母体免疫活性化を模した動物モデルにおいてもこの関連性が再現され,母体免疫活性化とASD発症の相関に注目が集まりつつある。そこで,本稿では母体免疫活性化とASD発症リスクの相関についての知見を簡潔にまとめる。

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 ミクログリアは,胎生初期の卵黄囊に存在する前駆細胞を起源とする脳内の免疫担当細胞である。正常時は,神経回路の形成・再構築や神経活動の制御など,脳内の恒常性の維持に寄与している。一方,病態時は,異物や死細胞の除去に加え,脳の損傷や機能障害部位を感知し,神経細胞の保護や修復も行う。本稿では,正常脳での発達過程におけるミクログリアの役割を概説すると共に,自閉スペクトラム症の病態脳におけるミクログリアの関与について,最近の知見を紹介する。

ミクログリアと情動制御 澤田 誠
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 これまでの研究から想定されてきたミクログリアによる情動制御の可能性について,遺伝子操作技術やライブイメージング技術の応用によって直接的に関与していることを示す結果が得られるようになってきた。高精度なオミックス技術によって単一細胞レベルでの分子分析も可能となってきているため,今後は脳内での位置関係の情報を保ったまま細胞の微細領域を分取することにより制御メカニズムを明らかにしていく必要がある。

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 統合失調症は,その高い生涯有病率にもかかわらずいまだに原因不明で,病態解明と病態生理に基づくバイオマーカーの確立および治療法開発が急務である。近年,統合失調症患者の脳内のE/Iバランス異常や神経免疫異常が示唆されており,ガンマオシレーションや免疫マーカーの測定が有用なバイオマーカーとして注目されている。本稿では,統合失調症の神経活動異常と神経免疫異常および両者の関連に関する知見と今後の展望を概説する。

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 情動に関連する神経回路の機能は,グリア細胞活動により調節される。アストロサイトは,ニューロンとニューロン間のシナプス伝達とは異なる様式で,周囲のニューロンの興奮性,シナプス伝達を制御して,情動に関連する神経回路を調節する。このことから,アストロサイトの機能を理解することは,情動が生じるメカニズムおよびうつ病などの情動の障害を伴う精神疾患の病態解明において鍵となる。

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 脳内免疫細胞ミクログリアの活動が人間の普段の行動や社会活動に及ぼす影響はほとんど解明されていない。本稿では,健常成人男性を対象としてミクログリア活性化抑制作用を有するミノサイクリン内服による信頼ゲームを実施した経験から,ミクログリアが脳内力動に限らず無意識に左右される精神力動の主役として人間の社会的意思決定に重要な役割を果たす可能性に言及し,意識・無意識と神経系・ミクログリアとの関係を展望する。

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 アルツハイマー病と神経炎症の関わりは古く,初めて症例が報告された1906年には,肥大化したグリア細胞がアミロイド斑の周囲に集積する様子が観察されていた。近年のゲノム解析により,多くのミクログリア遺伝子がアルツハイマー病の発症リスクと関連づけられ,神経炎症が病理形成の主要因子として働くことが示された。本稿では,神経炎症を標的としたアルツハイマー病の治療戦略の現状を概説する。

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 中枢神経系を構成する細胞の半数以上はグリア細胞によって占められている。グリア細胞はアストロサイト(星状膠細胞),オリゴデンドロサイト(希突起膠細胞),ミクログリア(小膠細胞),NG2細胞に分類され,それぞれ異なる生理機能を有している。これらグリア細胞が神経細胞と相互に機能的連携をとることで高次脳機能の発現に寄与することが明らかになるにつれ,精神・神経疾患の病態へのグリア細胞の関与が着目されてきている。本稿ではグリア細胞のなかでも特に,髄鞘形成を担うオリゴデンドロサイトとその前駆細胞の生理機能に関する最近のトピックスを紹介し,その機能喪失による精神・神経疾患への関与について述べ,オリゴデンドロサイトを標的とする治療戦略の可能性について考察する。

Ⅲ.中枢と末梢の相互作用

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 主観的感情は,内受容感覚の中枢である島皮質,および自律神経活動が介する身体の活動を同時に検討することにより,科学的に扱うことができるようになった。島皮質前部と帯状回前部から成るセイリエンスネットワークは,身体の状態がホメオスタシスから逸脱しているかをモニターし,それを回復の方向に導く役割を持つ。身体状態の逸脱の認識と,自らが置かれた状況の理解が統合されることにより,主観的感情が生み出される。

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 主観的な感情の認識に,身体内部で生じた変化の感じ方は大きな影響を及ぼしている。内受容感覚とは,身体内部環境に関する感覚であり,その認知神経科学的基盤を探ることは,感情認識のメカニズムに関する基礎的な理解を深めるだけでなく,感情に関連した疾患の機序や治療方法を考えるためにも重要である。近年では,脳の予測的符号化理論に基づいて,内受容感覚を理解しようとする立場も台頭し,身体と脳,そしてこころの関係性を検討するための重要な手がかりが提示されている。

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 島皮質に関わる脳腫瘍患者に対して,表情認識課題[顔写真から表情を認識する課題(怒り,喜び,悲しみ,嫌悪,感情なし)]を用いながら実際に覚醒下手術中に島皮質を直接刺激することで,感情認識に関わる脳機能ネットワーク解析を行った。表情が表す感情の種類,強さの識別に対して検討した。島皮質が,身体内部からの情報である内受容感覚に基づく覚醒度の神経基盤として,怒りや悲しみなどの感情認識の変化に関わることを示唆する。

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 消化管への伸展刺激が,分界条床核においてノルアドレナリン遊離を促進した。筆者らは,分界条床核内ノルアドレナリン神経伝達亢進が不安・嫌悪を惹起することを報告しており,消化管刺激が分界条床核内ノルアドレナリン神経伝達亢進を介して不安・嫌悪を惹起することが考えられる。一方,分界条床核へのβアドレナリン作動薬投与が,胃の運動を抑制し,大腸の運動は促進した。不安やストレスが分界条床核内ノルアドレナリン神経伝達を亢進して,胃もたれや下痢などの消化管機能障害を惹起することが考えられる。

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 ELKSは,生体にユビキタスに発現する全体がコイルドコイル領域から成るタンパク質である。元々,ある種の甲状腺がんで転座している分子として同定されていたが,その後の研究によって様々な細胞機能に関与していることが明らかになってきた。特に,中枢神経のシナプス小胞の分泌や,末梢臓器の内分泌機構(インスリン放出)にも関与することが明らかになっている。本稿では,ELKSによる脳-末梢分泌システムの制御に関する最近の話題と今後の展望について述べる。

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 脳・消化管ペプチドは脳と消化管の双方に存在するペプチドであり,消化管機能,食欲・エネルギー代謝調節や情動,学習,社会行動などに深く関わっている。脳・消化管ペプチドの作用には内因性ペプチドレベルに加え,受容体シグナリングやペプチド作用を修飾する自己抗体,食品由来ペプチドなどが関与している。脳・消化管ペプチドは,心身のストレスとそのレジリエンスにも関わるものと考えられる。

オレキシンと情動 山中 章弘
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 睡眠障害の一つである“ナルコレプシー”は,オレキシン神経の特異的脱落によって発症することが知られている。ナルコレプシーの症状は,日中の耐えがたい眠気,睡眠麻痺,入眠時幻覚,情動脱力発作などがある。それらの症状のうち,情動脱力発作は,笑ったり,嬉しかったりしたときなどのポジティブな情動によって発動され,筋の脱力が生じる発作である。本稿では,オレキシンと情動脱力発作について最新の研究成果を含めて紹介する。

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 生活習慣や社会構造が急速に変化した現代社会では,うつ病と肥満・2型糖尿病患者が増加しており,しかもこれらの疾患の発症と進展は連関している1)。インスリン抵抗性や2型糖尿病ではうつの発症と進展は増大し,うつや不眠を伴うと糖尿病は増悪する。しかし,うつとインスリン抵抗性や2型糖尿病を結びつける因子は未知な点が多い。視床下部神経ペプチドのオレキシンは,睡眠・覚醒を制御してエネルギー・糖代謝の恒常性維持に重要な役割を担う。オレキシン神経系の活動は,喜びや怒りなどの情動の感情や社会的活動により高まる一方,うつ状態では低下し,うつ患者の脳脊髄液中オレキシン濃度は低下していることが知られている。本稿では,糖尿病とうつを結ぶ因子としてオレキシンに着目し,オレキシンによる糖代謝調節や,通常およびストレス下におけるインスリン抵抗性防御効果について,筆者らの知見を中心に概説する。

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 ペプチドは内分泌,神経,免疫による生体制御をつかさどる物質である。新規のペプチドの発見は今まで未知であった生体制御系の解明に直結すると共に,病態の理解や新たな創薬にもつながる。近年の研究技術の進歩は,ペプチドの発見や既知のペプチドの新たな役割の解明をもたらしてきた。ペプチド研究は,糖尿病や脂質異常症,肥満症などの病態理解や治療薬開発に大きく貢献している。

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 グレリンは胃や十二指腸から分泌されて血液中を循環するホルモンであり,全身に広く分布するグレリン受容体に結合して多彩な生理作用を示す。このような生理作用の多くは脳機能の調節を介して発現すると考えられているが,詳細なメカニズムは未知の部分も多い。本稿では,末梢から分泌されて血液中を循環するグレリンと,中枢から分泌されて神経内分泌因子として作用するグレリンに着目し,グレリンが食欲制御のコンダクターとして機能するメカニズムを中心に概説する。

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 やる気・動機付け(motivation)とは,行動を一定の方向に向けて発動させ,維持する過程である。ヒトでは,やる気は意志力といわれることもあり,目標に向かって努力・行動する精神機能のことを指す。本稿では実行機能,報酬系,覚醒という3つのシステムから,行動を支える神経基盤について概説する。

意志力の障害と脳病態 尾内 康臣
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 意志力は欲したいという意欲と異なり,実行を伴う欲動的・能動的能力を表し,脳内制御も純粋な意欲の機構と異なると考えられている。脳内には意欲に関連する脳領域は多く報告されているが,共通項はあるものの意志力の脳内機構には未知の部分も多い。本稿では,意欲低下の代表疾患のうつ病と病態を異にする摂食障害や多動性障害の患者脳において,神経炎症とモノアミン神経に着目することで意志力障害の脳病態を考察する。

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 動物個体の精神ストレス感受性や抵抗性(レジリエンス)には,3種モノアミン神経伝達が包括的な影響を及ぼす。精神ストレスが負荷されるとドパミン神経,セロトニン神経,ノルアドレナリン神経はその自律発火頻度を一斉に上昇させ,扁桃体や前頭前野,視床下部などを介して,下垂体や交感神経系などを興奮させることで,覚醒・思考レベルを高め,不安感を惹起し,注意力を亢進させると共に,血圧上昇や心拍数を上げることで,全生体防御システムを駆動させる。

 このように,脳内モノアミン神経系はストレス感受性や抵抗性の調節司令塔の役割を担う。一見合理的な生体防御システムに思えるが,過度の精神ストレスや長期にわたるストレス刺激は,逆に意識レベルを下げ,注意力とやる気を低下させ,漫然と恐怖・不安をあおり,血圧上昇や心拍数の調節を不安定化させ,いわゆる“うつ症状”を惹起する。従来の抗うつ剤の薬理学から,セロトニンやノルアドレナリン神経伝達がストレス調節において重要視されているが,最近の研究結果との矛盾も多い。そこで筆者らは,中脳延髄にある各モノアミン神経細胞の自律発火がどのように相互に影響・干渉しているかを探求した。その結果,安静時のドパミン神経活動が最も下流に位置して,ストレス感受性に直接的に影響している可能性が判明した。

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目次

財団だより

次号予告

基本情報

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生体の科学
72巻5号 (2021年10月)
電子版ISSN:1883-5503 印刷版ISSN:0370-9531 金原一郎記念医学医療振興財団

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