理学療法ジャーナル 51巻11号 (2017年11月)

特集 多分野に広がる理学療法

EOI(essences of the issue)
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 理学療法士が医療機関以外に勤務するようになった背景は,理学療法が有するテクノロジーがさまざまな分野で応用可能であることに根差している.人を相手にしてきたこれらのテクノロジーは従来の枠を超えて広がってきている.動き,運動機能,身体パフォーマンスのような人が動くことと関係することから,社会還元に至り,領域が臨床から得たテクノロジーがいろいろな輝き方をするようになってきた.その光の方向性を「多分野に広がる理学療法」として解説していただいた.

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 理学療法が有する固有技術は意外と広く,それらのなかには専門分野が発展分化して繊細なテクノロジーとなっているものも存在する.さらに日本人ならではの非常に詳細で機知に富んだ技術は他の分野でも応用されつつある.国内での理学療法の職業的位置づけには厳しい側面もあるが,このテクノロジーの中身は深遠であり多くの可能性を有していると筆者は考えている.

 筆者自身も服飾関係や医療用テープの開発などにおいていくつかの企業と共同研究させていただく機会があり,商品開発過程において自分自身の技術の具現化が,医療職種としてのアイデンティティと一線を画す感覚になったことがある.

海外企業との連携 大田 幸作
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はじめに

 日本理学療法士協会1,2)の報告によると,企業に勤務する理学療法士の人口は医療施設に勤務する者に比較して非常に少人数であるものの増加傾向にある.2006年の時点で企業に勤務する理学療法士の数は63人であったが,2016年には約3倍強の207人にも上り,雇用先の企業数も4倍の119社と増加している(図1).

 日本のリハビリテーション業界もこの十数年間で学術および技術面でグローバル化が飛躍的に進んだことは誰もが感じていることと思われる.このような現状から海外企業と業務上かかわっている理学療法士も増加傾向にあると推測され,以前と比較して多様な連携形態も存在することが予想される.

 多くの組織で共通する傾向であるが,大きい組織であるほど,職務はより専門性が高くなり,反対に小規模であれば個人の役割は多様性を要求されることも少なくない.医療関連の組織に勤務する場合,総合性を高めながら,専門性を修得していくことが少なくないが,理学療法士が中小企業に勤務する場合には,医療的な知識と技術の修得はもとより営業,教育,場合によってはコンサルティング能力までも要求されることがある.さらにこれらのタスクが国外向けの場合もあり,マルチロール的役割の需要が非常に高まると予想する.

 筆者を例に挙げると,入職時は小規模の医療機器の輸入商社であり,また筆者にノルウェーのリハビリテーション機器企業(Redcord社)の在籍経験があったため,当然のように海外企業との連携を通したマルチロール的役割が期待されていた(図2).現在インターリハ株式会社(以下,当社)は,自社生産の機器もラインナップされ,機器の輸出入および国内外への販売および技術提供と,多岐にわたって事業展開している.このような状況のなかで,筆者が理学療法士として所属部署での役割(自費コンデショニングセンターおよび介護予防事業の運営)と併用しながら,輸出入機器の担当として海外企業との連携において具体的にどのような役割を果たしているのか紹介する.

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株式会社ワコールとのかかわり

 株式会社ワコール(以下,ワコール)には,女性下着メーカーとしてだけでなく,スポーツウエアのメーカーとしての一面がある.昨今のマラソンブームのなか,一般ランナーなどのスポーツ愛好家がウエアの一部として下肢の機能的ウエアを着用している姿を目にすることが多くなっている.ワコールのCW-X®を個人的に愛用していたメジャーリーガーのイチロー選手は,現在ワコールの契約スポーツ選手としてシーズンオフのトレーニングでCW-X®(図1)を着用し,その場面がマスコミを通じて報道されている.これらはメーカーが行う商業ベース(広告,販売)の事業展開である.

 ワコールでは,女性下着の開発において年代別の体型データを数万人規模で保有しており,データに基づいた商品開発に取り組む姿勢を明確にしている.さらに社内に人間科学研究所があり,商品開発前の基礎的な検証から商品開発と効果検証を以前から行っている.

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はじめに—「ウエア」づくりのバックグラウンド

 筆者はこれまで「臨床結果に基づき世の中にないものであったほうがよいものは,つくればよい」,そのようなコンセプトを抱き,日々この理学療法という仕事に従事してきた気がする.特にこのような考え方は目新しくもないと思うが,その背景には最初に入職した職場の独特な文化の影響があると考える.特に強要されたわけではないが,自分自身のアイデンティティを強く持ち続けることの重要性を感じた.それを見出していけることの可能性を見出したのが「姿勢」というキーワードであった.

 理学療法士が病態を的確に捉え,問題解決に導くことに成功した場合には,必ずと言っていいほど姿勢や歩行をはじめとする動作に調和が生まれる.このような技術は世の中に存在するさまざまな技術に照らし合わせて考えてみても,引けをとらない固有の技術であると考える.

 しかし,そのまま良好な状態を維持できる方もいれば,この技術をもってしても維持できない方も存在する.理想的な理学療法を実施したという条件があっても,身体に加わる生活負荷や心理的要素などの影響で個人が有している能力に応じ出てくる結果が異なる.いずれのケースにおいても,理学療法によって引き上げることのできた機能や能力を維持できる工夫,そして,その前に理学療法の質のさらなる向上につながる工夫はないものかと模索していた.

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マッスルスーツ®製造にかかわることになったいきさつ

 厚生労働省「2010(平成22)年国民生活基礎調査)」によると,日本の腰痛人口は約2800万人(4人に1人)と報告され,自覚症状については,男性は1位,女性は2位と国民病と言っても過言ではない状況であり,日常生活満足度の低下にもつながっている.それにもかかわらず有効な予防方法や治療方法は確立されておらず,筆者は今までにない新しい方法を開発し,腰痛予防や治療に貢献したいと考えていた.

 また,理学療法士養成校に入学する以前は,自分の手技だけで腰痛を治せる治療家になりたいと思っていた.しかし,人の手だけでは限界があり,また,1人が治療できる人数はかなり限られてしまうことを,臨床を通じて実感した.さらに,外来・急性期・回復期リハビリテーションにおける腰痛や姿勢バランス等の研究を通して,腰痛は予想以上に完治しにくい例が多いことを知り,治療だけでなく予防が重要であることも学んだ.

無動力歩行支援機の開発 阿部 友和
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はじめに

 リハビリテーションロボット(以下,ロボット)の利用目的がEffectiveness(有効性)であることは言うまでもない.しかし,ユーザーの視点からすればUsability(使いやすさ)やSatisfaction(満足度)も,Effectivenessと等価値となる.つまり,Effectivenessが高くても,ユーザーが使いやすく,Flexibility(柔軟性)の高いものでなければ,完成度の高いEffectivenessの構築に至らないのである.その意味でも,無動力歩行支援機ACSIVE®(以下,ACSIVE®1〜4)は,受動歩行原理の導入という新規性とEffectiveness以上に,Usability,Flexibilityを兼ね揃えたユーザー視点のロボットと感じている(図1).

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はじめに

 日本における理学療法士の数は,近年加速的に増加し,特に若い人の割合が高くなっている.一方,少子高齢化という社会的背景に伴い,社会保障費が増大し,目前に迫る2018年度の診療報酬と介護報酬の同時改定においても,地域医療構想の実現を含む短期集中型医療や療養病床の統廃合など,私たち理学療法士の未来に暗い影を落とすような情報が溢れている.

 理学療法士は,これまでも現在も,その多くが医療機関での勤務を中心に業務にあたっているが,これから国がめざす「病院完結型医療」から「地域完結型医療」への転換などを考えると,理学療法士の職域が在宅ケアの領域に広がりをみせることは必至だと考える.

 現在,このような機運が高まるなかで,筆者が19年前に起業し,理学療法士の視点で企業経営に携わった経験を振り返り,理学療法士の可能性や未来に向けた潜在力について考えてみたい。

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セミナー事業・出版事業にかかわることになったいきさつ

 株式会社gene(以下,当社)はリハビリテーションスタッフ向けのセミナー企画・運営を行っている会社である.わが国初だったため10年前に起業したときには,たくさんの方から会社のコンセプトなどについてご意見をいただいた.

 2017年現在,セミナー事業を立ち上げて10年,出版事業は7年目になる.セミナー事業を始めたきっかけは,当時,筆者が勤務していた株式会社ジェネラスで社員教育を兼ねた研修会の運営をしていたことである.ただ,筆者は元々独立するつもりなど毛頭なく,同社で一生を終えるつもりで勤務していた.今でも自分の状況を考えると少し不思議な気がしている.

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はじめに

 2006年に筆者らは,フィンランドのカヤーニ郡にある理学療法クリニックを訪れた.インソールサービスに特化した理学療法士のクリニックである.このクリニックのインソールサービスは,熱可塑性インソールを用い,足と足関連の評価からインソール作製・提供まで見事にシステム化されていて,これまで抱いていた「小難しい」という印象を一掃した.帰国後,筆者らはメディゲイト株式会社を設立し,日本における自主性かつ継続性のあるインソールサービスを業態とするための戦略を練り,「足の健康専門店メディゲイト」(以下,当店)を開設した.

 本稿では,なぜ理学療法士が保険適用外事業を立ち上げたのか,また開設から10年を超えた当店の現状と課題・展望など考察を加え報告する.

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 私はスポーツメーカーに所属し,7年目を迎えた.大学院卒業後にスポーツ用品の研究開発を志し,多くの分野の方々とのかかわりを通じてたくさんのことを学び,現在に至っている.ここ数年はシューズの開発に携わっており,本稿では,「ミズノ株式会社(以下,弊社)のスポーツ用品開発」と「人と用具のマッチング」について紹介する.

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はじめに

 近年,スポーツを楽しむ方の人口は,世界的に増加の一途をたどっており,その目的は,競技力向上のみならず,健康増進や社会活動への参加など,さまざまなケースが散見するようになってきた1).このように多様化したユーザーが使用するスポーツ用品の開発においては,さまざまなニーズに応えるために人体の特性や使用者の視点を念頭に置いた「human centric science」による研究が重要となる.

 具体的には,さまざまな動作やシーンにおける人体応答の分析をもとに要求機能を抽出し,それらの機能を満たすために独自に開発した材料の活用や構造設計を実施する.なかでも,動作分析においては,人体応答を考慮した適切な要求機能抽出のために運動学や解剖学,生理学などを含む理学療法の観点からの考察が重要な要素の一つと言える.

 現在,筆者らの研究グループには5名の理学療法士が在籍しており,各種スポーツ用品のコンセプト立案,構造設計,機能性評価手法の確立などの側面から研究開発を行っている.いずれも理学療法学を大学・大学院にて学んだ後,その技術や知識を医療のみならずモノづくりにも役立てることで,カテゴリーを問わずスポーツを楽しむ方のQOL向上に貢献したいとの考えから,現職に至っている.

 本稿では,理学療法分野の知見を活用したスポーツ用品の研究開発事例として,下肢の挙動特性に着目したランニングシューズ設計およびシミュレーション技術を活用した野球ウエア設計について述べる.

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起業の目的

 2014年8月,神奈川県三浦市に「高齢化率40%でもビクともしない街」をつくることを目的に株式会社風の谷プロジェクト(以下,風の谷プロジェクト)を設立した.三浦市は神奈川県のなかで最も高齢化が進んでいる地域であり,人口高齢化率は35%を超えている.神奈川県内の高齢化率は23.6%,全国平均は26.3%であり,この数値と比較すると三浦市の高齢化が深刻なことがわかる.また,少子高齢化だけでなく,労働人口の流出による地域経済の衰退,地域力の弱体化などの問題も重なり,三浦市は2040年までに消滅する可能性がある自治体として危険視されている.

 風の谷プロジェクトのビジョンは「高齢化と衰退の進む地域に暮らす高齢者が,長年住み慣れた場所で楽しく豊かな人生を過ごせるように,介護が必要になった高齢者の生活を地域で支援するシステムを構築する」ことである.しかもこれを公的財源に頼らずに実現することを考え,そのためには在宅高齢者へリハビリテーションを提供する場をつくるとともに,高齢者の生活支援を地域の経済の活性化と一体化させた地域創生ビジネスとして進めることが必要だと考えた.

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はじめに—その分野にかかわることになったいきさつ

 「脊髄損傷」.言葉では知っていても,実際にリハビリテーションを担当したことがある理学療法士は意外と少ないのではないだろうか.筆者もその一人で,「どうしよう!」,これが初めて脊髄損傷疾患を担当したときの心情だった.

 病院勤務中,ある一人の脊髄損傷者を担当することになった.彼は頸髄の5番を損傷し,肩と首を動かすことが精一杯の状態だった.筆者にとって脊髄損傷者を担当するのは初めての経験で,どうやって理学療法を進めたらよいか,正直迷った.試行錯誤しながらも彼を担当した4か月間が終わり,筆者のなかに不甲斐なさと無力感がこみ上げてきた.脊髄損傷者専門トレーニングジムである「J-Workout」を知ったのはそんなときだった.

 脊髄損傷について調べるなかで,J-Workoutが運営する歩行披露イベント「KNOW NO LIMIT」(図1)の存在を知り,ボランティアとして参加した.筆者はこのイベントで医学の常識を超えた脊髄損傷者の姿を目の当たりにする.イベントのテーマは「脊髄損傷者による歩行披露」.ステージを歩く人たちはみなキラキラと輝き,回復に限界はない(KNOW NO LIMIT)ことを示してくれた.筆者はふとわれに返り,当時担当していた彼の姿を重ねながらステージを眺めている自分に気づいた.そして,再びあのときの不甲斐なさと無力感がこみ上げてきた.このときの出会いが,脊髄損傷者専門トレーニングに携わることとなったきっかけである.

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はじめに

 日本国内において「プロ野球」と言えば,日本野球機構(Nippon Professional baseball organization:NPB)傘下のセントラル・リーグとパシフィック・リーグの2リーグ全12球団を指す.そのなかで理学療法士免許を有しトレーナーとして活動しているのは17名(2016シーズン時点)である1).その多くは,リハビリテーションの分野に長けている理学療法士の専門性を生かしリハビリテーション担当のトレーナーとして従事している場合が多い.また,個人の能力によってはメディカルトレーナーとして1軍に帯同する,もしくはチーム内のストレングス・コンディショニングを担当することもあり,その役割は各球団で異なる.本稿では,筆者が所属する横浜DeNAベイスターズでの経験と理学療法を活用した障害予防アプローチなどについて紹介していきたい.

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はじめに

 日本のサッカー業界・分野で働くメディカルスタッフ(医師は除く)は主にはり師きゅう師,あん摩マッサージ指圧師,柔道整復師,理学療法士,日本体育協会公認アスレティックトレーナー(athletic trainer:AT),National Athletic Trainers' Association-Board of Certification(NATA-BOC)公認アスレティックトレーナー(Athletic Trainer, Certified:ATC)などのいずれかの資格,もしくは複数の資格を有している.役職名としてはマッサー,トレーナー,フィジオセラピスト,コンディショニングコーチなどチームによってさまざまである(表1).

 筆者自身,理学療法士と日本体育協会公認アスレティックトレーナーの資格を取得している.2015年シーズンは鹿島アントラーズFC育成部トレーナーとして1年間,2016年シーズンから現在まで鹿島アントラーズFCトップチームのフィジオセラピストとして契約している.本稿では,鹿島アントラーズFCで筆者自身が担ってきた役割と他の専門職とのかかわりについて述べる.

連載 超音波で見る運動器と運動療法Q&A・第11回【最終回】

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Question

 17歳女子,ハンドボール部.足の甲を痛がり整形外科を受診した.エコー画像(足背走査,短軸ドプラ画像)からどのような病態を考えるか?

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 毎年,某大手生命保険会社が,その時代の流行や世相を反映した川柳を一般から募集している.何気ない日常の出来事を十七文字で表したそのユーモアとセンスには,思わずクスリとさせられ,「そうだよなぁ」と妙に納得してしまう作品も多い.今年の第1位は世代間ギャップを巧妙に言い表した一句であった.私はその作品で挙げられた“バブル世代”以前の“新人類”と呼ばれた世代であり,作中の“ゆとり世代”とはさらに大きな年代差がある.現在の私は,こうした年の差(ギャップ)のある若者たちと職をともにし,彼らに対する指導的な役割も求められる立場となっている.

 ある一定の年代を称して“〜世代”と一括りにすることについては,私自身,いささかの抵抗感を覚える.かつて,私たちの世代が“新人類”と呼ばれていたころ,それを肯定的に捉える気持ちには到底なれなかった.当時のそうした気持ちを頭の片隅にとどめながらも,ここではあえて“ゆとり世代”と呼ばれる人たちへ苦言を呈することにしよう.

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はじめに

 第18回世界理学療法学術大会(World Confederation for Physical Therapy:WCPT)Congress 2017に参加する機会を得た.WCPTは1951年設立の非営利団体で,世界の理学療法士の連携を通して高い水準の標準の臨床,教育,研究を促進し,世界的な健康の改善に寄与するなどの目的を掲げている.その主な活動が今までは4年に1回のWCPT Congressの開催で,1999年にはアジアで初となる横浜大会が行われている.今回からは2年に1回の開催となり,2017年7月2〜4日にケープタウン(南アフリカ共和国)でアフリカ大陸初のWCPT Congress 2017が開催された.

 南アフリカ共和国は人口約5495万人で,ノーベル平和賞を受賞した故・ネルソン・マンデラ氏らの尽力もあり,多様な文化が混在するアフリカ第2の経済力を持った国である.国内総生産は日本の10分の1以下であり,国民の死因の約60%が感染症で,human immunodeficiency virus(HIV)の感染率は人口の約10%にあたるという.

 WCPTは理事会をCongressに合わせて4年に1度開催しており,今回は理事会を行わない学会で規模としてはやや小さいものだが,世界100か国以上から約2,400人が参加し,うち60%は初めてのWCPT Congress参加であった.日本から飛行機乗り継ぎ1回(筆者はシンガポール経由)で約21時間かかるため移動が大変であったが,空港に到着し,学会会場にタクシーで移動する際にテーブルマウンテンという現地の代表的な山の自然美に感動し,少し疲れがとれた気がした(図1).

 学会会場に到着し参加登録手続きを行うと,南アフリカ理学療法士協会の会員や学生ボランティアが丁寧に対応をしてくれ,友好的で開かれた学会の雰囲気が感じとれた.前回のWCPT Congressから導入された学会専用アプリを用いて各発表に臨むこととなり,スマートフォンやタブレットが世界的にも広がっていることを実感した.学会プログラムの主な内容は, ① シンポジウム,② セミナー,③ ディスカッション,④ ネットワーク,⑤ 口述発表(10分間発表と,Rapid 5というスライド5枚を5分間で行う発表の2種類),⑥ ポスター発表,⑦ 病院・施設見学,⑧ 機器展示に加え,⑨ Indaba(南アフリカ現地住民の重要な会議)という特定のトピックに関する少人数での意見交換会が行われ,筆者は ③,⑤(Rapid 5)を担当した.

甃のうへ・第52回

感謝の気持ちを忘れずに 牧野 美里
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 理学療法士になり15年目,約6年間病院に勤務した後,現在の職場で勤務し9年目になりました.大学と言えば教育と研究の機関です.授業では主に小児理学療法学を担当し,研究は三次元動作解析装置を使用し,歩行などの動作分析に取り組んでいます.どちらもまったくわからない状態から始め,少しずつ前に進んできました.途中で投げ出さず,ここまでこられたのも,多くの方々のご指導,支えのおかげです.感謝の気持ちでいっぱいです.ここでは,いかに私が周囲から助けられながら前に進むことができたのかを簡単に紹介したいと思います.

 まず小児理学療法学の授業については,約6年しかない臨床経験で,小児施設に勤務していたわけでもなく,小児領域の臨床経験が乏しい状況でした.もちろん教育の経験もありませんでした.当初,どうしたらよいのかまったくわからず,無我夢中でいろいろな方に「教えてください」と行動していたように思います.大学に転職後,関東の施設で4週間×2回の研修をしました.また,多くの臨床的な内容の講習会や研究会を受講したり,実際に養成校で小児理学療法学の授業を担当されている先生方にお話を伺ったりもしました.何年たっても授業は緊張し,うまくできず心が折れそうになることもしばしばですが,少しでも学生に魅力を伝えられるよう,今後も努力したいと思います.

1ページ講座 理学療法関連用語〜正しい意味がわかりますか?

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 エイリアンハンド徴候(alien hand sign:AHS)は主に脳血管疾患(前大脳動脈領域の梗塞例が多い),脳梁切断などを原因として起こる,さまざまな類縁の徴候を含む幅広い概念である.福井1)によれば,その中核症状は ① 上肢(=患肢,主に右利き者の左手)が自分の所有物でなく異質であると感じる自己所属感消失,② 患肢が自己の意思に逆らう(拮抗失行)かまたは関連しない行為をするが,抑制困難となる異常行為,③ その行為は単純な把握反応から道具の強迫使用(この場合意思に反して右手に出現),自己破壊的行為を含むもの,であると報告されている.AHSはしばしば「他人の手徴候(stranger's hand sign)」と表現されている.最初の報告の症状は脳梁腫瘍例において認められたもので,患者に自分の両手を背中に回してもらい,右手に左手を持たせて何を持っているかと質問すると「手」と答えた(すなわち感覚障害はないことがわかる).しかし誰の手かという質問には「私の手ではない」と答えたことより,上記 ① のみの記述であり1),運動要素は含まれていなかった.その後,② と ③ の要素を含めてAHSとした(広義の「他人の手徴候」Bogen, 1979)2)

 AHSのサブタイプとして,責任病巣が脳梁に限局する場合と前頭葉内側面損傷を伴う場合とに分け,脳梁型と前頭葉型に分類される.脳梁型では非利き手(左手)に拮抗失行が生じるとされ,例えば右手で服を着ようとすると左手が同時に脱がしてしまう現象が起こる.拮抗失行で認められる左手の運動には右手と逆の動きだけでなく,無関係な運動,右手に先行するような動き,両手を必要とするときに左手の運動が生起しない場合などが知られており,また左手の失書,触覚性呼名障害などの脳梁離断症状が伴うが,把握反射は随伴しないとされる.拮抗失行の責任病巣は脳梁膝部が重視されている.一方,前頭葉型では利き手(右手)に道具の強迫使用が起こり,例えば眼前にある櫛を(使わないように指示されているにもかかわらず)右手が意思に逆らってこれを使って髪をといてしまう症状があらわれる.右手には把握反射,本能性把握反応を伴っているが,左手には一側性観念失行などの脳梁離断症状が伴うことは少ないとされる.道具の強迫使用の責任病巣は左前頭葉内側面,補足運動野,前部帯状回および脳梁とされている3)

1ページ講座 障がい者スポーツ

ブラインドサッカー 松井 康
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 ブラインドサッカーは,B1クラス(全盲から光覚まで)のフィールドプレイヤー4名と,晴眼者もしくは弱視者が務めるゴールキーパー1名の計5名で試合を行います.フィールドプレイヤーはアイマスクをつけてプレーを行い,転がると音が出るボールを使います.一方,B2からB3クラスの視覚障害者がプレーする競技として,ロービジョンフットサルという競技があります.原則としてフットサルのルールでプレーを行い,ブラインドサッカーと異なる点はアイマスクを着用せず,通常のフットサルボールを使用する点が挙げられます.

 本稿では,視覚障害者サッカーのなかでも,ブラインドサッカーについて紹介します.

入門講座 「はじめて」への準備(クリニカルリーズニング編)・2

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はじめに

 厚生労働省発表の「平成26年(2014)患者調査の概況」1)によると,日本の脳卒中総患者数(継続的な治療を受けていると推測される患者数)は117万9000名にのぼるという.未解明な部分が多い脳科学の世界において,脳の損傷による運動や感覚,認知障害を理解することは非常に難解なことであり,個体差も含めればさらに複雑となる.たとえこれらの障害を完全に理解できたとしても,現代医療の範囲では脳の器質的な損傷を完全に治癒させることは不可能である.

 では,脳卒中患者が求めるリハビリテーションとはどういうものなのか.脳卒中患者の理学療法において根底にあるものは,可逆的な機能障害と不可逆的な機能障害を見極め,その患者が生活をしていくうえで最大限のパフォーマンスを発揮できるように支援していくことと考える.その支援のために必要な思考過程こそが,クリニカルリーズニングである.

 本稿では,EdwardsとJones2)のクリニカルリーズニングのモデルと国際生活機能分類(International Classification of Functioning,Disability and Health:ICF)の視点から,筆者が担当した脳卒中患者の例を通して,いかにクリニカルリーズニングを行い,理学療法を提供したのかを解説する.

 なお,執筆にあたり本稿で紹介する症例には主旨を説明し,同意を得ている.

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はじめに

 脳卒中片麻痺は一般に根治が難しく,生活制限,離職,介護負担,税負担に至るさまざまな次元で継続的な問題を誘引する1).脳卒中後に運動障害が残存する要因としては,損傷部位の生物学的修復が不完全であること,残存神経経路が十分に再組織化せず,代償経路が構築されないこと,学習性不使用などの二次的要因によってさらなる機能不全が進むことが挙げられる2)

 これに対して近年では,神経科学分野において神経機能の可塑性や運動学習に関する基礎的な知見が蓄積され,代償経路の構築を高効率に誘導する治療手法の開発が可能になりつつある3).使用依存的可塑性,タイミング依存的可塑性,強化学習,誤差学習といった可塑性と運動学習にかかわる理論的枠組みは,脳卒中片麻痺をつくり出している中枢神経系の複数の異なる領域に対して適用可能であり,今後はこうした可塑性科学にもとづく神経治療の創出が期待される.

 本稿ではパイロットスタディの一つとして,ブレイン・マシン・インターフェース(brain machine interface:BMI)による脳卒中片麻痺治療の試み4)を紹介する.

臨床実習サブノート 歩行のみかた・8

小児の脳性麻痺 野々垣 聡
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はじめに

 動作分析の対象者は,身体にさまざまな問題を抱えています.それらの問題が複雑に絡み合って,普通とは違った動作が表出されます.動作分析とは,普通と違う動作に気づき,そのような動作にならざるを得ない複雑な問題点を推測し,その推測を各種評価によって裏づけし,問題点を明らかにしていく作業だと思います.そう考えると,動作分析は,一種の謎解きみたいな気がしませんか?

 ひと言で脳性麻痺と言ってもその原因はさまざまで,臨床症状も多岐にわたります.そのなかで問題点を推測するには,ある程度の予備知識が必要です.そこで本稿では,主に痙直型両麻痺児の歩行における観察の視点を紹介したいと思います.

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要旨 高齢両側大腿切断者に対するリハビリテーションは難渋することが多いとされており,対象者の身体機能を十分に把握し,理学療法を行っていくことが重要である.今回,80歳台の両側大腿切断者を担当した.開始時の基本動作は全介助であった.車椅子での活動を基本とし,ADL介助量を可能な限り軽減させ,自宅退院することを長期目標と考え,急性期病院では座位練習・移乗練習を中心に行った.回復期リハビリテーション病院転院後には,座位・移乗動作の安定化・能力向上を図るためスタビー義足での立位練習が取り入られた.両側大腿切断者の座位獲得の可否は,その後のADLに多く関与するとされており早期からの座位練習は有効であったと考える.また,義足装着下での立位練習は床上動作だけでは得られない全身筋力の向上,バランス能力の向上,全身耐久性の向上が得られたと考えられる.最終的には,座位・移乗動作が自立し自宅に退院という結果を得ることができた.

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次号予告

「作業療法ジャーナル」のお知らせ

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 新人理学療法士もベテラン理学療法士も「目の前の患者さんをどうにかしたい」と願い,そのなかで「理学療法士の専門性は何なのか」と自問自答している.しかし特に,経験の浅い理学療法士の多くは,国家試験対策で学んだなかにその答えが見つからず,路頭に迷っている.

 本書には,そのような理学療法士にできる限りの筋道を示したいという編集者の藤野雄次先生(埼玉医大国際医療センター)はじめ執筆された先生方の想いがあふれている.理学療法士は運動,動作を改善させる専門家であり,ADLの改善,QOLの向上を目的としている.本書はそれを達成するために必要な臨床推論や基本となる評価の活用法が明示されている.つまり,患者治療だけでなく,理学療法士としてのアイデンティティを捉えるヒントがまとめられているといえよう.

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 本書は,理学療法の対象になることが多い「脳卒中」,「人工股関節全置換術」,「人工膝関節全置換術」,「大腿骨頸部・転子部骨折」,「パーキンソン病」,「急性心筋梗塞」,「廃用症候群」を取り上げ,第1章「臨床データから読み解く主要疾患の理学療法」と第2章「疾患別評価集」から構成されている.全体の85%を占める第1章においては,上述の7疾患(症候群含む)ごとに「定義」,「基礎データ」,「評価項目とレビュー」,「臨床データ」,「理学療法関連学会における潮流」の項が設けられている.近年,理学療法に関連する書籍があふれているが,本書は他に類をみない特徴を有している.最も大きな特徴は,東京慈恵会医科大学(慈恵医大)理学療法プロジェクトの一環として附属4病院(本院,葛飾医療センター,第三病院,柏病院)で収集・蓄積された膨大なオリジナルデータがわかりやすく図表で提示されている点である.さらに,蓄積された基礎データおよび臨床データから「言えること」と,「先行研究と照らし合わせて言えること・考えられること」が簡潔に記載されており,エビデンスに基づいた理学療法を強く意識している点も特徴である.

 「基礎データ」の項では,発症年齢や性別による特徴,在院日数や転帰,発症から理学療法開始までの期間,危険因子などがわかりやすく解説されており,疾患の全体像が理解できるように工夫されている.「評価項目とレビュー」も評価項目ごとにわかりやすく解説されている.「臨床データ」では,「評価項目とレビュー」の項に記載されている評価(例えば「脳卒中」の節では,National Institutes of Health Stroke Scale (NIHSS),運動麻痺,意識障害,筋緊張,感覚,基本動作能力,座位バランス,立位バランス,歩行自立度,5m歩行テスト,日常生活動作)について,評価項目ごとに1頁を割いて臨床データとその解釈が記載されている.また,必要に応じて経時的なデータ推移も示されている.例えば,「脳卒中」の節に記載されている「運動麻痺」については,発症10日目と退院時の値が示されており予後予測などにも活用できる.他の評価項目も同様に,オリジナルデータの提示とともに丁寧に解説されている.さらに,疾患ごとに記載されている「Dr's Note」においては,疾患の病態や最新の治療動向を理解するうえで役立つワンポイント情報が記載されている点も嬉しい.

文献抄録

第29回理学療法ジャーナル賞について

編集後記 福井 勉
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 本号では「多分野に広がる理学療法」という,本誌でも珍しい特集を組んだ.理学療法から得られた所産をさまざまな分野に応用して価値ある創造性をつくり出しておられる先生方の力強いメッセージである.自律して困難を突破してこられた力強い原稿が並べられた.

 大田氏は企業理学療法士として築いてこられたさまざまなご苦労を具体的に執筆いただき,医療機関での勤務と一線を画した内容を知ることができる.橋本氏,柿崎氏は理学療法から得た技術を企業の製品開発に移行しウエア開発という新たな分野に取り組んでこられた.明らかに臨床技術の社会応用である.梶原氏,阿部氏は両者ともロボットにかかわってこられ,理学療法士目線の存在感を高められている.お二人とも共通して,ロボットが理学療法士の脅威になるのではなくパートナーになるとされている.松井氏,張本氏は起業の貴重なモデルである.松井氏は医療機関でも行政でも果たせなかったことを自分の手で果たすため,理学療法のエッセンスを介護サービスに練り込み,張本氏は必然性からセミナー事業や出版を始められたとされて驚かされた.安倍氏はインソール店を使命感から起業された直接的な理学療法士の成功事例である.八幡氏はミズノで,波多野氏はアシックスでそれぞれスポーツ用品の開発を続けてこられた.開発が必須命題の企業において研究を社会に直接的に還元する場面に理学療法士が活躍していることは多くの人に勇気を与えてくれる.長谷川氏はデイサービスに未病センター,さらにリビングラボラトリーというシルバー産業の研究開発をユーザー参加型で行う画期的な取り組みを行っている.また渡部氏は脊髄損傷専門トレーニングを通じて休眠状態の神経回路が自ら修復できるよう手助けをする一般企業で活躍されている.プロ野球とJリーグからもお書きいただいた.岩本氏は,横浜DeNAベイスターズでチーム内コミュニケーションや予防アプローチを理学療法士の目から打ち立ててこられた.また塙氏は鹿島アントラーズトレーナーとして熱い力を選手に注いでおられ,若い理学療法士にもエールを送っていただいた.

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基本情報

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理学療法ジャーナル
51巻11号 (2017年11月)
電子版ISSN:1882-1359 印刷版ISSN:0915-0552 医学書院

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