臨床雑誌外科 87巻4号 (2025年4月発行)

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特集　サルコペニア・フレイルに備える

I. 総論

1．サルコペニアの定義・診断・評価方法（EWGSOP，AWGS）錦織　達人 87巻4号 , 2025年4月 , pp.301-305

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高齢化がすすむ外科の臨床現場でサルコペニアを適切に診断することは，今後ますます重要になる．European Working Group on Sarcopenia in Older People（EWGSOP）やAsian Working Group for Sarcopenia（AWGS）が診断基準を発表し，日本サルコペニア・フレイル学会はAWGS2019に基づいたサルコペニア診断を推奨している．AWGS2019では，サルコペニアを骨格筋の量，力，機能から判定する．骨格筋量低下に加え，低筋力もしくは低身体機能があれば，サルコペニアと診断する．量，力，機能のすべてが低下している場合は重症サルコペニアと診断する．手術前のサルコペニアが術後合併症発生割合を増加させるほか，手術がサルコペニアの原因となることが知られており，外科医自身が診断・介入を行わない場合は，多職種と連携するチームづくりも重要である．

2．サルコペニア肥満斎野　容子 87巻4号 , 2025年4月 , pp.306-312

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サルコペニア肥満（sarcopenic obesity：SO）は，サルコペニアと肥満を併せ持つ病態である．消化器癌領域においてもSOに関連する研究は多数行われてきたが，診断基準が統一されておらず，SO有病率や短期・長期予後への影響もさまざまであった．近年，欧州および日本におけるSO診断基準が発表された．これらのSO診断で用いるパラメータの適切なカットオフ値やSOの予後への影響についてのさらなる研究が望まれる．

3．フレイル・サルコペニアの評価と対策畑中　翔 87巻4号 , 2025年4月 , pp.313-318

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寿命は万人に訪れるが，健康寿命と寿命とのギャップは個人で異なる．加齢に伴うさまざまな変化が積み重なり，健康寿命に陰りがみえた状態を概念的にフレイルと呼ぶ．またそうした加齢に伴う変化の中でとりわけ骨格筋の量や機能に着目した概念がサルコペニアである．フレイルやサルコペニアの改善は健康寿命延伸の鍵である．本稿ではフレイルやサルコペニアの評価とその対策における知見をまとめた．

4．GLIM基準とサルコペニア診断若林　秀隆 87巻4号 , 2025年4月 , pp.319-324

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Global Leadership Initiative on Malnutrition（GLIM）基準とは，国際的な低栄養の診断基準である．表現型基準，病因基準いずれも一つずつ以上該当した場合に低栄養と診断する．GLIM基準の低栄養とAsian Working Group for Sarcopenia（AWGS）2019基準のサルコペニアに一定の関連は認めるが，低栄養はGLIM基準で，サルコペニアはAWGS2019基準でそれぞれ診断することが望ましい．入院中に生じるサルコペニアである入院関連サルコペニアのうち，医原性サルコペニアはすべて予防することが望ましい．

II. 各論

1．乳癌治療におけるサルコペニアとその対策森園　亜里紗 , 田辺　真彦 87巻4号 , 2025年4月 , pp.325-331

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乳癌治療では手術や放射線治療に加え，サブタイプに応じた薬物療法が行われる．化学療法や内分泌療法に伴うサルコペニアは，日常生活動作（ADL）低下を招く可能性がある．治療開始以前の，あるいは治療に伴うサルコペニアは，治療の毒性増加や予後悪化の要因となりうる．対策として，栄養管理と運動，特にレジスタンス運動が予防・改善に有効である．特に，高齢者乳癌の治療選択においては，治療効果のみならず身体的・精神的機能維持を考慮することが重要である．

2．食道癌治療におけるサルコペニアの影響とその対策金村　剛志 , 松浦　記大 , 菅生　貴仁 , 宮田　博志 87巻4号 , 2025年4月 , pp.332-338

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食道癌は病変の進行，食事の通過障害，術前治療の有害事象などによって体重・筋肉量の減少を起こすリスクが高く，サルコペニアと密接に関連した疾患と考えられる．サルコペニアが食道癌術後の合併症や予後悪化と関連していることは過去にも多く報告されており，その対策が必要である．当院では術前治療中，周術期，術後の各ポイントで栄養科，リハビリテーション科などのほかの専門グループと連携し，サルコペニアの対策を行っている．

3．胃癌治療におけるサルコペニアの影響とその対策菅原　弘太郎 , 八木　浩一 , 谷島　翔 , 淺岡　礼人 , 鶴　眞夫 , 要　知輝 , 大矢　周一郎 , 岡本　麻美 , 三輪　快之 , 馬場　祥史 87巻4号 , 2025年4月 , pp.339-345

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胃癌患者は高齢化しており，胃癌患者におけるサルコペニアの有病率は増加している．サルコペニアを呈する胃癌患者の治療成績がわるいことは複数の知見で報告されており，胃癌治療におけるサルコペニア評価の重要性は増している．一方でサルコペニア定義の適正化はいまだ不十分であり，サルコペニアが予後に与える影響の背景機序に関してはいまだ一定の見解が得られていない．栄養運動療法を含めた介入治療を適正化するべく今後も知見を蓄積していくことが肝要である．

4．大腸癌治療におけるサルコペニアの影響とその対策後藤　圭佑 , 小菅　誠 , 衛藤　謙 87巻4号 , 2025年4月 , pp.346-352

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大腸癌患者におけるサルコペニアの有病率はほかの癌種と比較して高くないとされる．しかし高齢化により，大腸癌患者でもサルコペニアの増加が懸念される．骨格筋量減少によるサルコペニアは，周術期合併症や予後の悪化，化学療法の有害事象の増加を引き起こす．サルコペニアの予防・改善には早期発見が重要であり，運動療法や栄養管理を組み合わせたプレハビリテーションが有効である．

5．肝癌治療におけるサルコペニアの影響とその対策筒井　由梨子 , 伊藤　心二 , 戸島　剛男 , 本村　貴志 , 湯川　恭平 , 吉住　朋晴 87巻4号 , 2025年4月 , pp.353-357

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肝癌の中でも，特に肝細胞癌は慢性肝炎や肝硬変を背景肝に有するためサルコペニアの合併率が高いことが知られている．肝細胞癌に対する肝切除術において，サルコペニアの合併は予後不良因子であることから，初診時の握力や検査結果をもとにしたわれわれの術前介入のプロトコールを紹介する．加えて，全身薬物療法におけるサルコペニアの影響に関して薬物による相違点を検討する．

6．肝移植におけるサルコペニアの影響とその対策海道　利実 87巻4号 , 2025年4月 , pp.359-366

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肝移植患者は，浮腫や腹水による活動性の低下に加え，低栄養かつ肝不全状態など二次性サルコペニアを有することが多く，サルコペニアは重要な意義を有する．われわれは肝移植術前サルコペニアや筋肉量や質，内臓脂肪などの体組成異常が予後不良因子であることを明らかにし，周術期運動栄養介入により予後が向上することをはじめて報告した．したがって，通常の術前評価に加え体組成評価を行い，サルコペニア評価や栄養評価に基づく周術期運動栄養介入が手術成績向上のブレークスルーになるであろう．

7．筋肉量の維持が切り開く膵癌治療の未来―術前補助化学療法とサルコペニアのインパクト志村　充広 , 水間　正道 , 海野　倫明 87巻4号 , 2025年4月 , pp.368-372

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膵癌はきわめて予後不良な悪性腫瘍であり，治療成績の向上が急務である．術前補助化学療法（NAC）は重要な治療戦略であるが，NAC前後の低骨格筋量やNAC中の骨格筋量減少は予後に影響する可能性がある．栄養療法と運動療法を組み合わせた「栄養リハビリテーション療法」の適切な介入により，治療中の体力低下防止および筋量維持・増加が治療成績の改善につながることが期待される．

連載　外科医の私論

録画した治療の動画をいかに正しく扱うか塩澤　俊一 87巻4号 , 2025年4月 , pp.358

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近年の情報処理技術の進歩に伴い，患者さんの医療情報は文字情報だけでなく画像や音声を取得し保管することが可能になった．手術や内視鏡的治療の実際を動画として録画・保管するのはその一例で，既に多くの医療機関で行われている．皆さんはどのように扱っているであろうか．

症例

腸閉塞で発症した肺動脈内膜肉腫小腸転移の1例金　晟徹 , 藤田　昌久 , 石川　文彦 , 伊藤　博 , 葛西　豊高 , 新井　基展 87巻4号 , 2025年4月 , pp.373-377

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希少癌の一つである内膜肉腫は，主に大動脈や肺動脈といった大血管の内膜に発生する予後不良な悪性腫瘍である1）．治療の第一選択は外科的切除であるが，内膜肉腫は発生頻度が低く，長期生存例も少ないため，切除後の経過に関する知見に乏しい．今回われわれは，右肺全摘を行った2年5ヵ月後に腸閉塞で発症した肺動脈内膜肉腫の小腸転移を経験した．内膜肉腫の再発や転移に関する報告は少なく，小腸転移は本邦ではじめてであり，文献的考察を加えて報告する．

術後13年目に腸重積で発見された腎細胞癌小腸転移の1例松井　芳夫 , 倉林　誠 , 稲葉　陽子 , 固武　健二郎 , 村田　宣夫 , 福永　真治 , 原田　祐治 87巻4号 , 2025年4月 , pp.378-385

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腎細胞癌の小腸転移はまれな病態である．今回われわれは右腎細胞癌で腎摘出13年後に全身倦怠感，貧血の精査で発見された腸重積状態の腎細胞癌小腸転移の1例を経験したので，文献的考察を加え報告する．

鏡視下手術で小腸嵌頓を解除しえたWinslow孔ヘルニアの1例伊藤　諒 , 伊藤　康博 , 大平　正典 , 鳥海　史樹 , 遠藤　高志 , 原田　裕久 87巻4号 , 2025年4月 , pp.386-391

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Winslow孔ヘルニアは非常にまれな疾患であり，内ヘルニアのうち3～8％程度とされる．今回，われわれはWinslow孔ヘルニアに対し腹腔鏡下で修復することができた症例を経験したので，文献的考察を加えて報告する．

腹腔鏡手術で解除しえた乳び腹水を伴う原発性小腸軸捻転の1例山崎　信義 , 浅井　大智 , 赤嶺　洸太 , 山田　典子 , 小林　昭広 , 緒方　賢司 87巻4号 , 2025年4月 , pp.392-398

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原発性小腸軸捻転は本邦における成人の小腸閉塞手術症例の1.2～3.6％程度と報告され，比較的まれな疾患である．また，乳び腹水を伴う原発性小腸軸捻転に対する腹腔鏡手術の報告例は非常に少ない．今回われわれは乳び腹水を伴う原発性小腸軸捻転に対し腹腔鏡下手術で解除しえた1例を経験したので報告する．

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編集ペン 87巻4号 , 2025年4月 , pp.400

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目次 87巻4号 , 2025年4月

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基本情報

臨床雑誌外科
87巻4号
(2025年4月発行)

電子版ISSN：2432-9428 印刷版ISSN：0016-593X 南江堂

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