胃と腸 38巻5号 (2003年4月)

今月の主題 胃型早期胃癌の病理学的特徴と臨床像―分化型癌を中心に

序説

胃型早期胃癌 小野 裕之
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 本号の主題は,「胃型早期胃癌の病理学的特徴と臨床像」である.“胃型腺癌” については,「胃と腸」第 34巻4号「胃型の分化型胃癌―病理診断とその特徴」に主題として取り上げられたときに初めて耳にした読者も多かったと思われる.この胃型の粘液形質を有した分化型癌は,臨床病理学的に腸型とは区別すべきと考えられており,このときには主として病理学的な特徴を明確にすることが試みられた.

 今,分化型胃癌の形質発現の問題が注目される理由は2つある.1つは胃癌の増殖進展に伴って,組織型が変化する場合は胃型の形質を有する分化型癌から有意に低分化型癌に変化する可能性が推定されるためである.下田らは10mm以下の早期癌では86%が純粋な分化型腺癌であるが,10mm以上では未分化型,混合型が増加することを示している1).もう1つの理由は,分化型胃癌の中に生物学的悪性度の高い癌が存在する点であり,胃型の癌の一部がこれに該当する可能性が高いと思われるためである.これらの問題について明確な解答が得られるならば,従来の分化型癌と未分化型癌の2つに大別されている胃癌の分類を,新たな視点から分類可能となり,治療の strategy も変わりうる.例えば,10mm以下の分化型腺癌の中に,進展すると未分化型癌になるものがあり,術前診断が可能となれば,そのような病変に対してEMR(endoscopic mucosal resection)を行う際には,遺残のない,一括切除が必要条件になるかもしれないのである.

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 最近,胃型粘液を有する分化型癌の存在が報告され,その癌については境界不明瞭な形態であることやリンパ節転移を来しやすいことなどが指摘されている.今回われわれは,分化型早期胃癌の中で胃型の粘液形質のみを発現した12症例13病変の画像所見を検討した.癌病変の占居部位はU領域6病変,M 領域4病変,L領域3病変であり,胃上部に多かった.12症例中7症例は癌病変が多発していた.また,長径が 5 cm 以上の広範な病変が 5 病変にみられた.画像所見としては陥凹主体のものが8病変,隆起主体のものが3病変,平坦な形態が主体のものが2病変であった.病変の境界は不明瞭なことが多かった.内視鏡所見では病変の表面に光沢が保たれていることが多く,病変の色調は正色調が多かった.X線所見では境界が不明瞭な病変が存在するため,胃小区のわずかな乱れやバリウム付着異常,病変の境界に生じる粗大な顆粒状影などを詳細に読影する必要があった.

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 外科的に切除された早期胃癌179病変を対象とし,内視鏡フィルムの見直し診断により,胃型,腸型の形質発現と内視鏡所見との関連について検討した.胃型分化型腺癌の内視鏡的所見として① 境界不明瞭,② 正色調,③ 陥凹型が多いが,病変辺縁には正色調の丈の低いごくわずかな隆起を伴うことが多いことが特徴として挙げられ,この正色調のごくわずかな辺縁隆起所見は胃型分化型腺癌の範囲診断のための内視鏡的指標となりうると考えられた.また,胃型では深達度を浅く診断する傾向があり,未分化型の混在が多いことを考慮すると,胃型分化型腺癌に対する内視鏡的粘膜切除術の際には一括切除による正確な病理診断が必須であると考えられた.

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 高分化型早期胃癌60例に対して,CD10,MUC2,MUC5AC,HGM,MUC6の粘液染色を行い,癌の粘液形質別頻度・粘液形質変化を検討した.陽性細胞数が5%未満を陰性とすると,胃型25%,胃腸型35%,小腸型40%であった.小腸型は,CD10陽性なら,同細胞の多寡に関係なく小腸型と定義したが,この中には胃型粘液を有するものが63%存在した.胃型形質癌の全例が 5 %未満の MUC2陽性細胞を有していた.胃型形質癌が MUC2陽性の腸型癌へ,さらに CD10陽性の小腸型癌へ進展する経路が推定された.

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 分化型 SM 胃癌を対象に形質発現からみた悪性度の違いを組織型・脈管侵襲・リンパ節転移の点から検討した.その結果,乳頭腺癌(50%)では管状腺癌(25.4%)よりも胃型優位の形質をもつものが有意に多かった.また,全体でみると乳頭腺癌(44%)は管状腺癌(6%)よりもリンパ節転移率が明らかに高かった.乳頭腺癌の中では胃型優位のものが脈管侵襲率が明らかに高いが,胃型優位のものと腸型優位のものとの間でリンパ節転移率に有意差はなかった.また,リンパ節転移を欠く腸型乳頭腺癌が術後多発肝転移を来して死亡した症例が1例存在した.一方,管状腺癌では形質発現による脈管侵襲・リンパ節転移率に有意差はなかった.胃型(優位)乳頭腺癌の中に高悪性度のものが含まれていることは疑う余地もないが,形質発現からみた分化型胃癌の生物学的動態・悪性度の違いについては長期術後 follow up 例を含めた今後の検討を必要とする.

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 胃型高分化型癌(胃型腺癌)は,細胞・組織異型度が極めて低いことが多く,内視鏡的・病理組織学的に診断が困難であるにもかかわらず,悪性度が高い可能性が推定されている.この分子生物学的特徴を明らかにするために,早期で完全な胃型の形質を発現する高分化型腺癌で主に低異型度なもの13例を厳選し,laser capture microdissection と comparative genomic hybridization 法を用いて染色体異常を解析した.1p36-pter,9q34-qter,17p12-pter,17q24-qter,20pq,22q の gain,6qと18qの loss,また15q26の amplification が高頻度に検出された.過形成ポリープや幽門腺型腺腫の癌化巣も他の前癌病変を有さない症例と同様の傾向を示した.幽門腺型腺腫例においては腺腫部で検出された染色体異常のすべてが癌部でも見い出され,癌部では付加的に複数の染色体異常が検出された.胃型腺癌は早期で低異型度なものでも相当数の染色体異常があり,共通するものも多いことがわかった.この中には一般の進行胃癌で高頻度に証明されているものとそうでないものがあった.未分化型癌の培養系で報告されているものと共通の染色体異常も一部の胃型腺癌で認められた.さらに“胃型(幽門腺型)腺腫~胃型腺癌 sequence”を形質発現と染色体異常の観点から初めて証明できた.

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 生検組織診断で組織異型が弱いことで,2年7か月経過観察を行った胃型分化型sm胃癌の1例を経験した.患者は78歳,男性.自覚症状は特になく,1997年3月,検診目的で東京都がん検診センターを受診.胃内視鏡検査で,胃体中部後壁に発赤調の扁平隆起が認められた.同時に行った生検では Group V と診断されたが,異型度が弱く再検査が指示された.その後の検査で,明らかな Group V と診断されなかったため,十分なインフォームド・コンセントのうえで,厳重な経過観察を行った.1998年5月(1年 2か月後)の臨床所見で病変の増大傾向がみられたが生検組織診断は Group III であった.1999年7月(2年4か月後)には病変はさらに増大傾向を認めたが,生検診断は Group II であった.しかし,これまでの臨床経過から悪性と判断し,1999年10月に手術が予定され,その術前検査として施行した内視鏡生検で Group V の所見が得られた.病理組織診断は肉眼型 Type 0 I,大きさ50×45mm,組織型 tubular adenocarcinoma, well differentiated type(tub1),深達度 sm1,ly0,v0 であり,粘液組織学的には 45M1(2+),M-GGMC-1(+),MUC-2(-)であったことから胃型の粘液形質を有する分化型腺癌と診断された.胃型分化型癌の X 線・内視鏡所見の特徴,発育進展様式,生検組織所見の問題など示唆に富む症例である.

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 患者は66歳,男性.胃角から前庭部の大彎を中心とし前後壁に広がる表層拡大型病変.X 線検査では,後壁側にみられる微細なバリウム斑を伴うやや粗大な顆粒状変化と,前壁側の粗大な偽足様に広がる透亮像を示した.内視鏡では,腸型にみられる褪色調で菊花状の辺縁を有する平板状の隆起とは異なり,全体に柔らかい印象を持ち,後壁側では淡い発赤調で大小不同のやや粗大な顆粒状隆起の集簇で,境界は不明瞭.前壁側では偽足様の発育を示す暗赤色調の境界明瞭な隆起として認められた.生検で高分化型管状腺癌を認め外科的手術を施行した.病理組織学的には95×50mm の表層拡大型.P Type 0 IIa+I,高異型度の高分化型管状腺癌が主体で乳頭腺癌が混在し,低異型度部分と中分化腺癌の像も認めた.粘液形質は MUC-5AC 強陽性,M-GGMC-1,MUC-2,CD10はそれぞれ陰性で胃腺窩上皮型を示し,深達度は粘膜下層に浸潤するsm1 癌であった.本症例はいわゆる腸型の分化型癌とは異なり,いくつかの特徴的所見を持つ表層拡大型の胃型分化型癌と考えられた.

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 粘膜内癌の診断で EMR を施行したsm癌で,追加治療にてリンパ節転移が判明した胃型の高分化型乳頭管状腺癌の2症例.〔症例1〕65歳,男性.胃潰瘍手術後の残胃に約1.1cm 大の境界不明瞭な隆起性病変を認めた.EMRにて深達度sm2,ly(+),v(+),垂直断端(+)の診断.残胃全摘の結果,脾門リンパ節に転移を認めた.〔症例2〕77歳,男性.検診にて穹窿部後壁に約1.0cm 大の隆起性病変を指摘される.EMRでsm1以深,垂直断端(+)の診断.胃部分切除により癌の遺残(sm2,ly2,v1)と小彎リンパ節に転移.胃型分化型胃癌の中には,高い悪性度を示す症例が少なからず存在しており,治療法を慎重に選択するべきである.

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 〔患者〕 57歳,女性.2000年の胃集団検診にて異常を指摘され近医受診.上部消化管内視鏡検査にて病変が認められたため,精査目的に当科紹介となる.

 〔切除標本肉眼所見〕 胃全摘された半固定標本(拡大)と肉眼所見のシェーマを示す(Fig.1a).噴門部小彎にI型隆起が認められ,その周囲には軽微な凹凸変化を示す粗ぞう粘膜が広範に拡がっている(隆起主体の領域).しかし,病変境界は全体的に不明瞭で,肛門側は浅い陥凹境界と思われる線状の溝がわずかに認識される程度であり,特に小彎側ほど平滑で IIb 様を呈している(陥凹主体の領域).

 〔病理組織再構築図〕 Fig.1b に示すように多彩な組織像を呈する浸潤領域 UME の表層拡大型早期胃癌である.隆起主体の領域にほぼ一致して tub-por(青線),陥凹主体の領域に por-sig(水色線)が認められ,これらの間にはなだらかな組織型の移行(連続性)があり総合的に胃型の癌が推定される.

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 〔患者〕 64歳,男性.2001年9月の大腸癌検診で便潜血反応陽性を指摘され,黒松内町国保病院を受診.大腸内視鏡検査を施行したところ上行結腸に病変を指摘され,同年11月4日精査加療目的に当センターへ紹介入院となった.

 〔注腸 X 線所見〕 上行結腸の半月ひだ上に大きさ10mm の類円形を呈する隆起性病変を認めた.病変の立ち上がりは比較的平滑で,中央部には不整形の淡いバリウム斑がみられた(Fig.1a~d).また病変両側の半月ひだは病変に向かって徐々に太まっていた.

 側面像では口側および肛門側の半月ひだによる彎入と比較して明らかな硬化像を呈し,台形状変形と診断した(Fig.1c).X 線所見から IIa+IIc型癌で,正面像における不整陥凹と半月ひだの太まりおよび側面像での台形状変形から固有筋層以深への浸潤を疑った.

消化管造影・内視鏡観察のコツ

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はじめに

 X 線検査や内視鏡検査,超音波内視鏡検査などで鮮明な画像,切除標本との対応が十分な画像が得られても,それをスライドに転写するのも技術を要する作業である.写真室が設置されていたり,写真技師が配属されていたりする施設は少数であり,大半の施設ではスライド写真の作成に困惑していることが多い.これまで右往左往しながらスライド作成を行ってきた経験を踏まえて,その作成方法を披露したい.しかし,DR の X 線写真や JPEG 化された内視鏡写真などのように,既に画像が電子媒体上にあるものは,画像処理ソフトを用いて,それらを貼り付ければよいだけなので,従来のフィルムからの作成方法を述べる.

早期胃癌研究会

2003年1月の例会から 多田 正大
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 2003年1月の早期胃癌研究会は1月15日(水)に東商ホールで開催された.司会は多田正大(多田消化器クリニック)が担当した.

 例会に先立って,前月に大阪鉄道病院消化器科から提示のあった症例(大腸から回腸終末部にかけて多発する印環細胞癌)について,清水誠治から X 線と内視鏡所見の対比,および文献的考察が紹介された.本例は 8 年前に胃の印環細胞癌で手術がされており,リンパ流に逆行して大腸に多発性に転移した教訓的な症例であった.

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 患者は41歳,女性.腹痛と嘔吐を主訴に来院.腹部X線より,腸閉塞と診断,イレウスチューブの挿入にて腸閉塞は速やかに解除された.注腸,小腸X線検査にて回腸末端の高度な狭窄,近接する回腸の伸展不良,屈曲と盲腸部の平滑な陰影欠損を認めた.内視鏡検査では回盲弁を頂点とする粘膜下腫瘍様隆起を認めた.生理の周期と一致する臨床所見と合わせ回盲部の腸管子宮内膜症と診断し,回盲部切除術を施行した.切除標本の病理組織的所見で腸管子宮内膜症を確認した.術後生理期間中に右気胸を発症し,月経随伴性気胸も合併したと考えられた.

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 症例は 37 歳,男性.人間ドックの胃 X 線検査で噴門部に異常を指摘.上部消化管内視鏡検査では食道胃接合部小彎に多結節状の乳頭状隆起とそれに接して口側に伸びる発赤調の陥凹を認めた.逆流性食道炎と食道ポリープとして経過観察していたが,陥凹部からの生検で異型扁平上皮が認められたため EMR を施行.病理組織学的には隆起部分は上皮の下方への増生が著しく,pseudoepitheliomatous hyperplasia と診断した.さらに隆起部と陥凹部は,(1)脚釘の延長,(2)顆粒球浸潤を伴った粘膜固有層の肉芽形成,(3)基底細胞の核は腫大しているが極性は保たれている,などの共通所見を有し逆流性食道炎に伴う complex lesion と考えた.特徴的な肉眼所見および組織所見を有する本疾患の認識は癌との鑑別上重要である.

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 症例は55歳,男性.1999年6月扁平上皮癌の診断にて右肺切除術と化学療法を,12月には脳転移巣に対しγナイフ療法を,2000年1月には追加化学療法を施行した.4月から黒色便と腹部腫瘤を認め,腹部 CT,超音波および小腸造影を行ったところ,Treitz 靭帯から約70cmの空腸に不整な壁肥厚を有する腸管拡張を認めた.貧血の進行が著しく,空腸,大腸部分切除術を施行した.病理診断は低分化型扁平上皮癌で,肺癌の小腸転移と診断された.

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 患者は49歳,女性.便潜血反応陽性.下行結腸に頭部が約10mm大で不整な Ip 型の隆起性病変を認め,内視鏡的ポリペクトミーを施行した.組織学的に腺腫成分を伴う高分化型腺癌で,ポリープの頭部と茎部の境界まで sm 浸潤していたが,脈管侵襲は陰性で切除断端も十分であった.その後,経過観察していたが,6年後に内視鏡的 endobronchial metastasis を伴う肺転移で再発した.ポリペクトミー標本の再検索にて,癌先進部に簇出像が確認された.内視鏡治療後は,たとえ Ip 型病変であっても,浸潤部の組織学的所見に注意し,慎重かつ長期的な経過観察が重要と考えられた.

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欧文目次

編集後記 西俣 寛人
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 診断学的にも,臨床病理学的にも,今までの理論では解釈できない胃癌が多く発見されるようになり,それらの胃癌を粘液形質から分類することで,新しい理論が確立できそうである.胃型の分化型胃癌の形態的特徴,臨床病理学的特徴を把握することで,胃癌の臨床が進歩しそうである.

 序説で小野も述べているように,胃型の分化型胃癌が注目されているのは,胃癌の増殖進展に伴って分化型癌が低分化型癌に変化する可能性が報告されていること,胃型の分化型癌は悪性度の高い癌が存在すること,粘膜面での形態的変化が乏しい症例が多いこと,高分化型腺癌で腺窩上皮や幽門腺上皮に類似した細胞形態を示すために生検で正確な診断が難しいためと考えられる.

基本情報

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胃と腸
38巻5号 (2003年4月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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