看護教育 58巻3号 (2017年3月)

特集 学生のセクシュアリティに向き合う

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 看護は,あまたの職業のなかでもとりわけ身体接触の多い仕事です。他人の体にさわるとき,たとえそれが仕事であっても,「恥ずかしさ」は消えるわけではありません。ですので,本来であれば,その「恥ずかしさ」をふまえたうえでの基礎教育が求められますが,現実的にはどうでしょうか?患者さんの「恥ずかしさ」には視線が向けられていても,学生自身の「恥ずかしさ」は後回しにされていないでしょうか? 「『恥ずかしさ』を考慮して,接触がある演習は同性同士で行うようにしている」と聞くことが多いですが,それでは現場に出ていきなり未経験の身体接触をするということになりますし,性的マイノリティの潜在可能性を考えれば,単純な“同性同士”ということ自体が意味をなしません。配慮しているようで,実は学生のセクシュアリティについて考えることをスルーしているとも考えられます。

 今回の特集では,身体接触と「恥ずかしさ」という視点を例に,いまだ十分考慮されているとは言えない学生のセクシュアリティに配慮した教育の方策について,特にマイノリティ側からの意見を中心に提案します。セクシュアリティそのものについてですら,まだまだ正面きって論じられることが少ないですが,患者さんのことを考えるその前に,教員は学生のことを考えていただきたいと思います。基礎教育の段階で自らのセクシュアリティに向き合う経験は,必ず臨床現場で役に立つはずなのですから。

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はじめに

 筆者はこれまで「性・生殖看護学分野」として母性看護・助産教育や研究活動を推進してきた経緯がある。そこでは人間の性,患者の性,妊娠中や産後の性,思春期の性教育などが主なテーマであり,助産基礎教育では女子のみの教育で,看護教員として学生のセクシュアリティを強く意識することは少なかった。しかし,看護における性差ということでは,男性助産師導入問題で悩まされた。筆者は日本で初めて,男子学生に助産師教育を行った経験がある1)。実際の妊産婦に対する調査2,3)では,男性助産師を肯定する意見が多く聞かれ,産後の乳房ケアなどの業務の一部を選択させることで問題はないものと思われた。男子学生に助産基礎教育を行い,助産師の国家試験を受験させていただくように厚労省に要望書を提出し,国会議員にも働きかけたが,反対意見が多くかなわず,助産師は現在も女性のみの職業とされている4)

 今回,看護教員のセクシュアリティ意識について考える機会をいただいた。これまでの看護教育とセクシュアリティに関する記述は,患者の性に関して学生にどう向き合わせるかなど,患者のセクシュアリティを理解させるテーマが多く5,6),教師自身の性意識に関するものは少ない。そこで本稿では,筆者自身の体験と本学教員や学生へのインタビューによって得られた材料をもとに私見をまとめた(ゴシック文字は教員や学生の意見)。

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はじめに

 セクシュアリティについてアメリカの性教育学者であるカルデローン(Calderone, Mary. S. )とカーケンダール(Kerkendall, Lester A)は,「セックスは脚の間にあるが,セクシュアリティは耳の間にある」と述べており,鹿間のカーケンダールの性の概念のまとめにおいては,「セクシュアリティの本質は,幅広い人間関係や行動様式の中に存在し,セクシュアリティは生涯を通じて存在する」と報告している1)。故にセクシュアリティは,性を軸にした心理や社会的側面を包括し,その人の生き方や人生を意味する概念である。

 患者のセクシュアリティにかかわる看護ケアとしては,排泄ケアや産後の悪露の観察と創傷部の観察など性器に直接かかわるものや,対象者へのマッサージなどがある。このような“対象者に触れる”ことが,状況によっては患者やその家族のセクシュアリティに影響する可能性がある。たとえば,「母親の排泄ケアを男性看護師がしていると,その母親が泣いて嫌がり,子どもに訴えた」「中高年で乳房のエコーを受けたとき,男性医師に担当されて恥ずかしかった」「息子の排泄ケアを若い女性の看護師がしていたのを,息子がかわいそうにと今でも思い出す」などの言葉を聞いたことがある。患者や家族の訴えの内容は,実は性別の問題でなく,医療者のかかわり方ではなかっただろうかとも考えられるが,今の医療の現状として,患者は看護師を選ぶことはできない。男性,女性の枠組みだけでなく,この看護師にケアをお願いしたいということは不可能である。性別にかかわらず,すべての医療者がセクシュアリティを意識したケアをする必要があり,それを意識しかかわることで,患者やその家族のセクシュアリティへの影響を最小限にすることは可能であろう。それを学生の間から学ぶ必要がある。

 今回看護学生のなかではマイノリティである男子学生にも焦点を当て,学生が看護のなかでセクシュアリティをどのように学ぶか,身体接触をどのように学ぶか,そのなかでの教員の役割は何かを考えたい。

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臨床現場の看護師のセクシュアリティに関する認識

 看護師という職業は,患者のセクシュアリティと深くかかわる仕事であり,その対応には細心の注意を払う必要がある。セクシュアリティに関して患者の考えや求める対応は千差万別であり,正解もなければ,同性の看護師が対応すればよいといった単純なことでもなく,看護師には患者をあらゆる方向からアセスメントし,臨機応変に対応する力が求められる。

 わが国の臨床現場の看護師のセクシュアリティに対する認識をみると,今なお性に関する話題をタブー視したり,介入することに躊躇したりする傾向があることは否めない。また,現任教育においても積極的に教育を実践している施設が少ないことは容易に推測できる。そのため,セクシュアリティを考慮した看護は,臨床現場で自らが直面した際,それぞれの考えや判断で対応されることが多い。そして,看護師はその経験を振り返り,考え学習しながら次の場面につなげていると思う。しかし,新人看護師は,その経験も少なく,そうした問題に直面しても対応に困ることも多く,看護基礎教育を充実させることが必要である。

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性の多様性の基礎知識

 2015年,株式会社電通のダイバーシティ(多様性)課題対応専門組織「電通ダイバーシティ・ラボ」)が全国の約7万人を対象に,LGBTに関するインターネット調査を行ったところ,約7.6%がLGBTに該当するという統計が出ました1)

 セクシュアル・マイノリティのカテゴリーとして知られているのがこの「LGBT」という用語です。このカテゴリーは医療概念ではなく,当事者が自分自身を自己定義するために欧米社会で使用されていた用語であり,この概念の広がりで政策や活動が活発化されました。Lesbian(レズビアン:同性愛女性)のL,Gay(ゲイ:同性愛男性)のG,Bisexual(バイセクシュアル:両性愛者)のB,Transgender(トランスジェンダー:生まれたときの性別と社会的に生活する性別に違和感のある人,性同一性障害/性別違和(後述)を含む)のTの頭文字をつなげ,LGBTと呼びます。

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はじめに

 本稿の目的は,医療現場において多様なセクシュアリティを尊重する体制を整えるためには,医療従事者と医療施設の「多性化」という抜本的な制度改革が必要だと,看護教育に携わる方々に強く訴えることです。

 医師の多数が「男性」であり,看護師の大多数が「女性」であり,病室や浴室,トイレが「男女別」のみという医療現場の現状を放置したままで,どんなに医療従事者の意識改革を求めても,多様なセクシュアリティの尊重が実現することはありえません。それはなぜかを明らかにすることが,本稿の第一の課題です。そのために,まずセクシュアリティとは何かを簡単に復習し,次いでセクシュアリティが無視されているがゆえに生じている現場の問題点を指摘し,それらの問題は「意識改革」で対処できるものではないことを論じたいと思います。

 そのうえで,セクシュアリティの尊重が可能となる医療体制とはどのようなものか,一緒に想像していただきたいと思います。目指すべき理想を描くことが,本稿の第二の課題です。夢物語だと思われるかもしれませんが,お付き合いください。

連載 学生なら誰でも知っている 看護コトバのダイバーシティ・3

個別性 木村 映里
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 「患者さんの個別性を大切に」。看護学生時代,実習のたびに耳にタコができそうなくらい実習指導者や先生から言われてきた言葉です。性格,家族背景,入院への思い……。疾患の他にも看なければいけない部分も多く,深夜に記録を書きながら「ああもう!」と何度もパンクしそうになった経験を懐かしく思います。

 そのくらい患者さんの多様性を重要視する一方で,実習や授業のなかで学生の個別性はどれだけ尊重されているでしょうか。実習のときの苦しみを思い出してみると,その大半は「みんなできているのに私だけできない」であったように感じます。記録を提出するときにちらりと同じグループの子のを見ると,自分の倍くらい文字が書き込まれていたり,実習指導者への質問のレベルが,私よりそのグループメンバーのほうが高いような気がしたり。

連載 優れた“わざ”をどう伝えるか 技術の「背後にある意味」を教える・3

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 「普通」という言葉のもつ意味の難しさについては,食べることを例に前回多少ふれた。看護技術は,一見「普通」のことに属すことが多い。たとえば気分が悪くなった人の背中を撫でるという普通のことで,その人を楽にすることができる。「普通」の領域に属する多くの看護技術が,安寧をもたらす何かを孕んでいるのである。その孕んでいる最大のことが,今回のテーマである“境界線を越える”という事態である。境界線を越えるというのは,患者さんも看護師も1人ひとり別々に存在する個人であること,つまり区別される個別な存在であるということが前提にある。

 他人との境界線は,からだで言えば皮膚である。その皮膚に「ふれる」ことで多くの看護技術は成り立っている。皮膚に「ふれる」ことは,フィジカルアセスメントをはじめ,前回取り上げた寝衣交換や清拭などの清潔の援助,体位交換や呼吸法などの安楽のための援助など,ほとんどの看護技術に通底している。そして「ふれる」を突き詰めていけば,コミュケーションという看護技術の大事な根幹へとたどり着く。その意味で,「ふれる」ということは看護技術の重要な概念である。今回は,マッサージという具体的な行為を取り上げ,「ふれる」について考えたい。

連載 「配慮が必要な学生」の学びにつなげる対応 臨地実習における教育上の調整を考える・3

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 第1・2回は,「臨地実習において配慮が必要な学生への教育上の調整」にかかわる状況や要因について述べてきました。本稿(第3回)からは,学生の特徴に焦点をあてた事例を示しながら,教育上の調整の考え方と方法について考えていきたいと思います。

 臨地実習において学生は,看護の対象者である患者さんだけでなく,患者家族,臨地実習指導者,教員,グループメンバーの学生など,さまざまな立場の人とコミュニケーションをとることが求められます。なぜなら看護職は対人援助職であり,コミュニケーションなしでは始まらないからです。そこで,最初の事例として「コミュニケーションが難しい学生」を取り上げます。この事例は,学生自身が難しいと感じているケースではなく,教員や指導者からみて他者とのコミュニケーションが難しく,指導に苦慮するケースとしました。

連載 東西南北! 学生募集旅日誌・9

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 今回は日帰りの旅をご紹介します。

 先日,本校専任教員の小谷美紀先生と一緒に,大阪の明浄学院高等学校の進学ガイダンスに行ってきました。明浄学院高校は,開校90年以上の歴史ある女子高で,「明るく清らかで正直であれ」という建学の精神を校名の由来としています。看護進学コースには将来看護師を志す生徒たちが在籍しており,カリキュラムには看護師を目指す者としての心構えを学ぶ実習なども組まれています。

連載 だから私はこう書いた 系看著者のフィロソフィー・7【最終回】

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「精神科」にとどまらない精神看護学を

社会からメンタルヘルスをとらえていく

─教科書の構成が,「現代社会と心のケア」から始まっていますが,これにはお考えがあったのですか。

武井 私自身の発想として,何かを語るとき,それにどういう意味があるのか,常に問うていきたいと思っています。「精神看護学」にはどういう意味があるのかを考えると,もちろん,精神科での看護だけに規定されるものではありません。社会全体のなかでの「こころの健康」の位置づけ,見取り図を示してから,具体的な看護,ケアについて述べていく必要があると考えてこの構成にしました。

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授業におけるジェンダーについて

 「担当の授業において,ジェンダーを考えていますか?」と質問をされた場合,どのような答えが返ってくるでしょうか? 「専門はジェンダーではないので関係ない」というような返答があるかもしれません。けれども,関係は「ある」のです。

 今回は,ジェンダーが自分の専門であるか否かにかかわらず,「すべての授業においてジェンダーの問題は存在している」という視点,また「学生が授業からジェンダーをどう学ぶか」という観点から,私の専門である演劇,主に演技の実技授業を例にお話しさせてください(実は,日本の大学教育での専門科目としての演技の授業におけるジェンダーは,私が知る限りまだ語られていないのですが)。

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過去から未来へ

 看護の学問,すなわち,「看護学」を英語で言うと,nursing scienceもしくはscience of nursingとなろう。いずれにしても,看護学はscience(科学)である。

 「科学」という語に結びつくイメージにはいろいろなものがあるが,私には,いつも「進歩」という語が思い浮かぶ。科学は常に進歩していくもの,これまでの常識や理解を超えて,新たな知見や知識を与えてくれるものというイメージである。いささか幼稚な見方かもしれないが,科学の一面を言い当てているものと思う。

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 准看護師が看護師になるための教育課程として,2年課程の看護師学校養成所がありますが,このうち通信制の学校養成所について入学要件が改正されたためお知らせいたします。

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1号特集を読んで感じたこと

 本誌1月号の特集『教える力を養うための継続研修を』を読んだ。各論文には納得しながらも,東京都立看護専門学校(以下,都立看学)での取り組み紹介の必要を強く感じた。なぜなら,都立看学ではすでに参考となる取り組みを実践してきているからである。

 都立看学(7校,学年定員6校各80名・1校120名,教員数166名)では,2009(平成21)年度から「都立看学教員の能力向上プロジェクトチーム(PT)」を設置し,専任教員の能力向上のための検討を行った。この結果として,①看護専任教員に必要な能力の定義,②キャリアラダーの作成,③必要な能力に対応した研修体系の構築を行い,これに基づいて「教える力を養うための継続研修」を実践してきている1,2)

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INFORMATION

新刊紹介

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 この手のhow to本はほとんど読んだことがない。どちらかというと遠慮したいくらいであった。しかし,この本は目次を見ているだけでワクワクするのである。著者の郡先生の研究に対する姿勢,日本の医療系の研究者に対する期待感であふれているように感じた。大学院生や若手研究者には少々値が張るかもしれないが,この本はhow to本ではなく,研究をするうえで最も大切な,「この研究をする意味」を追究するものであり,研究者にとっても心の拠り所となる指南書である。

 この本は4章に分かれている。第1章は「研究の楽しさ,美しさ」,第2章は「科研費の制度を知る」,第3章は「申請書の書き方」,そして第4章は「見栄えよくするポイント」である。この本最大の魅力は,疑う余地もなく第1章である。

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 高齢化が進行する現代では,生涯で2人に1人ががんに罹患するといわれ,患者はがんと診断されたときからさまざまな苦痛を感じている。このDVDは,そんな今日のがん看護の入門として幅広い視点で学習できる教材である。

 第1巻「がん看護に必要な基礎知識」では,がん患者の統計,がんの発生機序,リスク要因などから一次予防・二次予防の重要性がわかりやすく紹介されている。日進月歩のがん医療に対応するには,常に最新の知識と技術が必要であることが再認識できる。第2巻「がん治療と看護」は,がんの三大治療法である手術療法・化学療法・放射線療法の説明である。看護師には,患者家族が納得して治療法を選択できるように支援し,治療が安全に受けられるように,専門的な視点を持ったアプローチが求められている。

基本情報

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看護教育
58巻3号 (2017年3月)
電子版ISSN:1882-1391 印刷版ISSN:0047-1895 医学書院

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