医薬ジャーナル 52巻11号 (2016年11月)

特集 薬剤誘発性認知症

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 高齢者では,薬剤誘発性認知症・認知障害が生じやすい。せん妄や認知症は薬剤の毒性によっても生じることが知られており,特に抗コリン作用の強い薬剤は急性,あるいは慢性の認知障害の原因となる。向精神薬,抗てんかん薬も,せん妄や認知症をきたしやすい。高齢者に対しては,副作用の少ない薬剤を選択して慎重に処方量の調整を行う,常に副作用の発現に注意を払うなど,薬剤による認知障害の予防と早期発見が重要である。

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 認知症・認知機能障害を誘発する薬剤には,抗コリン作用を有する薬剤,ベンゾジアゼピン系作動薬,抗ヒスタミン薬等が知られている。これら薬剤の薬理作用のみならず,投与される患者側の因子(加齢,脳疾患の有無等)も,薬剤による認知機能障害の発症に影響を与える。本稿では,中枢神経系の神経伝達物質の役割について概説し,認知機能低下を引き起こす主要な薬剤の薬理作用と,それらの薬剤の影響を受けやすい患者側の因子について概説する。

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 高齢患者の内服する薬剤には,認知機能低下をきたす可能性の高いものが含まれており,気がつかないうちに認知症を発症するケースもある。向精神薬や抗コリン活性の強い薬剤などはその代表的なものであるが,生活習慣病治療薬などの認知症予防につながり安全と思われる薬剤でも発症することがある。薬剤性認知症に対する薬剤中止による改善効果についての十分なエビデンスはないが,認知症が疑われて精査を行う際には,薬剤性認知症にも十分に配慮して治療を行う必要があり,potentially inappropriate medicationと称される薬剤の使用を控えるように努めることも,その発症予防にあたっては必要なことと考えられる。

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 2013年に米国精神医学会より発表されたDSM-5(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, Fifth Edition)では,認知症や物質関連障害についての記述に大きな変更があった。本稿では,まずDSM-5における認知症,軽度認知障害,物質使用障害の概念を示し,「物質・医薬品誘発性認知症・軽度認知障害」,「鎮静薬,睡眠薬,または抗不安薬中毒」の診断基準を示した。次いで睡眠薬・抗不安薬,中でもベンゾジアゼピン系薬物と認知症・認知障害の関連について,文献的に考察した。両者の直接的な因果関係を証明することはできないが,高齢者にベンゾジアゼピン系薬物を使用する場合は特段の注意を要する。最後に抗うつ薬と抗精神病薬の抗コリン作用による認知障害について触れ,抗コリン作用を有する抗うつ薬,抗精神病薬を紹介した。

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 パーキンソン病(Parkinson’s Disease:PD)やてんかんは,長年にわたる薬物治療が必要になることの多い疾患であるが,疾患の症状として,あるいは治療薬が影響して認知機能障害を呈することもある。そのため,患者の背景,症状,治療歴などを考慮して,最適な治療法を選択する必要がある。認知機能の低下に注意が必要な薬剤として,PD治療薬では抗コリン薬があげられているが,ドパミンアゴニストをはじめとするドパミン作動薬については一定の見解が得られていない。抗てんかん薬では主にトピラマート,ゾニサミド,フェニトインなどがあげられている。

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 降圧薬,抗不整脈薬,利尿薬などの循環器系治療薬や,H2受容体拮抗薬,プロトンポンプインヒビター(proton pump inhibitor:PPI)などの消化器系治療薬を内服している中年齢・高齢者は,多い。高齢者では,加齢に伴う生理的な腎機能・肝機能障害によって薬剤の代謝・排泄機能が低下しており,薬物血中濃度が高値となりやすく,特に肝疾患や腎疾患を有する症例では,さらに副作用をきたす危険性が高くなる。循環器系治療薬では特に抗コリン作用を持つシベンゾリン,ジソピラミド,キニジンなどの抗不整脈薬のほか,降圧薬,ジゴキシンなどが認知障害を誘発するとされているが,利尿薬が認知症・アルツハイマー病のリスクを低下させたとの報告もある。消化器系治療薬ではシメチジンによる認知機能障害の報告が多いが,その他のヒスタミンH2受容体拮抗薬,PPIなども認知症の発症リスクを上昇させる可能性がある。

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 医療現場で汎用される副腎皮質ステロイド製剤や鎮痛薬による認知機能への影響については,一過性に出現するせん妄など以外は問題とされることが少なく,使用する医師や薬剤師,また,看護師などの医療現場のスタッフでも認識されることは少ない。ここでは,副腎皮質ステロイド製剤による認知障害や認知症に関連する中枢神経系,特に海馬への影響,また,非ステロイド性抗炎症薬による認知障害や認知症に関するリスクについて,これまでの報告を元にまとめた。

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 過活動膀胱(OAB)は,高齢者の生活の質を害する重要な一因であるが,適切な治療により改善するため,積極的な加療が望まれる。高齢者でOABをきたす疾患として,白質型多発性脳梗塞,レビー小体型認知症,正常圧水頭症があり,それらより頻度は少ないものの,アルツハイマー病患者にも見られる。OAB治療薬の主流は,抗コリン(ムスカリン)薬である。万一,OAB治療薬が血液脳関門(BBB)を通過すると,中枢のムスカリン受容体と結合し,認知機能に影響を及ぼす可能性がある。このため治療に際しては,BBBを通過しにくい抗コリン薬を,譫妄等の発生に注意しながら投与すると良いとされる。認知症患者でコリンエステラーゼ阻害薬を投与中の場合も,抗コリン薬との併用がある程度可能と思われた。しかし治療中は,患者を注意深く観察する必要がある。

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 近年の呼吸器病診療における薬剤の進歩は著しく,多くの治療選択肢が持てるようになった。半面,認知機能と関わりのある薬剤も同時に増え,その使用に際し注意を要することが多くなった。認知機能に関連する最も重要な薬剤は抗コリン作用を有するものであるが,それ以外にも中枢神経系に影響を及ぼすものが多数ある。一方,高齢者は多病であることが多くpolypharmacyになりがちで,いつのまにか認知機能を悪化させ得る薬剤が複数処方されてしまうことがある。これらが相加効果となって認知症が顕在化してしまうことは珍しいことではない。ここでは認知機能との関連が深い呼吸器病薬を作用機序別に解説する。

連載 薬剤師が知っておくべき 臓器別画像解析の基礎知識 71

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 悪性外耳道炎とは,compromised hostに発生する進行性,破壊性の致死的感染症である。外耳道,側頭骨を中心とした骨とその周辺に拡大するため,近年では頭蓋底骨髄炎(Skull Base Osteomyelitis)と呼ばれる。多くは緑膿菌感染であるが,真菌が原因となる場合や,外耳道炎をきっかけとしないものも存在する。頑固な強い頭痛,CT(computed tomography)での皮質骨の破壊,MRI(magnetic resonance imaging)での骨髄信号の変化が診断のポイントとなる。  治療は十分量の抗菌薬を長期投与する必要があり,安易に中止すると再燃することが多く,注意を要する。

連載 シリーズ これだけは知っておきたい皮膚疾患の服薬指導 26

尋常性痤瘡(にきび) 江藤隆史 , 大谷道輝

連載 リスクマネジメント~院内での薬剤師の活動~(108)

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 輸液栄養療法における処方管理は,添付文書等に則り「適切な投与方法」を管理する側面と,輸液を栄養素として捉えて「適切な栄養療法」を管理する,すなわち輸液組成の適切性に関与する側面があり,性質の異なる視点が必要である。例えば,脂肪の長期欠乏による皮膚障害や脂肪肝の発生や,低栄養,特に体タンパクが減少することによるADL(activities of daily living)の低下や創傷治癒遅延,入院期間の延長や再入院率の上昇など,種々の低栄養によるリスクが報告されている。これらのリスクを回避するためには「適切な栄養療法」の視点を持つことが極めて重要となる。今回は,適切な輸液栄養療法の管理を目指した輸液組成の適切性に関与する取り組みと,その成果を報告する。

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 病棟薬剤業務実施加算の策定に伴い,病棟薬剤師がシームレスに薬物療法へ関与する機会が増加してきている。徳島大学病院細胞治療センターでは,病棟薬剤師によるTDM(薬物血中濃度モニタリング)支援および感染対策チームによる多職種カンファレンスを通じて,抗MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)薬を用いた感染症治療に対して病棟薬剤師がシームレスに関与している。病棟薬剤師がさまざまなプラットフォームを用いて抗MRSA薬による薬物療法支援を行うことで,ガイドラインに沿った適正なTDM が推進され,有益な臨床効果を得ることができた。今後もさまざまなフィールドで病棟薬剤師がシームレスに薬物療法に関与し,適切な処方支援を行っていく必要がある。

連載 患者のQOL向上と薬剤師の関わりPART I.院内製剤(80)

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 皮膚や粘膜などの局所部位の疼痛は,オピオイドの全身投与では緩和されない場合が多く,副作用により増量が難しい場合もある。近年,オピオイドの中枢神経を介さない末梢での作用機序について,明らかになってきている。倉敷中央病院(以下,当院)では,モルヒネ塩酸塩の外用剤であるモルヒネゲルを院内で調製して使用している。

 当院では,がん性疼痛だけでなく,がん局所部位に放射線照射した際に生じる疼痛に対しモルヒネゲルの有効性が示唆されている。疼痛が皮膚や粘膜に限局した症例や,オピオイドの全身投与を行っても,皮膚や粘膜の強い疼痛を緩和するのが困難な症例において,モルヒネ塩酸塩の外用剤が有効であると考えられる。

連載 患者のQOL向上と薬剤師の関わりPART II .服薬指導と病棟活動(109)

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 厚生労働省は,「がん対策推進基本計画」(平成24年〔2012年〕6月)の中で,緩和ケアを重点的に取り組むべき項目の一つと定めている。石川県立中央病院(以下,当院)においても緩和ケア病棟を展開するにあたり,薬剤部では緩和ケアに重点をおいた業務展開を実施した。  今回,当院における緩和ケア領域における薬剤師の関わりについて,① 入院患者への服薬指導とその重要性,② 医療安全と適正使用の推進,を紹介する。  薬剤師は,服薬指導を通じて患者の持つオピオイドに対する誤解や懸念を払拭し,その患者や家族の苦痛を取り除く一助となることができる。  また薬剤師には,医療安全の観点から不適切と思われる処方を是正し,適正使用の推進を担う役割があると考える。

連載 ●副作用・薬物相互作用トレンドチェック

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〔今月の注目論文のポイント〕 1.猫による咬傷のためレボフロキサシンを投与された患者において,投与数日後からアキレス腱の痛みを訴え,1カ月後にアキレス腱断裂を認めた症例が報告されている。 2.台湾の健康保険データベースを用いたコホート研究において,CYP(チトクロムP450)3A4で代謝されるスタチンとカルシウムチャネル遮断薬の併用により,急性腎障害,高カリウム血症,急性心筋梗塞,急性虚血性脳卒中のリスクが上昇することが報告されている。 3.健康成人を対象とした検討において,テルビナフィンの併用によりトラマドールの血漿中濃度が上昇し,活性代謝物の血漿中濃度が顕著に低下し,CYP2D6を介した相互作用が示唆されている。 4.腎移植後にタクロリムスを投与されていた患者において,移植9カ月後に白質脳症に伴う遅発性の発語障害を認めた症例が報告されている。 5.ニンジンを常用していた患者が,痙攣発作のためラモトリギンを投与されたところ,好酸球増加および全身症状を伴う薬物反応(DRESS)症候群を呈した症例が報告されている。 6.健康成人を対象とした検討において,アモキシシリン・クラブラン酸の併用はバルプロ酸の体内動態に影響を及ぼさなかったことが報告されている。

連載 医薬品情報(DI)室より 注目の新薬情報〈10〉

ムルプレタⓇ錠3mg 田中真砂 , 林昌洋
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◆ 製剤の特徴  「ムルプレタ®錠3mg(ルストロンボパグ)」は,トロンボポエチン受容体に選択的に作用し,骨髄前駆細胞から巨核球系への分化誘導・増殖を促進し,血小板数を増加させる薬剤である。  慢性肝疾患では血小板の減少が認められるため,観血的手技の度に出血予防のための血小板輸血が必要となる症例があった。本剤は,こうした患者が待機的な観血的手技を受ける際,血小板を増加させることにより血小板輸血を回避できる選択肢となる。国内第III相試験における血小板輸血回避率は,本剤投与群79.2%とプラセボ投与群12.5%を有意に上回った。  重大な副作用である血栓症への注意が必要である。7日間の投与が規定されているが,血小板数が過剰に増加することを防ぐため,血小板数が5万/μL以上となり,かつ投与前より2万/μL以上増加した場合は,本剤の投与を中止することと定められている。

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 厚生労働省の「患者のための薬局ビジョン」が,2015年10月に公表されて1年が経過した。同ビジョンでは,中長期的な視点からの薬局再編の道筋が示されたが,そこで強調されたのは,保険薬局の機能を「対物業務」から「対人業務」へと大きくシフトすることであった。一方,同ビジョンの指針を前提として,2016年度の調剤報酬改定では「かかりつけ薬剤師指導料」が新設され,かかりつけ薬剤師の各種業務に対し,報酬上での評価が導入された。これらの改革の中で,国が薬剤師に要請している重要な職務の一つこそ,在宅医療へのさらなる参画である。国が進める地域包括ケアシステムにおいて,薬剤師には在宅患者の薬物療法を適正化する責務が強く求められている。

メディカルトレンド 学会・ニュース・トピックス

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 第26回日本医療薬学会年会が9月17~ 19日,京都市内の国立京都国際会館ほかで開催された。年会テーマは「明日を創るチーム医療」,年会長は京都大学医学部附属病院薬剤部教授/薬剤部長・松原和夫氏。日進月歩で発展する現代医療の中で,薬剤師の役割も時代とともに変化し,かつてのような正確な調剤と医薬品供給を担う職務に加えて,薬物療法の有効性や安全性を包括的に担保する専門職という存在に移行しつつある。こういった状況にあって,医療のあり方そのものを変えるキーワードとして,「チーム医療」はますます注目を集めるようになってきたが,そのチームは病院内にとどまらず地域へ拡大し始めており,病院薬剤師と保険薬局薬剤師の連携はさらに重要になっている。医薬品の適正使用を推進する専門職として,薬剤師に寄せられる期待は今後なお一層,大きなものになっていくと言えるだろう。年会では,禁忌薬処方を巡る規制と医療現場のギャップについてのほか,地域におけるチーム医療を推進するための病診薬連携のあり方を考えるシンポジウムが開かれ,関係者の間で活発な討論が行われた。

メディカルトレンド・姉妹誌から

MONTHLY PRESS

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 米国の医療評価機関は,病院認証の評価基準として,院内に医薬品適正使用の自己点検を行う体制があるか,また,それが実施されているかを評価する。一方,日本の病院には,インシデントが起こってから対策を立てる体制作りは行われているものの,前向きに医薬品適正使用を評価していく体制は整っていない。米国では,院内の医薬品適正使用監査の一つの手段として,薬剤師が中心となって医薬品使用評価(MUE)を行い,積極的に医療安全に関わっている。本稿では,米国におけるMUEの歴史,定義と種類,目的と対象となる薬剤,MUEを院内で導入する際の一般的なプロセスについて解説する。

QOL評価学の基本 宮崎貴久子
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 薬剤師は,薬の専門家として責任ある服薬支援を直接患者へ提供する。このファーマシューティカル・ケアでは,患者のQOL(Quality of Life)向上もその目標の一つとなっている。大方の医療者は「QOL」という用語は知っているが,QOLの概念,歴史,測定方法,QOL評価方法の種類,医療におけるQOL評価について十分に知っているとは言えない。そこで,QOL評価学の基本事項を解説する。

 QOLは,患者や一般の人々の主観的な健康や医療の効果に関する評価指標の一つであり,幅広い概念を持つ。

 QOL評価では,① QOL評価をする目的の明確化,② 質問票の選択,③ 信頼性と妥当性が検証された質問票,④ 患者本人による回答,⑤ 統計学的に依拠した解析が必要となる。

医薬ジャーナル 編集長VISITING(396)

2016年12月号特集内容予告

基本情報

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医薬ジャーナル
52巻11号 (2016年11月)
電子版ISSN: 印刷版ISSN:0287-4741 医薬ジャーナル社

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