INTENSIVIST 11巻2号 (2019年4月)

特集 栄養療法アップデート 前編

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我々は,当たり前のように毎日3回の食事をとる。食欲は人間の3大欲求の1つであり,我々自身ではコントロールすることが困難な生理的欲求である。人間が生きるためには,糖質・タンパク質・脂質の三大栄養素のみならず,ビタミン・微量元素なども摂取することが必須であり,さまざまな生命活動の源となっている。当たり前のことであるが,栄養摂取は人間が生きるうえで欠かせない行動である。おそらく,この点に疑念を抱く医療従事者はいないであろう。しかし,患者が一度入院すると,特に重症患者であればあるほど,日常的に行っていた栄養摂取がさまざまな理由で障害される。その理由の1つとして,栄養摂取の必要性に対する医療従事者の認識の低さが影響しているのを目にする。多くの場合,重症化の原因疾患に対する治療介入はなされるものの,栄養療法に関しては「念のために絶食で」という言葉のもと,重症病態が落ち着いた頃にようやく目を向けられることが,いまだに多いことを痛感する。2009年にSCCM/ASPEN*1から重症患者における栄養療法のガイドラインが発表されてから,集中治療領域における栄養療法の空気が変わったように筆者には感じられる。しかしながら,発表から10年を経た今でも栄養療法に対する認識は,まだまだ「たかが栄養療法,されど栄養療法」であると,つくづく身に沁みることが多い。なぜ,栄養療法に対する認識に個人差があるのか。それは栄養療法におけるエビデンスが,いまだカオスであるからなのかもしれない。

Part I.栄養療法のエビデンスレビュー 現在研究が盛んなトピックス

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栄養療法の開始にあたり,まず議論となるのは,栄養投与ルートとその開始時期,投与エネルギー量をどのように設計すればよいかである。経腸栄養(EN)と経静脈栄養(PN)によって死亡率に差はないが,感染症合併率はENで少ないと考えられ,消化管が使用可能であればENを優先することが推奨されている。ENにPNを併用する補充的静脈栄養(SPN)も昨今検討がなされており,栄養不良を伴う患者では,SPNにより総投与エネルギー量の確保をはかることが重要である。ただし,SPNはoverfeedingをまねく可能性があり,注意を要する。EN開始は,48時間以内を推奨することが多いが,PNやSPNの至適開始時期は明らかではない。栄養不良を伴わない患者は消費エネルギー量に対してpermissive underfeedingを,栄養不良を伴う患者はfull feedingを行うのが,現時点では適切と考えられる。

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重症患者での3大栄養素(タンパク質・糖質・脂質)の適切な投与量・投与時期などは,まだ十分にわかっていない。タンパク質投与に関しては,最も多くの研究がなされており,投与量に関しては,1.3〜2.0g/kg/日が推奨され,時期に関しては,ICU入室4〜6日目には目標投与量を達成していることが望ましい。より高用量の投与については,現在大規模な無作為化比較試験が進行中である。また,タンパク質の種類に関しては,消化管不耐改善のために,窒素源をペプチドやアミノ酸にした栄養剤を投与した研究が行われているが,効果は一定しない。糖質に関しては,高血糖抑制,血糖変動抑制目的にグルコース以外の糖質を投与した少数の研究が報告されている。脂質に関しては,日本で使用可能な大豆油ベースの脂肪乳剤は炎症促進の指摘もあり,その投与の是非や投与開始時期については十分にはわかっていない。

Part I.栄養療法のエビデンスレビュー 過去に研究が盛んであったトピックス

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重症患者における栄養療法については,近年,早期経腸栄養の重要性が言われ,一般的に行われるようになってきたと思われる。しかし,その実現のためには,経腸栄養における不耐性の克服が肝要であるといえる。腸管運動や代謝機能がダイナミックに変動する重症患者管理においては,下痢をはじめとした消化管合併症や,嘔吐やそれに伴う誤嚥性肺炎,耐糖能異常などの出現により,経腸栄養が中断される局面に数多く出会う。それらの不耐性の克服のために,これまで先人たちが投与経路や投与方法,栄養製剤の種類や薬物療法の併用について,数多くの試行錯誤を繰り返し,その結果が期待されてきた。しかし実は最終的な決着は,いまだついてはいない。

 本稿では,そのなかでも「持続投与か間欠投与か」「胃からの投与か,胃よりも先での投与か」について,過去の臨床研究や代表的ガイドラインをもとにして,現時点での知見について解説する。

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微量栄養素には,多量に投与することにより抗酸化作用を発揮するものがある。なかでもセレンとビタミンCは重症患者に対する抗酸化療法としての役割が期待され,多くの研究が行われてきた。セレンは当初は予後を改善する報告が相次いだが,多施設大規模研究の結果,その効果は疑問視されている。一方ビタミンCは,ビタミンB1,ヒドロコルチゾンとの併用療法にて敗血症の治療に良好な成績が示され,現在多くの研究が進行中である。

 プレ/プロ/シンバイオティクス療法は,以前より重症患者の治療として注目され,膵炎を中心に多くの無作為化比較試験が行われた。これらのメタ解析では感染を予防する効果はありそうだが,予後に影響するほどではなかった。近年,腸内細菌叢のdysbiosisへの関心が高まっており,今後は質の高い大規模無作為化比較試験が期待される。

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重症患者に対する栄養療法において,免疫調整栄養剤と称されたアルギニン,グルタミン,ω3系脂肪酸による予後改善効果が検討されてきた。これらの栄養素には,その効果が臨床試験の結果から有効であると評価された時期もあったが,2018年現在,いずれも患者予後には結びつきにくいと考えるのが一般的となっている。しかし,これまでの流れを振り返ることは,近年の栄養学の歩みや,今後どのような方向性で研究が進む可能性があるかを考えるにあたって重要である。

 本稿では,各栄養素に分けて,①どのような病態生理学的根拠で推奨され,②代表的な臨床試験にはどのようなものがあり,③今後どのような点について検証すべきか,について論じる。

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重症患者の診療の際には栄養療法の必要性について検討することが重要である。というのも,栄養療法の必要性が低い患者群に対して,どんな栄養療法を実行しても効果が低い可能性があるからである。一方で栄養療法の必要性は見過ごされていることがあるため,病棟では栄養障害の可能性がある症例の抽出(栄養スクリーニング=リスク評価)や栄養状態の把握と必要エネルギー量・タンパク質量などを決定する(栄養アセスメント)必要がある。ICUでは,全患者に対して治療に関する評価,プランニングを毎日行っているが,その際に栄養アセスメントも行うとよい。

 栄養アセスメントには種々のツールがあり,重症患者に対しては栄養リスクアセスメントツール(NUTRIC score)やNRS2002がよく使われているが,これらに含まれる栄養指標や重症度などの項目はさまざまである。

 本稿では,重症患者に対する栄養アセスメントの種類,その効果について,エビデンスに基づき概説する。

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栄養療法は集中治療において重要な「治療」の1つであり,栄養投与が適切に行われているかを評価する必要がある。正しい評価を行うには,正しいモニタリングが必要となる。タンパク質の投与量のモニタリング方法として,トランスサイレチンなどの短半減期タンパク質rapid turnover proteinの測定,窒素バランスの測定,握力による筋肉の機能の評価,CTや超音波による筋肉量や厚さの評価が挙げられる。それぞれの方法には利点と欠点がある。例えば,トランスサイレチンは血液検査であり,信頼性は高いものの,ICU患者では炎症の影響を受けるため急性期の評価には適さない。本稿では,それぞれのモニタリング方法を概説するとともに,タンパク質投与量のモニタリングに関するエビデンスを紹介する。

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重症患者の栄養療法モニタリングには,患者の栄養状態の評価に関するものと,栄養投与そのものを評価するものとがある。栄養状態のモニタリングには,背景としての栄養状態評価と,栄養療法の効果を評価するものがある。それぞれに機器が用いられているが,重症患者における使用についてのエビデンスは限られる。栄養投与のモニタリングには,間接熱量計による消費エネルギー量の測定が用いられる。間接熱量測定は,各国の栄養療法ガイドラインでも使用が推奨されており,近年では,その結果をもとに栄養療法を行うことの有用性が示されている。重症患者の栄養療法モニタリングを通じて,個別の患者により適切な栄養療法が提供できるようになることが望ましい。

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侵襲下における生体のエネルギー需要は,侵襲反応として供給される“内因性エネルギー供給”と栄養療法として投与される“外因性エネルギー供給”の相互作用によって充足される。従来の栄養療法は,侵襲急性期においても,安静時エネルギー消費量を,いわゆるエネルギー必要量として,外因性にすべて供給する基本コンセプトを採用してきた。しかし,内因性エネルギー供給がまったく考慮されていないため,必然的にoverfeedingとして作用し,高血糖ならびに一連の栄養ストレスによる代謝性有害事象を惹起する危険性を内包している。本稿では,この観点からoverfeedingの諸問題およびそのモニタリングについて理論に基づく解説を行う。

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経腸栄養の有効性を十分に発揮するには,嘔吐や下痢などの消化器症状への対応が重要となる。腸管を使用しない期間が長いほど消化器症状が出やすいため,早期に経腸栄養を開始すべきである。経腸栄養は少量から開始し,緩徐に増量する。嘔吐に対しては,上半身の挙上,持続投与への変更,消化管蠕動促進薬の投与,経胃投与から経空腸投与(幽門後経路)への変更などの対策が有用である。下痢が生じた場合は,他の原因を除外したうえで,持続投与への変更,経空腸投与から経胃投与への変更,薬物の投与・調整,栄養剤の変更や半固形化などで対応する。消化器症状が生じても安易に経腸栄養を中止することなく,可能なかぎり継続することが成功の秘訣である。

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栄養プロトコルの必要性は,各国ガイドラインで強調されている。しかし,実際のプロトコル作成と順守は難しい。明確なエビデンスの乏しさや,テーラーメードも要するなか,作成の動機づけを生み,維持することは難しい。まず自施設プロトコルの目標を決め,障壁について多職種で話し合おう。プロトコルには,栄養療法が奏功する患者を絞り込む栄養アセスメントが必須である。有益性が確実そうなものを取り入れ,合併症の発生や有害性を避けるプロトコルを作ってみよう。現時点での各施設の資源,各職種の職能を最大限に活かしたプロトコルで栄養療法の効果を体感しよう。本稿では,自施設の栄養プロトコルを仲間とともに作成し,実践するためのTIPSをお伝えする。

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幽門後に栄養チューブを留置する操作は,先端位置をモニタリングすることと,先端を幽門に向けて進める手技の2つからなる。前者は機器の発達により進歩がみられるが,後者は個々の施行者の熟練度に依存しており,成功率もこれに大きく依存しているのが現状である。挿入する技術に関しても標準化可能な方法の進歩が期待される。

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重症患者の栄養管理を行ううえで経腸栄養剤の選択は必須であるが,本邦には200を超える経腸栄養剤が流通している。そのうち,各施設で採用されている製剤は数種類から10種類以上と差があり,選択にはそれぞれ課題がある。本稿では,現在流通している経腸栄養剤の種類とそれぞれのアウトカムについて概説し,現在の経腸栄養剤のあり方について議論したい。

●Pro-Con私ならこうする:非ARDS患者における栄養療法—full feedingを目指す

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ICU患者一般において,full feedingよりもunderfeedingのほうが院内死亡率を低く抑えられたとした報告もある。しかし,2017年に発表されたシステマチックレビューでは死亡率に差はなく,最近の大規模研究でも30 kcal/kg/日と20 kcal/kg/日とで死亡率や合併症発生率は同等であった。さらには,間接熱量計を用いてfull feedingとしたほうが予後はよかったとする研究もある。一方で,エネルギー負債が増えると感染性合併症が増えることや死亡率が上昇することも示されており,長期的な機能予後が悪くなる可能性もある。さらにunderfeedingを支持している研究は,日本の場合よりも若くて高BMIの患者を対象としており,そのまま日本の現状には適応できない。underfeedingにしても死亡率は変わらず,むしろ長期的な機能予後を悪化させる可能性や,筋力低下などからQOLを損なう可能性があるため,ICU患者への栄養療法はfull feedingを目指すべきである。

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急性呼吸窮迫症候群(ARDS)を除外した病態に関するエネルギー投与量の検討はエビデンスが少ない。さらに,現在報告されているエネルギー投与量の無作為化比較試験は,BMI 25以上の比較的若年の症例が対象となっており,エネルギー投与方法も最初からunderfeedingかfull feedingかのいずれかで投与されており,どの程度制限すべきか明らかになっていない。これらを鑑みると,本邦のICUにそのまま適用させるのには疑問が残る。現時点では,低栄養のリスクが低い症例ではunderfeedingを許容し,リスクが高い症例ではリフィーディング症候群(電解質,血糖)に注意しながらlate phase以降でfull feedingを目指してもいいのかもしれない。

●Pro-Con私ならこうする:ARDS患者における栄養療法—full feedingを目指す

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急性呼吸窮迫症候群(ARDS)患者における栄養療法において,既存の無作為化比較試験からはfull feedingとtrophic feedingのいずれが生命予後改善や人工呼吸器離脱に有用かは不明である。既存の研究には,ARDSの重症度が軽症であることや投与エネルギー量が不足している可能性などの問題点が存在する。また,欧米と比較して高齢・低BMIの日本の患者群に欧米の試験結果を外挿できるかは不明である。本邦のICUにおいてfull feedingの有用性を評価する可能性は残っている。

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急性呼吸窮迫症候群(ARDS)における栄養療法の重要性は,他の重症疾患と同様に理解されている。一方で,適切な投与エネルギーや投与時期に関しては,解明できていない部分が多い。ここでは,過去に行われた無作為化比較試験を中心に検証した。急性期における栄養療法では,full feedingを目指すことの有用性は示されていない。加えて,trophic feedingによる飢餓も考慮し,現状患者がどれほどの重症度にあるのかを考え,栄養設計しなければならない。

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感染症管理は医療現場における最重要課題の1つである。抗菌薬による治療では細菌同定が重要な情報となるが,現在の標準的な検査である細菌培養法では結果を得るのに数日かかるため,経験的に抗菌薬を選択し,使用しているのが現実である。より迅速な同定を目的に培養に依存しない検査手法として,検体中に含まれる細菌の遺伝子配列を取得・解読し,病原菌を同定する方法が開発されている。核酸配列に基づくデジタルデータの解析により細菌種の判別を行うことから,培養や生化学的性状を利用した従来の細菌同定法に比べ,特定の遺伝子領域が司る機能(薬剤耐性など)は判定できないという制約はあるものの,より客観的で信頼性の高い診断が可能である。

 本稿では,核酸配列解析における革新的技術であるナノポアシークエンサーMinIONTMを使った病原菌同定法の確立に向けた筆者らの取り組みを紹介する。

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TEG,ROTEMとは?

トロンボエラストグラフィthromboelastography(TEG)やトロンボエラストメトリーrotational thromboelastometry(ROTEM)は,低い剪断応力下で血栓形成に伴う血液の粘弾性を測定する。全血での血栓形成を測定できるため,血小板と凝固カスケードの相互作用が評価できる分析装置である。

 一般的な凝固機能検査の検査項目には,血小板数やプロトロンビン時間(PT),活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)などがある。これらの検査結果とTEG/ROTEMの結果は,必ずしも相関しない。それなのになぜ,TEG/ROTEMを使用するのだろうか? 周術期における主な死亡原因に,「出血性ショックの術前合併」と「手術中の大出血」の2つがあるとされる1)。それを防ぐには,いかに秒単位で変化する周術期の出血合併症を軽減できるかが重要である。そのため凝固機能に対する検査にも迅速性が求められ,さらに,凝固機能全体を把握できる検査が必要なのである。

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This ongoing series provides the readership of Intensivist with the opportunity to read concise reviews of current topics in Critical Care Medicine, in English. It is hoped that these reviews will stimulate the pursuit of other literature written in English.

連載 国際学会へ行こう!

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SCCMとはどんな学会か?

米国集中治療医学会Society of Critical Care Medicine(SCCM)は1970年に29人の医師により結成された。アメリカ合衆国法に認められた非営利団体であり,集中治療医,看護師,薬剤師,呼吸療法士,その他(理学療法士,社会福祉士など)のメンバーで構成されている。SCCMは毎年1〜2月に総会を行っており,開催地はフロリダ州オーランド(2016年),ハワイ州ホノルル(2017年)→テキサス州サンアントニオ(2018年)→カリフォルニア州サンディエゴ(2019年)→テキサス州サンアントニオ(2020年)→…と,米国内の気候のいい都市を転々としている。

 総会の会期は通常4日間程度で,研究発表(ポスター,口演)/教育講演に加え,New England Journal of Medicine(NEJM)/Journal of the American Medical Association(JAMA)/Critical Care Medicine(CCM)といったメジャー誌に掲載予定の研究の先取り報告であるLate Breakersと呼ばれるセッションなど,非常に多彩で魅力的な内容となっている。さらにpre-congress/post-congressといって,総会開催前後1〜2日間にもハンズオンセミナーや教育講演が組まれている。

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目次

倫理規定

次号予告

基本情報

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INTENSIVIST
11巻2号 (2019年4月)
電子版ISSN:2186-7852 印刷版ISSN:1883-4833 メディカル・サイエンス・インターナショナル

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