理学療法ジャーナル 51巻10号 (2017年10月)

特集 半側空間無視

EOI(essences of the issue)
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 半側空間無視(unilateral spatial neglect:USN)は周知のように主として右半球障害で生起する高次脳機能障害のなかで最も頻度が高く,またADL自立を阻害する徴候として重要視されている.本誌ではこれまで特集記事の中の一部,あるいは講座の一項目として取り上げてきたが,近年のUSN研究は著しい進展を見せており,理学療法士による寄与が神経科学的にも臨床的にも注目されている.そこで今回初めてまとまった形で特集としたい.USNの臨床特性,評価方法,メカニズム論,治療アプローチについて理学療法士の視点から解説いただいた.

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半側空間無視研究の端緒

 Brain1)は「右大脳半球に関連した視覚的定位障害(visual disorientation)」を示した6症例を報告した.本論文こそ今日,半側空間無視(unilateral spatial neglect:USN)研究において今なおその輝きを喪っていない記念碑的論文である.この論文はUSN研究のほぼすべての論文に引用されているが,29ページに及ぶ(しかも図は2つだけで文字の大きさは9ポイント程度)ためか,その内容を詳細には記述されてこなかった.今回,2017年現在のUSN研究について後掲する先端的知見を概観する前に,本稿ではこのBrainの論文について解説し,次いで現在の課題および今後の展望について言及する.

 Brainは6症例を3症例ずつ二つのグループに分け報告している.第一のグループは,「脳損傷と反対側の半側視野に限局した視覚定位障害」を示す3例で,Case 1は外傷による左頭頂葉損傷で失語,失書および着衣に対する失行を伴っていた.Case 2は髄膜腫による右頭頂葉障害例で,左空間の絶対的・相対的距離の把握が困難であった.Case 3は膠芽腫による右側頭葉障害例で,腫瘍摘出後左下4分の1半盲を呈し,左空間にある物体を発見できず閉眼でも探索できなかった.このように左右半球いずれの障害でも物体を視覚的に定位することが困難となることから,半球間の優位性は認められないと述べた.

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はじめに

 半側空間無視(unilateral spatial neglect:USN)は,脳卒中の発症後にしばしば生じる徴候であり1〜4),損傷半球の対側視空間における刺激に対して発見して報告したり,刺激方向を向いたりすることが障害される病態と定義される5).例えば,左USNを伴う患者では車椅子の左側ブレーキの操作を忘れたり,左側の食物を食べ残すといった臨床的特徴として観察することができる.

 USNは,脳卒中患者の日常生活動作(ADL)を阻害するなどリハビリテーションの帰結に影響3,6,7)を及ぼすことが広く知られている.本稿では,臨床家の立場からUSNの臨床特性とUSNを呈する症例へのADL改善をめざした理学療法を提示する.

半側空間無視のメカニズム 森岡 周
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はじめに

 半側空間無視(unilateral spatial neglect:USN)は,大脳半球病巣と反対側の刺激に対して応答できない,あるいは無視空間に視線を向けることができなくなる病態と定義されており1),右半球損傷後に生じる神経学的症候の一つである.USNは感覚障害や運動障害では説明できない反応の低下や欠如を示す現象として知られており2),現在では,無視空間に対する注意の欠損を示す病態として,脳損傷後に起こる高次脳機能障害として広く認知されている.

 古典的にUSNは頭頂葉症候群と考えられてきたが,近年では注意ネットワーク症候群として再考されるようになり,その病態の根幹には,外部刺激に対して応答することが難しくなるといった受動的注意の低下があると指摘されている3).USNの出現は基本動作やADL動作に負の影響を及ぼすことは言うまでもないが,理学療法においては,車椅子駆動や歩行など,移動を阻害する機能障害の一つとして認識されている.

 本稿ではUSNのメカニズムと題して,これまでのUSNに関する基礎的研究について概観するとともに,ここ最近の発展的研究によって明らかになってきた空間性注意障害としてのUSNのメカニズムに絞って解説したい.

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はじめに

 半側空間無視(unilateral spatial neglect:USN)は,右半球脳卒中後に生じる代表的な症状の一つで,損傷半球の反対側の空間における物体探索や反応に困難が生じる.USNの病態基盤に関して,従来は視空間情報の統合にかかわる頭頂葉領域に好発するもの(いわゆる頭頂症候群)として理解されてきたが,近年では視覚性注意にかかわる広範な脳領域を含む注意ネットワークの障害として再考されつつある.本特集の「半側空間無視のメカニズム」の項で詳述されているとおり,視空間性注意ネットワークは,外発的な刺激に応答する受動的注意機能(腹側注意ネットワーク),自発的に探索する能動的注意機能(背側注意ネットワーク)に大別され,損傷を受ける領域に応じて表出する無視症状が異なるものと考えられる.

 無視症状の臨床評価にあたっては,症状の有無や重症度を判定し,残存機能を把握することで適確な予後予測を行うことが何より大切である.無視症状の評価には行動性無視検査(behavioural inattention test:BIT)1,2)が広く使用されており,6項目の通常検査と9項目の行動検査によって包括的な無視症状の把握が可能である.他方,多岐にわたる無視症状を適切に評価するためには,BITに加えていくつかの評価バッテリーを組み合わせながら,総合的に病態解釈することが望ましい,という考え方が一般的である.

 本稿では,従来臨床場面で行われている代表的な神経心理学的検査をまずは概観し,既存の評価で把握できる側面,把握に一定の困難がある側面を整理し,後者に関して,われわれが研究を進めている新たな評価手法を紹介する.なお本稿では,注意ネットワーク障害としてUSNの病態を捉え,治療介入を進めていくうえでの評価を整理することに重点を置きたい.

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はじめに

 半側空間無視(unilateral spatial neglect:USN)は大脳半球と反対側の刺激に対して,発見して報告したり,反応したり,その方向を向いたりすることが障害される病態である.右側半球病変患者の約4割に出現し,身体運動やADL,そのリハビリテーションの妨げとなる1,2).このため,USNの改善は脳卒中後患者のリハビリテーションにおける大きな課題であり,これまで多くの治療方法について報告されてきた.

 USNに対するアプローチは障害や視覚性注意のメカニズムに基づき,トップダウン方式やボトムアップ方式でのアプローチ3)や非特異的刺激,ボトムアップ刺激,トップダウン刺激,覚度メカニズムの調節,代償メカニズムの調節に分類される4).それらに加え,近年では経頭蓋磁気刺激(repetitive transcranial magnetic stimulation:rTMS)や経頭蓋直流電気刺激(transcranial direct current stimulation:tDCS)といった非侵襲的脳刺激(non-invasive brain stimulation:NIBS)が脳卒中後リハビリテーションの戦略の一つとして研究が進み,運動麻痺に対するリハビリテーションへの適用が進んでおり,USNに対する適用も試みられている5).本稿ではUSNに対するアプローチのうち,このNIBSによるものを紹介する.

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はじめに

1.半側空間無視の治療法

 半側空間無視(unilateral spatial neglect:USN)に対する治療は大きく以下の2つに分けられることが多い.1つ目は意識的に無視側である左に注意を向けるリハビリテーション方法でトップダウンアプローチと言い,セラピストの言葉かけによる気づきの促しや適切な方略を教える方法である1).2つ目は高次脳機能である空間性注意を支える低次あるいは要素的な部分である感覚入力と運動出力に着目し,残存している感覚,もしくは感覚-運動連関にアプローチすることによって無意識的に無視を改善させようとする方法で,ボトムアップアプローチと呼ばれている.ただし,治療としては各々を個別に行うのではなく,手がかり付与,意図的探索指導を空間性・言語性に行うとともに残存している感覚・知覚へ無意識的にアプローチを行うこと,それぞれの感覚-運動連関を再学習させるように多角的にアプローチを行うことが必要である2)

 本稿では以下に挙げる2つのガイドラインから推奨されているものをいくつか紹介するが,ここで挙げる方法も純粋にボトムアップ,もしくはトップダウンに分けられず,両者の要素を取り入れてあるものも多いため,特に明記しないものとする.

2.半側空間無視とガイドライン

 「脳卒中治療ガイドライン2015」3)によると,USNに対して視覚走査(探索)トレーニング(visual scanning training:VST),無視空間への手がかりの提示,プリズム順応がグレードB,左耳への冷水刺激,無視空間への眼振の誘発を行う視運動刺激,VSTを伴う体幹の回旋,左後頸部の筋への振動刺激,反復経頭蓋磁気刺激(repetitive transcranial magnetic stimulation:rTMS),アイパッチ,ミラーセラピー,以上の組み合わせがグレードCとなっている.また,カナダの同様のガイドライン「Evidence-Based Review of Stroke Rehabilitation 17th Edition」4)でも種々の治療が紹介されている.上記に挙げた以外にはバーチャルリアリティや四肢活性化,フィードバック戦略,経皮的電気刺激治療(transcutaneous electrical nerve stimulation:TENS),ドーパミン療法などの可能性が述べられている.

 本稿では,この2つのガイドラインで推奨されているもののなかから,日常的に臨床で行われることの多いと考えられる治療として,VST,視運動刺激,四肢活性化について,それぞれの治療法が最初に発表された順に紹介する.また,近年特に有効とされ,研究数も多いプリズム順応と,その治療の背景となるメカニズムを同じくするロッドアダプテーションを紹介する.

連載 超音波で見る運動器と運動療法Q&A・第10回

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Question

 17歳女性,バスケットボールボール部員.着地の際,左足関節を内反捻挫し受傷.歩行時痛を訴え来院した.足関節外側に軽度の腫脹を認める.エコー所見を示す(足関節外側走査,前距腓靱帯長軸像).どのような病態を考えるか?

とびら

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 新潟医療福祉大学は2016年度から1学年の学生定員が120名になりました.理学療法士作業療法士学校養成施設指定規則において1学年定員が120名の場合は12名以上の教員が必要であると定められていますが,本学では現時点で33名の教員組織を構築して教育研究に取り組んでいます(もっと増やす予定です).

 教員数が多いという利点を活かした本学科の特徴をいくつか紹介します.一つ目は複数の教員がチームを組んで教育研究に取り組んでいることです.本学科では小講座に類似した研究チームとして「神経・筋・骨組織学Lab」,「人類学・解剖学Lab」,「神経生理Lab」,「運動生理Lab」,「バイオメカニクスLab」,「スポーツ医科学Lab」,「ヘルスプロモーションLab」,「応用理学療法Lab」を組織化しています.学生は3年次前期から希望するLabに入り,興味ある領域で2年間じっくりと卒業研究に取り組むことを通して問題解決力を養います.

初めての学会発表

成長の糧となる経験 塩見 誠
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 2017年5月12〜14日に千葉県で第52回日本理学療法学術大会が開催されました.同学会で口述発表の機会を得たので報告します.

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はじめに

 2017年6月27〜30日の日程で開催された,Asia Western Pacific Region of World Confederation for Physical Therapy(WCPT-AWP) Congress 2017に参加した.本学会は4年に一度行われ,アジアおよび西太平洋周辺諸国で最大の理学療法学会である.この地域の理学療法士の協力体制を高めることを目的にしており,今回はタイの首都バンコクで開催された.

 本学会では,長寿と健康の持続を推進するために,各国の理学療法士の知恵,知識,そして優れた実践スキルを統合しようと,“Moving towards health, longevity, and sustainability(健康,長寿,そして持続可能性への推進)”というテーマが掲げられていた.今回,本学会においてoral presentationを行った経験と,本学会を通して考えさせられたことなどを書き記したいと思う.

甃のうへ・第51回

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 私は現在,回復期病棟に勤務しており,患者さんから自身が抱える障害についてさまざまな声を聞きます.麻痺などによってADLに不自由を伴うことに苦しむ声が聞かれる一方で,「リハビリテーションがきっかけで自分の身体について知ることができてよかった」,「病気はしたけれど入院生活は楽しかった」とポジティブな気持ちが聞かれる場合もあります.今回,自分自身も休職で現場を離れる経験をして,そこから学ぶものがあったのでここに綴ろうと思います.

 私は理学療法士の資格を取得して12年が経過しましたが,この間に急性期病院,教育現場やデイケアでの勤務を経験し,現在の職場に至ります.多くのことを経験することで新しい視点が得られると考えていたので,何事もチャレンジするつもりで仕事に臨んでいました.しかし,今年に入り体調を崩して数か月の休職期間をいただくことになりました.現場に出ることができず,他の職員に迷惑をかけることに心苦しい思いをしたり,初めは復帰の目処も立たなかったので強い不安もありました.

1ページ講座 理学療法関連用語〜正しい意味がわかりますか?

関節筋 吉尾 雅春
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 ヒトの関節内圧は陰圧であるが,関節運動によりその内圧は変化する.関節包はその関節の内圧に影響を受ける.運動によって通常よりもさらに陰圧になったとき,関節包は関節のなかに吸い込まれ,あるいは巻き込まれてしまう可能性がある.それを防ぐために,主な関節には最深層の筋線維を関節包に停止する「関節筋,あるいは関節包筋」が存在している.一般的に骨格筋の主な機能は ① 姿勢の維持,② 関節を介した運動,③ 熱の産生として説明されるが,上記のように関節包を保護する,という重要な機能ももつ.

 膝蓋骨の動きが絡む膝関節上前方では関節包の大きな伸縮性を求められることから,中間広筋深層の筋線維が膝蓋上包に停止して関節包を保護している.膝関節筋として位置づけられている.膝関節後方では関節筋として腓腹筋内側・外側頭,足底筋が挙げられる.ただし,膝関節の安定性にかかわる後方や側方の関節包は線維性で強力であり,膝窩靱帯により補強されており,半月にも付着していることから関節内に巻き込まれる危険性は比較的低い.筋線維が関節を跨がない足関節では,腱と関節包とが一部接着して腱の滑走により関節包が保護されている.

1ページ講座 障がい者スポーツ

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■競技概要

 ウィルチェアーラグビー(以下,車椅子ラグビー)は,四肢麻痺者がチームスポーツをする機会を得るために1977年にカナダで考案された競技です.2000年のシドニーパラリンピックから公式種目となり,日本も2004年アテネパラリンピックから4大会連続で出場しています.

 ラグビーと言っても丸いボールを使い,バスケットボールと同じ広さの屋内コートで行われ,さらに前方へのパスも認められています.1チームは4名の選手で構成され,選手には障害の重症度によって0.5〜3.5点の持ち点が与えられ,4人の合計が8.0点を越えない組み合わせを作ります.

入門講座 「はじめて」への準備(クリニカルリーズニング編)・1【新連載】

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はじめに

 心収縮機能が低下した心不全とは,心疾患(心筋障害)により心臓のポンプ機能が低下し,末梢主要臓器の酸素需要量に見合うだけの血液量を供給できなくなった状態を指す.心疾患の病態によって生じる症状(息切れなど)や現象(酸素化障害など)が異なるため,症状と現象の有無や程度(重症度)を評価することから始める.また,ケースレポート作成の際には,「診断名」に心不全のみを記載するのではなく,原疾患も併記する.

 まずは患者を訪問する前に診療録,検査所見から客観的な情報収集を行い,患者の状況を予測する.実際に患者を訪問したらフィジカルアセスメントを行い,理学療法の禁忌に該当していないか,事前に収集した情報と乖離がないかを確認する.初回評価から翌日以降は,前日との違いを常に評価し,理学療法を行ったことで心不全症状が悪化していないかを再評価する.悪化していなければ理学療法を進めていく.この一連の繰り返し作業が,心不全に対するクリニカルリーズニングのプロセスである.

 急性期では昨日と比べてどうか(daily monitoring),外来や在宅では数日あるいは数週間・1か月前と比べてどうか(weekly monitoring・monthly monitoring)を確認する.さらには治療(薬物療法など)が変わってどうか,運動時に現れる所見はないか,についても評価する.

講座 ニューロモジュレーション・2

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はじめに

 ふだん,われわれは特に意識することなく歩くことが可能であり,携帯電話で話をしながら歩くこともできれば,軽い揺れであれば電車内を移動することもできる.しかし,ひとたび変性疾患や脳卒中などによって中枢神経損傷が起こると,脳の複雑なネットワークの破綻に伴い,麻痺症状などの運動機能障害や注意障害などの高次脳機能障害を合併する.そのなかでも歩行・姿勢バランス機能の障害は,転倒リスクの増大や要介護の原因となり,患者および患者家族のADL/QOL低下をもたらすため非常に重要な問題である.

 これまでの動物実験から,適切な難度の反復練習が,脳の可塑性に基づく神経ネットワークの再構成を引き起こし(use-dependent plasticity),脳損傷後の機能回復には残存する神経系が機能を代償する機能的再構成の重要性が明らかとなった1,2).ヒトでも同様の所見が示されており3,4),機能回復の促進にはuse-dependent plasticityに基づいたリハビリテーション治療が重要である.反復練習に必要な練習量の確保とともに,機能回復をより促進させるためのリハビリテーション治療法の効果検証がなされているが,練習によって脳の可塑的変化が誘導されているかどうかは,麻痺や歩行速度の改善評価だけでは判断が難しい.最近,ニューロフィードバックや非侵襲的脳刺激法などのニューロモジュレーションによって,脳の可塑的変化を誘導した際の機能回復をみることで因果関係の検証が行われるようになり,理学療法による歩行練習と併用することで機能回復が促進されることが期待されている.

 本稿では,歩行の神経機構にかかわる知見と,ニューロフィードバックなどのニューロモジュレーション技術を用いた治療の試みについて紹介する.

臨床実習サブノート 歩行のみかた・7

小脳出血 芝崎 淳
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はじめに

 歩行は,ヒトがある地点からある地点まで移動するための手段であり,日常生活を遂行するための基本的な動作の一つです.また,歩行と健康に関する研究は広く実施されており,歩行は体力保持・増進,健康の維持さらには死亡率にも影響するとされています.脳卒中後遺症者においても,歩行速度が市中在住脳卒中者の歩行自立度の予測因子である1)ことや,歩行速度が速いほど生活範囲が拡大する2)ことが報告され,歩行機能が日常生活活動(ADL)や手段的日常生活活動(instrumental activities of daily living:IADL)に影響を及ぼすことが示唆されています.

 「脳卒中治療ガイドライン2015」3)においても,不動・廃用症候群を予防するため,十分なリスク管理のもとにできるだけ発症後早期から積極的なリハビリテーションを行うことが強く勧められており(グレードA),歩行や歩行に関連する下肢トレーニングの量を多くすることが,歩行能力の改善のために強く勧められています(グレードA).

 脳卒中後遺症者の歩行障害は随意運動の障害による片麻痺歩行が多数を占めます.ほかに,多発性脳梗塞でみられるような小刻み歩行や,小脳病変でみられる失調性歩行などがあります.

 「歩行のみかた」,今回のテーマは小脳出血です.小脳出血後遺症としての歩行障害は,失調性歩行ですが,失調性歩行は小脳とひと口に言っても損傷を受けた場所によりその種類が異なります.そのため,小脳の構造や機能,歩行障害の発生メカニズムを理解しておくことで必要な評価や適切な治療の選択が可能になります.

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要旨 [目的]社会人基礎力育成研修の取り組みの詳細を報告するとともにその効果を検証し,人材育成法に関する知見を得ること.[対象]新入職員35名と指導者28名.[研修の構成]研修期間は1年間.研修内容は,3回の全体研修(off the job training:Off-JT)と日常業務を通じた社会人基礎力向上のための実践(on the job training:OJT)とした.効果判定として社会人基礎力の変化を調べた.人材育成法に関する知見を得るために,3つの能力(アクション,シンキング,チームワーク)の得点率,新入職員評価と指導者評価の乖離を調べた.[結果]年度末(3月)に,3つの能力すべてで有意な向上を認め,得点率はシンキングが最も低値であり,新入職員の過小評価の割合が高くなり新入職員評価と指導者評価の乖離を認めた.[考察]本研修は,社会人基礎力の育成に効果的であったと考える.専門的な知識・技術に対する教育だけではなく,社会人基礎力を計画的に育成する取り組みが必要である.

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次号予告

「作業療法ジャーナル」のお知らせ

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 この書籍タイトルに目をとめた皆さんは今,臨床何年目の理学療法士だろう? 日本に理学療法士が誕生して半世紀が過ぎた.当時は理学療法士の数も希少で金の卵と称された時代もあったが,今ではその数は10万人を超え理学療法士過剰時代に突入しようとしている.量的な数は充実してきたかもしれないが,一方で,一人ひとりの理学療法の質の差も拡大したように思える.

 昨今,超高齢社会を迎えるわが国においては,社会保障制度の見直しが迫られ,毎年のように医療費削減,診療報酬の切り下げが国会で議論されている.今,「国」はわれわれに根拠のある理学療法,質の高い理学療法を強く求めてきている.つまり,根拠のない不透明な「とりあえずの理学療法」には,お金を出さないと言っているのである.

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達人への道しるべ

 同じ患者・対象者の歩行練習でも,ある人が行うとスムースに歩行可能なのに,別のある人が行うと全くできないという摩訶不思議な光景に出くわしたことは少なくないと思います.いわゆる達人と素人(字の形はよく似ているが,読み方が全く違うのと同じようにそのレベルが違う)の差はどこにあるのでしょうか.例えば重症な方の車椅子からベッドへの移乗動作では,達人が行えば対象者の力を存分に引き出していともやすやすとできるのに,素人が行えば「共倒れ」の危険な香りに包まれます.

 本書は,理学療法・作業療法の臨床場面で遭遇する比較的重症な患者・対象者を想定して,その日常生活動作の練習方法を応用行動分析学的視点からわかりやすく示したものです.冒頭の序章で「達人の技」を惜しみなく披露したのち,1章では「対象者にADL動作を再獲得させる」方法が展開されます.「なぜ,教科書に書いてある正しい動作ができないのだろう?」という,本書の最も重要で本質的な問いが投げかけられます.そして,能力障害(例:起き上がり動作困難)を規定するのは機能障害だけでなく,知識の問題,技術の問題,動機の問題であるという新たな視点が提示されます.さらに無誤学習,および関連する強化刺激,行動分析的技法が紹介されていきます.第2章では「原因がわかる,効果がみえる評価法」の構造について詳しく解説されます.例えば「片麻痺の着衣動作」では,まずその動作を,「麻痺側手を袖に通す」から「ボタンをはめる」までの7段階のプロセスにわけて,さらに各段階に行動をどのように促すかというプロンプトを追加して評価すると,実は評価だけでなく課題目標としても応用できることが示されます.臨床研究あるいはシングルケースパラダイムにもつながる内容は是非本書を手に取ってご覧ください.第3章では実際の症例に沿ってこれまでの理論の応用編,実例が示されます.例えば,重症左片麻痺症例の背臥位からベッド上端座位への起き上がり動作獲得に向けての方法では,動作の完成時点から逆方向に練習を重ねるという「逆方向連鎖化」が紹介されます.「逆方向連鎖化」って何? と思った方も是非本書を手に取ってご覧いただきたい.さらに特筆すべき点は,随所に実際の対象者の動画が二次元コードによって掲載され参照できることです.

文献抄録

第29回理学療法ジャーナル賞について

編集後記 網本 和
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 脳血管障害症例を担当することの多い臨床家であれば,半側空間無視(unilateral spatial neglect:USN)を示す症例に初めて出会ったときの驚きは忘れられない経験であると思います.なぜ右を向いてばかりいるのだろう,「こちらを向いてください」と左から声掛けするとかえって右を向いてしまう.花の絵(ダブルデイジー)の模写課題では,左の花の左側が描けないばかりか右の花の左側が欠落してしまう.食事のとき,茶碗に盛られたご飯の右側だけを食べて左を残す,という衝撃的な光景も稀ではありません.

 編集子が新人としてUSN症例を担当したとき,手元には出版されたばかりのClinical Neuropsychology(Heilman KM et al, 1979)がほとんど唯一のこの分野の情報源だったことを思えば,今回の特集がすべて理学療法士の著者によるものであることには感銘を受けます.「半側空間無視の臨床特性と基本的理学療法」(神田千絵,他論文),「半側空間無視のメカニズム」(森岡周論文),「半側空間無視の病態基盤を考慮した臨床評価」(大松聡子,他論文),「半側空間無視に対する脳刺激アプローチ」(万治淳史,他論文),「半側空間無視の視覚・運動感覚からの治療アプローチ」(沼尾拓,他論文),とタイトルだけを眺めてみてもこの30数年の進歩と理学療法のかかわりの重要性が示されています.エディトリアルで述べたようにUSNをめぐる課題として,無視現象評価と日常生活での行動評価,機能的ネットワークメカニズムに対応した治療の理論,複合的障害への臨床アプローチがありますが,今号の論文はこれらの課題に十分に応えるものであると確信しています.それぞれの論文について読者には,ぜひ本文を精読されるようお願いします.

読者の声募集

基本情報

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理学療法ジャーナル
51巻10号 (2017年10月)
電子版ISSN:1882-1359 印刷版ISSN:0915-0552 医学書院

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