INTENSIVIST 10巻3号 (2018年7月)

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人工呼吸器管理は集中治療の基本です。技術の進歩により,かつては患者にとって苦でしかなかった人工呼吸器という道具は,患者の呼吸に合わせて補助をする“患者の良きサポーター”になり得るまでに進化しています。しかし,そのような進化も,その機能や患者に及ぼす影響などを十分理解して使用しなければ,そして患者とグラフィックモニターをしっかりと観察しなければ,人工呼吸器はかつてのような酸素化とガス交換だけを目的とする単なる道具の域を超えることはありません。それどころか,性能の進化とともに,患者に及ぼす害も大きくなる可能性もあります。

 例えば,患者-人工呼吸器の同調性に優れ,患者の呼吸努力に応じたサポートをするモードであるPAVやNAVAを重症ARDSの超急性期に使用したらどうなるでしょうか。代謝性アシドーシスや肺の炎症からの刺激による,本来望ましくない患者の強い呼吸努力を人工呼吸器はさらにサポートすることになるため,1回換気量は不適切に大きくなり,肺傷害が助長されるかもしれません。また,デュアルモードと言われる“1回換気量を一定に保ちながら圧サポートをコントロールするモード”を,呼吸困難感が強い急性呼吸不全の患者に使用したらどうなるでしょうか。患者のあえぎ呼吸により1回換気量が大きくなると,人工呼吸器は本来必要であるはずの圧サポートをどんどん低下させ,患者は疲労してしまいます。我々,人工呼吸を患者に施行する者は,人工呼吸器と人工呼吸が患者に及ぼす影響について深い知識をもつ義務があります。

Part 1.人工呼吸器管理で気をつけるべき4つの要素

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人工呼吸器関連肺傷害ventilator-associated lung injury(VALI)は,ARDS患者の予後に大きな影響を与えることが知られている。VALIを最小限にするため,肺保護換気が確立されて50年が経過した。本稿では,VALIの機序,肺保護換気の歴史,VALIを最小限にするための生理学的知識をまとめ,さまざまな基礎・臨床研究のエビデンスを取り上げる。

Main points

●急性呼吸窮迫症候群(ARDS)は,不均一な肺含気分布を呈する。仰臥位の場合,腹側肺に過膨張が多く認められ,重力に従って背側肺領域に虚脱肺が多くなる。

●不均一な肺含気分布を規定しているのは胸膜圧であり,ARDSでは重力に従って胸膜圧の分布が著しく不均一であることが原因である。したがって,経肺圧は腹側肺領域で高く,背側肺領域で著しく低下する結果,腹側肺領域では肺胞サイズが大きく(過膨張),背側肺領域では肺胞の虚脱を生じ,正常肺はその間の限られた領域に存在することになる(baby-lungコンセプト)。

●人工呼吸器関連肺傷害は,高肺容量で発生する状況と低肺容量で発生する状況がある。また,炎症は正常肺から正常肺と虚脱肺の境界部分(含気不良領域)に多く認められる。

●ストレスは,肺実質に対する伸展圧のことで,経肺圧として反映される。ストレインは,ストレスによって肺実質が安静位(機能的残気量)から変形する程度を示す。ARDSでは激減した正常肺で1回換気量を受けており,正常肺は吸気ごとに高い経肺圧(ストレス)とストレインに曝されている。

●driving pressureは1回換気量を呼吸器系コンプライアンス(Crs)で標準化した値,つまり“機能的”な肺のサイズで標準化した値であり,換気に関与する正常肺に加わる肺実質の変形(ストレイン)をより直接的に示すことができる。

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ARDS患者に対して低容量換気戦略low tidal volume strategyを併用しつつ,まずlower PEEP/FIO2 tableを用いたPEEP設定をするというマネジメントは現実的である。その後,個々の患者ごとに肺のリクルータビリティがあるかどうかを意識しつつ,プラトー圧≦30cmH2O,driving pressure<15cmH2Oを指標にPEEP設定を行っていく方法が現時点では最も安全性が高いと考える。結果として,最良の呼吸器系コンプライアンス,最小限のdriving pressureとなれば,患者にとってより適切なPEEP設定である可能性は高くなる。さらに,上記の指標を超えてhigher PEEP/FIO2 table相当のPEEP設定を考慮する場合には,利用可能な施設であれば経肺圧モニタリングを行うほうがより安全と言える。また,PEEPの利益と害を理解したうえで,必ずしも「ARDS肺にとって最適なPEEP設定=ARDS患者にとって最善なPEEP設定」ではないことを忘れてはならない。

Main points

●ARDSのPEEP設定においては,肺のリクルータビリティは常に意識すべきである。

●最初にlower PEEP/FIO2 tableを用いたPEEP設定をすることは現実的である。

●気道内圧を指標としてPEEP設定をする場合,プラトー圧≦30cmH2O,driving pressure<15cmH2Oを用いる。

●適応を選べば経肺圧モニタリングは有用である可能性が高く,換気時ΔPL 10〜12cmH2O以下,吸気終末経肺圧20〜25cmH2O以下,呼気終末経肺圧0cmH2O以上が目安となる。

●PEEPの利益と害を理解して,患者の肺だけでなく全身状態を考慮してPEEP設定をするべきである。

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ICUにおける肺疾患管理の際,高二酸化炭素血症への対応・管理は日常的に行われているが,高二酸化炭素血症や酸塩基平衡が人体に与える影響について解説した文献は多くない。このため,生理学的に,または動物実験レベルの文献から考察する必要がある。本コラムでは,高二酸化炭素血症が生体に与える影響,permissive hypercapniaによる治療成績,CO2除去装置extracorporeal carbon dioxide removal(ECCO2R)の有効性について概説する。

Main points

●高二酸化炭素血症や呼吸性アシドーシスは,生体にさまざまな悪影響を及ぼす。

●permissive hypercapniaが許容できる事象かどうかについては議論がある。

●ECCO2Rの効果については,現在進行中の多施設研究の結果が待たれる。

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患者-人工呼吸器非同調(以下,非同調)は,人工呼吸器からの呼吸サポートと患者の要求にミスマッチが生じている状態を指す。非同調が呼吸苦や呼吸仕事量の増大をもたらすことは古くから報告されているが,近年では死亡率との関連も示唆されている。本稿では,非同調の種類やその原因,身体所見,人工呼吸器のグラフィック,対処法といった特徴を整理する。そのあとに非同調が患者アウトカムに及ぼす影響について論じることとする。

Main points

●近年,非同調と患者ハードアウトカムとの関連が複数報告されている。

●患者-人工呼吸器非同調は,患者の不快感だけではなく,肺および横隔膜の傷害を引き起こす可能性がある。

●患者-人工呼吸器非同調を認識するためには,患者の呼吸様式と人工呼吸器グラフィックの両方を観察することが重要である。

●非同調は,トリガーによる非同調,送気流量による非同調,送気終了のタイミングによる非同調の大きく3つに分類される。

●各非同調の特徴(原因,身体所見,グラフィック,対処法)を理解しておく必要がある。

3.呼吸仕事の評価 竹内 宗之
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自発呼吸は換気血流比を改善し,肺リクルートメントを促進する。しかし大きすぎる吸気努力は,重症の急性呼吸窮迫症候群acute respiratory distresss syndrome(ARDS)では肺傷害を引き起こし予後を悪化させる可能性があり,また,人工呼吸中の小さすぎる吸気努力はventilator-induced diaphragmatic dysfunction(VIDD)による呼吸器離脱困難を引き起こす可能性がある。したがって,自発呼吸における呼吸仕事の評価は重要である。呼吸仕事の評価を行うための標準的手法として,食道内圧を利用して計算する呼吸仕事量work of breathing(WOB)やpressure-time product(PTP)があるが,食道内圧測定はまだ一般的でなく,臨床的にはあまり用いられていない。食道内圧が測定できない場合の吸気努力の評価には,P0.1,PAV+,横隔膜活動電位(Edi),横隔膜超音波検査を利用する方法などがある。今後は,呼吸仕事を評価し適切に維持することは,ARDS症例で1回換気量やdriving pressureを制限するように,人工呼吸器管理の常識になるかもしれない。

Main points

●呼吸仕事の評価は,ARDS患者における肺傷害の予防と,人工呼吸器離脱困難患者の評価と適切な人工呼吸器設定という,2つの側面から重要である。

●呼吸仕事の評価を行うための標準的手法として,食道内圧測定を利用して求める呼吸仕事量(WOB)やPTPがある。

●食道内圧を利用せずに吸気努力の大きさを評価する方法としては,P0.1,PAV+,横隔膜活動電位(Edi),横隔膜超音波検査を利用する方法などがある。

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生体は,呼吸,循環システムともに,呼吸回数,心拍数といった,それぞれ独立した動的サイクルをもっており,基本的には不随意に調節されている。しかし,肺と心臓大血管という隣接した両者のシステムは,互いに完全に独立した存在ではなく,相互に影響を及ぼし合っている。特に,主に気相からなる肺のダイナミックな圧力変化サイクルは,主に液相からなる心臓大血管の動態に多くの影響を及ぼすことが知られている。呼吸が循環に及ぼす影響は,循環が呼吸に及ぼす影響よりも複雑であるため,本稿では,特に前者を中心に解説する。

Main points

●自発呼吸時の吸気時の胸腔内圧は陰圧であるため,右房圧は低下し静脈還流量が増加する。逆に機械換気時は胸腔内圧は陽圧となり,静脈還流量は減少する。

●健常者では,陽圧換気による循環への影響は,左室後負荷よりも前負荷に顕著に現れ,通常は前負荷減少により心拍出量が低下する。

●一方,左室収縮力の低下した心不全患者では,陽圧換気による左室経壁圧,すなわち,後負荷低下の影響は大きく,通常は心拍出量は低下せず,しばしば人工呼吸器依存となる。

●ARDSなどの重症呼吸不全に対する陽圧換気は,肺容積増大という直接的影響と,低酸素血症,高二酸化炭素血症,アシデミアなどの間接的影響の両者を介して肺血管抵抗を増大させ,時に急性肺性心をきたす。

Part 2.総論

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人工呼吸器を適切に設定するためには,モードごとの特徴を正しく理解し,設定する必要がある。しかし,人工呼吸器の機種によりモードの命名法が異なることや,同じ名称のモードであっても動作が異なることがしばしばみられる。このことは,モードの理解を難しくしている大きな原因の1つである。モードを正しく理解し分類するためには,呼吸制御変数と呼吸シーケンス,目標スキームを考えることが有用である。本稿では,人工呼吸器の基本モードの定義を示しつつ,それぞれの特徴を解説する。

Main points

●人工呼吸器は,吸気相をトリガー,リミット,サイクルによって規定している。

●モードは,呼吸制御変数,呼吸シーケンス,目標スキームによって分類できる。

●呼吸制御変数には圧制御と量制御があり,呼吸シーケンスには持続的強制換気,間欠的強制換気,持続的自発換気があり,これらの組み合わせによって基本的な換気パターンが分類される。

●目標スキームを付け加えることにより,さらに細分化した分類を行うことができる。

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ICUで使用される高機能の人工呼吸器はICU ventilatorsと呼ばれる。これらを使用するうえで,従来トラブルシューティングといえばDOPE(Displacement of breathing tube,Obstruction,Pneumothorax,Equipment failure)などの発生したトラブルへの対処法はよく知られているが,自発呼吸の温存を重視した現代の呼吸管理では潜在的に存在する非同調asynchronyへの対策が重要となる。人工呼吸器の機種による違いを知り,適切な機種を選択することは潜在的な非同調を減らす可能性がある。ガス供給の内部構造の違い,流量表示の違い,圧縮容量の影響など,すべての人工呼吸器に共通する事項のほかに,リーク補正機能や吸気努力に対する応答性や圧の立ち上がりの精度も機種により異なり,患者の呼吸仕事量の軽減効果にも影響を与える可能性がある。患者の要求に応えられる適切な機種を選択することは,いわば未然のトラブルシューティングである。

Main points

●ICUで使用される高機能で圧縮空気により稼働する人工呼吸器はICU ventilatorsに区分される。

●同じICU ventilatorsに区分されていても機種により内部の基本構造が異なる。

●換気量の表示は温度・湿度による補正や圧縮容量の影響を受ける。

●機種により搭載されているリーク補正機能は異なり,リークのある状態での非同調の発生や換気量表示に影響を与える可能性がある。

●機種により潜在的なトリガー遅れへの応答性と圧の立ち上がりの性能に違いがあり,同じ設定であっても,軽減できる呼吸仕事量に差が生じる可能性がある。

2.人工呼吸器一覧 宇佐見 直
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現在,人工呼吸器はさまざまなメーカーから多くの機種が販売されている。メーカーにより独自の表記や特徴がある。そのため,患者ごとの人工呼吸器設定を語るとき,同一の機種を使用している者同士では,会話は簡単に成立するが,機種が異なるとモードやパラメータの呼称が異なり,会話がかみ合わず混乱をまねくという状況がある。このような状況を受け,ユーザーからは呼称表記や単位の統一を熱望する声が常に存在しているが,いまだ解決していない。そこで本稿では,日本で使用されている主な人工呼吸器の換気モードやパラメータの呼称・用語を一覧表に示し,機械的な特徴や機能,特殊モードについてもまとめた。

Main points

●人工呼吸器の機種によって各モード,設定,測定項目の呼称・表記が異なるため,医療過誤や混乱をまねく可能性がある。

●スタンバイ機能の設定や解除,above PEEPの理解は医療事故を回避するために必要である。

●BIPAP,APRVはメーカーによって独自のモード表記があり,設定方法によって異なるモードの動作を模擬できる機種がある。

●デュアル制御,PRVCなど,設定項目自体がPSVやPCVといった一般的なモードと異なり,動作の詳細が確認しにくいモードも多数存在する。

●PAV,NAVA,ASVなど独自モードが搭載された機種も増加している。

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陽圧による人工呼吸は急性呼吸不全の治療の軸となる手段であり,そのなかでも,volume control continuous mandatory ventilation(VC-CMV)とpressure control continuous mandatory ventilation(PC-CMV)は,今日最も頻用されている代表的な換気モードである。VC-CMVは陽圧人工呼吸の黎明期から使用され,いまだに現役で広く使用されている。PC-CMVも,VC-CMVに比べると歴史は浅いが,十分に使用経験が蓄積されており,その使用の割合は徐々に増加してきている。

 一方の換気モードと比較して,他方が優れているという質の高いエビデンスはなく,どちらを使用しても不適切な設定をすれば患者の予後に悪影響を及ぼし得る。作動原理の異なる両者の利点・欠点を十分に理解したうえで,個々の症例に適した換気モードを選択し,適切な設定のもとで使用すべきである。

Main points

●VC-CMVは,一定の流量で設定した換気量の換気を行う換気モードである。気道内圧は呼吸器系メカニクスによって変動するため,圧に注意してモニタリングを行う。

●PC-CMVは,一定の圧で一定の時間換気を行う換気モードである。送気流量,1回換気量は呼吸器系メカニクスによって変動するため,1回換気量の推移に注意する。

●どちらの換気モードにおいても呼吸器系メカニクスの測定が可能であり,呼吸器系の状態や経時的な状態の変化を把握することにより,患者に生じたトラブルに迅速かつ適切に対応できる。

●VC-CMVとPC-CMVのうち,一方の優位性を示した質の高い研究はなく,症例ごと,もしくは施設や指示を出す個人の使いやすさなどを指標に選択を行う。

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pressure support ventilation(PSV)は自発呼吸主体の換気モードである。呼吸パターンの大部分を患者に依存するため,患者の快適性や患者-人工呼吸器間の同調性に優れていると考えられており,また,サポート圧の程度によって患者の呼吸仕事量が調節可能である。PSVは,呼吸不全患者の発症早期から人工呼吸器離脱を考慮する時期まで広く使用される。しかし,その特性や適切な換気条件設定を十分に理解して使用しなければ,非同調や呼吸仕事量の増加,さらには無意味な人工呼吸期間の延長などの不利益な結果をもたらす可能性がある。本稿では,PSVの基本事項や循環に与える影響,経肺圧や呼吸仕事量との関係など,医療者が知っておくべき事項について述べる。

Main points

●PSVは自発呼吸主体の換気モードであり,1回換気量,吸気時間,呼吸回数のいずれもが,患者の呼吸パターンと人工呼吸器との相互作用によって決まる。

●PSV使用時は,吸気立ち上がり時間やサイクルオフ基準を適切に設定することが,同調性や快適性を向上するうえで重要となる。

●PSVではサポート圧の調整により呼吸仕事量を軽減することが可能であるが,しばしば補助の過不足が問題となることがある。

●呼吸器系メカニクスの異常や呼吸抑制のリスク,強い吸気努力,回路リークなどを認める場合はPSVの使用に慎重になるべきである。

●PSVは人工呼吸器離脱や抜管の可否を評価する際にも使用されることが多いが,他の方法と比較してその有用性に一定の見解はない。

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かつてSIMV(synchronized intermittent mandatory ventilation)は人工呼吸中の患者にとってより快適で安全なモードと考えられ,人工呼吸器離脱時にも有用なモードとして用いられていた。しかし,実際にはSIMVモードでは患者と人工呼吸器間の非同調が多く発生し,人工呼吸器離脱時にも患者の呼吸仕事を軽減せず,他の離脱法に比べ呼吸器離脱までの日数を多く要するだけでなく,離脱成功率も低いことが明らかとなった。低出生体重児においても同様で,人工呼吸期間が延長する可能性が示されている。これらの報告から,SIMVの使用頻度は現在では低い。しかし,症例によってはSIMVモードをsigh機能として利用すれば,リクルートメント効果が期待できるかもしれない。

Main points

●1980〜90年代,SIMVモードは維持モード,離脱時のモードとして多用されたが,2000年以降,その使用頻度は低下している。

●SIMVモードでは,自発呼吸をトリガーとした強制換気時の吸気呼吸仕事は軽減されない。

●SIMVモードは人工呼吸器離脱時のモードには適さない。

●SIMVモードでは,患者との非同調率が高く,特に設定換気回数が多いと非同調率が高くなる。

●SIMVモードをsigh機能として利用できるかもしれない。

Part 3.各論 古典的ではないが比較的よく使用されてきた呼吸器モード

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BIPAP(biphasic positive airway pressure)とAPRV(airway pressure release ventilation)は,いずれも二相性のCPAP(continuous positive airway pressure)であり,換気中のどのタイミングでも自発呼吸が可能な換気モードである。いずれも酸素化を改善させる目的で高CPAP相を設定し,高CPAP相での呼気時の換気補助目的に低CPAP相を設定する。しかし両者の定義が長期にわたり曖昧にされてきたため,BIPAPとAPRVの概念が混同された状態が続いていた。そのため,これまでの報告には質の高い研究が少なく,有用性などについても,いまだ明確に定まっていないのが現状である。APRVの定義についてはHabashiの手法(Plow 0cmH2O,Tlow PEF 75%)に基づいた設定が提唱されており,近年はこれに従った研究が行われている。2017年には単施設の無作為化比較試験ではあるが,急性呼吸窮迫症候群acute respiratory distress syndrome(ARDS)に対するAPRVの有用性が報告されており,今後さらなる臨床研究が期待される。

Main points

●APRVは独立した換気概念であり,BIPAPと混同しないように注意する。

●過去の研究ではBIPAPとAPRVを混同して用いられているものがあり,換気モード名だけでは判断することができない。

●APRVは通常型の換気モードで対応できない症例に対するレスキューモードである。

●APRVの正しい設定方法を理解する必要がある。

●APRVの開放相における換気量は,肺保護換気の換気量と同等ではない可能性がある。

●APRVの圧開放時間は,最大呼気流量の75%まで低下した時間に設定することが望ましい。

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高頻度振動換気法high frequency oscillatory ventilation(HFOV)は平均気道内圧で肺容量を確保し,解剖学的死腔程度を目安とした小さい換気量で換気を行う換気法である。成人急性呼吸窮迫症候群acute respiratory distress syndrome(ARDS)症例を対象に通常の人工呼吸器管理conventional mechanical ventilation(CMV)と比較してHFOVの有効性を示した大規模無作為化試験(RCT)は報告されておらず,ARDS全般に対するHFOV使用は推奨できない。低い振動数や大きいstroke volume(SV)は,人工呼吸器関連肺傷害ventilator-associated lung injury(VALI)のリスクとなり,高すぎる気道内圧はVALIや右心不全のリスクを上昇させる。HFOVを用いる場合は,他の人工呼吸モードと同様に,不適切な設定を行えば呼吸・循環に有害となり得ることを認識したうえで,適切な設定を心掛ける必要があるだろう。しかし,適切な設定を行ったとしてもHFOVが有効かどうかは不明で「適切な使用方法で管理されたHFOV」とCMVの肺保護戦略を比較したRCTが行われるか否かも,現時点では不明である。

Main points

●HFOVは酸素化を改善する可能性があるが,死亡などの真のアウトカムを改善する根拠はない。

●他の人工呼吸モードと同様に,肺保護戦略や循環への影響を考え,適切な設定を心掛ける必要がある。

●HFOVはモニタリングが十分ではなく,CMVと比較して呼吸・循環についての評価方法は制限される。

●HFOVは高い平均気道内圧で管理する場合が多く,HFOV管理中は右心不全の高リスクであり,モニタリングを行ったほうがよい。

●ARDS全般に対するHFOVの使用は推奨されず,使用するとしても重症例など対象は限定される。

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dual control ventilation(DCV)は,volume control ventilation(VCV)とpressure control ventilation(PCV)の特徴を融合させた換気モードである。pressure regulated volume control(PRVC)はDCVの一種で,1回換気量をモニタリングし,closed loop feedbackにより圧の調節を行うことで,従圧式でありながら換気量が保証される。このコンセプトと自動調節の簡便さから,従来の換気モードよりも優れているかのような印象が先行しているが,PRVCの自動調節機構では,1回換気量が増加した際,患者の肺・胸郭コンプライアンスが改善したためなのか,患者の吸気努力が高まったためなのかを区別できないため,呼吸不全患者への使用時には最大の欠点となり得る。加えて,従来の換気モードと比較して,PRVCのほうが優れていることを示す質の高いエビデンスはない。そのため,使用にあたっては,その利点・欠点を十分に理解したうえで使用すべきである。

Main points

●PRVCはDCVの一種であり,目標1回換気量(target Vt)が設定されたPCVである。

●PRVCでは1回換気量(Vt)をモニタリングし,target Vtと比較しながら圧を調節することで,患者の状態が変化してもVtが維持できるように設計されている。

●一方,圧の自動調節機構では,患者状態の改善と呼吸努力の増加とのどちらによってVtの増加が生じたか区別できないため,呼吸努力が増加した患者で“頑張って息を吸おうとすればするほど吸気補助が減少していく”という矛盾が生じる。

●吸気努力がさほど強くない患者では吸気補助を減少させることでVtを制限し得るが,吸気努力があまりに強い患者ではVtを制限できず,VALIのリスクを軽減できない。

●急性期患者に対しては,従来の換気モードと比較してPRVCによってアウトカムの改善が示された質の高い研究は存在せず,急性期の人工呼吸器管理では登場機会が少ない。

Part 3.各論 新しい呼吸器モード

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proportional assist ventilation(PAV)は患者-人工呼吸器間の同調性を考慮し25年以上前に開発されたモード1)であるが,これまでそれほど注目を浴びてはこなかった。近年,患者-人工呼吸器間の非同調は人工呼吸期間や死亡率と関連する2)との報告がなされ,患者と人工呼吸器との同調性が大きく取り上げられるようになって以来,注目を集めているモードだと言えよう。PAVは患者-人工呼吸器間の非同調を改善し,呼吸仕事量をモニタリングすることができるため,人工呼吸器からの離脱に適したモードである可能性がある。呼吸器離脱が困難な患者において,人工呼吸期間を短縮させる可能性が大規模臨床試験*1で現在検討されている。本稿では,現在主に使用されているPAV+を中心に,開発後25年以上にわたって蓄積されてきた知見と今後の展望について述べる。

 なお,本稿では「PAV」と記載する場合はモードとしての一般名を示し,「PAV+」と記載する場合はPB840/980*2(Covidien社)に搭載されているモードを示す。 

Main points

●PAVは患者の吸気努力に応じたサポートを行うことができる自発呼吸モードである。

●PAV+は,肺メカニクスを自動で測定することができ,患者の吸気努力と肺メカニクスに応じたサポートを常に行うことができる。

●PAV+は超急性期を過ぎたPSVを使用できる患者に使用する。

●PAV+はPSVと比較し,患者-人工呼吸器間の同調性を改善することができる。

●PAV+は自発呼吸の呼吸仕事量をモニタリングすることができる。

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神経調節補助換気(NAVA)は,横隔膜活動電位(Edi)を測定し換気補助を行う呼吸器モードである。呼吸の生理学的調節を利用しているため,過剰な換気を回避することで肺保護的な働きが期待されるものの,現時点では重要な転帰改善を示した臨床研究はない。多くの臨床試験でアシストコントロール(A/C)モードやPSVと比較し,患者-人工呼吸器同調性を改善させることが示されている。呼吸仕事において,①過剰補助を防ぎ廃用のリスクを低下させる,②呼吸仕事量を減少させる,という両面からの有効性が示唆される。連続的なEdiモニタリングにより,過剰な呼吸努力や呼吸筋疲労,非同調をより正確に判断できる可能性がある。continuous NAVAや,重要な臨床転帰を評価する臨床試験など,これからの知見集積が期待される。

Main points

●神経調節補助換気(NAVA)は,横隔膜の電気活動を測定し換気補助を行う呼吸器モードである。

●呼吸の生理学的調節を利用しているため,過剰な換気を回避することで肺保護的な働きが期待されるものの,現時点では重要な臨床転帰改善を示した研究はない。

●A/CモードやPSVと比較し,患者-人工呼吸器同調性を高める可能性が示されている。ただし,同調性の指標のなかでもダブルトリガーについては改善させるとはいえない。

●呼吸仕事に関しては,①過剰補助を防ぎ横隔膜機能を維持する(廃用を防ぐ),②呼吸仕事量を減少させる,という両面からの有効性が示唆されているが,個々の症例における呼吸努力や非同調のリスクなどを吟味する必要がある。

●連続的に横隔膜活動電位(Edi)を測定することで,過剰な呼吸努力や呼吸筋疲労,非同調を客観的により早く正確に判断できる可能性がある。

●新たな手法であるcontinuous NAVAや,進行中の臨床試験の結果など,今後の知見集積が期待される。

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adaptive support ventilation(ASV)は設定した目標分時換気量を確保・保証するために必要な1回換気量と呼吸回数の組み合わせを,呼吸仕事量が最小限になるように1呼吸ごとに自動調整するclosed loop ventilationである。一種の圧規定従量式換気pressure regulated volume control(PRVC),volume support ventilation(VSV)であるが,1回換気量を設定するかわりに,分時換気量を設定する点で異なる。急性期から離脱期まで,自発呼吸の有無にかかわらず使用可能である。INTELLiVENT-ASVはこれをさらに発展させ,経皮的動脈血酸素飽和度と呼気終末二酸化炭素分圧の目標幅を設定することにより,目標分時換気量,吸入酸素濃度,PEEPも自動調整するfull closed loop ventilationである。

Main points

●ASVとは,設定した目標分時換気量を確保・保証するために必要な1回換気量と呼吸回数の組み合わせを,呼吸仕事量が最小限になるように1呼吸ごとに自動調整するclosed loop ventilationのことである。

●ASVは一種のPRVC,VSVであるが,1回換気量を設定するかわりに,分時換気量を設定する点と,患者の自発呼吸の有無によりPCV,PC-SIMV,PSVが切り替わる点で異なる。

●急性期から離脱期まで,自発呼吸の有無にかかわらず使用可能である。

10.自動ウィーニング 大野 博司
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本稿では,人工呼吸器ウィーニング・離脱における自動ウィーニングの位置づけ,そして自動ウィーニングに必要なclosed loop ventilationについて説明し,国内で使用可能であるSmartCare/PSとINTELLiVENT-ASV・QuickWeanについて取り上げる。

Main points

●自動ウィーニングはclosed loop ventilationによって可能である。

●自動ウィーニングとして,①SmartCare/PSと②INTELLiVENT-ASV・QuickWeanの2つがある。

●SmartCare/PSは自発呼吸時に使用でき,一定時間の呼吸回数・ETCO2値から患者の呼吸状態を分析し,サポート圧を変化させ,SBTを施行して人工呼吸器離脱が可能かを判断する。

●INTELLiVENT-ASV・QuickWeanは自発呼吸の有無にかかわらず完全自動化されており,呼吸ごとにパルスオキシメータ,カプノグラムから得られるSpO2値,ETCO2値からSBTを施行し,人工呼吸器離脱可能かを判断する。

●迅速性・安全性を備えた自動ウィーニングの導入により,限られた医療資源の有効活用の可能性が示唆される。

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症例1

高血圧の既往のある70歳の男性。身長165cm,体重70kg。数日前からの咳嗽と発熱,来院当日からの著明な呼吸困難を主訴に来院した。

来院時の所見:意識GCS E4V4M6,体温38.5℃,血圧75/50(60)mmHg,脈拍120/min,呼吸回数35回/min,SpO2 85%(10Lリザーバー)。胸部単純X線写真にて,両側肺野に浸潤影。著明な努力様呼吸もあり,ERにて鎮静・筋弛緩のうえ挿管・人工呼吸器管理開始。2Lの補液後も低血圧があり,ノルアドレナリン投与が開始された。CT画像では両側下葉背側を中心にコンソリデーションを認めた。両側肺炎,ARDS,敗血症性ショックの診断にて,ICUに入室した。

ICU入室後:AC/PC,FIO2 0.7,Pi(Δ吸気圧) 15cmH2O,PEEP 15cmH2O,f 25回の設定,Vt 300mL(5mL/kg PBW),プラトー圧30cmH2O。SpO2 92%,PaO2 60mmHg,PaCO2 50mmHg,pH 7.25,HCO3 20mEq/L。

特集 酸素療法

Part 2 酸素療法の目標値

周術期患者の酸素療法 安田 英人
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心停止蘇生後や急性冠症候群患者における酸素療法と同様に,周術期における酸素療法の有用性・有害性を検証することは,集中治療医にとっても切実であり,かつ,それらに精通することは必要不可欠である。周術期酸素療法におけるアウトカムでは,術後呼吸器合併症(PPC)のみならず,死亡,手術部位感染(SSI),術後悪心・嘔吐(PONV)も重要である。しかし,現在までのエビデンスを統合すると,周術期における高濃度酸素投与によるこれらの合併症への効果は定かではない。現状では通常行っている診療どおりに,目標SpO2(95%前後)をターゲットにしてFIO2を調整することが妥当であると考えられる。

Main points

●周術期酸素療法におけるアウトカムでは,術後呼吸器合併症(PPC)のみならず,死亡,手術部位感染(SSI),術後の悪心・嘔吐(PONV)も重要である。

●周術期酸素療法を考慮する際には,術後のみならず術中の酸素投与も一連の流れとして考慮することが重要である。

●現在までのエビデンスを統合すると,周術期における高濃度酸素投与によるPPC予防,死亡率低下,SSI予防,PONV予防への効果は定かではない。

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This ongoing series provides the readership of Intensivist with the opportunity to read concise reviews of current topics in Critical Care Medicine, in English. It is hoped that these reviews will stimulate the pursuit of other literature written in English.

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我々ヒトは筋収縮,体温調節,神経伝達などの生命維持活動のために食物を摂取し,体内に取り込まれた栄養素からエネルギーを産生,吸収し続けていかなければならない。これは集中治療を要する状況でも同様である。原疾患の治療を進めると同時に患者の栄養状態の把握を行い,刻一刻と変化する病態に応じて適切な栄養療法を施行する必要がある。急性期の栄養療法はその投与時期や方法,栄養素などカテゴリーごとに論議が行われているが,今回はエネルギー量の決め方,考え方に関連のある間接熱量計について紹介する。

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目次

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次号予告

基本情報

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INTENSIVIST
10巻3号 (2018年7月)
電子版ISSN:2186-7852 印刷版ISSN:1883-4833 メディカル・サイエンス・インターナショナル

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