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母親としての悩みから,看護教員へ
私には,発達障害の診断を受けた子どもがいます。現在のように発達障害や自閉症スペクトラム障害という概念すら知らない時代の子育てでしたが,ずっと気になる子どもでした。乳児期は他の子どもよりも泣きが激しく,紙オムツやシャツの襟もとのタグを嫌がるなどの感覚過敏の特徴もありましたし,歩き始めるととにかくじっとしていませんでした。言葉の遅れはなかったので,乳幼児健診では,「何かよくわからないけれど,育てにくいのです」と私が訴えても,特に問題なしの結果で,フォロー対象になることはありませんでした。新しい環境に馴染むことにものすごく時間がかかるので,幼稚園や小学校で新学年を迎えるたびに相談に伺いました。それでも,「この子は個性的でおもしろい」と理解してくださる担任の先生に恵まれると,何とか適応できていくという繰り返しでした。この頃の私は,幼稚園や学校から何か連絡があればすぐに対応できるようにと考え,自宅近くでの非常勤助産師の仕事をしていました。
今は成人した本人が,「子どもの頃は不安だらけで,それをうまく言葉で表現できなくて苦しかった」と言うように,いちばん身近な母親であっても,本人がどのように感じているのか,何に困っているのかをくみ取ることはとても難しいことでした。そのため,私の子どもへのかかわりは,「お母さんのしつけができていない」や「お母さんが神経質すぎる」とまわりには映っていたようです。乳幼児健診以外でも家庭児童相談室を訪ねましたが,「お母さんが疲れている」と判断されていました。今でこそ,発達障害児の特性を理解して,その子に応じた適切な対応方法が大切だとわかりますが,何も専門的な知識のないなかでの子育ては,不適切なかかわりの積み重なりであったろうと思います。小学校の卒業と中学校への入学という節目で,子どもの不安はいよいよピークに達していきました。
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