INTESTINE 23巻6号 (2019年11月)

特集 全身性疾患における腸管病変─腸管ベーチェット病とその鑑別疾患

序 説 久松 理一
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小腸バルーン内視鏡やカプセル内視鏡の発達により,以前は暗黒の臓器とされていた小腸を直接観察することができるようになった.このような背景から,他の診療科からの依頼で全身性疾患患者の消化管病変に遭遇する機会が増えたと思う.小腸を含めた下部消化管の炎症性疾患にはその代表であるIBD(クローン病,潰瘍性大腸炎)のほかにも,ベーチェット病,膠原病や血管炎に伴う消化管病変, プロスタグランジン関連腸症(CEAS,CMUSE)などさまざまな全身性疾患に伴う消化管病変が含まれる.本号のテーマとして腸管ベーチェット病を基軸として,これと鑑別が必要な全身性疾患に伴う下部消化管病変に焦点を当てた.

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ベーチェット病は再発性口腔内アフタを含む4 主徴候を特徴とする難治性全身性炎症性疾患であり,腸管ベーチェット病は特殊型として分類される.腸管ベーチェット病の診断には回盲部の内視鏡的定型病変とベーチェット病診断基準を満たすことが必要である.腸管BD の患者では時に穿孔や出血によって緊急手術が必要となり,高い術後再発率や再手術率も問題となる.内科的治療は経験的に行われてきたが,抗TNFα抗体製剤は日本で臨床試験が行われ中等症以上の標準治療として位置づけられた.日本ではコンセンサス・ステートメントが作成され新たな診療ガイドライン作成も進んでいる.

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「ベーチェット病診療ガイドライン2020」の腸管病変に関するクリニカルクエスチョン(CQ)は,「難治性炎症性腸管障害に関する調査研究班」との共同プロジェクトとして,腸管病変分科会メンバーで作成された.Minds 診療ガイドラインに準拠して作成されているが,本疾患に関して,エビデンスレベルの高い臨床研究が多くないことから,システマティックレヴューは行われてはいない.すべてのCQ のステートメントにおいて,腸管を含む各分科会ごとに,「10 回の臨床機会において行われる回数」を基準に,メンバーが同意度に関する投票を行い,その平均値から推奨度が分類され記載されている.

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腸管ベーチェット病に対する治療は,高いエビデンスレベルに基づいた確立した治療はなく,全身性のベーチェット病あるいはクローン病の治療経験に基づいて,5-アミノサリチル酸(ASA)製剤,ステロイド薬,免疫調節薬による治療がこれまで行われてきた.近年,抗TNFα抗体薬(インフリキシマブ,アダリムマブ)は,腸管ベーチェット病患者に対して有効であることが前向き試験で示され,臨床応用されている.現在作成されている腸管ベーチェット病診療に関する診療ガイドラインでは,腸管ベーチェット病に対する寛解導入療法としては,軽~中等症例には5-ASA 製剤,中等症~重症例には副腎皮質ステロイド薬,TNFα抗体薬,栄養療法,寛解維持療法としては,5-ASA 製剤,チオプリン製剤,TNFα抗体薬,栄養療法がある.本稿では,これら治療薬,さらには外科治療の適応についても概説した.

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腸管ベーチェット病(BD)の鑑別疾患として,単純性潰瘍(SU)やtrisomy 8に合併する腸病変が挙げられる.SU は,腸管BD の定型病変である回盲部の円形または類円形の打ち抜き・下掘れ潰瘍を呈するものの完全型ないし不全型BDの基準を満たさない症例に用いられる形態学的な呼称である.BD 疑いにとどまる症例はSU の範疇に入るため,そのような症例では抗TNFα抗体製剤の保険適用が得られず投与できないなどの課題が残る.また,trisomy 8 陽性の骨髄異形成症候群において,腸管BD/SU に酷似した打ち抜き・下掘れ潰瘍を呈する症例が存在し注目を浴びている.内視鏡所見に明確な差はないものの,内科的治療に対する反応性が大きく異なる可能性が示唆されている.

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サイトメガロウイルス(CMV)は幼少期に初感染し,その後,終生潜伏感染する.しかしながら,造血幹細胞移植や臓器移植後,後天性免疫不全症候群,化学療法,ステロイドや免疫抑制薬による治療中の患者,高齢者などさまざまな環境下で時にCMV 再活性化(CMV 感染)をきたし,臓器障害(CMV 感染症)の原因となる.消化管はCMV 感染症の好発部位の一つであり,その診断には免疫組織染色やPCR 法により病変部でのCMV 感染を証明することが必須である.CMV 再活性化を生じる病態には宿主の免疫能の低下に加え,TNF-αをはじめとした炎症性サイトカインによるCMV 再活性化の誘導など基礎疾患によっても大きく異なる.CMV 腸炎の治療ではCMV 感染を生じる病態や宿主の臨床転帰に与える影響を考慮したうえで対応することが重要である.

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家族性地中海熱(familial Mediterranean fever;FMF)は遺伝性周期熱症候群の一つで,周期性発熱と漿膜炎を特徴とする.近年,炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎やクローン病)に似た消化管病変を有するFMF 患者の報告例が増加している.本稿ではFMF 発症の機序ならびにFMF 患者における腸管病変に焦点を当て,臨床所見並びに内視鏡的特徴について解説した.現在までのデータから,直腸病変を伴わない,全周性の発赤粘膜,浮腫,びらん,および潰瘍などの潰瘍性大腸炎様病変・偽ポリポーシス様所見は特徴的所見といえる.また,クローン病で観察されるような縦走潰瘍および狭窄病変も存在する.FMF 関連腸炎患者の罹患率は未だ不明である.したがって,FMF 関連腸病変の症例を蓄積することが,本疾患の臨床的特徴を解明するために必要である.

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非特異性多発性小腸潰瘍症の原因遺伝子として,プロスタグランジン輸送体をコードするSLCO2A1 が同定され,本症の新名称としてchronic enteropathyassociated with SLCO2A1 gene(CEAS)が提唱されている.一方,欧州ではcryptogenic multifocal ulcerous stenosing enteritis(CMUSE)と呼ばれる小腸潰瘍症の記載があり,主たる病態がプロスタグランジンの合成障害であることが確認されている.これら二つの疾患を合わせたプロスタグランジン関連腸症の概念が提唱されており,希少ではあるが腸管ベーチェット病を含む慢性小腸潰瘍症の重要な鑑別疾患である.

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非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)起因性小腸病変は,カプセル内視鏡やバルーン内視鏡により明らかとなってきた.機序として細胞内のミトコンドリア障害,細胞間のtight-junction の脆弱化,apoptosis やnecrosis,COX-1 阻害による粘液分泌の低下や微小循環障害,胆汁酸や腸内細菌,蛋白分解酵素,食物の侵入による炎症が考えられる.PPI によるdysbiosis の関与も報告されている.貧血,血便,下痢,腹痛などが多い.内視鏡所見として発赤,微小な絨毛欠損,びらん,アフタ様潰瘍,打ち抜き様潰瘍,輪状潰瘍,膜様狭窄がみられる.治療としてはNSAIDs の中止,COX-2 選択的阻害薬や他の鎮痛薬への変更,ミソプロストールやレバミピドなどの粘膜保護薬,抗菌薬,プロバイオティクスの予防効果の有用性が報告されている.

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消化管病変を伴う膠原病,血管炎には多くの疾患がありその病態は血流障害によるものである.血管炎は罹患血管のサイズにより病因,病態が異なり結節性多発動脈炎と抗好中球細胞質抗体関連血管炎とに分類される.病態の主体はおもに閉塞性血管炎による虚血性変化と潰瘍病変や動脈瘤破裂による出血である.これらの疾患はそれぞれに特徴がありIgA 血管炎のように皮膚病変が消化器症状に先行して出現するものもあれば腹痛や下血,血便を主訴に医療機関を受診するケースもあり,各疾患の特徴を理解し,これらの疾患を常に念頭におくことにより正しい診断・治療に導けるものと思われる.

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近年“clean colon”の概念が提唱され,大腸ポリープに対するcold polypectomy(CP)が普及してきている.CP にはスネアを用いたcold snarepolypectomy と鉗子を用いたcold forceps polypectomy(CFP)があり,CFP は大腸微小ポリープ(5 mm 以下)に対して施行されるが,簡便・安全である一方で切除後の病変遺残に関する懸念があった1).しかし,遺残組織のその臨床的意義に関しては明らかになっていないことから,局所再発率を明らかにすることが重要であると考えられた.そこで今回われわれは多施設共同前向きコホート研究により5 mm 以下の大腸微小ポリープに対するCFP の局所再発率とそのリスク因子について検討した.

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潰瘍性大腸炎(ulcerative colitis;UC)の患者においては,大腸粘膜の慢性炎症を背景に大腸炎関連大腸癌(colitis-associated cancer;CAC)やその前癌病変たるdysplasia の発生リスクが高いことが知られ,発癌の早期発見のためにサーベイランス大腸内視鏡検査が有効であり重要と考えられている.近年本邦において行われた狙撃生検とランダム生検の有用性を比較したランダム化比較試験では,腫瘍性病変の検出率において狙撃生検が従来のランダム生検と遜色がないことが示されたが,CAC やdysplasia の内視鏡像は通常の散発性大腸癌と比較してしばしば平坦で境界不明瞭であり,多くの非専門医にとってどのような病変を標的として生検すべきか,という点については明らかにはなっていない.本研究においてわれわれはUC のサーベイランスにおいて腫瘍性病変を発見・診断するために狙撃生検を行うべき内視鏡所見を明らかにすることを目的として,手術検体に対する実体顕微鏡観察によるKudo のpit pattern を含む表面構造の特徴と病理組織学的所見との関連を解析した.

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巻総目次

著者索引

Key word 索引

目次

次号予告

編集後記

基本情報

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INTESTINE
23巻6号 (2019年11月)
電子版ISSN:2433-250X 印刷版ISSN:1883-2342 日本メディカルセンター

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