看護教育 59巻11号 (2018年11月)

特集 「母性」「小児」「老年」の概念を変える 家族のダイバーシティ

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 「お父さんとお母さんと子ども1,2人で全員同戸籍」というのが家族の標準とする見方があります。しかし,上記の構成員のいずれかがいない家族は珍しくありませんし,戸籍を基準とした形態ばかりが家族でもありません。“標準”という考え方は,そこに準じないものを意識的にあるいは無意識に排除しがちですから,注意する必要があります。

 さて,看護師は「患者の多様性に注目して対応する」ことを求められます。このことは,入学直後の段階から繰り返し語られるものですが,実際,患者を含む家族の多様性にどこまで踏み込んだ教育を受けているでしょうか。教員はその多様性を十分意識して学生に接しているでしょうか。

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家族のダイバーシティを考える3つの視点

 私の研究哲学であるダイバーシティ(多様性)は,「性差(ジェンダー)」から始まっており,それぞれの違いを認め合う個の尊重と考えている。ここ十年ほどで,ダイバーシティという用語は多く聞かれるようになり,それによって,幅広く性質が異なるものが存在し,その違いを生かすことがイノベーションにつながる,と考えられるようになってきた。そして,多様な人材の登用が,組織のパフォーマンスを上げることにつながるという考え方も広がっている。この「多様」が意味するものは,年齢,性別,国籍,人種,障害の有無,性的マイノリティ(LGBT:レズビアン,ゲイ,バイセクシュアル,トランスジェンダー)などである。さらに雇用形態,婚姻状況,嗜好,収入,出身地,価値観などの違いも,ダイバーシティとしてあげられるだろう。

 それでは,本稿で扱う「家族のダイバーシティ」をどうとらえたらいいのだろうか。看護学の各専門領域の概論を教授しようとするとき,たとえば高齢者看護では,高齢者の単身世帯の増加から派生する問題を考える。また小児看護では,ひとり親世帯の増加に伴う子どもの貧困やその子どもたちの健全な成長発達を考えるように家族形態の変化に注目する。また,古典的性別役割分業と戦後の日本の経済成長が合体してできた家族規範から1999年男女共同参画社会基本法の制定によるジェンダー規範の変革が古典的性別役割分業の見直しとバブル経済崩壊後の平成不況とが,家族とはこうあるべきを崩していったと考える。さらにこの家族形態と家族規範の在り方の変化が,自分が家族とみなす範囲のとらえ方(ファミリー・アイデンティティ)を変えてきたともいえる。

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 「親になること」に関する教育は,現在さまざまな看護の領域で行われているが,特に「出産」という場面の看護を展開する母性や助産といった看護領域では,「親になること」や「親役割獲得」という項目は非常に重要であり,実際に力がそそがれている教育内容である。しかし,多様化する家族のありようを私たちはどれだけ加味しながら,教育を行えているのだろうか。本稿では,今後ますます多様化するであろう家族について,母性看護の側面から考えていきたい。

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 育成期家族とは,子どもを産み育てる時期の家族を指し,家族周期の視点からは養育期,教育期に相当する。すなわち,家族員に養育が必要な子どもを少なくとも1人は含む家族であり,小児看護が主に支援の対象とする家族である。

 本稿では,育成期家族の多様化と小児看護の課題について,家族と家族員の発達の視点を交えて考える。また,最後に学生の家族の多様性と小児看護学基礎教育についてもふれる。

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はじめに

 本稿は,「家族のダイバーシティ」の視点から日本の高齢化によって生じた個人・家族・社会の変化について,さらにこれらの変化で生じる「老年看護」の変容の可能性について論じることを目的とする。最初に高齢化にともなう個人・家族形態の変化についての現状を紹介し,次いで,高齢化がもたらす影響,とくに現状での課題について取り上げる。最後に,老年看護の変容の可能性として,新しい看護師のあり方について紹介し,看護系教員としてこのような変容をどのようにとらえればよいかについて言及しつつ,今後の展望についてふれていきたい。

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あなたにとって家族とは?

 あなたの家族全員を,1枚の写真のように,頭のなかに思い浮かべてみてください。そこには誰がいますか?お父さんですか,お母さんですか? 兄弟姉妹ですか?子どもですか,孫ですか? いとこはどうですか? おじいさんやおばあさんはいますか? ひいおじいさんやひいおばあさんはどうでしょう? みんな人間ですか? ペットの犬や猫もいますか? 全員,同じ家に住んでいますか? それとも,何か所かに分かれて住んでいますか? みんな,まだ生きていますか? 死亡した人は,家族に含まれなくなりますか? あなたが思い描いた家族の間には,どのようなつながりがありますか? 血のつながりですか? 血のつながりって何でしょうか? それとも,性的なつながりですか? 性的なつながりって何でしょうか? 結婚ですか? 結婚っていったい何ですか? それは長く続くものでしょうか,それとも短く終わるものでしょうか?

 世界中のたくさんの民族を訪れて,こういう質問を繰り返し,家族のさまざまな形を研究してきたのが,私の専門とする文化人類学です。しかし,結論から言うと,「これが家族だ」という答えを文化人類学は出せずにいます。それは,文化が違うと,家族のあり方が大きく違うからです。そこで,まずは世界に見られる家族の形を,いくつかご紹介しましょう。それは,あなたの考える家族と同じでしょうか,違うでしょうか?

焦点 看護教育にこそ有効なプレFD

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大学のFDの現状

「年に1度,2時間の講演」でFD実施?

 2008(平成20)年度から,学士課程では「大学設置基準」において「授業の改善に向けた研修・研究」いわゆるファカルティ・ディベロップメント(以下,FD)が義務化されました1)が,それから10年経った現在,結論からいうと,実効性の高いFDにつながっている事例は必ずしも多くないという印象をもっています。

 文部科学省の調査2)では,専任教員全員(100%)がFDに参加した大学数は,調査に回答した769大学のうち99大学(13%),4分の3以上(75〜99%)は332大学(43%)(2015年度)ですが,年に1度,2時間の講演会を開催しただけでも「FDを実施した」と回答している大学も多くあるのが実情です。

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家庭医のイメージから,看護の道へ

廣瀬 私は今,臨床の看護師さんが大学院に行くお手伝いをするグループを運営しています。看護師さんのお話を伺っていると,臨床の管理者の方が大学院に行く意義を理解してくれなかったり,子どもや家族の仕事との兼ね合いがあったり,臨床看護師からの大学院進学というキャリアには壁があるという声を多く耳にします。

 ぜひ,大学院も修了され,臨床でも長く管理者をされてきた秋山先生に,ご自身のキャリアと大学院進学の意義についてお伺いしたいと思います。

連載 つくって発見! 美術解剖学の魅力・11

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 手首には1センチほどの大きさの手根骨が8個あって,それらが関節でしっかりと組み合ってひとかたまりの手根部をつくっています。その手前4個と奥4個の間だけは連結が柔軟になっていて,それが「おいでおいで」ができる広い手首運動を担っています。手根部の掌側は前腕から指へと向かう腱が10本も通過します。それだけの腱の束があるにもかかわらず,手の付け根で腱が浮いて見えることはありません。これは,8個の手根部がU字溝のような形をしていて,腱の束がその溝を通っているからです。この溝が屈筋支帯という靱帯で閉じられるので,腱が浮き出ないのです。この手根骨と靱帯でできたトンネルを手根管といいます。

 手根部は手首の部分だけにある小さな部位です。造形するときには大きくなりがちなので気をつけます。前腕の橈骨側にU字溝をつくり,そこから手のひらの骨である中手骨が伸び出ていきます。溝の中に屈筋腱の束を通したら,上にシート状にした粘土で蓋をします。このシート状の蓋から,手のひらの両端を厚くしている筋が,親指と小指へそれぞれ伸びていきます。

連載 看護に恋した哲学者と読む ベナーがわかる! 腑に落ちる!・7

現象学的人間観(4)─状況 榊原 哲也
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 本連載は,ベナー看護論を,そのベースとなっている「現象学」という哲学の視点から理解することを目的としており,そのため,ベナー/ルーベルの『現象学的人間論と看護』*1で提示されている現象学的人間観の5つの視点を,まずもって明らかにすることに取り組んでいます。これまで,「身体化した知性」「背景的意味」「気づかい/関心」という3つの視点について解説してきました。

 ベナーらによれば,人間は,さまざまな「身体化した知性」の能力─すなわち「生得的複合体」として生まれたときから具えている,反応したり学習したりする身体的能力や,誕生後に文化的・社会的に身につけられた姿勢,身振り,日常的道具使用,専門的熟練技能などの「習慣的身体」としての能力─を具えた存在であり,またその人が属している種々の文化や家族からさまざまな「背景的意味」を与えられ,それを当たり前のものとして身につけている,そうした存在でした。そして,そうしたなかで人はつねにそのつど何らかの物事が気にかかり,大事に思われて,その関心事に巻き込まれつつ,たとえば看護師として,看護教員として,子をもつ親として世界にかかわっていく,「気づかい/関心」という在り方をした存在なのでした。とりわけ,「気づかい/関心」というこの在り方は,ベナーらによれば,現象学的人間観の鍵となる特性であり,人間理解においても看護実践においても,「第一義的」に重要な視点でした。看護教育においてもこの視点が第一義的に重要であることは言うまでもありません。

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はじめに

 前回は,スタートアップシート(SUS)について解説しました。SUS作成は,TPチャートとともにティーチング・ポートフォリオ(TP)作成ワークショップにおける事前課題の1つです。前回まででTPチャートとSUSがそろいました。

 今回は,TP作成ワークショップにおけるTP作成にならい,これら事前課題をふまえて初稿を作成していきます。TP作成ワークショップでは,いきなりTP全体を完成させることはせず,初稿,第二稿,第三稿それぞれに作成のゴールを定めて書き進めていきます。

 初稿作成では,TPチャートとSUSで一度振り返った教育活動を「メンタリング」によってさらに掘り下げ,より深い教育理念を見出していきます。メンタリングとは,TP作成者(メンティー)の振り返りを深めることを目的とした,メンティーと作成支援者(メンター)1対1の対話です。今回は,初稿作成時に行われる実際のメンタリングの事例の前半部分を紹介し,メンタリングがどのようなメンターの問いかけで進行し,理念が深まっていくのかを追体験していただきます。それを自分の初稿作成に役立ててみましょう。

今回の目標

・初稿のゴールを説明できる

・初稿作成のためのメンタリングを追体験し,

 ・自分の理念の深めることに役立てる

 ・メンターの問いかけの観点を知る

連載 NとEとLGBTQ・8

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 今回はトランスジェンダーの健康リスクについてお話しします。トランスジェンダーとは,割り当てられた出生時の性別と異なる性別で生きている・生きていこうとしている人々を指し,「性別越境者」という表現を当てることもあります。

 LGBTQのなかでもトランスジェンダーは,医療機関への受診を躊躇し,救急医療の受診や定期健診などにアクセスしたがらないことがより多い存在です。治療を断られたり,口頭でのハラスメントを受けたりということもあれば,見た目と戸籍上の性別が異なるためにトランスジェンダーであることをカミングアウトしなければいけなかったり,戸籍上の性別や氏名が記載されている保険証の提出や氏名を呼ばれたりすることもあるからです。ここには,これまで連載で述べてきたように,医療者の偏見や無理解が背景としてあります。

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目次

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 学生の主体的な学びや社会的スキルを育むにはグループワークが効果的な方法の1つであり,看護教育の現場においても以前から熱心に取り入れられている。2012年中央教育審議会答申のなかで,高等教育改革のキーワードとしてアクティブ・ラーニングが明示され,具体的な学びの方法の1つとしてグループワークが提示された。しかしグループワークを行えば確実に目的が達成できるとは限らない。何のためにグループワークをするのか,どのようにグループワークを展開すれば学生の能動的な学習が促進されるのかを考えて行うことが重要である。

 本書には,著者の長年の経験をもとに学生の学びを促すグループワークのしかけが多数紹介されており,実践に役立つものばかりである。しかし,本書はいわゆるマニュアル本ではない。著者は,「グループワークの進歩や学生の成長を願うのであればマニュアルでは功をなさない。大切なのはグループワークを通して,その時その場で学生が何を感じ,何を考え,何を学んだかである」と,グループワークのノウハウに先立ってphilosophyがなくてはならないと述べている。

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 看護教育実践シリーズの編集者である中井俊樹先生とは,本書のシリーズ『2 授業設計と教育評価』『3 授業方法の基礎』の発刊と「看護の教育をよくするために」をテーマとした座談会の席で初めてお会いしました。中井先生は愛媛大学で教育・学生支援機構の教授であり教育の専門家であります。看護教育には専門学校や大学の講師として長年かかわられ,看護教員が教育に多くの悩みがあることを知られたとお聞きしました。そこで今回,看護教育を担当される方のためにシリーズで出版されたわけです。先生はとても物腰が柔らかく,看護教育を教育学の視点から優しく,ていねいに語っておられたことが印象的に残っています。本書もそのようなていねいで,細やかな書籍です。

 さて,この書籍のなかには数多くの手法があり,多くの先生方の実践や工夫があり,特にコラムには事例などをとおしてわかりやすく書かれています。授業展開にこれらの手法を活用することで,学生が学習活動にコミット(関与)する授業となると考えます。ただし,この本は手法をそのまま活用するようなhow─to本ではありません。多くの手法を教員独自で,学習集団のレディネスや教授内容を吟味し精選して活用していくものです。学生にアクティブラーニングを求めるのなら,教員も主体的に授業を構築し,自らがつくり上げる授業を展開しなくてはなりません。

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新刊紹介

基本情報

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看護教育
59巻11号 (2018年11月)
電子版ISSN:1882-1391 印刷版ISSN:0047-1895 医学書院

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