medicina 19巻5号 (1982年5月)

今月の主題 血清リポ蛋白の異常

血清脂質研究の動向 内藤 周幸
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 今日のように研究が多様化し,情報が氾濫している時代には,ある分野の全貌を知ることはきわめて困難である.ここ数年の血清脂質の問題に限って見ても,リポ蛋白の亜分画,レセプター,肝細胞のレセプター,アポ(リポ)蛋白,プロスタグランディン,動脈硬化の成立機構との関連の問題など,どの1つを取っても,いずれの分野の進歩も著しく,今後の研究動向を予見することは,もはやほとんど不可能な状態である.したがって本稿では,筆者の興味を引いた問題のうち,とくに臨床との関連で関心を持った1,2の問題の最近の進歩について概説しようと思う.

リポ蛋白と脂質の代謝

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体内のコレステロール分布と代謝回転

 体重70kgの成人の体内には,約140gのコレステロールが存在する,その体内での分布は,人によって差はあるが,表1にみるように脳脊髄神経系に32g(全体の22%),脂肪組織や結合組織に31g(22%),筋肉に30g(21%),皮膚に16g(11%),血清と血球を合わせた血液に11g(8%),肝臓に5g(4%),消化管に4g(3%),副腎に1.2g(0.8%)の割合である1).言いかえると,皮膚や脂肪組織,結合組織,筋肉などの体腔を囲む組織と四肢に約半分の54%が分布し,脳神経系に22%,心臓,肺,膵,脾,骨髄,腎,副腎などの,肝と腸を除いた体腔内臓器に8%,循環する血液に8%,腸,肝というコレステロールの吸収ないし合成臓器に7%が分布しているわけである.

 これらの臓器に分布したコレステロールは,副腎と血液中と動脈硬化の起きた動脈組織にエステル型で存在するほかは,ほとんどが遊離型で存在し,各組織を構成している細胞の膜-形質膜をはじめ核膜,小胞体,ミトコンドリア,ライソゾームなどの細胞下器官のすべての膜構造の素材となっている2)

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TGとは

 TGは,グリセロールに3つの脂肪酸がエステル結合したもので,脂肪酸エネルギーの貯蔵型として各種組織に存在し,また血中では,カイロマイクロンおよびVLDLという大型リポ蛋白(TG richリポ蛋白)となって,組織間を運搬されている.脂肪酸は,中枢神経,赤血球,腎髄質をのぞく,ほとんどすべての組織での主要なエネルギー源である.また,TGはほとんどすべての組織で合成されるが,TGをリポ蛋白に組み込んで放出しうる臓器は肝と腸のみである.

 カイロマイクロンは,食事脂肪由来のTG(外因性TG)を,吸収の場である小腸から,利用や貯蔵の場である筋肉や脂肪組織へ運搬する機能を有し,VLDLは,空腹時に,肝および腸で合成されたTG(内因性TG)を,筋肉や脂肪組織へ運搬する機能を有する.

血清リポ蛋白異常症

高chylomicron血症と高VLDL血症 福井 巌
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 高脂血症あるいは高リポ蛋白血症は,増加しているリポ蛋白の種類から,図に見られるような6型に分類されている.

 I型は空腹時血清中にカイロマイクロン(外因性TG)の著増を認める高リポ蛋白血症であり,IIa型はLDL(コレステロール),IIb型はLDLとVLDL(内因性TG)の両者,III型は,β-VLDL(floating β),IV型はVLDL,V型はカイロマイクロンとVLDLの両者がそれぞれ増加する高リポ蛋白血症として定義されている.

高LDL血症 中谷 矩章
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 LDLは,超遠心法により比重1.019〜1.063の間に分離されるリポ蛋白で,電気泳動ではβの移動度をもつため,高LDL血症と高βリポ蛋白血症はほぼ同義に用いられており,動脈硬化の大きな危険因子として注目を集めている.

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 家族性高コレステロール(CHOL)血症(familial hypercholesterolemia:FH)はきわめて頻度の高い遺伝疾患で,しばしば虚血性心疾患を伴うことが知られている.したがって本症は,血清CHOLとアテローム硬化に関するモデル疾患と考えられる.

Ⅲ型高脂血症 山内 喜夫
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 Ⅲ型高脂血症は,血清コレステロール,トリグリセライドの増加を認め,電気泳動上β-mobilityを有する特殊なVLDL(β-VLDL,floating β lipoprotein)の増加を示し,その幅広い泳動帯よりbroad β diseaseとも呼ばれる高脂血症である.1967年Fredrickson1)が報告して以来,臨床症状,診断,遺伝様式などの検索とともに,リポ蛋白そのものの詳細な検討も徐々に行われ,その病態が解明されつつある.

 本症は,甲状腺機能低下症,SLE,糖尿病などの疾患に伴う場合があり,これを二次性Ⅲ型高脂血症と呼ぶが,一般にⅢ型高脂血症という場合は一次性,すなわち家族性Ⅲ型高脂血症を指し,本稿では後者を中心に述べることとする.

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 従来,動脈硬化症との関連からリポ蛋白代謝異常については主として高リポ蛋白血症が注目され,その病態の解明や治療について多くの研究がなされてきた.しかし近年,HDLの抗動脈硬化作用について,疫学成績や培養細胞を用いた成績が報告され,低HDL血症が動脈硬化症の独立した危険因子であることが確立されつつある.したがって,リポ蛋白代謝異常については高リポ蛋白血症のみならず,低リポ蛋白血症についても注目する必要がある.

 血漿リポ蛋白濃度の低下をきたす病因として,リポ蛋白の合成の低下または異化の亢進が考えられる.各病態においてどちらがより重要な役割を果たしているかを常に念頭におき,病態を理解する必要がある.本稿では,HDL,LDLの欠損症,低下症の病態を理解するために,HDL,LDLの合成,異化の面より概説するとともに,低リポ蛋白血症の臨床的意義について考察する.

LCAT欠損症 加藤 泰一
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 血中にコレステロールをエステル化する酵素の存在することは,1935年Sperry1)によって報告されているが,長い間この酵素はesteraseと考えられていた.最近の知見では,この酵素は肝臓で合成された後,血中に放出され,血中の高比重リポ蛋白(HDL)上で作用し,apo A-Iの存在下で遊離のコレステロールをエステル化することが知られている.その際acyl基をレシチンより転移させることから,現在ではこの酵素はtransferaseと考えられている(図1).

 本酵素の欠損症であるLCAT(lecithin:cholesterol acyltransferase)欠損症の存在することが,1967年Gjoneらの報告によって明らかにされた2),わが国でも1976年筆者らが最初の症例を報告したが3),その後,新たな症例も報告されている.LCAT欠損症は,臨床的には角膜混濁・貧血・蛋白尿を主徴とし,特異的な脂質.リポ蛋白像を呈する疾患として知られている.

リポ蛋白異常と各種疾患

胆石症 梶山 梧朗
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 体内におけるコレステロールは,最初に胆石から発見されたものであり,胆石症患者の血清脂質に対しては古くから関心がもたれてきた.とくに1920〜30年代において,本症の血清コレステロールが多数の研究者によって測定され,報告されたが,その成績は一定しておらず,高値を示すというものや,正常であるという報告,さらには異常低値を示すという報告までみられる.

 しかし,西欧においても,また本邦における疫学調査でも,胆石の発生は栄養学的な因子と強い相関がみられており,とくに動物性脂肪,蛋白,総カロリーなどとの結びつきが大といわれている(図1).とくに本邦における胆石患者の増加は著しく,1913年における胆石保有率は1.7%に過ぎなかったのに対し,1966〜67年では6.7%となり,1974〜77年では実に14.4%となっているが,その原因は食生活との結びつきが大きいと考えられている.胆石の組成は,コレステロール以外に色素カルシウムや希少石などがあるが,上に述べたような胆石の増加は,そのほとんどがコレステロール系石の増加によると考えられている.

膵炎 佐竹 克介
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 cholesterolやtriglycerideのような脂質は,血中では遊離脂肪酸を除いて蛋白と結合した型で存在し,可溶性になっている.この蛋白と結合した脂質をリポ蛋白と呼んでいる.したがって血中脂質の増加,すなわち高脂質血症は高リポ蛋白血症としてとらえられる.

 1864年Speck1)が高脂質血症と急性膵炎の合併症例を記載して以来,欧米ではその合併率は4〜38%と報告されているが,本邦での報告は稀である.

脂肪肝 古賀 俊逸 , 辻 裕二
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 正常肝の脂肪量は,その湿重量の2〜4%,乾燥重量の4〜8%であり,その約2/3はリン脂質である.正常肝では組織学的に脂肪の存在を認めることはできないが,脂肪量が肝の乾燥重量の10%位になると顕微鏡下に脂肪滴を認めるようになる.通常,顕微鏡下に観察される肝細胞の約半数以上に脂肪滴を認める場合に脂肪肝と呼ばれており,生化学的には肝にトリグリセライドが蓄積した状態である.

肥満 丸浜 喜亮 , 引地 勲
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 肥満とリポ蛋白代謝異常の関係は密接であり,肥満の成立機構の一環としてリポ蛋白異常が関与しているほか,糖尿病の場合のように肥満の結果としてリポ蛋白異常のみられることもある.また,従来からII b,III,IV,V型高リポ蛋白血症では肥満を伴いやすいことが明らかにされており,多方面からの解析が必要となる.本稿では,糖尿病を伴わない単純性肥満の成因について,リポ蛋白とくにVLDLの代謝異常との関連を述べてみたい.

糖尿病 赤沼 安夫
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 糖尿病におけるリポ蛋白代謝異常を考えるうえで,最も注意を喚起したい点は,糖尿病という疾患が成因論上も,また臨床像も多様であり,したがってこれら多様性が脂質代謝のうえでも,直接的,間接的に多様な影響をもたらすことになることである.

 糖尿病代謝の背景をなすものは,インスリン作用の不足状態である。インスリンの主要な標的細胞は,肝細胞,筋細胞,および脂肪細胞であるが,とくに脂肪細胞,肝細胞におけるインスリン作用の不足状態が細胞内の脂質代謝,および血漿リポ蛋白を含めて細胞外液中の脂質代謝異常の成因論上重要である.インスリン作用が低下すると,脂肪組織ではcyclic AMPが上昇し,蛋白活性化酵素の活性化を経てホルモン感受性リパーゼが活性化をうける.この結果,細胞内に貯蔵されていたトリグリセライドは加水分解をうけて,FFA,グリセロールとして血漿中に放出される.

心筋梗塞 上田 正人
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冠動脈のアテローム硬化発現

 冠動脈のアテローム硬化発現は,血清コレステロール値の上昇と比例することが知られており1),血清コレステロールの大部分はlow density lipoprotein(LDL)およびhigh density lipoprotein(HDL)の両リポ蛋白分画に含まれている.

 動脈硬化の初期段階では内膜の平滑筋細胞に増殖がみられ,この細胞増殖はLDLによって促進され,HDLによって抑制されるといわれている2).過剰な遊離コレステロールにさらされた平滑筋細胞は,細胞膜の液体結晶構造が保持できなくなり,膜一遊離コレステロール間のinteractionを減らそうとしてコレステロールのエステル化が促進され,結果的には細胞膜の合成が促進されて細胞増殖を導くことになる3).したがって高脂血症患者のLDLは,正常脂血症者のLDLにくらべて,細胞増殖をより強く促進させるといわれている.

脳梗塞 村井 淳志
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 脳梗塞には,大きく分けて穿通枝梗塞と皮質枝梗塞がある.穿通枝梗塞は細い穿通枝動脈の血漿性動脈壊死(細動脈硬化)を基盤にして起こり,高血圧と最も密接な関係がある.一方,皮質枝梗塞は太い皮質枝動脈のアテローム硬化を基盤にして起こり,リポ蛋白異常と密接な関係がある.脳梗塞の症状,予後,治療が両者で異なっているので,この分類は有用であるが,とくに成因を考える場合には,両者を区別して検討しないと結論を誤るおそれがある.母集団中に占める両者の割合が,国により,地方によって異なるからである.

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 二次性高脂血症をきたす疾患の1つに甲状腺機能低下症があり,高コレステロール血症を呈することは古くから知られていた.

 血清中の脂質は遊離脂酸を除いては蛋白と結合した複合体であるリポ蛋白として存在している.リポ蛋白は大きさ,比重,その他の性質によりいくつかの種類に分けられ,その組成や構造,生現的な役割などが次第に明らかにされてきている.しかし,甲状腺機能低下症における詳細については不明な点も多い.

腎炎,ネフローゼ症候群 清水 隆
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 腎疾患と高リポ蛋白血症の関係では,腎機能に異常のない場合としてネフローゼ症候群患者が,腎機能低下を示す場合として腎不全〜透析患者が,研究の対象としてあげられる.近来,欧米では腎移植患者の脂血症が,ステロイドホルモンとの関係で問題とされている.ネフローゼ症候群(NS)の血管障害に対する血液生化学的特性として普通あげられるのは,①高リポ蛋白血症(Fredricksonら),②高フィブリノーゲン血症(Wardleら),③anti-thrombin III低下に伴う血栓傾向(Kauffmanら)であるが,さらにNSの低アルブミン血清は血小板凝集能が高く(Remuzziら),膜cholesterol(chol)の増加が血小板の凝固性を亢進させることが知られている.ネフローゼ期の短いものでは問題ないが,持続する高度の蛋白尿をみる症例では血管事故が推定され,臨床的な面から,また,剖検例からの報告がある.

皮膚瘙痒症 小澤 明 , 大城戸 宗男
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 肝,腎,膵をはじめ,多くの疾患に血清リポ蛋白異常が合併する.さらにそれらの疾患群では,皮膚のかゆみ,すなわち皮膚瘙痒症が主徴候の1つとしてよく知られている.しかし,黄色腫を伴う高脂血症患者において,皮膚瘙痒症の頻度がとくに高いという傾向はないので,この瘙痒症の発生機序は疾患ごとに異なっていると推定される.

 通常,かゆみの原因あるいは誘因物質としては,ヒスタミン,キニン,ある種の蛋白分解酵素,cowage(熱帯産ハッショウマメ;そのさやの毛で強烈なかゆみを起こし,かゆみ粉とも呼ばれる),プロスタグランディンなどが知られている1).それらの刺激は真皮乳頭部内の神経網で知覚され,遅伝導性C線維により脊髄へ伝達されると考えられている.しかし,内臓疾患の際に現れる皮膚瘙痒症の病態は不明のことが多い.

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 角膜老人環は,角膜周辺に生じる混濁で,混濁の幅は約1〜2mmぐらいであり,組織における脂質の沈着を示す臨床所見である.角膜老人環は女性より男性に多く,加齢による老化現象・動脈硬化との関連をもつことが考えられる.最近に至り急速な脂質代謝面の研究の進歩により,冠動脈疾患・脳出血などの危険因子としての相互関係について検索が行われている.筆者らも老人環有無と脂質代謝との関連について過去に文献1〜3)を発表したが,本稿では,老人環ならびに老人性白内障とリポ蛋白異常について推計学的分折を行った結果について述べる.

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胆石—純コレステロール石(図1〜3)

 コレステロール系胆石のうちにもいくつかの種類がみられるが,その中で純コレステロール石は孤立性のことが多く,X線上単発の円形陰性石(radiolucent stone)として造影される.また,このような胆石陰影の辺縁は概して円滑である(図1).

 摘出した胆石の断面は,ほとんど自色のコレステロール板状結品からなり,中央にわずかに黄褐色の部分がみえるのみで,表面は白色の屋根状の構造が互いに入り組んで並ぶ(図2).

リポ蛋白をめぐるトピックス

癌とコレステロール 重松 洋
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 コレステロール(以下CH)が動脈硬化(粥状硬化)の発症・進展に重要な役割を果たすことは,膨大な疫学研究,動物実験などの成績により証明され,一般には異論のないものとして受け入れられている.臨床の場では主として血清CH濃度が指標として用いられるが,従来,他に特別な異常がなければ,可能な限り低値がよいとされ,たとえば標準値160〜200mg%とすれば,それ以下を理想値と呼ぶという考えもある.

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 1969年PiperとVaneは,アナフィラクトイドショックに陥ったマウスの肺灌流液中に兎の大動脈を収縮せしめる物質が遊出してくる事実を観察し,これにrabbit aorta contracting substance(RCS)と命名した.この物質が何であるかの追求がその後ひき続き行われ,Samuelssonらカロリンスカ大学グループは,1975年遂に本物質の正体をつきとめた.これが今日大きな話題となっているthromboxane A2(TXA2)の発見であり,最近循環器疾患におけるprostaglandin(PG)の役割に大きな関心が向けられるようになったきっかけとなっている.本稿では,循環器疾患の中でもとくに重要な動脈硬化とPGの関係について,TXA2,さらに後述するprostaglandin I2(PGI2)を中心に最近の知見を紹介する.

老化とコレステロール 武内 望
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加齢と血清Ch

 加齢による血清コレステロール(Ch)の増加については,細部にわたっては報告者により多少の差があるが,一般に幼児期より思春期にかけてはやや低下し,20歳代から30歳代にわたって急激に増加する.それ以後は60歳前後まで上昇を続け,70歳以後はかえって減少をきたす(図1)1).Keysらの統計によれば,10歳代と20歳代では平均15%の差があるが,20歳と30歳代では7%,以後10歳おきに数%程度の増加がみられる.

 血清リポ蛋白も,幼児期より思春期にかけては,血清Chの変動と同じく,HDL(高比重リポ蛋白),LDL(低比重リポ蛋白)ともに低下し,その後はLDLやVLDL(超低比重リポ蛋白)が増量し,LDL ChやVLDL Chも上昇するが,HDL Chには有意の変化はみられない(図1)1).したがって,加齢とともに動脈硬化指数(Atherogenic index=HDL Ch/LDL+VLDL Ch)は促進的に傾くことになる.

血栓とEPA 熊谷 朗
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EPAとは

 EPA(エイコサペンタエン酸eicosapentaenoic acid)は多価不飽和脂肪酸の1つで,アラキドン酸より二重結合が1つ多いω-3,C5=20の構造を示す物質で,あとでも述べるがヒトでは生合成のできない脂肪酸である点が,アラキドン酸と異なる.アラキドン酸は周知のごとく,各種プロスタグランディンの前駆体として重要な物質であることが知られているが,最近EPAも同様cyclooxygenaseやlipoxygenaseの作用をうけ種々なプロスタグランディンを生成することが判明し,注目をあびることとなってきた.

不整脈と遊離脂肪酸 山崎 昇
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 遊離脂肪酸(FFA)は従来,正常心筋にとっては重要"good"な基質と考えられてきたが,最近にいたり虚血心にとっては血中FFAの急激な異常上昇は不整脈の重要な誘発因子と考えられている.

 FFAと不整脈誘発効果に関する今日までの報告を展望するとともに,FFAの不整脈誘発機序ならびに臨床上必要な脂肪酸代謝面からみた不整脈予防対策などについて述べる.

長寿とHDLコレステロール 板倉 弘重
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長寿症候群と家族性高αリポ蛋白血症

 1976年Glueckらは,長寿症候群(longevity syndrome)として家族性高αリポ蛋白血症と低βリポ蛋白血症を報告した.これらの家系では長生きしている者が多く,動脈硬化罹患者が少ないとされる.これらの長寿症候群に共通していることは,LDL,CとHDL-Cとの比が1に近いことであり,対照群の2.41±0.21よりも低値であり,LDL-CとHDL-Cとがほぼ同量であることが動脈硬化の進展を抑制し,心筋梗塞による死亡率を低下せしめて寿命を延長させていると報告した.

 HDL-Cをヘパリン-Mn2+法で測定し,70 mg/dl以上を高αリポ蛋白血症としている.常染色体優性遺伝を示し,総コレステロールはやや高く,トリグリセライドは正常である.身体所見,神経所見に異常なく健康体とされる.Nestelらは,コレステロールのラジオアイソトープを用いて高αリポ蛋白血症におけるコレステロール代謝について検討し,表に示したごとく,高αリポ蛋白血症では交換速度のおそいコレステロールプール(pool B)が小さく,コレステロール代謝回転率が低下している.一方,交換速度のはやいコレステロールプール(pool A)は対照群と変わらず,pool Aとpool Bとの相互の移行,pool Aからのコレステロールの不可逆的移送も対照群と差がみられない.

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 過去の疾患とされた脚気が,昭和48年頃より再び全国的に発生していることが注目されている.この新しい発生ははじめ,下腿浮腫を伴う若年性多発性神経炎とか,心拡大,高度浮腫を伴う急性多発神経炎などと呼ばれ,脚気様症候群とも呼ばれたが,ビタミンB1欠乏による脚気と断定された(井形ら,高橋ら).

 脚気症候群の主な症状は,多発神経炎として下肢浮腫,腓腹筋握痛,腱反射消失をはじめ,重症では視神経炎や口囲のしびれをみる.循環器症状として心拡大(とくに右室),心拍出量増大,最低血圧低下とともに下腿または全身に浮腫を呈し,脚気衝心にて死亡することもあるといわれている.

血清リポ蛋白代謝異常の治療

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二次性高脂血症に対する治療

 高脂血症はしばしばネフローゼ,閉塞性黄疸,糖尿病,甲状腺機能低下症,Cushing症候群などに伴って発生する.これら二次性高脂血症に対しては,当然まず原疾患に対する治療を行う.ただし糖尿病にインスリン療法を行ったり,ネフローゼに対してグルココルチコイドを投与した場合,これらホルモンが脂肪合成を高めるので,血漿脂質はある程度正常より高いレベルで落ち着くのはやむを得ない.一応安定状態がどの辺になるかを見きわめた後に,抗脂血剤を併用する.

高LDL血症の治療法 葛谷 文男
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 高LDL血症という言葉は通常あまり用いられていなかったが,血漿中の脂質とくにコレステロールのmain carrierがLDLであること,LDLがatherogenesityと最も関連の強いこと,すなわちLDLが虚血性心疾患のrisk factorとして重要であること,反面HDLがanti-risk factorであることなどの理由により,高コレステロール血症をさらに分類するという意味で,高LDL血症という言葉が用いられるようになったと思われる.したがって,ここでは高LDL血症と高コレステロール血症(atherogenesityをもつコレステロールの高い場合)とを同義語的に考えて話を進めることにする.

 血漿中にLDLが増加するメカニズムとしては,血漿中におけるVLDLからLDLへの変換の亢進が考えられる.すなわち,高VLDL血漿に伴って起こる可能性がある。この場合のratelimiting factorとしては,lipoprotein liPaseではないことが想像されている.それはheparinとかheparinoidを投与しても,LDLが血漿中でただちに増加してこないからである(むしろ低下する.この意味でMDSなどが用いられる).現在では,VLDLそのものの血漿中における増減が,LDLの生成に最も深い関係をもつと考えられている.

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 内因性のTG(triglyceride)を運搬するリポ蛋白(VLDL,電気泳動法によるリポ蛋白分画のpre-βリポ蛋白に相当する)は,血漿中で分解されてCh(cholesterol)含量の多いリポ蛋白(LDL,β-リポ蛋白)となるが,この過程でHDL(α-リポ蛋白)が重要な役割を果たしている.したがって,高VLDL血症を取り扱う場合には,HDLを加味した臨床評価が必要となる.しかも,HDLは抗動脈硬化作用を有する可能性1,2)をもっており,臨床的に意義深いリポ蛋白である.

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 高リポ蛋白血症,なかでも高LDL血症や低HDL血症は,動脈硬化の進展因子であり,虚血性心疾患の重要なrisk factorになっていることは,これまでのFramingham Studyをはじめとする疫学,臨床的・病理学的研究や動物実験,細胞培養などの成績から明らかにされてきた.また,高コレステロール血症と血小板凝集能の亢進,リパーゼ活性とアンチトロンビンIIIとの関連性,アラキドン酸を中心とした脂肪酸とプロスタグランディン代謝など,凝固機能に関しても検討が加えられ,脂質代謝異常が,動脈硬化の進展のみならず血栓症の発症に関与していることがわかってきた.

 動脈硬化のrisk factorとしてあげられている高コレステロール血症や諸種の脂質代謝異常を,食事の内容を変えたり抗高脂血症剤投与により是正することで,冠動脈疾患の1次予防(初発発症予防)や2次予防(再発予防)を目的としたprospective studyも1950年代より行われており,動脈硬化性疾患の予防に高リポ蛋白血症の治療が有用であることを示した報告が多い.

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リポ蛋白研究の流れ リポ蛋白研究の端緒/Gofmanによる研究/リポ蛋白研究の低迷期/Fredricksonの分類(1965)/その後の研究の進展 組織の脂質の生理的働きと病理的意義 脂質すなわち動脈硬化と思いがちだが/エネルギー源としての脂質/身体構成成分としての脂質/脂質の生理的働きを理解する/体内の活性物質に転換されていく脂質血中転送脂質の生理的働きと病理的意義 血中リポ蛋白の全体像/カイロマイクロンの働き/VLDLの働き/LDLの働き―LDL pathway/HDLの働き/アポ蛋白についてリボ蛋白異常 LDLの異常と動脈硬化/scavenger pathway/HDLの異常/アルコールとHDL/VLDLの異常 臨床上の問題点 臨床症状のないのが特徴/放置しておくと将来どうなるか/予防が大切―医師の関心 治療の方針とそのコツ 患者の生活状況を把握して最も適切な方法を/患者教育と医師の熱意/効果のある運動療法一ただしなかなか難しい/食事制限はまず我慢できるものから/薬物療法の注意点―食事療法は継続/薬は一旦服み出すとやめられないか

理解のための10題

カラーグラフ 臨床医のための腎生検・5

糸球体病変・5

膜性増殖性糸球体腎炎type II 坂口 弘
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 dense deposit glomerulonephritisは日本語の用語がなく,以前は膜性増殖性腎炎(MPGN)の中に入れられtype IIとされていたので,MPGN type IIとかdense deposit diseaseなどと通常呼んでいる.

 臨床的には低補体性腎炎としてみつけられたように,前回述べたMPGN type Iとまったく変わらない.日本ではMPGN type Iとtype IIは10:1ぐらいでtype IIが少ないが,外国ではtype IIのほうが多いという所もあり,人種によってかなり違うようである.

連載 演習

目でみるトレーニング 60

画像診断 心臓のCT・5

大血管の変化 太田 怜 , 林 建男
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 大血管のCTは,木来造影剤を注入して記録したほうがよいが,単純撮影でも,ある程度の情報は得られる.そこで,本号では,そのようなものを集めて,例示することにする.

画像診断 画像診断と臨床

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症例1(図1〜4)

患者 S. K. 75歳 女性

主訴 体動時の呼吸困難

今月の焦点 対談

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 長谷川 人口構成が非常に高齢化し,多くの人が長生きするようになったわけですが,そのためにいろいろな新しい問題が起こってきています.その中のひとつが,老年期に非常に多く起こってくる痴呆の問題です.今日は「痴呆の臨床をめぐって」ということで,東儀先生とお話しを進めていきたいと思います.

講座 異常値の出るメカニズム・49 酵素検査(9)

血清アミラーゼ 玄番 昭夫
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アミラーゼの臓器分布

 血清アミラーゼ活性の測定は,1917年すでに臨床検査として行われていたように,酵素検査の中では最も古いものであるが,いまもってこの血清アミラーゼの臓器由来ほど不明な酵素はない.

 アミラーゼ(α-amylase,EC 3.2.1.1,系統名は1,4-α-D-glucan glucanohydrolase)は,1,4-α-D-グルコシド結合をもつ多糖類(でん粉,グリコーゲンなど)から,このグルコシド結合を2〜4個有する寡糖類にまで幅広く作用し,これらのグルコシド結合を切断(加水分解)する酵素である.古くからアミラーゼは唾液や膵液に多く含まれており,糖質の消化に関与していることが知られてきた.しかし唾液腺や膵以外の臓器にも多少のアミラーゼが存在している.表1はラット組織におけるアミラーゼ活性の相対濃度を比較したものであるが1),十二指腸では膵の2.31%に相当する量のアミラーゼが存在する.しかしそれ以外の臓器アミラーゼは血清とほぼ同じか,それよりも少ない量であることがわかる.唾液腺は膵と同様にアミラーゼが多く,馬場2)によるとヒト唾液腺上清分画中のアミラーゼ活性は22,000IU/g蛋白であり,膵の21,200IU/g蛋白とまったく同じ値を示している.そして肺では36.31,肝では7.33IU/g蛋白で,それぞれ膵の0.17%,0.03%ときわめて微量存在しているにすぎない.

外来診療・ここが聞きたい

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症例

患者 H. I. 57歳 男

主訴 息がすえない 咳,疾

診療基本手技

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 中心静脈カテーテル法の普及により,入院患者においてカテーテルを管理する機会が多くなってきた.

 そこで今回は,中心静脈カテーテル(CVカテ)の管理のポイントをまとめてみた.ここでは,筆者らがベッドサイドで実際に行っている方法を紹介する.理論的裏付けよりむしろ経験的なものであるため,成書の内容と多少隔たりがあると思われる.

がん免疫振興財団シンポジウム「末期患者に対する積極的治療」から(昭和57年1月16日,砂防会館)(その1)

癌免疫療法の現状 西條 長宏
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 最近の免疫学のめざましい進歩により,癌の免疫療法には多くの期待が寄せられながら,いま一歩すっきりした報告がみられないのはなぜであろうか.現今における癌免疫療法のねらい,clinical studyの問題点,今後解決されなければならない問題点などについて.

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症例 58歳 男性

既往歴・家族歴 特記すべきことなし

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 以下は英国の古典を愛する人文学者や文化人の集りである古典協会で行われた講演の続篇である.前篇は新しい科学の発足,科学の参与した世界大戦の悲劇,科学が古典から学ぶもの,人文学への厳しい批判が述べられた.

 以下に紹介する講演の後半(IIIの部)は,オスラーの厳しい科学及び文明批判,科学と哲学の融合,そしてヒポクラテスの精神の具現への情熱であり,オスラーの生涯の思想の総まとめといえよう.

天地人

エリーゼは,いま
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 昭和20年3月10日夜,マリアナを発進した米軍爆撃機編隊は東京を襲い,下町方面は焼野原と化し,10万余の無事の民衆の命が奪われた.飛来数130機,投下爆弾1,665トン,焼夷弾20万発,私は夕日よりも激しく燃える紅蓮の炎を茫然と眺めていた.同年8月5日夜,前橋市で再び空襲を経験した.その日の午前,米軍機は空襲予告のビラを撒き,予告通り襲来した.焼夷弾は輝きを帯びて空に舞い,市街から郊外に走る道路を逃げ惑う影が機銃掃射で次ぎ次ぎと倒れる様子が猛煙の中に映し出された.顕微鏡一台と絵具箱を抱えて,私は前日造ったばかりの防空壕に潜んでいた.壕の前の土を機銃弾が抉った.戦いすんで黒色の雨が降りそそぎ,壕の壁の冷気が,命永らえた背にここちよく伝わるのを覚えながら,なぜか「エリーゼのために」を聞いたときの情景を思い出していた.

 「エリーゼのために」は,音楽氾濫のいまは,幼稚園児でさえ知っていよう曲である.私が最初にこの曲を意識したのは神田の映画館であった.この映画館も3月10日の空襲で焼け失せた.映画の題名は記憶にない.召集された青年のために,婚約者がピアノを弾くのだが,その曲が「エリーゼのために」であった.心に残る旋律であった.しかし,田舎育ちの私には曲名を知る由もなかった.

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VIA AIR MAIL 芦澤 哲夫
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上中流階層のための私立病院.下層のたあの公立病院.前者で難病を,後者でプライマリ・ケアを研修し,知識と自信をつけて挑戦した専門医試験

ECHO 三條 貞三 , 猪狩 淳
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Q腎のbiopsy所見では,メサンギウムの高度増殖を認めるMesangial Proliferative Nephropathyで,腎機能はまったくintactな状態であった.補体系も低下していて,おそらくは腎不全になっていくだろうと思われる12歳女児の症例を見たが,こういった場合の治療方針についてお教えください

基本情報

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medicina
19巻5号 (1982年5月)
電子版ISSN:1882-1189 印刷版ISSN:0025-7699 医学書院

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