INTESTINE 23巻5号 (2019年9月)

特集 FIT 陰性癌の特徴

序 説 工藤 進英
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わが国の大腸癌罹患率は年々増加しており,現在男性の癌死亡原因の第3 位,女性では第1 位である.ゆえに現在そして将来における大腸癌早期発見のための対策が急務であり,さらには対策型検診のあり方についても各方面からさまざまな議論がなされている.便潜血反応検査(fecal occult blood test;FOBT)はその簡便性や低コスト,またスクリーニング法としての死亡率減少効果についての有効性が,すでに実証されている.とくに,わが国で開発された免疫便潜血検査(fecal immunochemicaltest;FIT)は化学法よりもさらに感度・特異度とも優れており,対策型検診の一環として現在に至るまで広くに普及している.

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大腸がん検診はグアヤック法による低感度の化学便潜血検査(化学法)の使用により端緒が開かれた.化学法の欠点は特異度が低く,したがって感度も低くせざるをえないことであった.このような化学法の欠点を解消する感度・特異度の高い大腸がん検診法として免疫便潜血検査(FIT)が開発された.FIT の研究は抗ヒトヘモグロビン(Hb)抗体の特異性や糞便中「生理的」Hb などに関する基礎的研究,さらにはFIT による検診プログラム開発とその有効性評価まで,日本で研究が行われ,大腸がん検診法として確立した.FIT はその方法論がほとんど共有されずに用いられているが,高い特異度の確保には抗ヒトHb 抗体の要件や糞便中生理的Hb の存在とカットオフ値の関連性を知る必要がある.なお,日本ではFIT の感度が過小評価され,その多くは偽陰性の定義の誤用,つまりスクリーン感度とプログラム感度の混同によるもので,正しい理解が必要である.

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FIT の死亡率減少効果は確実で,本邦では1992 年からFIT 2 日法による大腸がん検診を開始した.便潜血が1 日でも陽性になれば潜血量にかかわらず全大腸内視鏡による精検が必要であるが,2016 年の地域保健・健康増進事業報告によれば精検受診率は68.5%と低く,国民生活基礎調査による40~69 歳の受診率も41.4%と低い.2016 年における要精検率は7.6%でカットオフ値は20~30μg/g が多いが,偽陽性を減らすためカットオフ値引き上げを検討する必要がある.精検受診率の改善が急務であり大腸CT 検査に期待したい.FIT は深部大腸に弱点はあるものの最適な大腸癌スクリーニング方法であることを医療従事者が再認識し,市民に広く伝える必要がある.

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FIT を用いた大腸がん検診は,日本を含めて広く世界的に実施されている.FIT は非侵襲的検査でありながら,大腸癌に対して比較的優れた診断精度を有するが,それでも一度のFIT 検査のみでは,大腸癌を見逃す可能性がある.しかし,これを理由にFIT 検診を否定することは不適切である.FIT 検診は,FIT 検査を繰り返し行い,見逃しリスクを減らすことで成り立つ検診プログラムであり,FIT 検診はプログラム全体としては非常に優れた検診法といえる.ただし,FIT検診による日本の対策型検診に,大腸内視鏡検査を現状よりも積極的に取り込むことについては検証の余地があり,最初から大腸内視鏡を行う内視鏡検診の導入を含めて,さらなる議論が望まれる.

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免疫便潜血検査(FIT)による大腸がん検診は,大腸腫瘍の高リスク群を抽出し,そこに限られた医療資源である大腸内視鏡を効率的に分配する点で,優れた検診システムである.その一方で,検診対象者から発見される大腸癌の約2 割がFIT陰性であり,内視鏡検査の検診への導入によってこれらのFIT 陰性癌を拾い上げることが期待されているが,リスクの低い集団への内視鏡による介入は非効率的ともいえる.大腸腫瘍の発生リスクを推定するAPCS スコアを用いて対象集団のリスク層別化を図ることにより,FIT 陰性者の中でもリスクが高い集団を抽出することができれば,より選択的で効率的な内視鏡検診につながる可能性がある.

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大腸内視鏡検査(TCS;total colonoscopy)は大腸癌において感度・特異度ともにもっとも高い検査と考えられ,検診に導入できれば大きな死亡率減少効果が期待されるが,偶発症,苦痛度に関連する受容性や処理能力などの問題もあり,検診TCS の有効性は明らかでない.そこで2009 年よりTCS による大腸がん検診の有効性を検証するためのランダム化比較試験(RCT)「大腸内視鏡検査による大腸がん検診の有効性評価研究(厚生労働省第3 次対がん総合戦略研究事業);The AKITAJapan Population-based Colonoscopic ScreeningRandomized Controlled Trial (AKITA POP-COLON TRIAL)」を開始した.

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免疫便潜血検査(fecal immunochemical test;FIT)は,簡易的で非侵襲的な検査である.また,大腸癌の死亡率を減らすとのエビデンスが多数存在し,大腸癌スクリーニング法として広く用いられている.しかし,FIT の精度は完全ではなく,切除を要する大腸癌の一部は見逃されてしまう.また,FIT 陰性患者の多くは,大腸内視鏡を受けないため,FIT に反応しない大腸癌の特徴についての報告は少ない.われわれの前向きコホート研究は,2007 年1 月から2009 年12 月までの間で,当センターを大腸内視鏡目的で受診し同意の得られた1,592名の患者を対象とした.内視鏡検査前に1 日法FIT を施行し,FIT 陰性群と陽性群に分け,それぞれの大腸癌の特徴を比較検討した.本研究では,FIT 陰性大腸癌の局在や肉眼形態に有意差が得られなかったが,腫瘍径は小さく,粘膜内癌の割合が高いことより,内視鏡的治療で根治可能な状態で発見される可能性が高いと考えられた.その反面,FIT 陰性T1 以深癌は予後が悪く,大腸がん検診における内視鏡検査の重要性が示唆された.

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免疫便潜血検査(fecal immunochemical test;FIT)を用いた偽陰性癌と陽性癌の臨床病理学的特徴を後ろ向きに比較検討した.偽陰性早期癌は,腫瘍径が小さく,深達度が浅い癌が多く,表面型腫瘍も偽陰性になりやすい.偽陰性進行癌は女性に多く右側結腸(とくに盲腸)に発生しやすい.偽陰性対策として,偽陰性癌の特徴を理解すると同時に,精度管理を十分に行うことが重要である.また,FIT の弱点を補強するため大腸内視鏡検査や大腸CT 検査を介入させることも偽陰性対策になりうると考えられた.

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東京都大島町の住民検診の対象に,同時に二つの検査法で大腸がん検診〔免疫便潜血検査(FIT) 2 日法+全大腸内視鏡検査(TCS)〕を実施した研究結果から得られたFIT 陰性大腸癌の特徴を解析した.FIT 陰性癌は全例が粘膜内癌で全例,内視鏡治療で根治できた.FIT 陽性癌よりも早期であり,右側の病変の割合が多く,平坦型が多いという傾向が認められた.文献的にも,FIT 陰性癌は右側で,小型病変,平坦陥凹型が多いことが示されており,TCS を併用した対策型検診法の開発が求められる.

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近年,先進国を中心に免疫便潜血検査(FIT)を用いた大腸癌スクリーニングが普及しつつある.他方,近位結腸のAdvanced neoplasia(AN)に対するFIT陽性率(スクリーン感度)が遠位結腸のAN に比べ低いという報告が散見されるが,多数例での検討は少ない.今回,264 例の大腸AN 症例を対象とした前向き研究のデータから,FIT 陽性癌とFIT 陰性癌の特徴像を探ることを目的に検討を行った.FIT のスクリーン感度は,病変の進行度とともに上昇するものの,近位結腸に存在するAN のスクリーン感度は,遠位結腸病変に比し有意に低いことが確認された.今後,対策型検診におけるFIT と全大腸内視鏡検査の組み合わせについての議論が必要であると考えられた.

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免疫便潜血検査(fecal immunochemical test;FIT)が陽性の場合,精密検査を勧めず,FIT の再検査を繰り返し,陰性結果が出たら経過観察とする医師が存在する.はたして,FIT を繰り返すことに検診の意味があるのだろうか?わが国の検診におけるFIT 陽性率は,約7%で推移している.2 日法FIT のうち一つでも陽性になった場合は,必ず精密検査を受けることが求められている.精密検査は,全大腸内視鏡検査が第一選択で,全大腸内視鏡検査が実施困難な場合には,S 状結腸検査と注腸X 線検査の併用が第二選択となり,再度FIT を実施して判定することは望ましくない.

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当センターで経験したFIT 陰性大腸癌の3 例を提示する.症例1 は60 歳代,男性.上行結腸に径10 mm 大のⅡa+Ⅱc を認め,T1b 以深浸潤癌と診断し手術を施行した.病理診断は0-Ⅱa+Ⅱc,por1>por2,pT1b,pStage Ⅰであった.症例2 は60 歳代,女性.盲腸に径20 mm 大のⅠsp を認め,T1b 以深浸潤癌と診断し手術を施行した.病理診断は0-Ⅰsp,tub1>muc,pT1b,pStage Ⅰであった.症例3 は50 歳代,男性.下部直腸に径15 mm 大のⅠsを認め,腺腫内癌と診断,Tis またはT1a と判断し,内視鏡的粘膜切除術を施行した.病理診断は0-Ⅰs,tub1-2 with adenoma component,pT1a,pStage Ⅰであった.頻度は高くないもののFIT 陰性大腸癌が存在することは事実であり,なんらかの方法で全大腸内視鏡検査を組み合わせるスクリーニングの検討が必要と考える.

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免疫便潜血検査(fecal immunochemical test;FIT)陰性の上部直腸,径15 mm の0-Ⅱa+Ⅱc,pT1b 癌を経験した.FIT 偽陰性の原因として,① 実際出血していない,② 右側大腸癌は便に血液が均等に混じりやすいのに対し,直腸・S 状結腸癌は部分的にしか血液が付着しないため,摂取部位により偽陰性になりやすいこと,などが考えられた.出血しない大腸癌の存在や,FIT 検査はあくまで採便による簡潔な検査法であることを認識すべきであり,今回の症例は腹満感という症状や大腸癌の家族歴があり,そのような有病リスクのある患者に対してはFIT 陰性であっても内視鏡検診を含めた更なる精密検査の必要性が示唆された.

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大腸がん検診のツールとして,便潜血検査(fecaloccult blood test;FOBT),なかでも,わが国で開発された免疫便潜血検査(fecal immunochemicaltest;FIT)は,対策型検診・任意型検診として強く推奨されている.一方,海外,とくに米国においてはFIT だけでなく便中に存在する腫瘍細胞由来のDNA を検出し大腸癌のスクリーニングを行う便中DNA 検査(stool DNA test;SDT)もFIT と併用して行うことが推奨されている1).SDT に関するデータはまだまだ不十分ではあるが,本稿では,SDT についてFIT と比較検討を行いながら,そのポテンシャルや今後の方向性を検討する.

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長期罹患潰瘍性大腸炎(UC)患者は大腸癌のリスクが一般集団と比較すると高いことが知られており,大腸内視鏡によるサーベイランスが推奨されている.しかしながら,サーベイランスを行った群と行わなかった群を直接比較するランダム化比較試験はなく,倫理的にも今後施行することは困難である.そのため,サーベイランスが早期発見につながり生存率の改善に寄与するかどうかに関しては,これまでもコホートにおける報告などはあったものの,エビデンスは十分ではなかった.また,サーベイランス内視鏡を行うにあたり,その開始時期や大腸癌の発生部位に関するリアルワールドのデータも重要である.そこで,炎症性腸疾患(IBD)の外科を専門とする施設におけるUC 合併大腸腫瘍の手術症例をレトロスペクディブに解析することにより,その実態を明らかにすることを目的とした.

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クローン病や潰瘍性大腸炎(UC;ulcerativecolitis)を含む炎症性腸疾患は,遺伝的,免疫学的,環境的要因の複雑な相互作用によって引き起こされる慢性疾患である.近年,健康なドナーから腸内細菌叢を移植することによって正常な腸内細菌叢の機能を回復するために使用される便移植療法(FMT;fecal microbiota transplantation)が,UC 患者の治療として注目されている.

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目次

次号予告

編集後記

基本情報

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INTESTINE
23巻5号 (2019年9月)
電子版ISSN:2433-250X 印刷版ISSN:1883-2342 日本メディカルセンター

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