臨床雑誌内科 121巻5号 (2018年5月)

特集 咳、痰のみかた

特集のねらい

咳を聞き逃さない 仁多 寅彦
  • 文献概要を表示

 「えへん!」と “咳払い” をすると,周囲の人は何かあるのかと注目してきます.

 「咳をしても一人」(尾崎放哉)という一句からは,咳をしているのに周囲からの反応のない様子から,深い孤独感が伝わってきます.

Overview

  • 文献概要を表示

Summary

▪咳嗽は知覚神経(Aδ線維,C線維)とその終末である咳受容体を介した気道内の分泌物,異物,吸引ガスなどを排除する生体防御反応である.

▪病的な咳嗽は種々の原因で末梢の咳感受性が亢進することで発生するが,最近では中枢性の神経伝達における過敏性の関与も指摘されている.

▪咳嗽は持続期間や喀痰の有無で分類され,各原因疾患の鑑別診断に有用である.

痰の分類 角川 智之
  • 文献概要を表示

Summary

▪喀痰は肉眼的には泡沫状痰,漿液性痰,粘液性痰,膿性痰,血性痰・喀血などに分類される.

▪漿液性痰は無色透明で粘度が低くサラサラした性状を示し,気管支喘息,気管支拡張症,肺水腫などでみられる.

▪粘液性痰は無色透明~白色で,粘度が高くネバネバした性状を示し,気道病変優位慢性閉塞性肺疾患(COPD),急性気管支炎の初期などでみられる.

▪膿性痰は黄緑色で粘度が高くネバネバした性状を示し,呼吸器感染症でみられることが多い.

▪血性痰・喀血は肺がん,気管支拡張症,肺梗塞,びまん性肺胞出血症候群などでみられる.

▪喀痰の性状から原因疾患をある程度想起することができるため,喀痰のみられる患者の診療では,患者から喀痰の性状を聴取することはもちろんのこと,できる限り医師自身の目で確認することが重要である.

  • 文献概要を表示

Summary

▪咳嗽・喀痰は受診動機として最も頻度の高い症状であり,呼吸器内科外来だけではなく,一般内科外来にも多く受診される.

▪咳嗽・喀痰患者の初期診療のポイントとして,咳嗽の持続期間に応じて分類することにより原因疾患を推測する.

▪喀痰の有無・性状や他の随伴症状によって喀痰培養検査をはじめ,血液検査等各種検査を進めていく.

▪咳嗽の適正化障害の機序を理解したうえで,原因の鑑別をし対応していく.

咳と痰の原因を探るための検査

胸部X線検査 宮本 篤
  • 文献概要を表示

Summary

▪急性咳嗽で受診時咳嗽のピークが過ぎていない場合に胸部X線検査を考慮する.

▪慢性遷延性咳嗽には胸部X線検査を実施する.結果が正常であれば,主に咳喘息,後鼻漏,胃食道逆流症を鑑別する.さらに,それらが否定的であれば,胸部CTにより軽度の肺線維症,気管支拡張症などが判明することがある.

▪胸部X線検査は肺野だけでなく中枢気道の狭窄がないか念入りに読影する.

血液検査 北村 英也
  • 文献概要を表示

Summary

▪咳嗽・喀痰は,日常臨床で医師が直面する最も一般的な症状の一つであり,咳嗽の原因は,予後良好で自然軽快する感冒から心疾患,アレルギー性疾患,びまん性肺疾患,肺がん,消化器疾患,薬剤性肺障害まで多岐にわたる.

▪咳嗽期間と喀痰の有無にて原因疾患が予想されるが,咳嗽持続期間とともに非感染疾患による頻度が増加してくる.疾患を想定したうえで一般的な血液検査のほかに,特異的な血液検査も必要になってくる.

▪診断や病態を深く掘り下げるために血液検査を施行するが,その疾患の背景や併存症を考えたうえで,さらに血液検査項目を選択していくことは,実地臨床において非常に大切である.

喀痰検査 角川 智之
  • 文献概要を表示

Summary

▪喀痰は気道分泌物のほかに,剝離した細胞,常在細菌のほか,原因菌,病的結晶,腫瘍細胞などを含むため,呼吸器系疾患の診断に重要である.

▪肉眼的所見,各種染色法を用いた顕微鏡的所見,培養検査などにより診断に迫ることができる.

咳嗽患者における肺機能検査 冨島 裕
  • 文献概要を表示

Summary

▪咳嗽の原因として,アトピー咳嗽,咳喘息,喘息,および慢性閉塞性肺疾患(COPD)を疑うときに肺機能検査が有用である.

▪スパイロメトリーや気道可逆性検査が基本的な検査である.

▪呼気一酸化窒素(NO)濃度測定,および広域周波オシレーション法を用いた呼吸抵抗の測定は,簡便で迅速であるため咳の診療に実用的である.

▪咳嗽の性状,随伴症状,喘息やCOPDの危険因子を含む問診や肺機能検査以外の検査と総合的に判断することが必要である.

咳と痰の治療のまとめ

鎮咳薬・去痰薬 喜舎場 朝雄
  • 文献概要を表示

Summary

▪中枢性鎮咳薬は麻薬性と非麻薬性に分類される.

▪患者背景を意識して薬剤を使い分けることが重要である.

▪去痰薬は個々の薬剤の特徴を理解して処方する.

▪詳細な問診により解剖学的に主たる感染部位を把握して薬剤を使用する.

▪細菌性肺炎の急性期で膿性痰を伴っている時期には基本的に鎮咳薬の使用は控える.

▪非定型肺炎や間質性肺炎などで乾性咳嗽で睡眠が障害されたりQOLが著しく障害されている場合にしっかりと鎮咳薬の処方をする.

▪去痰薬のなかには慢性閉塞性肺疾患(COPD)の急性増悪の抑制に有効な薬剤があることを理解する.

▪気管支喘息では鎮咳薬の使用が喘息発作の遷延化につながる場合があり,使用はできるだけ慎む.

  • 文献概要を表示

Summary

▪咳喘息,気管支喘息,慢性閉塞性肺疾患(COPD)患者の咳や痰の治療では,気管支拡張,気道分泌亢進の抑制,気道クリアランスを改善させることが重要である.

▪咳喘息や気管支喘息では吸入ステロイドが,COPDでは気管支拡張薬の吸入薬が治療の第一選択薬である.

▪吸入薬の薬理学特性,吸入デバイスの特徴を理解し,患者に適した吸入薬を選択することが重要である.

排痰法 神津 玲 , 田中 貴子
  • 文献概要を表示

Summary

▪排痰法とは,物理的な外力などを利用して気道内に貯留する分泌物の移動および排出を促進する手段である.

▪適応は,気道分泌物過剰産生と貯留によって排出障害をきたしている患者であり,多量の喀痰(目安として1日の喀痰量が30mL以上)を有する症例,咳嗽能力低下による自力での排痰困難例が中心となる.

▪排痰法の基本は咳嗽と強制呼出手技であるが,近年は機械的咳嗽介助,呼気陽圧,陽・陰圧体外式人工呼吸器などを用いる方法も適用されている.

▪喀痰量の多い呼吸器疾患に対する本法のエビデンスは確立されており,各種排痰手段による効果に大きな相違はない.

喀痰による窒息とその対応 牧野 淳
  • 文献概要を表示

Summary

▪喀痰による窒息は,気道感染や気管支喘息,閉塞性肺疾患による喀痰の性状・産生量の変化,あるいは長期臥床,脳卒中などによる呼吸筋力の低下などが原因となり,喀痰が中枢気道に閉塞して生じる.

▪予防的治療として,気管支拡張薬,高張食塩水ネブライザー,ステロイド,抗菌薬などの薬物療法に加え,胸部叩打法や体位ドレナージ,気管支鏡吸引,気管切開(輪状甲状膜切開)などの非薬物療法がある.

▪意識障害や気道開通が確認されない場合は,速やかな気管挿管が必要である.気管挿管が困難な場合は,気管支鏡下の挿管,輪状甲状膜切開などを検討する.輪状甲状膜切開の長期留置が予測される場合は,気管切開への移行を考慮する.

感染性咳嗽 冨山 周作 , 吉野 俊平
  • 文献概要を表示

Summary

▪感染性咳嗽は微生物の気道への感染により炎症が起こり,それにより惹起される咳嗽である.

▪感染性咳嗽は急性咳嗽の原因として,第一に考えるべき疾患である.

▪気道感染症は持続期間により急性気道感染症と慢性気道感染症に分類される.

▪急性気管支炎は3週間ほど続く咳嗽,性状の変化する膿性痰が特徴である.多くはウイルス感染症であり,抗菌薬は必要のない場合がほとんどである.

  • 文献概要を表示

Summary

▪感染性咳嗽の原因とされるマイコプラズマ,肺炎クラミジア(クラミドフィラ),百日咳は,いずれも菌体の培養同定が困難であるため,抗体検査などの間接的な手段で診断する.

▪マイコプラズマは抗体価診断が複数あり,解釈を正確に行うべきで,とくにIC法については注意が必要である.

▪マイコプラズマ,クラミドフィラは疫学が肺炎について蓄積されている.

▪クラミドフィラ,百日咳についてはこの10年以内に複数回の診断方法の変更があり,それぞれの検査を把握するべきである.

▪マイコプラズマと百日咳の抗体価診断は,小児科の診断基準と既感染が多い成人での診断の目安を分けて考えることに留意すべきである.

  • 文献概要を表示

Summary

▪慢性咳嗽で原因が不明である,もしくは治療効果が思わしくないときは肺結核症を鑑別に入れ,CTを含めた胸部画像検査を躊躇しない.

▪肺結核症を疑うときは喀痰を3回提出し,そのうち塗抹検査を3回,培養検査を3回,PCRを1回行う.培養が陽性となったら菌同定検査を追加する.

▪結核の診断をしたら,速やかに保健所へ連絡が必要である.

▪非結核性抗酸菌や真菌は,痰で検出してもコンタミネーションの可能性があり,症状や画像と合わせた総合的な評価が必要である.

▪血清学的な検査よりも微生物学的検査が重要である.

▪安易な抗菌薬処方には,結核菌のニューキノロン耐性,MAC菌のマクロライド耐性を引き起こすリスクがある.

咳と痰の原因となる疾患とは

感染後咳嗽 宮沢 直幹
  • 文献概要を表示

Summary

▪先行する感冒様症状があり,3週間以上咳嗽が遷延する場合は感染後咳嗽を疑う.

▪遷延性慢性咳嗽の原因となる他疾患の除外が必要である.

▪咳嗽は通常,自制内で自然軽快する.

▪症状が強いときは中枢性鎮咳薬などの対症療法を行う.

  • 文献概要を表示

Summary

▪咳嗽の原因として種々の疾患があるが,痰が絡む咳(湿性咳嗽)の大きな原因の一つに副鼻腔炎の後鼻漏がある.副鼻腔炎の後鼻漏による咳の定義はガイドラインに示されている.

▪副鼻腔炎に気管支拡張症など下気道疾患を合併する副鼻腔・気管支症候群(SBS)があるが,そのなかには典型な全身疾患であるKartagner症候群やcystic fibrosisも存在するので注意を要する.

咳喘息 髙橋 歩 , 今野 哲
  • 文献概要を表示

Summary

▪咳喘息は咳嗽を唯一の症状とする喘息の亜型である.

▪病態,臨床的特徴は喘息に類似し,治療も喘息と同様である.

▪典型的喘息に移行する場合もあり,早期の治療導入が必要である.

▪治療継続,アドヒランス向上のために患者への適切な説明も重要である.

  • 文献概要を表示

Summary

▪慢性の咳嗽・喀痰の原因疾患として,慢性閉塞性肺疾患(COPD),気管支喘息,間質性肺炎は重要な鑑別疾患となる.

▪COPDと気管支喘息は頻度の高い疾患であるが,それぞれの特徴を正確に見極めたうえで適切な吸入薬を選択し,繰り返しの吸入指導も含めた長期管理を行うことが重要である.

▪間質性肺炎の病態は多彩であり診断も容易ではない.しかし,薬剤性肺炎や過敏性肺炎など,原因除去で根本解決可能な疾患もあり原因精査を十分に行うことが大切である.

▪それぞれの疾患は互いに並存することもあり,また逆流性食道炎や後鼻漏などが並存している場合もある.さまざまな可能性を考慮して丁寧に問診や診察を行うことが診療の基本となる.

肺腫瘍 長瀬 清亮
  • 文献概要を表示

Summary

▪肺腫瘍の咳嗽の特徴は,経過が長い,対処療法で改善しない,血痰や胸痛,呼吸困難などの症状を伴っていることが多い.

▪肺実質への浸潤のほかに,中枢気道狭窄,閉塞性肺炎,がん性胸膜炎,がん性心膜炎,がん性リンパ管症,上大静脈症候群など肺腫瘍の局在による直接的な刺激により咳嗽をきたす.

▪肺炎や薬剤性肺障害,放射線肺臓炎など,がん治療に伴う副作用や合併症も咳嗽の原因となる.

▪咳嗽の治療は,まずは原疾患に対するアプローチが原則であるが,それ以外にも上記のようなさまざまな病態別の治療や,鎮咳薬やコルチコステロイドなどの緩和的治療もある.

  • 文献概要を表示

Summary

▪咳嗽の原因として忘れてはいけないものに,心不全があげられる.心不全では肺毛細血管圧の上昇により気道に漏出した水分が咳中枢を刺激し,咳嗽反応が誘発される.

▪心不全ではピンク色の泡沫痰を伴う湿性咳嗽が出現することが多く,喘鳴を認める場合もある.また,夜間に出現し,臥位にて改善することが特徴である.これらの知識を踏まえたうえで,咳嗽を主訴に受診した患者を正確に心不全と診断することが重要である.

▪治療は心不全そのものの治療にほかならず,主な治療は利尿薬による体液貯留改善であるが,状況によっては強心薬の使用が必要となる.

  • 文献概要を表示

Summary

▪胃食道逆流症(GERD)の定型的症状である胸灼け,おくびのほか,非定型症状として胸痛,嗄声,咳などがある.

▪GERDによる慢性咳嗽は,欧米では頻度は高く,本邦ではまれとされてきたが,近年増加傾向にある.

▪GERD症状を呈する患者の上部消化管内視鏡による食道粘膜所見は,その多くが非びらん性である.

▪GERDによる咳の治療前診断にはGERDに特徴的な病歴や問診が参考になる.また,咳喘息など他の慢性咳嗽疾患にGERDによる咳がしばしば合併することがあり,咳が逆流を惹起あるいは悪化させて悪循環を招く可能性が示唆されている.

▪GERDによる咳の治療には,そのリスク因子の回避とともにプロトンポンプ阻害薬(PPI)が第一選択となる.改善が乏しい場合は消化管運動改善薬と併用する症例もしばしば存在する.

薬剤性咳嗽 上出 庸介
  • 文献概要を表示

Summary

▪薬剤性咳嗽の原因はいくつもあるが,とくにアンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬が重要である.

▪ACE阻害薬は乾性咳嗽,咽頭部異常感覚を特徴とし,5~35%の発現頻度で発症し,とくに女性,アジア人,高齢者,非喫煙者,心不全患者で多い.

▪ACE阻害薬による咳嗽は,ブラジキニン,サブスタンスP,プロスタグランジンなどの関与が報告されているが,全貌は明らかになっていない.

▪ACE阻害薬をはじめとする薬剤性咳嗽の治療は,被疑薬の中止が原則である.

▪咳感受性亢進による咳嗽発作ではないが,非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)過敏喘息(アスピリン喘息)に生じる薬剤誘発性喘息発作に伴う急性咳嗽は,疑うことが重要である.

心因性咳嗽 熱田 了
  • 文献概要を表示

Summary

▪心因性咳嗽は心的要因が原因となり出現する症状である.

▪診断の基本は除外診断であり,多くの侵襲的・非侵襲的検査が必要であるが,詳細な問診などにより早期に発見することも可能である.

▪治療は薬物療法と心理療法が中心となる.

▪現代社会において慢性咳嗽の診断の際には,同疾患の存在は常に念頭に置く必要がある.

トピックス

  • 文献概要を表示

Summary

▪高齢者の自然経過は「脳の衰え→嚥下反射障害→咳反射障害→肺炎→死亡」である.

▪高齢者の食事中や食事後にみられる湿性の咳は,その高齢者の嚥下機能が低下しているが,咳嗽機能がまだ保たれている状態のときに起こる.

▪咳が出るときは咳衝動(urge-to-cough)という感覚が先行して大脳皮質に伝わり,その咳衝動が咳反射を調節している.

▪咳嗽機能が保たれているうちはまだよく,誤嚥したのに咳嗽が起きてこない状態が最も危険であり,誤嚥性肺炎の発症と直結している.

  • 文献概要を表示

Summary

▪慢性咳嗽は咳喘息,胃食道逆流症(GERD)などを原因とするが,現実には他疾患との合併が多いGERDを含めて想定される複数の原因疾患に対する最大限の治療にても改善が不十分な患者や,原因を明らかにしえない患者は少なくない.

▪unexplained chronic cough(UCC)とは,原因が不明でempiric therapyを含む十分な治療下にも持続する慢性咳嗽を指す.

▪cough hypersensitivity syndrome(CHS)とは,低レベルの温度・機械的・化学的刺激を契機に生じる難治性の咳を呈する臨床的症候群であり,UCCを含む難治性慢性咳嗽の病態を説明する概念である.これらの概念や治療について述べる.

  • 文献概要を表示

 仁多 今回の「内科」の特集は,咳と痰です.臨床の第一線で咳嗽患者さんを診察している呼吸器内科専門医に集まっていただきました.

 「咳嗽」にはさまざまな分け方があると思いますが,日本呼吸器学会から出ている「咳嗽に関するガイドライン」では,咳嗽をその持続期間で「急性咳嗽」,「遷延性咳嗽」,「慢性咳嗽」に分類して考えると持続期間によって感染性の咳嗽が多いのか非感染性の咳嗽が多いのかが変わってくることが示されています(「咳嗽の発生機序と分類」図2参照).

  • 文献概要を表示

 カテーテルアブレーションとは,心臓のなか(一部外壁に存在することもあるが)に存在する不整脈の原因部位に対して,カテーテルを用いてそれを破壊する根治治療のことを指す.カテーテル先端から高周波電流を流して心筋の限局した領域(1回の通電で直径5mm程度)を加熱変性させる方法が現在の主流であり,簡単に言えば「心筋を焼いて不整脈を治す」という方法になる.

 一方で,それとは対極的な治療方法として1990年代後半から開始されたのが冷凍カテーテルアブレーション法であり,焼灼するのではなく冷凍凝固させて不整脈を根治する.冷凍カテーテルアブレーションが世界的に広く普及することになったのは,クライオバルーンアブレーションによる肺静脈隔離の普及によるところが大きい.これはバルーンを肺静脈入口部に押し当てて閉塞させ,接触した円周上をワンショットで冷凍凝固壊死させるデバイスであり,その効果の高さと技術的ハードルの低さから短期間で世界中に普及しつつある.しかし,現在のところ冷凍アブレーションの原理や特性に関しては,ほとんどの術者が十分な知識をもたずに単なる道具として冷凍アブレーションを使用しているのが実情と言える.冷凍凝固の基礎知識を臨床使用と絡めてわかりやすく解説するガイドブックの刊行を(筆者を含めて)多くの術者が待ち望んでいるところであった.

  • 文献概要を表示

 本書を手にとったとき,タイトルにまず目を引かれた.一般によく使用される「抗がん剤(薬)」とせず,「抗悪性腫瘍薬」としている.英語ではantineoplatic agentsにあたるが,欧米では現在でも悪性腫瘍の治療薬に対しchemotherapy(化学療法)がよく使用される.抗がん薬の開発は,2000年を境に殺細胞性抗がん薬から分子標的治療薬にシフトしている.化学療法がPaul Ehrlich,秦佐八郎らが開発したサルバルサンやその他のケミカルに対して命名されたchemotherapyに由来することを考えると,以前より使用されている化学療法薬と低分子・抗原(大分子)を標的としたがん治療薬を包含する形で抗悪性腫瘍薬というのが最もふさわしいと考えられる.正確なterminologyは重要であることから,時代を反映した適切な言葉の普及を意図したものであろう.さらに,抗がん薬治療のknow-howを記載したマニュアルではなく,参考書という意味の「コンサルトブック」としていることも,その内容を期待させるタイトルとなっている.

 本書は第2版,第1版と同様ポケットサイズで,白衣のポケットに入れて持ち運びでき,病棟・外来で必要時,容易に取り出し参照できるのはありがたい.筆者はこの書評を記載するにあたり,通勤バス・地下鉄のなかで通読した.老眼鏡をかける手間を除けば,電車が混んで立っていても片手で読むことができる.

連載 明日から使える! 臨床英語論文の書き方,書かせ方

第10回 大島 忠之
  • 文献概要を表示

本連載の意義

 本連載は多くの論文を書かれているエキスパートの先生方に同じ質問に対して回答していただきます.共通の質問に回答してもらうことでみえてくる論文執筆に共通する定石や特定の先生だけのTipsを学びとっていただければと思います.(連載企画者 坂倉健一)

連載 呼吸器内科×○○科で語る! Comorbidity患者さんの診かた

  • 文献概要を表示

 今回の患者さんは,鼠径ヘルニアの手術目的に当院外科を紹介受診となった60歳代の男性です.外科での診察でヘルニアは手術適応と判断されましたが,その際に昼間の眠気などはなかったのですが顔貌と体型から睡眠時無呼吸症候群(SAS)が疑われたため,麻酔科外来受診前に当科に紹介受診となりました.手術前の麻酔科外来の受診も予定されています.

連載 未来は明るい! 明日を担う女性医師の活躍

  • 文献概要を表示

この連載では,学会,大学,医師会,医療現場における女性医師を支援する取り組みについて不定期に紹介していきます.

連載 教えて! レントゲン 胸部単純X線の(得)目付けポイント

  • 文献概要を表示

 50歳代女性の方です.10年前に僧帽弁閉鎖不全症で僧帽弁形成術を受けていました.今回,咳,痰,そして熱があり,心臓の手術を受けた病院を受診した後,当院を紹介されました.その経緯を詳しく尋ねてみました.

 ✔2ヵ月前から咳と痰があった.

 ✔2週間前から38°C台の発熱が続くようになり,近くの医院で抗菌薬をもらったが,熱は下がらなかった.熱は出るもののしんどさはなく,通常の仕事をしていた.

 ✔心臓手術をした病院での心臓超音波検査では明らかな異常は指摘されなかったが,胸部単純X線で異常が認められたため,CTを撮影した.

 ✔CTで縦隔腫瘍といわれ当院を紹介された.

 ✔喫煙歴,飲酒歴はない.

さて,どこが怪しいでしょうか.

連載 プライマリーケア医のがんの診かた ~かかりつけ患者さんと共にたたかうために~

  • 文献概要を表示

がんの専門医が地域の診療を始めて気づいたこと

 44床の小規模病院に勤務する筆者の専門は腫瘍内科です.一般に腫瘍内科はがんの薬物療法を担うことを中心に据えて臓器横断的にがん診療に携わる専門医とされています.本専門医は2017年9月の段階で1,191名と欧米に比較して圧倒的に少ない人数です1).地域のがん診療拠点病院やがん診療連携拠点病院への配置も充足していないなか,腫瘍内科医がプライマリーケアを中心とする地域での診療に必要なのかどうかについてはまだ答えは出ていません.

  • 文献概要を表示

 は じ め に 甲状腺眼症は,甲状腺自己免疫疾患に伴う眼病変でTSH受容体や外眼筋抗原に対する自己免疫機序によって生じると考えられている.Basedow病の25~50%,橋本病の2%程度に認められるとされ,頻度の高い甲状腺外病変である1)

 甲状腺眼症の診療においては,中等症~重症例で活動性を有する症例に関しては,静脈内グルココルチコイド投与と放射線治療が標準療法となっており2),その有効性が報告されているが治療抵抗性症例も存在する.さらに,ステロイドパルス療法でも活動性が制御できない難治例に対しては他の免疫抑制療法が推奨されているが,甲状腺眼症に対する免疫抑制薬の使用に関しては十分な報告がない.今回,ステロイド治療不応性の難治性甲状腺眼症に対してcyclophosphamideパルス療法(以下,IVCY療法)が有効であった症例を経験したので報告する.

  • 文献概要を表示

 は じ め に 全身性エリテマトーデス(systemic lupus erythematosus:SLE)の心合併症としては心外膜炎,心筋炎,心内膜炎が知られている.SLEの心臓病変は,多くは無症状であるが,本症例のように重症の心機能障害が初発症状となる例も報告されている1,2).今回われわれは重症心不全で入院しSLEと診断された1例を経験したので報告する.

基本情報

24329452.121.05.cover.jpg
臨床雑誌内科
121巻5号 (2018年5月)
電子版ISSN:2432-9452 印刷版ISSN:0022-1961 南江堂

文献閲覧数ランキング(
10月11日~10月17日
)