看護教育 59巻10号 (2018年10月)

特集 発達障害の特性がみられる学生への理解と支援

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 高等教育の現場で障害のある学生はこの10年でほぼ6倍に増加し,なかでも精神障害,発達障害を抱える学生が増加傾向にあります。大学の場合,文部科学省から「個人に必要とされる合理的配慮が提供されること」が義務付けられていますが,教育界全体をみても,支援体制は構築の途上にあります。

 特に発達障害,精神障害などの定義が変わりやすく,またグレーゾーンも多く含まれる障害の場合,診断書をもっていないケースもあるため,多くの看護教員が対応に疲労感,困難感を覚えています。もしかすると,こうした困難感は,看護教員が看護と教育のプロである,だから自分たちですべて対応しなければいけないという認識も一因なのかもしれません。

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誤解された合理的配慮

─発達障害にかかわらず,高等教育機関で義務づけられた合理的配慮について,誤解が多いと伺いました。

高橋 誤解は非常に多いです。合理的配慮は,教育の場面でいえば,学校が提供している教育のなかで,機能障害のある人にとって社会的障壁となっている部分があれば,変更・調整し除去することによって学べるようにする,という法律用語です。

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「対応が難しい学習者」をとりまく状況

 高等教育機関では,身体,感覚器,発達障害などすべてを含む障害のある学生への支援が義務(私立学校の場合は努力義務)であり,専任の教員を配置するなどして障害のある学生の支援が始まっています。この支援は障害者差別解消法に定められた合理的配慮といい,所属している高等教育機関と学生との双方の対話から同意を得てさまざまな配慮が提供されます(図1)。これは,医学や看護学などを学ぶ医療者養成機関でも同様です。

 医療者養成機関における学生支援については,医学などでは身体や感覚器などに障害のある学生の支援,看護学においては発達障害のある学生の支援も行われている報告があります。ただ,とくに発達障害のある学生への支援は始まったばかりといえ,今後国内の医療者養成機関で障害のある学生の支援の充実や構築が期待されます。また,後で詳しく述べますが,発達障害は診断がつかないまでもその特性をもつ学生は多く存在し,教育や臨床現場では対応に苦悩している現状があります。

当事者からの言葉

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私の特徴

 私は四年制大の看護学科の二回生です。精神科でADHDとASDの診断を受けています。

 ADHDに由来すると思うのですが,私は幼少の頃より,ものを考えることと実際に手を動かすことにギャップを感じていました。頭のなかで考えるときはとてもスムーズに考えが進むのに,そのことを実際の行動に起こすと,ぎくしゃくとした動きになってしまい,うまく捗らないことが日常茶飯事でした。次に,ASDに由来すると思うのですが,社交性に欠け,きわめて限定されたものに興味をもち,執着していました。周囲の子どもたちがみんなで砂場遊びをしているのに,私は1人で竹馬の練習に没頭しているようなことがたくさんありました。

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 この文章を書くのが,発達障害の診断名をもたない私でいいのだろうか……という思いも正直ありますが,得意なこと不得意なことの凸凹のある私の看護学生時代の苦労から,なにかささやかでも発見があるといいなと思い,書いてみることにしました。

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─【悲報】発達障害の人生,あまりにも辛すぎる

 インターネット閲覧中,こんな文字列を見た事がありませんか?そんな文字列の中の人です。まとめサイト「凹凸ちゃんねる」を運営しております。27歳のADHDです。まとめサイトというのは,匿名掲示板やSNSの書き込みを編集し,記事にするメディアの総称です。私のサイトは発達障害を中心に「生きにくい人」にテーマを絞り,ネット上の小さなコミュニティとして運営しています。当事者が主体となる「居場所」のようなものは,昨今あらゆる形態で行われており,まとめサイトはそのうちの1つです。そんなイロモノの私ですが,私なりに見続けてきた「文化としての発達障害」を少しだけご紹介したいと思います。多少なりとも支援の参考になれば幸いです。

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発達障害について学ぼう

 発達障害とは,「自閉症,アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害,学習障害,注意欠陥多動性障害その他これに類する脳機能の障害であってその症状が通常低年齢において発現するもの」1)と定義されている。このうち自閉症・アスペルガー症候群・広汎性発達障害は,2013年に米国精神医学会DSM─52)において「自閉スペクトラム症/自閉症スペクトラム障害」(以下,ASD)と統一された。わが国では,発達障害者支援法1)で発達障害特性に対応した医療的,福祉的及び教育的援助が明記されており,大学などの教育機関においても,その人の特性に応じた配慮が求められている。大学,短期大学及び高等専門学校における障害のある学生に関する実態報告によると,発達障害に関連した支援を受けている学生数は6,889人で年々増加傾向を示し,講義や試験への配慮が各教育機関で実施されている3)。学生への支援が広がる一方で,看護教育に携わる教員には,支援と教育の役割との間での葛藤があると推測される。たとえばASDの特性や,注意欠陥多動性障害(以下,ADHD)の特性をもつ学生が将来看護師としての責任を果たせるのか,不安を抱く看護教員は少なくないだろう。

 上記の現状を鑑み,看護教員は学生への教育保障のために発達障害を学ぶ必要があると考えられる。もとより看護教員が発達障害を知ることの目的は,学生対応だけでなく,多様な対象者への看護を学生に教授するためでもある。発達障害の特性がある対象者は,小児看護学の分野だけでなく,妊婦,成人,高齢者にも存在する。対象者の個別に応じたケアを実践できる人材を育てるには,どの分野の教員も発達障害の知識をもって看護学を教授できる力が求められていると言えよう。

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母親としての悩みから,看護教員へ

 私には,発達障害の診断を受けた子どもがいます。現在のように発達障害や自閉症スペクトラム障害という概念すら知らない時代の子育てでしたが,ずっと気になる子どもでした。乳児期は他の子どもよりも泣きが激しく,紙オムツやシャツの襟もとのタグを嫌がるなどの感覚過敏の特徴もありましたし,歩き始めるととにかくじっとしていませんでした。言葉の遅れはなかったので,乳幼児健診では,「何かよくわからないけれど,育てにくいのです」と私が訴えても,特に問題なしの結果で,フォロー対象になることはありませんでした。新しい環境に馴染むことにものすごく時間がかかるので,幼稚園や小学校で新学年を迎えるたびに相談に伺いました。それでも,「この子は個性的でおもしろい」と理解してくださる担任の先生に恵まれると,何とか適応できていくという繰り返しでした。この頃の私は,幼稚園や学校から何か連絡があればすぐに対応できるようにと考え,自宅近くでの非常勤助産師の仕事をしていました。

 今は成人した本人が,「子どもの頃は不安だらけで,それをうまく言葉で表現できなくて苦しかった」と言うように,いちばん身近な母親であっても,本人がどのように感じているのか,何に困っているのかをくみ取ることはとても難しいことでした。そのため,私の子どもへのかかわりは,「お母さんのしつけができていない」や「お母さんが神経質すぎる」とまわりには映っていたようです。乳幼児健診以外でも家庭児童相談室を訪ねましたが,「お母さんが疲れている」と判断されていました。今でこそ,発達障害児の特性を理解して,その子に応じた適切な対応方法が大切だとわかりますが,何も専門的な知識のないなかでの子育ては,不適切なかかわりの積み重なりであったろうと思います。小学校の卒業と中学校への入学という節目で,子どもの不安はいよいよピークに達していきました。

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発達障害の概念の浸透

川上 岐阜大学医学教育開発研究センターの川上です。看護師・保健師免許をもっていますが,今は,医学生の教育に携わっています。

相馬 看護専門学校教務課長の相馬です。4月に教務課長になったばかりですが,看護師養成所の教員歴は20年ほどです。

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大学を卒業した看護職志望者の増加

 高齢化社会の進行と地域医療システムの拡大などにより,看護専門職の人材不足に拍車がかかっている。一方で,終身雇用制度の見直しや非正規雇用の不安定さが指摘され,比較的安定した需要が見込まれる看護師職への関心が増えてきた。現在,看護師学校(3年課程)入学者の内,大卒者は7─8%であり,毎年2000人以上を超える入学者がいる1)。また,准看護師学校に入学する者は,それより入学者に占める割合が高く,8─9%である。この2つの数字は,大学卒業後に看護の道を志す者が,入学者のうち毎年約1割弱,存在することを表している。彼らは看護学以外の他分野の学士号をもち,職業経験を経たのちに,セカンドキャリアとして看護学を選んでいる。職業選択が,高校卒業時ではなく,大学卒業後にも挑戦する時期が,平均余命の延長とともに到来し,職業人生が多様な時代を迎えている。

 奥(2012)2)によれば,他分野の学士号をもつ看護学生の特徴として,以前の大学で学んだことについて「看護職になったときに役に立つ」「看護とは関係がある」と考えていたものは,看護系大学に通うものであり,逆に「自分は遠回りした」と思うものは,准看護師養成所に入学したものだった。このことからも,大学教育において学士編入制度を行うことは大いに意義があると考える。

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動画教材を用いた授業の流れ

 今回は,前回作成の概略を示した,本学基礎看護学領域のヘビーローテーション動画の活用と評価について,今年度の基礎看護技術論での取り組みを述べる。

 基礎看護技術論は1年次前期前半に開講される15コマ1単位の必修科目で,本科目で学習する基礎看護技術は,スタンダードプリコーション(演習では手指衛生および個人防護具(PPE)の着脱を実施),コミュニケーション,ボディメカニクス,ベッドメイキング,体位変換(上方水平移動,左右水平移動,仰臥位から側臥位),臥床患者のリネン交換である。

連載 つくって発見! 美術解剖学の魅力・10

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 関節を曲げる屈筋は腹側に,反対の伸筋は背側にあるのが筋配置の基本です。そこから伸び出た上肢と下肢の筋配置も同様です。しかし人の下肢は,ちょっと奇妙です。確かに股関節は屈側が前です。ところが膝は,曲げると脛が背中側へ折れるので,伸側なのです。つまり,膝伸ばしの大腿四頭筋がある太ももの腹側は,本来は背側なのです。さらに,足の爪先上げも足首の伸展なので,なんと股関節より下の脚では,腹側と背側が反転していることになります。この奇妙な下肢のねじれた配置は人類だけのもので,4足姿勢から直立姿勢に立ち上がるとこうなるのです。

 大腿四頭筋は4つの筋頭を順につくります。まず膝上の中間広筋をつくり,次に内側と外側の広筋をつくります。このとき,内側広筋の筋腹は膝蓋骨の上縁より低いことに注意しましょう。一方の外側広筋は太もも外側の輪郭を成しますが,筋腹が膝蓋骨の上縁を超えて下がることはありません。大腿四頭筋の4頭のうち大腿直筋だけは股関節を越えて骨盤の下前腸骨棘に付着します。

連載 看護に恋した哲学者と読む ベナーがわかる! 腑に落ちる!・6

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前回までの振り返り

 本連載は,ベナー看護論を,そのベースとなっている「現象学」という哲学の視点から理解することを目的とし,ベナー/ルーベルの『現象学的人間論と看護』*1で提示されている現象学的人間観の5つの視点を,まずもって明らかにすることに取り組んできました。これまで,「身体化した知性」「背景的意味」という2つの視点を明らかにし,前回は第3の視点「気づかい/関心」について,半ばまで解説しました。

 「気づかい/関心」とは,何らかの物事が気にかかり,大事に思われて,世界の内部に自分にとっての重要度の面から濃淡の差が生じ,大事に思われることがらに巻き込まれつつかかわることで,たとえば看護師として,看護教員として,子をもつ親として世界に巻き込まれつつかかわる,そうした私たち人間の根本的な在り方を示す概念でした。ベナーらは,こうした人間の根本的な在り方を,ドレイファスを通じて,ハイデガーの現象学から学び,これを現象学的人間観の「鍵」となる概念として位置づけるとともに,人間理解においても看護実践においても「第一義的」に重要なものとしてとらえているのでした。

連載 ティーチング・ポートフォリオ作成講座・7

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はじめに

 本講座は「独力でティーチング・ポートフォリオ(以下,TP)を作成すること」を目的としていますが,前回はTP作成ワークショップの進行の理解をとおして,TPを作成するうえでの重要なポイントを示しました。

 今回は,具体的な作成プロセスの1つであるスタートアップシート(以下,SUS)の作成を取り上げます。SUSとは,TPチャートとともにTP作成ワークショップに参加する際の事前課題として位置づけられるワークシートです。SUSはTPの初稿の土台となる文章を作成するプロセスを担うため,ワークショップに参加せず独力で作成する場合においても,SUSに取り組むことをお勧めします。

 では,SUSとはどのようなものか,どのように作成するのかについて,具体例を示しながら説明していきましょう。

今回の目標

・SUSの作成の目的を説明できる

・SUSの構成を説明できる

・自分でSUSを作成できる

連載 授業を良くする! 教育関連理論・12【最終回】

総まとめ─授業づくりのQ&A 西野 毅朗
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連載を振り返って

 1年にわたって続けさせていただいた本連載も今回が最後となります。これまで,分析・設計・開発・実施・評価という5つの枠組みで授業改善を考えるADDIEモデル(図1)を土台にしながら,さまざまな教育関連理論を紹介してきました。

 この1年間,看護の専門学校や大学の先生の授業の見学や,授業づくりに関する研修をさせていただくなかで,多くの質問もいただきました。特に,授業における学習目標の設定の仕方,発問やグループ学習の進め方,評価の方法についてはよく問われます。そこで,最終回となる本稿では,これらの質問に私なりの回答を示していくことで,これまでの連載内容の総まとめとします。このQ&Aを元に,これまでの連載内容や参考文献として活用させていただいたさまざまな書籍・論文をあらためてお読みいただき,先生の授業改善にお役立ていただければ幸いです。

連載 NとEとLGBTQ・7

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 2007年に拙書『医療看護スタッフのためのLGBTIサポートブック』(メディカ出版)を出版しました。この本は,日本で初めてLGBTをタイトルにつけた図書だそうです。正直,当時はあまり売れませんでしたが,約10年後の2016年に,実質的な第2版として出版した『病院学校で役立つLGBTサポートブック』(保育社)は,大きな反響をいただきました。この10年で,LGBTと言われる人々の生きづらさや権利保障への関心や,性的指向・性自認(SOGI)という概念の理解は,進んできました。

 しかし現在(2018年9月)でも,SOGIへの無理解やLGBTの人々を嘲笑するような言説があります。そうした言動に傷ついた多くの人々のなかから,抗議の声も挙がっており,代表的事件の1つとして,今年起こった杉田水脈衆議院議員による論考への一連の抗議などがあります1)

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目次

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 私たちの社会のグローバル化は一段と進み,国際看護についての関心が高まってきています。2020年東京オリンピック・パラリンピック開催まで2年となり,外国人旅行者や在留者などの増加への施策が推進されている状況です。そんななか,国際看護の舞台は,海外だけでなく身近な日常の看護場面でも展開されてきています。国家戦略として外国人診療を推進する病院の認証や医療通訳士の配置が進められていますが,看護実践に関する検討は十分になされているでしょうか? 外国人患者と看護職や医療者の間で,文化的な生活習慣,価値観,社会背景,医療制度などの違いによる戸惑いや負担が多くみられ,トラブルや医療安全も危惧されます。今こそ,国際看護を“知って考えて実践する”ことが必要なときです。

 本書は,本誌での連載「誌上講義:国際看護学」をまとめた初版(2011年)の内容に,さらに文化の多様性についてグローバルな視点を強化した改訂版です。コソボの紛争地,タイ東北部の農村地,緒方貞子さんのこと,感染症,災害,健康格差と貧困,看護と人権など,内容は幅広く,著者の豊富な国際看護の体験を,わかりやすく共有することができます。

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 本書は,家族の日常を綴った物語であると同時に,良質な当事者研究の書である。ろう者の夫婦と,その間に産まれた聞こえる子ども,樹さんの生活が,独特の比喩を用いて豊かに表現されている。泣きそうになるエピソードや散りばめられた写真で描かれており,とても暖かくて少し切ない。

 著者は,他者に向けて自分の意思を伝える手段として,意味や文法が定められているものを「言葉」,幼子が発するような声,踊り,絵画,動物の吠え声といった,意味に値することがむずかしいふるまいを含めたものを「ことば」として使い分けている。そのうえで,意味や利用価値を求めて「言葉」にこだわろうとするとき,人間的な「ことば」を失ってしまう危険があると述べる。この概念を読んだときに,ふと閃くものがあった。

新刊紹介

INFORMATION

基本情報

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看護教育
59巻10号 (2018年10月)
電子版ISSN:1882-1391 印刷版ISSN:0047-1895 医学書院

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