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エイリアンハンド徴候(alien hand sign:AHS)は主に脳血管疾患(前大脳動脈領域の梗塞例が多い),脳梁切断などを原因として起こる,さまざまな類縁の徴候を含む幅広い概念である.福井1)によれば,その中核症状は ① 上肢(=患肢,主に右利き者の左手)が自分の所有物でなく異質であると感じる自己所属感消失,② 患肢が自己の意思に逆らう(拮抗失行)かまたは関連しない行為をするが,抑制困難となる異常行為,③ その行為は単純な把握反応から道具の強迫使用(この場合意思に反して右手に出現),自己破壊的行為を含むもの,であると報告されている.AHSはしばしば「他人の手徴候(stranger's hand sign)」と表現されている.最初の報告の症状は脳梁腫瘍例において認められたもので,患者に自分の両手を背中に回してもらい,右手に左手を持たせて何を持っているかと質問すると「手」と答えた(すなわち感覚障害はないことがわかる).しかし誰の手かという質問には「私の手ではない」と答えたことより,上記 ① のみの記述であり1),運動要素は含まれていなかった.その後,② と ③ の要素を含めてAHSとした(広義の「他人の手徴候」Bogen, 1979)2).
AHSのサブタイプとして,責任病巣が脳梁に限局する場合と前頭葉内側面損傷を伴う場合とに分け,脳梁型と前頭葉型に分類される.脳梁型では非利き手(左手)に拮抗失行が生じるとされ,例えば右手で服を着ようとすると左手が同時に脱がしてしまう現象が起こる.拮抗失行で認められる左手の運動には右手と逆の動きだけでなく,無関係な運動,右手に先行するような動き,両手を必要とするときに左手の運動が生起しない場合などが知られており,また左手の失書,触覚性呼名障害などの脳梁離断症状が伴うが,把握反射は随伴しないとされる.拮抗失行の責任病巣は脳梁膝部が重視されている.一方,前頭葉型では利き手(右手)に道具の強迫使用が起こり,例えば眼前にある櫛を(使わないように指示されているにもかかわらず)右手が意思に逆らってこれを使って髪をといてしまう症状があらわれる.右手には把握反射,本能性把握反応を伴っているが,左手には一側性観念失行などの脳梁離断症状が伴うことは少ないとされる.道具の強迫使用の責任病巣は左前頭葉内側面,補足運動野,前部帯状回および脳梁とされている3).
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