臨床雑誌外科 75巻4号 (2013年4月)

外科医が知っておくべき緩和ケア

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緩和ケアは,「癌に伴って起きる体のつらさ,心のつらさ,生活のつらさなど,さまざまなつらさを和らげるためのケア」であり,終末期医療ではなく,癌と診断されたときから治療と並行して行われるべきものである.このためには,主治医,担当看護師から始まり,緩和ケアチーム,ホスピス,緩和病棟の存在と活動が欠かせない.これらのつらさ克服のための実務とその知識・技術習得のための一助として,日本緩和医療学会からは,『がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン』を始め,緩和ケアに関連したさまざまなガイドラインが上梓されている.

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癌性痛の治療は,痛みの評価に基づいて行う.痛みの原因を同定し,原因治療が可能か検討する.同時に痛みの特徴の評価を行い,WHO 3段階除痛ラダーに則って痛みの程度や病態に応じて鎮痛薬,鎮痛補助薬を投与する.非オピオイド鎮痛薬のみで除痛困難な場合はオピオイド鎮痛薬を併用開始し,痛みがとれる十分な量まで増量する.副作用のためにオピオイドが増量できない場合や,増量に見合う効果が得られない場合は,鎮痛補助薬の併用やオピオイドの変更を検討する.適切な鎮痛薬処方を行っても患者が鎮痛薬を飲みたがらない場合も多い.患者の思いを傾聴し,正しい情報提供を行って,適切な内服を行ってもらうことも治療効果を上げるうえで重要である.

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患者自己調節鎮痛(patient-controlled analgesia:PCA)は,患者が必要と感じるときに,患者自らの手で鎮痛薬を安全に使用することができるように考案された投与法である.オピオイド経口投与と同じように患者自身が主体となって痛みに対処できるため,経口不能時や,骨転移など変動が大きい痛みがある癌患者にとって有用である.PCAの使用にあたり知っておくべき知識について概説する.

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WHO方式の癌性痛治療を行うことによって,80~90%の癌患者が有効な鎮痛を得ることができるとされている.しかし,それ以外の患者には有効な鎮痛手段を適切に提供する必要がある.神経ブロックについて,どのような疾患にどのような神経ブロックがなされるべきかを紹介したい.

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緩和医療の領域において,「こころのケア」がより重要視されることは論をまたないが,身体加療を行う医療者の立場からすれば,精神症状の見極めを行うことは難解であるという声も聞かれる.本稿ではこのような現場の意見をふまえ,緩和医療の場面での精神症状への対応について,たとえば,「ベンゾジアゼピン系薬剤の漫然とした投与をしてはいけない」など,「してはならないこと」に焦点をあて言及した.また「熟睡を得させる薬物治療」についても具体的な使用法を交え記載を行った.

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進行・再発癌患者の消化管閉塞は,嘔気,嘔吐,腹部膨満,腹痛などの消化器症状を伴い患者のquality of life(QOL)を低下させる.その治療は外科的処置だけでは対応できずに苦慮することが多い.近年octreotideが消化管ホルモンおよび胃液,膵液の分泌抑制,水,電解質の吸収促進などの作用により,消化管閉塞の治療に用いられている.Octreotideの使用法を習得することで,癌終末期消化管閉塞患者のQOLを向上させることが可能である.

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「がん患者を含む国民が,がんを知り,がんと向き合い,がんに負けることのない社会」をめざす(2012年6月『がん対策推進基本計画』趣旨より)ために,「診断時からの緩和ケア」の必要性は周知のところである.癌患者やその家族・重要他者への全人的ケアの提供には,医療モデルにとどまらない生活モデルの視点が不可欠となる.療養生活を支える医療ソーシャルワーカー(MSW)が寄与できることは多岐にわたる.癌になっても"その人らしい暮らし"の保障の可能性について,MSWの立場から述べる.

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癌治療を担う外科医には,基本的な緩和ケアの知識が必要である.本稿では,コミュニケーション技術,骨転移などの疼痛治療の方法,呼吸困難の緩和について述べた.SPIKESはわるい知らせを伝えるコミュニケーション技術であり,外科医が手術の技術を求められるのと同じように,癌治療を担う外科医には必須である.骨転移は再発形式で多くみられる病状で,症状の発現を遅らせることが重要である.肺転移などによる呼吸困難は症状緩和がむずかしいと思われているが,系統的に診断することにより症状の緩和が図れる病態である.外科医に求められるのは,チーム医療と患者の意思決定に沿って医療の面から支える姿勢である.

外科学の古典を読む[第28回]

虫垂炎と腹痛(第二報) 小澤 達吉

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85歳女。右下腹部痛を主訴とした。臍の高さの右下腹部痛の圧痛と反跳痛を認め、炎症反応の軽度上昇を認める以外に特記すべき異常はなかったが、腹部CTで右下腹部の腹腔内脂肪織の濃度上昇と同部の腹壁肥厚を認めた。保存的治療で改善しないため、特発性分節性大網梗塞と診断して腹腔鏡下に緊急手術を行い、全体的に肥厚して暗赤色に変色した大網(15×15cm)を切除した。切除標本の病理組織像は出血性大網梗塞の所見であり、術後経過は良好で、現在まで再発は認めていない。

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79歳女。肝硬変の経過観察中に腹腔内腫瘍を認め、腹部造影CTでは右側腹部に嚢胞性部分と充実性部分が混在する腫瘤(10cm大)が存在し、嚢胞成分の壁は不均一に造影され、充実性部分にはFDGの集積を認めた。悪性の腹腔内腫瘍を念頭に手術を行ったところ、腫瘍は茎捻転を伴い回腸末端より約210cm口側腸管の腸間膜対側部と連続しており、茎捻転を解除して腫瘍を含む小腸部分切除を行った。腫瘍には紡錘形の細胞の増殖がみられ、免疫染色ではKIT、平滑筋アクチンは陽性、CD34、デスミン、S-100は陰性で、核分裂は5個未満/400倍50HPFであった。また、腸管の軸捻転、消化管出血や腸管粘膜面の明らかな異常は認めず、茎捻転を伴った有茎性管外発育型小腸Gastrointestinal stromal tumor(GIST)と診断した。

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80歳男。上腹部痛を主訴とした。糖尿病にてα-グルコシダーゼ阻害薬内服中であり、入院時には腹部全体の膨満と圧痛を認めたが、筋性防御や反跳痛は認めなかった。腹部X線所見、腹部CT所見では両側横隔膜直下、肝周辺、小腸周辺にfree airを認め、消化管穿孔による気腹症との鑑別が困難なため、腹腔鏡下腹腔内観察を行ったところ、回腸の腸管・腸間膜管の漿膜直下に粟粒大の気腫を多数認めた。回腸腸管嚢腫様気腫症による気腹症と診断して洗浄とドレーン留置を行ったが、腹腔内洗浄液は無菌で、後日の上下部消化管内視鏡検査では表層性胃炎と炎症のない結腸多発憩室が指摘されるのみであった。α-グルコシダーゼ阻害薬の服薬歴から同薬を中止したところ、放屁・腹部膨満感はなくなった。

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75歳男。腹痛、嘔吐を主訴とした。右下腹部に手拳大の膨隆と同部位の圧痛を認め、鼠径ヘルニア嵌頓の疑いで用手的に還納するも症状は改善せず、腹部単純X線像、腹部単純CT像では右上腹部を中心とした小腸の拡張像、小腸イレウス、右下腹部腹腔内のボール状のclosed loopを認めた。保存的治療ではイレウス症状の改善が得られず、準緊急で開腹手術を行ったところ、浮腫状に肥厚したリング状の腹膜に小腸が絞扼され、ヘルニア嚢に包まれて嵌頓した状態のまま腹膜前腔に落ち込んでいた。鼠径ヘルニア偽還納による絞扼性イレウスと診断してイレウス解除と穿孔部の小腸部分切除を行い、術後は良好に経過した。

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60歳代女。便秘を主訴とした。腹腔内リンパ節腫大の精査加療目的で紹介入院した。表在リンパ節腫大は触知せず、腹部CTでは小腸間膜内の腫瘍(83×47mm)とsandwich signを認めた。腸間膜原発の悪性リンパ腫疑いで腹腔鏡下リンパ節生検を行ったが、低侵襲かつ診断に必要な検体量を安全に採取でき、術中迅速組織診で悪性リンパ腫と診断した。病理組織学的所見、免疫染色、細胞表面形質所見、染色体検査所見より濾胞性リンパ腫(grade 1/3)、Ann Arbor分類IIA期と診断し、R-CHOP療法6コースとその後のweekly rituximab維持療法を行った結果、重篤な有害事象を認めることなくCRが得られ、治療開始から2年経過現在も無再発である。

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81歳女。腹痛、下痢を主訴とした。他院で整腸薬を処方されるも改善なく、血液検査ではWBCとCRPの上昇を認めた。大腸内視鏡では上行結腸から横行結腸中央にかけて青色粘膜変化を示し、浮腫・潰瘍形成が著明であり、生検では粘膜下層の血管周囲の硝子化を認めた。また、腹部造影CTでは上行結腸を中心とする全結腸に、粘膜下層の著明な浮腫性変化と上行結腸血管壁の石灰化を認め、特発性腸間膜静脈硬化症(IMP)の診断で手術を行った。病理組織像では静脈系脈管の部分的な石灰化を伴う硬化狭窄が、周囲の線維性変化ともに粘膜固有層から漿膜にかけて広範囲に認められ、病理組織学的にもIMPと診断された。術後経過は良好で、現在も無再発である。

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37歳女。腰背部痛を主訴とした。上行結腸背側の後腹膜腫瘍にて紹介され、入院時の腹部造影CTでは虫垂背側に接する嚢胞性腫瘤を認めたが、内部均一で充実成分や隔壁様構造、周囲脂肪濃度変化や石灰化は認めなかった。術前診断では悪性所見を認めず、若年女性であるため腹腔鏡下に手術を行ったところ、上行結腸や虫垂に腫瘍はなく、上行結腸背側に、後腹膜に覆われた境界明瞭な腫瘍を認めた。腫瘍は単房性腫瘍(95×65mm)でほぼ鈍的剥離により遊離でき、バッグに収納した後、直視下で内容液を穿刺吸引して腹腔外へ摘出した。穿刺液の細胞診所見では変性した上皮様の細胞を数個認めるのみであり、病理組織学的に後腹膜原発粘液嚢胞腺腫と診断された。術後経過は良好で、現在は外来で経過観察中である。

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74歳男。腹部膨満、腹痛、嘔吐を主訴とした。胃癌術後4年目で、再発転移なく経過観察されていたが、腹部CTでは盲腸から上行結腸に広範な壁肥厚と所属リンパ節の腫大を認めた。下部消化管内視鏡では上行結腸に2型腫瘍2個と全周性狭窄を認め、生検にて前者からはGroupV、後者からはGroupIが検出された。多発性転移性大腸癌による腸閉塞として経鼻的イレウスチューブによる小腸減圧の後、拡大結腸右半切除術とD3リンパ節郭清を行い、今回の病理組織像および免疫組織染色と、原発巣と考えられる胃癌標本の組織学的特徴が一致したことから、胃癌の大腸転移と診断した。本例の転移経路としてリンパ行性転移が強く疑われ、術後補助化学療法を行うも、脳転移を来して術後1年で死亡した。

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67歳男。下腹部痛を主訴とした。精査後にS状結腸癌と判明したため、腹腔鏡補助下S状結腸切除術を行い、病理結果を含めた総合診断は大腸癌取扱い規約でS、2型、40×32mm、tub1、pSE、ly2、v1、pN1、sH0、cP0、cM0、fStageIIIaであった。術後補助化学療法を行い、再発なく経過していたが、術後3年以上経過後に初回手術時の左下ポートを内側に延長した小開腹部位に結節を触知した。腹部CT所見では筋よりやや高吸収で均一な造影効果を伴う結節を認め、再発結節を疑い腹壁部分切除術を行ったところ、摘出腫瘤の病理診断は腺癌で、大腸癌の局所再発として矛盾しない所見であり、再発手術後5年半経過現在も無治療、無再発で長期生存を得ている。

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72歳男。下腹部痛を主訴とした。急性胃腸炎に対する入院加療後、退院前スクリーニングとして大腸内視鏡検査を行ったところ、直腸に深い憩室を認め腹痛を訴えた。検査を中止したが、その後も下腹部痛の増強と発熱がみられ、外科紹介時には下腹部全体に著明な自発痛と筋性防御を認め、右側の頸部と胸部に捻髪音を聴取した。腹部CT所見では広範囲の後腹膜気腫、縦隔気腫、皮下気腫を認め、直腸憩室穿孔による腹膜炎と診断して緊急手術を行ったところ、上部直腸に約1.5cmの穿孔部があり、穿孔から手術まで約20時間が経過していたものの腹腔内の汚染は軽度であった。Hartmann手術を選択して直腸切除を行い、病理組織学的所見では高度好中球浸潤を伴った穿孔性潰瘍を合併する直腸憩室を認めた。術後は経過良好であり、数日後に皮下気腫は消失した。

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58歳男。発熱、右季肋部痛、食欲低下、体重減少を主訴とした。入院時検査所見では炎症所見、胆道系酵素上昇、CEA上昇を示し、造影CT上肝両葉に多発肝膿瘍を認めたため、膿瘍の原因検索を行ったところ、下部消化管内視鏡にてRb-Pに半周性のII型病変(中分化腺癌)を認めた。経皮経肝膿瘍ドレナージにより起因菌を同定し、感受性を持つ抗生物質を投与して炎症所見の陰性化、全身状態の改善、全ての膿瘍の縮小・消失を確認後、直腸癌根治手術を行った。病理組織学的所見はRb-P、45×40mm、type 2、tub 2、pMP、ly 2、v2、pN0、fStageIであり、術後2年6ヵ月経過時点で大腸癌の再発・転移や肝膿瘍再発は認めていない。

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26歳男。右副腎腫瘍に伴うCushing症候群の診断で紹介受診した。生後すぐに心奇形を認め、初診時には高血糖と満月様顔貌・中心性肥満・下腹部の赤色皮膚線条を呈した。内分泌学的検査所見では血中コルチゾールが上昇し、血中副腎皮質刺激ホルモンは測定感度以下であり、dexamethasone 2mg抑制試験で血中コルチゾールは抑制されなかった。また、腹部CT所見では完全内臓逆位症と膵体部背側に造影効果の乏しい腫瘤(32×22mm)を認めたため、右副腎腫瘍に伴うCushing症候群と診断して右副腎腫瘍摘出術を行い、病理組織学的に副腎腺腫と診断された。術中、内臓逆位による多少の違和感があり、またCushing症候群による中心性肥満のため腹腔内脂肪が多く術野の確保に少々難渋したものの、心臓血管外科医や小児心臓専門医のサポートのもと、大きな偶発症なく手術を終了し得た。

基本情報

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臨床雑誌外科
75巻4号 (2013年4月)
電子版ISSN:2432-9428 印刷版ISSN:0016-593X 南江堂

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