総合診療 29巻4号 (2019年4月)

特集 “ナゾ”の痛み診療ストラテジー|OPQRSTで読み解く

片岡 仁美
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外来で、痛みを訴える患者さんに出会うことは大変多い。なかでも慢性疼痛は難治性であることが多く、診断やアプローチが難しい場合もある。

その一方で、「慢性疼痛」とカテゴライズされている痛みのなかには、診断がつけば治療の道筋が立てやすい疾患も多いのではないだろうか。患者さんのなかには、「10年間も苦しんできた」という訴えに見られるように、痛みでQOLが著しく低下している方もおられる。そのような患者さんに適切に向き合うことは、多くの患者さんに光明をもたらすことになると考え、本特集を企画した。

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本問題集は、今月の特集のご執筆者に、執筆テーマに関連して「総合診療専門医なら知っておいてほしい!」「自分ならこんな試験問題をつくりたい!」という内容を自由に作成していただいたものです。力試し問題に、チャレンジしてみてください。

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はじめに

 本誌に慢性痛の特集が企画され、総論「慢性痛のサイエンス」を執筆することになった。慢性痛は急性痛が長引いたものではなく、脳回路網の変容に伴って生じる痛みが主体である。急性痛に用いられる治療薬や治療法は効を奏しないことが多く、うつ状態、全身の疲労感、睡眠障害、孤立感などを伴う。国際疼痛学会(Intemational Association for the Study of Pain、以下IASP)は、「治療に要すると期待される時間の枠組みを超えて持続する痛み、あるいは進行性の非がん性疾患に関する痛み」と定義している。

 慢性痛の患者数は、世界各国とも共通して人口の2割以上に達し1)注1)、痛みに要する医療費は、心臓病やがんなど重篤な疾患の医療費を遥かに上回っている2)注2)。“痛みで死ぬ訳ではないから”と後回しにされている間に、痛みは世界のEpidemicになってしまった。超高齢社会を迎えた日本では、寿命の伸びが苦痛時間の延長となっており、慢性痛の軽減・治療は焦眉の問題である。このような社会的背景のもとで企画された本特集が、総合診療における痛み治療の嚆矢となり、多面的な取り組みに結びつくことを心から願うものである。

【診断と治療のストラテジー「頭の先から足の先まで」痛みのcase file 14】

急に頸部が激しく痛い 神谷 亨
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Case

患者:89歳、女性。ADLほぼ自立、自宅で独居。

既往歴:高血圧、骨粗鬆症。

現病歴:来院前日の16時頃、ソファーより立ち上がった時に、軽い後頸部痛を自覚した。来院当日、起床時より激しい後頸部痛と38℃台の発熱あり。湿布を貼って様子を見ていたが痛みが改善せず、午前10時頃、当院内科外来を受診した。痛みは後頸部正中にあり、安静時痛はわずかだが、首を少し動かしただけでズキンとする激痛あり。その他の症状としてごく軽度の頭痛も伴ったが、悪寒、上気道炎症状、胃腸炎症状、嚥下痛なし。診察では、頸部の著しい可動域制限(回旋、前後屈)を認めた。頸部CTを撮影したところ、軸椎歯突起周囲(環椎横靭帯)の石灰化を認め(図1、2)、「crowned dens症候群(CDS)」と診断した。エトドラク200mg 1回1錠、1日2回を処方したところ、翌日には解熱し、徐々に後頸部痛の改善を認めた。10日後の再診外来では後頸部痛や発熱はなく、頸部可動域制限も消失していた。

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 頭痛診療において病歴のOPQRSTは大切です。たとえば「Onset(発症様式)」が突発であれば、くも膜下出血など重大な疾患を除外しなければなりません。片頭痛を示唆するとされる「POUNDing1):Pulsatile quality(拍動性)、duration 4-72hOur(4〜72時間続く)、Unilateral location(片側性)、Nausea/vomiting(嘔気・嘔吐)、Disabling intensity(日常生活に支障あり)」も、OPQRSTの1つの亜型と言えます。一次性頭痛と言えば、片頭痛と緊張型頭痛が圧倒的に多いのですが、本稿では、それ以外の一次性頭痛の診断のポイントについて解説します。

胸が痛いし皮疹も出ます 蓑田 正祐
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Case

10年持続する皮疹、5年持続する胸部痛で受診した1例

患者:糖尿病、高血圧などの既往や、家族歴・喫煙歴のない49歳、女性。

現病歴:約10年前から両手掌、足底部に皮疹が出現し、5年前から右鎖骨付け根付近の痛みを自覚するようになり、改善がないため受診。発熱や全身倦怠感・食欲不振・体重減少などの全身症状や炎症性腰痛の病歴は認めない。痛みの部位(Ⓡ)は右第一胸肋関節に一致し、圧痛と腫脹を認めるが、四肢・仙腸関節含め、他の部位に圧痛や腫脹は認めず、放散痛もない。痛みの性状(Ⓠ)は鈍痛、朝起床時から午前中や、安静から体動時に強く、午後や体動後に軽快する(Ⓟ)。5年前から出現し(Ⓞ)、今日まで増悪・寛解を繰り返して経過している(Ⓣ)。随伴症状/所見(Ⓢ)として、両手掌と足底部に粟粒大の無痛性の一部膿疱化した皮疹を認めるが、眼・消化器症状は認めない。

血液検査:CRP 1.60mg/dL、ESR 44mm/hrと炎症反応が上昇、RF<3.0IU/mL、抗CCP抗体<0.6U/mLであった。MRI脂肪抑制条件で右第一胸肋関節周囲に高信号を認めた。血液培養は2set陰性であった。

 関節炎に対してはNSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)を導入し、症状、炎症反応ともに改善を認めた。

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Case

患者:55歳、女性、専業主婦。

既往歴:49歳で閉経。50歳時に脂質異常症で加療、現在放置。

現病歴:昨年、夫の定年や娘の出産で生活環境が大きく変わった。起床時、胸の奥をつかまれるような重苦しさがあり、咽のつかえと奥歯の浮いた感じが10分くらい続いて治まった。発作が続くため近医を受診したところ、血圧150/80mmHg、胸部X線写真、心電図は正常で、血液検査で脂質異常症を認めた。24時間心電図装着中、発作が起こったが、はっきりした虚血性心電図変化はなかった。その後も胸痛が続くため、ニトログリセリン舌下錠を処方され、舌下してみたが、少し治まる感じがしたのみで、スッキリしなかった。再度近医を受診したところ、抗不安薬を処方されたが、無効なため当院受診となった。血圧も高めであり、微小血管狭心症を疑い、冠血管拡張と降圧をねらいCa拮抗薬を投与したところ、発作は耐えうる程度に減少し、軽快した。病気に対する理解とストレス対処法を会得し、数年で発作は消失した。

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Case

患者:16歳、女性。

既往歴:生来健康で、特記すべき既往なし。

現病歴:半年前に、学校で左下腹部の強い痛みを自覚。学校を早退し、近医内科を受診した。腹部超音波では消化管、婦人科臓器に異常を認めず、翌日、自宅近くの外科・婦人科を紹介となった。CT・MRIでは異常指摘されず、NSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)、漢方薬を処方されるも、疼痛の改善はなかった。5カ月前、総合病院内科を紹介受診。超音波検査異常なし、アセトアミノフェンを処方されるも、腹痛はすべての内服薬に抵抗性であった。3カ月前、当院総合診療内科を紹介された。下部内視鏡検査、CT・MRIを再検査するも、すべて異常を認めなかった。プレガバリン処方も疼痛改善を認めず、2カ月前、当院入院となった。入院での精査中、「ACNES(anterior cutaneous nerve entrapment syndrome)」と診断された。しかし、内服の効果は認めず、神経ブロックも一時的な効果はあったものの翌日には疼痛が再燃し、学校生活に戻れる兆しはなかった。5日前、当院外科に院内紹介となった。

現症:左下腹部Th10のレベル、腹直筋外縁に再現性のある圧痛点を認めた。NRS(numerical rating scale)8。Carnett兆候陽性。圧痛点に対する1%リドカイン10mLを皮下注の後、10〜15分で疼痛は改善したが、2時間後には疼痛が再燃した。

治療:局所麻酔下に前皮枝神経切離を施行した。翌日のNRSは0-1に改善し、術後2日目に退院となった。鎮痛薬はすべて術後中止としたが、術後半年、疼痛の再燃を認めていない。

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痛みの性状—OPQRST—

主訴:右の腰臀部と右の大腿が痛い。

現病歴:約3カ月前からの右下腹部・腰臀部の違和感(ⓄⓉ)、比較的緩徐に発症(Ⓞ)。食事とは関係ない(Ⓟ)。時々違和感が、痛みになり、1週間に1回くらい悪化することが多い。痛くない時は、まったく痛くない(ⓆⓉ)。1カ月くらい前から右わき腹がつるような感じになり、生活に支障が出るようになった(Ⓠ)。2週間前に悪化した右の腰臀部の痛みは、3〜4日で少し軽快してきていた(Ⓣ)。しかし、5日前から右大腿も痛くなり、本症状のため仕事を休むようになった(ⓉⓆ)。その他の随伴症状はない(Ⓡ)。

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Case

患者:61歳、男性。

既往歴:X-20年直腸がん。

現病歴:X-12年2月7日、起床時に左上下肢に強い知覚鈍麻、および軽度の筋力低下を生じ、右被殻出血の診断にて保存的治療を受けた。X-12年5月頃より、顔面を含む左半身、特に上肢<下肢の違和感が疼痛、およびシビレに変化。X-11年3月、紹介により当科を受診した。受診時、左半身の耐え難い疼痛、冷感、シビレを訴え、強い知覚低下、および軽度の片麻痺を伴っていた。X-10年10月6日、除痛手術を目的として当科入院となった。

入院時所見:左半身に持続する、しめつけられるような耐え難い疼痛を認め、上下肢の運動時や、手に物が触れた時などに増強した。さらに、表在知覚障害1-2/10、深部知覚障害6-7/10と、強い知覚低下を認めた。

診断:視床痛。

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Case

患者:42歳、男性、会社員。

主訴:両足の痛み。

病歴:家族歴、既往歴は特になし。数年来、会社の健診で高血糖を指摘されていたが、仕事が忙しいため放置していた。半年前より口渇、頻尿などが出現、疲労感も強くなったため近医を受診した。その結果、血糖300mg/dL、HbA1c 14.5%で重症の糖尿病といわれ入院、ただちにインスリン治療が開始された。その後、2〜3週間で自覚症状は消失、空腹時血糖は80mg/dL、食後血糖125mg/dLと正常化、HbA1cも治療開始後6週目で5.8%であった。治療開始12週後、職場復帰を控えた前日から、急に両足全体に、強い、針が刺さるような痛みが出現、触ってもビリビリと強い痛みを覚えるようになった。痛みは両足から膝近くに及び、安静時に強く、眠れず、食欲不振、体重減少とともに立ち眩み、便秘などもある。網膜症,腎症などの所見はみられない。

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Case

患者:40代、女性。

現病歴:健診で、左肘から採血の際に電撃痛があった。「注射のはじめは痛くなかったが、途中で急に穿刺部の痛みが強くなり、『痛い!』と言ったが、止めてくれなかった」と、内出血痕が写った写真をもって受診した。

主訴:左肘の穿刺部周囲と左手がしびれる。左指が動かしにくい。

診断名:神経障害性疼痛。

痛みで日常生活が一転 西岡 久寿樹
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OPQRST

ⓄOnset(発症様式)

 線維筋痛症(Fibromyalgia : 以下FM)の主症状である疼痛誘因には、中枢性の広範囲に及ぶ神経因性疼痛(wide-spread neuropathic pain)の成因に関与する、分子機序の解明が必須であると考えられる。このような視点から本症をみると、その発症の「引き金」には、外傷、手術、ウイルス感染などの外的要因と、離婚・死別・別居・解雇・経済的困窮などの生活環境のストレスに伴う心因性の要因に大別される。また、外因性と内因性というエピソードが存在し、双方が混在している場合があることも判明している。

 これは慢性ストレスとして、神経・内分泌・免疫系の異常により、疼痛シグナル伝達制御のシステムが著しく攪乱し、このため、さらに多様な精神症状、疼痛異常を招いているという悪循環が生じていると考えられ、抜歯などの歯科処置や脊椎外傷や手術、むちうち症など著しい身体障害やパニック障害などが、本症の最初の疼痛の引き金となっている症例も、かなりの頻度で存在する。

全部イタイ 陶山 恭博
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Case

患者:72歳、女性。

主訴:全部イタイ。

全部痛くて動けません! 着替えることもできなくて、下着は着ないようにして、前開きの洋服にしています。夜トイレに起き上がることができないので、寝る時はおむつにしています。朝は起き上がるのが1人でできないので、電動のリクライニング機能がある介護ベッドを買おうと思っています。近くの病院に行ったら、リウマチと言われました。私は難病なのでしょうか?

痛みと疲労で動けない 倉恒 弘彦
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Case

患者:28歳、女性、会社員。

主訴:倦怠感、脱力、全身の痛み、思考力低下。

現病歴:これまで健康に生活していたが、ある日から発熱、咽頭痛、頸部リンパ節の腫脹がみられるようになり、医療機関を受診。「EBウイルスの感染に伴う急性伝染性単核球症」と診断され入院となった。約1カ月間の治療にて、発熱、咽頭痛、リンパ節腫脹、肝障害などは改善し、急性伝染性単核球症からは回復したと診断され退院となったが、微熱が続いており、次第に倦怠感、脱力、思考力の低下、筋肉痛、関節痛なども強くなり、昼間も横になって生活をせざるをえない状況になってきた。再度、内科で血液検査などを受けたが全く異常はみられず、「身体的な疾患は否定的」との説明を受けた。3カ月以上自宅で安静にしていても回復しないため、いくつかの医療機関を受診して検査を受けたが、異常はみられなかった。その後、不安や抑うつもみられるようになったこともあり、心療内科での診察も受けたが、現在の病態を説明できるような精神疾患はみられないとのことであった。発病後1年が経過し、安静にしていると疲労症状は軽くなり、身の周りのことはある程度できるようになっていたが、外出して少し散歩をするだけで疲労、脱力、思考力の低下が悪化するため、職場への復帰は難しい状況であった。その後、内科にて定期的な検査は受けていたが、異常はみられず困っていたところ、友人の医師が「慢性疲労症候群(CFS : chronic fatigue syndrome)」という病態の可能性に気づき、専門の医療機関に紹介され、臨床診断によりCFSと診断された。

解説:CFS患者では、何らかの感染症がきっかけとなり、発病していることが多い。また、種々の生活環境ストレス[❶身体的ストレス(過労など)、❷精神的ストレス(人間関係の問題など)、❸化学的ストレス(シックハウス症候群など)、❹物理的ストレス(紫外線、騒音、熱中症など)]がきっかけとなっていることもある。このような場合、NK活性などの免疫力が低下していることが多く、体内では潜伏感染していたヘルペスウイルスなどの再活性化がみられている。

 われわれは、このような感染症やウイルスの再活性化がきっかけとなり、脳内のグリア細胞でインターフェロン、TGF-β、IL-1などの免疫物質が産生されることが、脳内における神経伝達物質代謝に悪影響を与え、多彩なCFS病態を引き起こしているという仮説を提唱している。

関節が痛いんです! 天野 惠子
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Case

患者:57歳、女性。

主訴:冷え、倦怠感、関節痛。

既往歴:50歳時、子宮筋腫により子宮全摘、両側卵巣摘出。

現病歴:子宮筋腫手術時に、卵巣がん予防との医師の勧めで両側卵巣を摘出。術後1カ月で足裏の角化、皮膚のたるみなどの皮膚症状が出現。HRT(ホルモン補充療法)(プレマリン1T)を開始。皮膚症状は軽快した。HRTは継続していた。53歳時、のぼせ・ほてり、発汗が出現。56歳時、両側の足の裏から腰までのしびれが出現。神経内科・物療内科・整形外科を受診するも、検査上は異常なし。57歳時、全身の冷え(特に腰から下)と強い倦怠感が出現。秋口からは、手首・足首・肘・膝の関節・背部が痛み、家事に支障をきたすようになった。痛み・しびれ・倦怠感は入浴により、嘘のように改善するが、出浴後2時間ほどで元に戻る。HRTに漢方薬「当帰四逆加呉茱萸生姜湯」を加えて処方。さらに、関節部に温熱サポーター装着などを行うことにより、痛み・しびれ・倦怠感は若干軽減した。その後、59歳の春より、痛み・しびれ・全身の倦怠感は順次解消し、夏には健康感を実感でき、終診となった。

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Case

患者:42歳、女性。

既往歴:特記事項なし。

現病歴:20代より腰痛を繰り返し、その都度NSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)を内服し、安静にしていた。今回も重いものを持ち上げた後から腰痛が出現し、近医を受診してNSAIDsを処方され、内服していた。いつものように痛みが落ち着くだろうと思い、2週間家で安静に過ごしていた。しかし、痛みは腰のみならず右足後面に広がり、ビリビリ電気が走るような痛みが広がっていった。痛みが続くため再診すると、「もう少しNSAIDsを内服するように」と指示され帰宅したが、右足は少し触っただけでも痛みを感じるほどになったため、他院を受診した。その際に、今回の痛みは、神経障害性疼痛が関係していると、鎮痛補助薬であるプレガバリンが処方され、4週間内服したところ疼痛が軽減し、通常通りの日常生活を送ることが可能となり、内服終了となった。

理学所見:右坐骨神経領域に一致した疼痛、しびれを認めた。筋力低下なし。下肢伸展挙上テスト(straight leg raising test : SLRT)にて、右下肢に疼痛が誘発される。

画像所見:腰椎単純X線にて特記事項を認めなかった(図1)。腰椎MRIにて第4、5腰椎椎間板の変性を認め、やや右優位の腰椎椎間板の突出を認めた(図2)。

【スペシャル・アーティクル】

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はじめに

 1994年国際疼痛学会が「痛み」について、「組織の実質的あるいは、潜在的な障害に結びつくか、このような障害をあらわす言葉を使って述べられる不快な感覚、情動体験である」と定義した。痛みとは「不快な感覚、情動体験」であり、決して「不快な感覚」のみの定義ではない。「情動体験」の「情動」を言い換えると、「広く動物に共通した、喜び、悲しみ、怒り、恐れ、嫌悪の様な本能的な欲求に関わる感情と、慈しみや憎しみ、尊敬や軽蔑など人間に独特な感情、その感情によって生じる身体や、表情の変化、行動の変化を含む」とある1)。つまり「痛み」とは、「不快な感覚」と「感情変化とそれに伴う心身的変化の体験」なのである。

【コラム】

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 筆者は救急・集中治療専門医である。勤務している救命救急センターでは、年間4万人の患者(うち45%が成人、救急搬送台数は約5,000)の診療にあたっている。昨今、救急受診される高齢者の患者数は年々増加傾向にある。そのなかで、救急室を受診する高齢患者の多くに、疼痛緩和目的で、鎮痛薬が(頓用だけでなく定期服用としても)処方されている。救急の現場において、その鎮痛薬の副作用に、しばしば悩まされている。

 本稿では主にNSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)、オピオイド、一部の漢方薬など鎮痛補助薬についての副作用を、救急現場からの声を中心に述べる。

Editorial

「痛み」診療の光に 片岡 仁美
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 「ひとの痛みは100年我慢できてしまうからね(だからその分、医師は患者の痛みに向き合い、寄り添わないといけない)」という言葉は、研修医1年目の時に、指導医が呟いた言葉である。その言葉を、私は折に触れて思い出す。指導医は関節リウマチが専門で、多くの痛みの患者さんの診療を行っていた。「ひとの痛みを真に他人が感じることはできない。だから、患者さんが『痛い』という時には、すべてを受け止めなさい。CRPが高くない、関節が腫れていないなど、客観的所見が伴わないからといって、患者さんの「痛い」という訴えを軽んじてはいけない」という指導医の戒めは、その後医師として、目には見えないものである「痛み」に向き合う私自身の姿勢となった。

 しかし、患者さんの痛みに真摯に向き合ったとしても、痛みを訴える患者さんが真に求めるのは、寄り添いだけでなく、“痛みからの解放”である。特に慢性疼痛は診断がつきにくい、治療が奏功しにくい、といったものも多い。

What's your diagnosis?[196]

Time is Money. 小山 弘
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症例:70代、女性

主訴:嘔吐、発熱

現病歴:もともとADLは自立していたが、左下肢痛のため自立歩行は困難であった。中国生まれの方で、日本語によるコミュニケーションに、やや制限がある。

 受診1カ月半前から悪寒戦慄を伴う高熱にて他院に入院し、「敗血症が疑われる」として抗菌薬による治療を受けていた。経過中に薬剤熱が疑われ、抗菌薬を終了したところ解熱し、10日前に退院した。その後しばらく問題なかったが、受診5日前から毎日37.5℃前後の発熱が再燃した。受診3日前から嘔吐が出現したため、別の近医を受診して点滴などの治療を受けたが、改善しなかった。受診当日には10回以上の食物残渣や胃液の嘔吐があり、自力で起立困難になったため、当院救急外来を受診した。

現症:便通あり(普通便が出ている)。頭痛なし。悪寒戦慄なし。咳・痰なし。下部尿路症状なし。下痢・腹痛なし。

アレルギー:前医が処方したメロペネムで皮疹。

既往歴:左膝関節症、骨粗鬆症。

薬剤歴:アルファカルシドール、アレンドロン酸、レパミピド。

生活歴:喫煙・飲酒歴なし。

みるトレ Special・28

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患者:76歳、男性。

主訴:発熱、倦怠感。

生活歴・既往歴:ADL完全自立、退職後は農作業をしている。妻と長女の3人暮らし、イヌ1匹飼育。ワイン1杯/日、喫煙なし。sick contactなし。渡航歴なし。高血圧、2型糖尿病。

薬剤歴:プレドニゾロン6mg/日、エソメプラゾール、ドキサゾシンメシル、テネリグプチン、プランルカスト、カルボシステイン、レボセチリジン。抗菌薬使用歴はここ1年以上なし。

現病歴:IgG4関連疾患(顎下腺、縦隔、膵病変)に対して、現在プレドニゾロン6mg/日内服中。2日前より食欲低下、入院1日前より発熱・倦怠感で動けなくなり、救急搬送された。

身体所見:体温39.6℃、脈拍数132回/分・整、血圧164/74mmHg、呼吸数24回/分、SpO2 93%(室内気)、GCS(Glasgow Coma Scale)E4V5M6。頭頸部および心音に明らかな異常なし。右中下肺野で呼吸音低下あり、打診で右第8肋間から下方で濁音、右肺で声音振盪が減弱。腹部・四肢に明らかな異常なし。

検査所見:血液;WBC 19,280/μL、Hb 14.8g/dL、Plt 16.5×104/μL。TP 6.7g/dL、Alb 2.5g/dL。肝胆道系酵素に異常なし。BUN 17mg/dL、Cr 0.8mg/dL、Na 128mEq/L、K 3.4mEq/L、CL 95mEq/L、CRP 40.1mg/dL。尿;異常なし、血液ガス(大気下);pH 7.498、PaO2 65.3mmHg、 PaCO2 28.0mmHg、HCO3 21.2mmol/L。胸部X線(来院時);図1、喀痰グラム染色;図2。

Dr.上田剛士のエビデンス実践レクチャー!|胸腹痛をきたす“壁”を克服しよう・1【新連載】

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「心臓ではない痛み」という説明で満足していませんか?

 「胸痛をきたす疾患」と言われて、まず思いつくのは急性冠症候群ではないでしょうか? それ以外にも大動脈解離、肺塞栓症などを鑑別に加えた方もおられるかもしれませんが、いずれにせよ、重篤な疾患をまずは想起するでしょう。

 鑑別疾患を挙げる際には、「Critical(緊急性の高い)」「Curable(治療可能な)」「Common(頻度の高いしびれ)」の3Cを意識すると良いとされますが、胸痛においては、急性冠症候群というcriticalな疾患がcommonでもあること、他にも大動脈解離、肺塞栓症、特発性食道破裂、緊張性気胸というcriticalな病態が多いことから、軽症でcommonな疾患は軽視されがちです。

55歳からの家庭医療 Season 2|明日から地域で働く技術とエビデンス・20

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連載再開にあたって

 これまで(本誌2017年1月号〜2018年7月号)は、家庭医療における「個別ケア」「家族ケア」「地域ケア」に関して、“家庭医らしい”アプローチの特徴をそれぞれ述べてきました。そして、家庭医療の卓越性は対象主体へのアプローチに現れること、また、卓越した家庭医療の対象が「多疾患併存」「未分化な初診患者」「複雑な健康問題」「下降期慢性疾患」といった現代日本の医療が直面している困難な問題群にあることを提示しました。

オール沖縄!カンファレンス|レジデントの対応と指導医の考えVer.2.0・28

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CASE

患者:22歳、男性。

主訴:左股関節痛。

現病歴:受診約10日前、フットサル中に徐々に左股関節痛が出現した。その時は引きずって歩ける程度の痛みであり、翌日に近医整形外科を受診したがX線検査では原因を特定できず、後日MRIでの精密検査の予定となっていた。受診日の朝、自宅の庭で岩に足をとられて転倒し、その後より左股関節痛が増強して歩行困難となったため、当院へ救急搬送された。

既往歴:出生時の異常指摘なし。生後3カ月の頃に敗血症での入院歴あり。小学生〜中学生の時に手指の骨折、計3回。

生活歴:大学生。機会飲酒、喫煙なし。

内服歴:定期内服薬はなし。

家族歴:特記事項なし。

指導医はスマホ!?|誰でも使えるIT-based Medicine講座・4

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 時は20XX年、IGSコーポレーションでは、研修医ロボットを開発した! その名も、成長するAI搭載型ロボット「森川くん2号」。

 森川くん2号と一緒に、ITを活用して自分をヴァージョンアップしよう!!

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「メンター(Mentor)」と「メンティ(Mentee)」

 皆さんが「メンター」「メンティ」という言葉を初めて目にした、耳にしたのはいつでしょうか? 研修医になりたての2010年、私は某雑誌の特集で、この言葉を知りました。

 古代ギリシア時代の叙事詩、そのなかに詩人ホメロスの作品とされる「オデュッセイア」があります1)。この叙事詩に、メントール(Mentor)という老賢人が出てきます。彼はオデュッセウス王の僚友で、王のトロイア戦争への出陣を機に、王の息子・テレマコスの教育を任されます。彼はテレマコスにとって良き指導者であり、理解者でありました。「メンター(Mentor)」とは、このメントールを語源とした「指導者」「助言者」という意味で、これに対して、その指導を受ける側を「メンティ(Mentee)」といいます。

投稿 GM Clinical Pictures

お尻からヒモ 本橋 伊織
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CASE

患者:33歳、男性。生来健康。

主訴:「尻から紐のようなものが出てきた」。

現病歴:来院当日の2時間ほど前に上記に気づき、救急外来を受診した。腹痛や下痢などの自覚症状の訴えはなかった。このようなエピソードは初めて。寿司が好き。

既往歴:なし。

身体所見:バイタルサインに異常なし。腸蠕動音正常、腹壁は平坦・軟で圧痛なし。眼瞼結膜の蒼白なし。肛門から白色の紐状のものが20cmほど出ており、引っ張り出すと図1のものが出てきた。

ヒヤリ・ハット 堀江 勝博
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CASE

患者:55歳、女性。

既往歴:アルコール依存症。

主訴:意識障害。

現病歴:来院2日前は家族が電話をし、話ができる状態であった。

来院前日の朝は、電話をしたところ呂律が回っていない状態で、来院前日の午後には電話はつながらない状況であった。

来院当日は電話をしても応答がないとのことで、家族が見に行ったところ、自宅内で倒れているのを発見し、救急要請となった。

身体所見:

●意識:GCS(Glasgow Coma Scale)E4V1M1。

●バイタルサイン:体温36.8℃、脈拍数126回/分、血圧73/63mmHg、呼吸数30回/分、SpO2 100%(room air)。

●身体所見:全身状態はsickで、るい痩著明。背部・肩甲骨にⅡ度の褥瘡あり。ツルゴール低下、舌乾燥著明。その他に明らかな異常所見なし。

●経過:バイタルサイン、身体所見からはhypovolemic shockと判断し、補液を施行。また、来院後に下痢があり、CDトキシンを提出し、CDトキシン陽性であったことから、「Clostridioides difficile感染症」と診断。精査加療目的で、当院集中治療室に入院となった。

投稿 総合診療外来

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CASE

患者:44歳、女性。

主訴:定期外来で脂質異常症を指摘された。

既往歴:橋本病、原発性胆汁性肝硬変、乳がん、Sjögren症候群、肝血管腫。

家族歴:特記事項なし。

現病歴:28歳時に健診で初めて肝障害を指摘されたが、医療機関受診はしていなかった。42歳時に受診した人間ドックで、飲酒過多のない状況でAST 49IU/L、ALT 47IU/L、ALP 61IU/L、γ-GTP 355IU/Lと、改めて肝胆道系酵素の上昇を指摘され、消化器内科を受診した。採血では抗ミトコンドリア抗体陽性で原発性胆汁性肝硬変の診断となり、肝庇護薬が導入された。同時期にドライマウス、ドライアイの症状があったことからリウマチ内科を受診し、自己免疫疾患の検索でSjögren症候群と橋本病が指摘され、レボチロキシン補充が開始された。その後はレボチロキシン25μg/日の維持量でFT4、TSH正常範囲が継続していたが、定期採血で、LDL 167mg/dL、HDL 105mg/dLと各々異常高値を指摘され、スタチン製剤導入目的を含めて、当生活習慣病外来で相談となった。

身体所見:身長159cm、体重42.3kg。甲状腺触知せず(明らかな腫大なし)。肺音(-):清。心音(-):不整、心雑音なし。下肢浮腫なし。

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『総合診療』編集方針
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 1991年に創刊した弊誌は、2015年に『JIM』より『総合診療』に誌名を変更いたしました。その後も高齢化はさらに進み、社会構造や価値観、さらなる科学技術の進歩など、日本の医療を取り巻く状況は刻々と変化し続けています。地域医療の真価が問われ、ジェネラルに診ることがいっそう求められる時代となり、ますます「総合診療」への期待が高まってきました。これまで以上に多岐にわたる知識・技術、そして思想・価値観の共有が必要とされています。そこで弊誌は、さらなる誌面の充実を図るべく、2017年にリニューアルをいたしました。本誌は、今後も下記の「編集方針」のもと、既存の価値にとらわれることなく、また診療現場からの要請に応え、読者ならびに執筆者のみなさまとともに、日本の総合診療の新たな未来を切り拓いていく所存です。

2018年1月  『総合診療』編集委員会

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総合診療
29巻4号 (2019年4月)
電子版ISSN:2188-806X 印刷版ISSN:2188-8051 医学書院

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