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書評 ─《シリーズ ケアをひらく》『異なり記念日』─愛おしき「ことば」の世界
木村 映里
pp.919
発行日 2018年10月25日
Published Date 2018/10/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1663201105
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本書は,家族の日常を綴った物語であると同時に,良質な当事者研究の書である。ろう者の夫婦と,その間に産まれた聞こえる子ども,樹さんの生活が,独特の比喩を用いて豊かに表現されている。泣きそうになるエピソードや散りばめられた写真で描かれており,とても暖かくて少し切ない。
著者は,他者に向けて自分の意思を伝える手段として,意味や文法が定められているものを「言葉」,幼子が発するような声,踊り,絵画,動物の吠え声といった,意味に値することがむずかしいふるまいを含めたものを「ことば」として使い分けている。そのうえで,意味や利用価値を求めて「言葉」にこだわろうとするとき,人間的な「ことば」を失ってしまう危険があると述べる。この概念を読んだときに,ふと閃くものがあった。
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