胃と腸 38巻4号 (2003年4月)

特集 全身性疾患と消化管病変

序説

全身性疾患と消化管病変 松川 正明
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 生体では生命を維持するために,栄養補給は他の機能と同じように重要なものとなる.栄養補給として消化管は食物の消化と吸収に関与する重要な臓器である.また,全身を侵す疾患では全身の一部臓器として消化管も侵される.

 現在,医療の場では専門分野に分化する傾向がある.専門分野に分化しすぎた反省として総合診療科(部)が各大学で設けられている.消化管の分野でも学会などで食道・胃・腸の各部門にに分かれて発表や討議がされる傾向にある.消化管を 1 つの臓器として討論されることは消化器病学会でもほとんどないと言える.全身性疾患は疾患として 1 つであるが,多臓器にわたり障害を来すことが特徴である.また,消化管病変が全身疾患の一部であることから,全身性疾患の程度が軽度である場合でも消化管病変から逆に全身性疾患の罹患を疑うことも臨床では必要となる.このことからも全身性疾患にみられる消化管病変についても知識が必要となる.全身性疾患の中で消化管病変(機能的障害も含める)が疑われた場合でも全身状態が不良なために検査を十分にできないことがしばしばある.全身性疾患では多彩な消化管症状に伴うことがあり,このような場合には検査を行い,消化管病変が見い出される.これら疾患に伴う種々病変の X 線所見,内視鏡所見を症例報告としてみることがあるが,本企画のように多くの全身性疾患に伴う消化管病変をみることは非常に有益なことである.また,消化管に併発した病変が知られる全身性疾患では,初期の消化管病変の場合には軽微な病変であり,さらに進行した状態では一般的に知られる病変となることが想定される.これら消化管病変の変化と全身性疾患の関連により全身性疾患の原因として遺伝子・関連蛋白質などから病態が解明されることを期待したい.X 線・内視鏡検査に加えて必要に応じて CT 検査所見・超音波検査所見・病理学的所見などが提示される.そこで,今回の企画では消化管病変も臓器の 1 つとして全身性疾患を考慮する必要性を強調したい.

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 消化管疾患では消化管自体の病変のみならず,消化管以外の他臓器にも特有な病変を発現することがある.これら消化管外病変は,消化管病変より先行して発見されることも多く,消化管疾患に併存・合併する他臓器病変を理解しておくことは臨床上重要である.なかでも内臓病変に合併する皮膚病変はデルマドロームと言われ,日常臨床でしばしば遭遇するので重要な概念である.本稿では,家族性大腸腺腫症,Gardner 症候群,Turcot 症候群,Peutz-Jeghers 症候群,Cronkhite-Canada 症候群,Cowden 病,潰瘍性大腸炎,Crohn 病,腸管 Behçet 病,Wipple 病に合併する他臓器病変を中心に概説した.

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 消化管の検査に当たりわれわれ endoscopist は,その裏に潜んでいるかもしれない系統的疾患を常に理解しそれらを意識しながら観察することが求められている.本稿では系統的疾患によって引き起こされる消化管異常を,器質的消化管病変・機能的消化管障害に分け記述した.なお各論で取り上げられている疾患については詳細な記述を各項にゆずり,取り上げられていないものを中心に述べた.まず器質的消化管病変では Zollinger-Ellison 症候群(難治性,易再発性の消化性潰瘍,胃液の大量貯留や,胃の巨大皺襞を認める),groove pancreatitis(十二指腸下行脚内側に辺縁が比較的平滑,時に不整な粘膜下腫瘍様の隆起性病変あるいは狭窄像を呈することが多い),膵癌(胃,十二指腸への直接浸潤による狭窄などを来す),全身性悪性リンパ腫(隆起性病変などを消化管に多発して認める),成人 T 細胞性白血病リンパ腫(ATLL ; 全身の諸臓器への浸潤傾向が強く,消化管へも高率に浸潤し様々な消化器症状を呈する),後天性免疫不全症候群(AIDS ; 各種日和見感染症による消化管病変),腸管子宮内膜症(直腸 Rs~S 状結腸の前壁を主体とした片側性隆起や粘膜の顆粒状変化を特徴とする)を取り上げた.次に機能的消化管障害(消化吸収障害,消化管運動障害)では,消化吸収障害として吸収不良症候群と蛋白漏出性胃腸症に関してそれらの症候,原因疾患や診断につき述べ,消化管運動障害として,その診断に際して系統的疾患を含めた他疾患の除外診断が必要となる過敏性腸症候群(IBS)を取り上げた.

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 消化管の画像所見から全身疾患の鑑別を行うためには,画像所見そのものの分析の他にその患者の臨床的背景の評価が必要である.臨床的背景としては原疾患の活動性について評価の他,特に NSAIDs をはじめとする薬物投与の有無が重要である.画像を分析する際に重要な項目としては病変の発生部位,腸間膜との関係,形態,周辺粘膜の性状などの分析が重要である.その上で病変を(1)縦走潰瘍型,(2)輪状潰瘍型,(3)円・卵円形潰瘍型,(4)敷石状粘膜・炎症性ポリポーシス型,(5)浮腫・充血・びらん型,(6)腫瘍様多発隆起病変型,の 6 群に分類する.発見された消化管病変の形態がこれらのどの型に分類されるかを分析・判定することで全身性疾患の鑑別診断,絞り込みが可能となる.

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 全身性疾患あるいは他臓器疾患の一部分として消化管に病変が生じることがあるが,消化管病変の病理組織像のみでもしばしば全身性疾患の発見のきっかけとなることもある.ここでは消化管病変からの生検(一部,粘膜切除を含む)において,認められる特徴的な組織学的変化(① ウイルス感染症,② 虚血性変化,③ アミロイドーシス, ④ 上皮細胞のアポトーシス亢進, ⑤ 異型上皮の出現, ⑥ その他 : A型胃炎,直腸に多発する過誤腫性ポリープ,神経線維腫(または神経節性神経腫),白血病細胞の消化管浸潤)からどのような全身性あるいは他臓器疾患が連想されうるかについて病理学的側面から述べる.

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 Cowden 病は特徴的な皮膚粘膜病変と全身諸臓器の過誤腫性ないし腫瘍性病変による多彩な臨床像を呈する常染色体優性遺伝性疾患である.消化管では高率にポリポーシスを合併し,特に食道,胃,遠位大腸に多発するポリープが特徴的である.この病変分布は他の遺伝性消化管ポリポーシスとの鑑別点として重要な所見である.組織学的には過形成もしくは過誤腫の像を呈することが多い.近年,第10番染色体の PTEN 遺伝子が本症の原因遺伝子として同定され,その機能解析が進められている.

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 水疱症の代表的疾患である天疱瘡,類天疱瘡は皮膚や口腔粘膜に水疱やびらんを形成する自己免疫疾患である.本症における消化管病変は炎症性病変と腫瘍性病変に大別される.炎症性病変は食道に高率に認められ,その内視鏡所見は皮膚病変と類似した水疱やびらん形成が主体であり,時に食道粘膜剝離を伴うのが特徴的であった.一方,本症に特徴的な胃・腸病変の報告はなかったが,潰瘍性大腸炎の併発が報告されており,両者に何らかの因果関係が存在する可能性が示唆される.本症と悪性腫瘍との関連性については一定の見解は得られていないが,消化器癌の合併頻度が比較的高いとの報告が多く,積極的な消化管スクリーニング検査が必要であると考えられた.

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 von Recklinghausen 病(神経線維腫症1型 : neurofibromatosis type 1 ; NF1)は皮膚の神経線維腫,café-au-lait spot を主徴とする優性遺伝性神経皮膚疾患である.合併する消化管病変は主に神経原性腫瘍であるが,癌やカルチノイド,gastrointestinal stromal tumor(GIST)の合併もみられる.NF1 遺伝子からの代表的な遺伝子産物は neurofibromin と呼ばれ,ras 蛋白を不活性型に変換する機能がある.最近では,NF1 遺伝子の変異による neurofibromin の機能異常から来る ras 蛋白の異常や,NF1 遺伝子異常で c-kit が強く発現するという報告など,分子生物学的手法により消化管病変の合併機序が明らかになりつつある.

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 Sweet 病は,発熱,多核好中球を主体とした白血球増多,隆起性有痛性皮疹,真皮への好中球浸潤を特徴とする皮膚科領域の独立した疾患であるが消化管病変を合併することが知られている.その主なものは,潰瘍性大腸炎や Crohn 病である.しかし,報告は少ないが,非特異的な潰瘍を回盲部に伴う症例もある.この潰瘍は,単純性潰瘍や Behçet 病に類似する略円形潰瘍で腸間膜反対側に分布するが,下掘れ傾向が乏しいこと,mucosal tag 様の炎症性ポリープを伴うなどの特徴がみられる.また,術後の長期経過観察では,吻合部を中心に再発を認めたが成分栄養療法で瘢痕化を認め緩解維持に栄養療法が有効であった.

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 黒色表皮腫(acanthosis nigricans)は皮膚の色素沈着,角質増生,乳頭状増殖を3微とし種々の病変に合併する皮膚疾患である.合併疾患としては内臓悪性腫瘍,特に胃癌に多く報告がみられるが,今回われわれは大腸癌に合併した比較的まれな症例を経験したので提示する.

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 Leser-Trélat 徴候は内臓悪性腫瘍の皮膚徴候(dermadrome)の1つであり,脂漏性角化症(老人性疣贅)が短期間(多くの場合6か月以内)に出現して急速に増加,増大を来した場合,内臓悪性腫瘍が存在する可能性があるというものである.われわれの経験した症例は71歳の女性で,直腸癌発見の9か月前より体幹を中心に脂漏性角化症が多数出現し,急速にその数と大きさが増したため Leser-Trélat 徴候と考えらた.本邦報告例114例を加え検討をしたところ,合併疾患は胃癌58例(50.4%)と最多で,次いで大腸癌12例(10.4%),と,消化管悪性腫瘍が多い傾向にあった.脂漏性角化症は日常診療においてしばしば認められる皮疹であるが,Leser-Trélat 徴候においては皮疹が急速に増悪を来すことが重要であり,皮疹の変化を注意深く観察し,本徴候を見過ごさないことが悪性腫瘍の早期発見につながると考えられた.

各論 2.神経系疾患

1)Cushing 潰瘍 川口 実
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 1932年 Cushing が脳腫瘍術後に生じた食道・胃・十二指腸潰瘍を報告して以来,中枢神経障害に合併する消化管病変を Cushing 潰瘍と称するようになった.Cushing 潰瘍は急性胃十二指腸粘膜病変に分類され,一種のストレス潰瘍である.発生機序としては中枢神経障害時に副交感神経が刺激され,迷走神経機能亢進が生じ,粘膜の血流障害と酸分泌亢進の結果,潰瘍が生じると考えられている.しかし,その他にも多くの因子が複雑に関与している.発生頻度は10~70%と大きな差がみられるが,中枢神経障害の重症度,内視鏡検査の頻度,時期,所見のとらえ方によって異なると考えられる.病変としては胃の出血性病変が圧倒的に多く,特に胃体部に多く認められる.出血に対しては従来から行われている内視鏡的止血法を行う.H2受容体拮抗薬に予防効果があるとの報告もある.いずれにしても,脳血管障害患者を診たら常に上部消化管病変の可能性を考えることが重要である.

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 結節性硬化症は常染色体優性の遺伝形式を示す神経皮膚症候群である.全身各種臓器の過誤腫性病変を伴うが,直腸過誤腫性ポリポーシスは診断基準における副所見の1つとして取り上げられている.しかし,消化管病変は直腸のみにとどまらず,食道・胃・結腸にも認められる.本稿では,結節性硬化症ならびにその消化管病変の概説を行い,筆者らが経験した症例の画像所見を中心に呈示する.

各論 3.膠原病,免疫・アレルギー性疾患

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 全身性エリテマトーデス(SLE)における下部消化管病変は血管炎に基づくループス腸炎と蛋白漏出性腸症に大別される.ループス腸炎は,小腸を主体とする急性発症の虚血性腸炎型と大腸が主に罹患する多発潰瘍型に分類される.前者は小腸の浮腫を主体とし,後者では消化管に打ち抜き様の多発潰瘍が発生する.一方,蛋白漏出性腸症は緩徐に発症し,低蛋白血症と小腸の浮腫像を認める.ループス腸炎と蛋白漏出性腸症は steroid に良好に反応するが,多発潰瘍型では難治例が存在する.以上のように,SLE における消化管病変は多彩であることを念頭に置き,特に潰瘍性病変の治療には慎重な態度が必要と考えられる.

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 慢性関節リウマチ(RA)では,治療薬(主に非ステロイド性抗炎症剤 ; NSAIDs),続発性アミロイド-シス(ア症),血管炎などによる消化管病変を生じることが知られている.NSAIDs では主に胃粘膜障害(潰瘍)を生じるが,通常の潰瘍と異なり無症状のことが多く幽門前庭部に好発し,浮腫の強い多発性や下掘れのものが多い.ア症の臨床像は,他疾患に合併するア症と同様であるが RA の予後を左右する重篤な合併症であり,早期診断のためには十二指腸生検が有用である.また,RA による腸病変では NSAIDs や血管炎などによる虚血が関与しているものと推測されるが,その消化管病変は極めて多彩であり,原因別にみても多くの共通点があるため,その発症にはこれらの要因が互いに関連しあい RA の腸病変を形成しているものと推測される.

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要旨 PN の消化管病変について過去10年間の本邦報告41症例の臨床病理学的特徴を概説る.PN の消化管病変は,中年男性に多く,臨床症状としては消化管出血が約6割,穿孔が約2割であった.病変部位では,従来の報告どおり小腸に多かった.消化管病変の原因の多くは閉塞性血管炎による虚血と考えられ,びらん,浮腫,潰瘍,重篤な場合は穿孔を来していた.上部消化管では,類円形潰瘍となることが多く消化性潰瘍との鑑別が問題であるが,非定型的な臨床経過に注目すべきである.小腸,大腸では不整形潰瘍を呈し,穿孔例を多く認めた.また,検査に関連したと考えられる穿孔例も散見され,臨床上注意すべきである.PN の消化管病変の診断や治療は困難であり,その特徴を熟知したうえでの臨床的対応が必要である.

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 強皮症(全身性硬化症)の消化管病変は,固有筋層における膠原線維の増生と筋組織の萎縮に起因する消化管の拡張と蠕動の低下に要約される.食道には50~90%の症例で管腔拡張,食道裂孔ヘルニア,逆流性食道炎などがみられる.胃病変は少なく,小腸には約50%の症例で十二指腸・空腸の拡張や偽性腸閉塞などの病変がみられ,X 線では特徴的な hide-bound appearance や coiled-spring appearance を呈する.大腸には10~50%の症例で憩室や便秘および宿便性潰瘍などがみられ,X 線ではハウストラの減少・消失が認められる.また,強皮症と原発性胆汁性肝硬変との関連性が示唆されている.

5)皮膚筋炎 浜田 勉 , 板垣 雪絵
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 皮膚筋炎と悪性腫瘍の合併率は30~40%である.皮膚筋炎症状と悪性腫瘍発現の時間的関係については60~80%の例で皮膚筋炎が先行するとされているがほぼ半年以内に両方とも発現している例が多い.悪性腫瘍のうち,胃癌との合併は本邦では高く,約40%を占める.しかし,胃癌の進行度は発見時既に Stage III~IVの進行癌がほとんどで,早期癌での発見は少ない.占居部位は胃上部に多く,組織型の関係は認められなかった.悪性腫瘍の治療によりしばしば皮膚筋炎の症状が軽快するとの報告がみられ,皮膚筋炎の発症に悪性腫瘍が深く関与することを示唆している.臨床で皮膚筋炎を認めた場合,内臓悪性腫瘍,特に消化管癌の検索は極めて重要である.

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 Behçet 病は口腔潰瘍,陰部潰瘍,眼病変,皮膚病変の4 症状の組み合わせで成り,副症状として,関節炎,副睾丸炎,腸管(消化管)潰瘍,血管病変,中枢神経系病変が出現する全身性疾患である.消化管潰瘍は,すべての消化管に発生するが,回盲部に好発する.回盲部の主潰瘍は辺縁鋭利で円形~卵円形を呈し大きく深い.一方,小腸や結腸の潰瘍は多発し,より小型で,しばしばアフタ様を呈する.潰瘍性大腸炎,Crohn 病との鑑別は通常容易である.

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 好酸球性胃腸炎はアレルギー機序により発生すると考えられる炎症性疾患であり消化管への好酸球浸潤により特徴付けられる.胃と小腸に発生することが多いが,まれに食道や大腸にも病変がみられる.消化管壁における好酸球の浸潤部位により ① predominant mucosal disease,② predominant muscle layer disease,③ predominant subserosal disease に分類されており病像が異なる.画像所見は特徴的所見に乏しいが病変部位と程度により多彩な所見を呈するため,他疾患との鑑別を行う上で,常に本症を念頭に置く必要があると考えられる.治療にはステロイドが著効を示すが,他の抗アレルギー剤が用いられることもある.狭窄や穿孔を来すこともあるため,早期に診断し不可逆的な変化が出現する前に治療を行うことが重要である.

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 Schönlein-Henoch 紫斑病は毛細血管~細動脈の血管炎に起因し,皮膚症状,腹部症状,関節症状,腎障害を主な兆候とする疾患である.腹部症状の頻度は高く,特に腹痛が多い.本症の内視鏡所見は多彩であり,発赤,紫斑様病変,浮腫,びらん,潰瘍などがみられる.この機序は血管炎により,血管透過性の亢進による滲出・出血が起こり,発赤や紫斑様病変が生じ,さらに血管の障害が高度になると血栓が生じ虚血性変化が起こり,浮腫,びらん,潰瘍が生じると考えられる.十二指腸病変は第2部~第4部に好発し,多発する潰瘍性病変を来すことが多い.胃や大腸では紫斑様の発赤斑が多くみられる.

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 Churg-Strauss 症候群(アレルギー肉芽腫性血管炎)は,気管支喘息を主とするアレルギー性疾患の先行,好酸球増多,そして血管炎症候群を3主徴とする.血管炎による臨床所見として,消化管病変,多発性単神経炎,皮膚病変などがみられる.消化管病変は約半数で認め,胃,十二指腸,小腸,大腸に潰瘍,びらん,浮腫を呈する.潰瘍辺縁やびらんに強い発赤を認め,しばしば生検で好酸球浸潤を認める.また時に血管炎を確認できる.突然消化管穿孔を起こすことがあり,またその場合は死亡率が高い.このように,本症においては予後に影響しうる消化管病変にも留意すべきである.

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 免疫不全症においては,さまざまの頻度での消化管病変の合併が指摘されているが,その病態は明らかでない.今回,分類不能型免疫不全症の自験例での検討をふまえ,免疫不全症における消化管病変の特徴につき考察した.症例は23歳,女性.下痢,便潜血陽性の原因精査中に上行結腸から直腸に多発する潰瘍性病変を指摘された.炎症性腸疾患に準じた治療で緩解したが,潰瘍からの生検標本にて多数のアポトーシス小体が指摘された.GVHD などのアポトーシス小体が増加する病態の存在は否定的で,特徴的所見と考えられた.原発性免疫不全患者の消化管病変は,既存のカテゴリーにあてはまらない病態として位置づけられる可能性がある.

各論 4.血液疾患

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 悪性貧血は,胃底腺の壁細胞や内因子に対する抗体が血液中に見い出され,自己免疫的機序により惹起される病態である.通常,胃で内因子と結合し,回腸で吸収されるビタミンB12の欠乏のためにDNA合成が障害された結果,巨赤芽球性貧血に陥る.X 線的にも内視鏡的にも胃底腺領域での高度の粘膜萎縮を認め,生検でも固有の胃底腺はほとんど消失し,偽幽門腺もしくは腸上皮化性に置き換わっている所見を示し,胃液は無酸となる.一方,幽門腺粘膜は比較的よく保たれている.続発性疾患として,胃癌や多発胃カルチノイドの発生が知られている.

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 白血病の消化管病変は,白血病細胞の消化管浸潤によるもの,化学療法による直接ないし間接的毒性によるもの(necrotizing enterocolitis等),白血病自体や白血病治療薬による免疫状態の変化によるもの(日和見感染等),消化性潰瘍に大別される.本稿では以下の4項目に分けて検討を加えた.(1)白血病の消化管浸潤による病変では,ATL/L(成人 T 細胞性白血病/リンパ腫)消化管浸潤の自験例,22例34病変を解析し,本邦報告例の文献的考察を加え,併せて ATL/L 以外の消化管原発悪性リンパ腫と比較検討した.ATL/L では,食道1例,胃15例,小腸10例,大腸8例に浸潤がみられ,消化管病変は決してまれではないことが判明した.ATL/L の消化管浸潤病変は,他の悪性リンパ腫に比べて,多発性,びまん性の傾向がみられ,特に小腸では,多発する小隆起という形態が,全体の70%を占め,ATL/L の小腸浸潤の典型像と思われた.ATL/L 以外の白血病では,本邦報告例における消化管浸潤病変の肉眼所見の特徴を中心に述べ,自験例を呈示した.白血病の消化管浸潤の特殊な病態である,granulocytic sarcoma(chloroma : 緑色腫)についても欧米の報告例における臨床像,肉眼形態を分析し,自験例を呈示した.(2)白血病の経過中にみられる necrotizing enterocolitis のうち neutropenic enterocolitis について,欧米の報告例における臨床像,肉眼形態を中心に述べた.(3)日和見感染については,別項にて詳述されるため,ATL/L の自験例の分析にとどめた.(4)消化性潰瘍については,CML(慢性骨髄性白血病)において,合併頻度が高いとされているが,文献例の検討を中心に述べた.

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 同種造血幹細胞移植後の急性 GVHD は主に皮膚,肝臓,消化管に起こる.消化管には,病理組織学的にリンパ球の浸潤,腺管の apoptosis,腺管の脱落が生じる.上部消化管急性 GVHD の症状は食思不振,嘔気,嘔吐,吐血である.胃の内視鏡所見は前庭部に多く,発赤,びらん,浮腫,粘膜脱落,びまん性出血で,十二指腸では発赤,びらん,浮腫,Kerckring ひだの消失,顆粒状粘膜,粘膜脱落,びまん性出血である.初期または軽度な場合,いわゆる表層性胃炎,びらん性胃炎,十二指腸炎で特異的なものではない.急性 GVHD 腸炎の症状は水様下痢,腹痛で内視鏡所見は,血管透見不良,白色調粘膜,びらん,浮腫,粘膜脱落,潰瘍である.高度の消化管急性 GVHD の内視鏡像はびまん性の粘膜脱落を来し,他疾患ではみることができない特異的な所見を示す.

各論 5.アミロイドーシス

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 全身性アミロイドーシスにおいて消化管はアミロイド沈着の好発臓器であり,なかでも十二指腸・小腸は最も沈着の高度な部位である.原発性(AL)アミロイドーシスでは粘膜筋板と粘膜下層,固有筋層への塊状沈着がみられ,粘膜下腫瘤様隆起の多発とひだの肥厚が認められる.一方,続発性(AA)アミロイドーシスでは粘膜固有層と粘膜下層血管壁が沈着の主体となり,消化管に微細顆粒状の粗ぞうな粘膜が観察される.アミロイドーシスの沈着様式はアミロイド蛋白別に特異性がみられ,蛋白ごとに形態学的変化と臨床徴候の違いを認める.したがって,蛋白別における沈着様式の差異を考慮することが,アミロイドーシスの診断と治療を行う上で重要と考えられる.

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 透析アミロイドーシスの進行例では,β2-ミクログロブリンアミロイドの沈着により消化管障害を来すことが報告されている.今回,筆者らは初めて52例(剖検例42例,生検・切除例10例)という多数例を用いて,透析アミロイドーシスにおける消化管病変を検討した.剖検例での消化管アミロイド沈着は 81%(34例)にみられ,その程度と透析期間との間には,有意な相関が認められた.アミロイド沈着の頻度は,胃74%,小腸74%,大腸76% で各臓器間で差がなかった.アミロイド沈着は,初期では粘膜下層の主に中小動脈の血管壁にみられた.進行期では固有筋層,特に結腸紐の筋細胞間に沈着が高度で,漿膜下層の血管壁(主に中型静脈壁)にも沈着が認められた.しかし,粘膜内のアミロイド沈着は12% と低率で,粘膜筋板に限局し巣状で軽度のことが多く,内視鏡的に粘膜異常は捉えられなかった.経過中に,麻痺性腸閉塞を3例、低栄養状態を2例,虚血性大腸病変を3例に認め,これらのうち虚血性病変の 2例を除く6例では,固有筋層のアミロイド沈着が高度であった.

各論 6.その他

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 門脈圧亢進症による血行動態の変化は消化管壁に様々な影響を及ぼす.門脈圧亢進症により形成された側副血行路は食道・胃静脈瘤として消化管に現われる.食道静脈瘤上の red color sign 陽性は出血のリスクが高く,内視鏡的食道静脈瘤硬化療法,内視鏡的食道静脈瘤結紮術による予防的,緊急時の治療が行われている.胃静脈瘤は噴門部,胃底部に形成される.いったん出血すると大量出血が起こるが,Histoacryl 局注により止血されるようになった.消化管の血流うっ滞による微小循環の変化は portal hypertensive gastropathy(PHG)と称される胃粘膜所見として出現する.大腸でも portal hypertensive colopathy として提唱されている粘膜変化や直腸静脈瘤がみられる.

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 サルコイドーシスは両側肺門リンパ節,肺,眼,皮膚に罹患頻度が高い原因不明の多臓器疾患である.肝,脾,心,神経など他の臓器にも罹患することがあるが,消化管に病変を認めることは極めてまれであり,胃はその中で最も罹患頻度が高い.胃サルコイドーシスの肉眼所見は ① 多発潰瘍やびらん,② スキルスを疑わせる粘膜の肥厚や硬化,③ 結節性隆起性病変などが挙げられるが多彩であり,特異的なものではない.胃以外でも食道,十二指腸,小腸,結腸,直腸のそれぞれにサルコイドーシスの報告が認められているが,いずれも極めて症例が少ない.

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 放線菌感染症(actinomycosis)は,主に Actinomyces israelii の感染による化膿性疾患である.腹部・骨盤型の感染の経路は従来口腔から嚥下した放線菌の腸管壁内侵入によると考えられていた.それに加え,子宮内避妊器具(intrauterine device ; IUD)使用により,外陰部・腟から子宮を通る上行性感染も重要と考えられるようになった.腹部・骨盤型の放線菌症では,充実性の腫瘤を形成することが多く,菌の検出も困難で,画像所見も非特異的なため悪性腫瘍との鑑別が困難である.

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 マムシ,ハブ,ヤマカガシなど本邦で遭遇しうる毒蛇の毒にはプロテイナーゼをはじめとする血液凝固障害作用を有する成分や出血,溶血を助長する多数の成分が含まれている.消化管出血は DIC による出血傾向の結果として報告されている例が多いが,虚血性腸炎からの出血の報告や DIC の診断基準を満たさない例もみられ診療上留意すべきである.

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 コレステロール結晶塞栓症は動脈硬化性の基礎疾患を有する高齢者における抗凝固療法や血管内カテーテル操作を誘因として発生する全身性微小塞栓症で,皮膚,腎,膵などの多臓器障害が認められる.本症における消化管病変の記載は比較的少ないが,自験例では胃・十二指腸および遠位大腸の点状ないし面状発赤,びらん,アフタ様病変などの比較的軽微な所見が認められた.一方,出血や穿孔などの重篤な消化管病変を来した症例の報告も散見される.したがって,本症では全身性塞栓の一部分症として消化管病変が発生しうることを念頭に置く必要がある.

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欧文目次

編集後記 斉藤 裕輔
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 本年の「胃と腸」増刊号は「全身性疾患と消化管病変」という比較的難しいテーマでお届けした.総論では全身性疾患にみられる消化管病変の種類とその典型画像,病理組織からみた鑑別診断の方法が系統的にまとめられている.さらに各論では比較的良くみられる全身性疾患から,まれな疾患に至るまで,それぞれの疾患における消化管病変の特徴がよく網羅されており“全身性疾患における消化管病変アトラス"と呼べる一冊となっている.日常の臨床で遭遇することはさほど多くないと思われる比較的まれな全身性疾患に伴った消化管病変も多く掲載されているため,個々の疾患のすべてを記憶する必要はないと思われるが,本特集号にまとめて記載されていることを記憶しておけば,全身性疾患について他科から consult されたときにも本特集号を参考として的確なアドバイスが可能であろう.また,原因がはっきりしない消化管病変を発見したときに,本号を思い出し,消化管病変の特徴・類似性を参考にすることで頻度の低い消化器疾患のみならず全身性疾患の類推も可能となるであろう.これにより全身性疾患を含めた消化管病変において,どの専門科を受診すべきかを含め,次に必要な精密検査を組む上で効率の良い診断体系が構築されることを期待する.

基本情報

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胃と腸
38巻4号 (2003年4月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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