整形・災害外科 63巻12号 (2020年11月)

特集 アキレス腱断裂診療のコツと最近のトピックス

帖佐 悦男
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日本では,世界規模のラグビーワールドカップ2019日本大会(RWC2019),延期になりました2020年東京オリンピック・パラリンピック,ワールドマスターズゲームズ2021関西が開催されます “奇跡の3年” を迎え,スポーツ熱がますます高まっています。

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要旨:アキレス腱断裂の病態の理解を深めるためには,アキレス腱の機能解剖を理解することが重要である。アキレス腱には,運動時に体重の12倍もの張力が作用するが,正常なアキレス腱は,約1 tの牽引力に耐えられる。また,アキレス腱は弾性体の性質を有しており,歩行時の下腿三頭筋の筋腱複合体の長さ変化は,アキレス腱が主に担っており,腓腹筋は高い筋力を少ないエネルギー消費量で生み出すことを可能としている。アキレス腱の治療法は多岐にわたるが,もちろん一長一短ある。そのため,症例の背景や受傷状態を考慮し,どの治療法が最も適しているか選択する必要がある。さらに,アキレス腱断裂後の機能回復に関しては,健常な状態にまで修復できる治療法はまだなく,今後さらなる向上を目指していく必要があると考える。

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要旨:アキレス腱断裂は比較的頻度の高い外傷で多くの研究論文が存在するにもかかわらず,高いエビデンス(根拠)に基づいた疫学的調査は少ない。発生頻度に関しては人口10万人あたり6.4人から52.5人とする報告までみられるが,近年増加傾向にあることは確かなようである。好発年齢としては30~40歳代に多くみられるが,50歳以上にもう一つのピークがある。各種報告から男性にやや多いが疫学的根拠はなく,左右差や季節性も明らかではない。競技種目としては球技やラケット競技で多くみられる。

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要旨:アキレス腱は下腿三頭筋の共同腱であり,人体中最大で最強の腱である。腱中央部は血流が乏しいため変性が生じやすく,断裂の好発部位であるといわれているが,断裂の原因にはさらに多くの因子が関与する。アキレス腱断裂には基盤に腱の変性が存在すると報告されている。臨床的には腱の肥厚は変性所見の一つと考えられ,超音波検査などがその診断に有用である。腱の変性の原因として外的因子と内的因子がある。外的因子としては腱への過負荷があり,腱に微小損傷が生じ,その修復過程において腱の良好な修復が阻害されると腱は変性する。内的因子には性別,年齢,体重,内科的疾患,薬剤などがある。また30歳以下の若年者では再断裂率が高いとの報告や,30代の受傷でのアキレス腱断裂例は,反対側のアキレス腱断裂の発生率が他の年代より5倍高いとの報告もある。肥満はアキレス腱の変性と,脂質異常症はアキレス腱断裂と関連すると考えられる。薬剤については,ある種の抗菌薬は断裂を誘発する可能性があり,特に高齢者でステロイドを併用している場合には注意が必要である。変性が生じたアキレス腱は,腱の力学強度が弱くなり,断裂の危険性が高まるため,今後は腱の変性を的確に診断し,断裂を予防することも重要である。

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要旨:アキレス腱断裂は日常診療で比較的遭遇する機会の多い外傷である。アキレス腱断裂の診断においては① 詳細な医療面接(問診),② 適切な肢位での身体診察,③ 適切な画像検査を組み合わせて進めることが肝要である。① では受傷時の状況や自覚所見を把握すること,② ではcalf squeeze test(Thompson test),断裂部のgap sign,足関節底屈筋力低下とhyperdorsiflexion signの4検査法のうち2つ以上の施行が推奨されている。なお,徒手診察・検査においては必ず健側も実施し左右差を評価する。アキレス腱断裂症例の診察時には身体診察で判別可能な症例が多いため,画像検査を実施しないケースも見受けられるが潜在する合併症の把握を兼ねて適宜検討しなければならない。近年では非侵襲性で簡便な検査機器として超音波エコーが広く普及している。腱や筋などの軟部組織の評価に優れており,治癒過程の評価や持ち運び可能な機種も多いため医療施設での検査のみならずスポーツ現場での評価にも有用である。

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要旨:アキレス腱断裂の保存療法は,手術療法より再断裂率が高いと報告されてきたが,早期運動療法を併用することにより,再断裂率は手術療法と同等になった。その他の臨床成績も手術療法と差はなく,アキレス腱断裂の治療において保存療法は標準的な治療といえる。さらなる保存療法の治療成績の向上のためには,治療経過中の腱延長を最小限に留めることが重要である。そのためには,腱の修復過程において安静にする時期と積極的にリハビリテーション治療を行う時期の違いを理解しておく必要がある。近年,装具により早期運動療法を行った例とギプス固定,免荷による保存療法例の治療成績には差はないとの報告もあり,一定期間のギプス固定や免荷が治療成績を低下させることはないと考える。今後,保存療法のリハビリテーション治療の確立のために,早期運動療法が腱断端間の開大に与える影響を研究する必要がある。

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要旨:経皮的縫合術は,軟部組織の損傷を最小限に抑える術式として知られている。本術式は,保存療法に比べ早期に運動や荷重を可能にする治療法として知られている。皮切が小さく侵襲が少ないとされる一方,経皮的縫合術の問題点としてアキレス腱再断裂や神経損傷等の合併症がある。合併症を回避するため,様々な経皮的縫合術のための器具が開発されている。器具の発展だけではなく,超音波ガイドや関節鏡を併用することにより,経皮的縫合術の利点を生かしながら,特有の合併症を防止することが可能になる。合併症を回避しながら手術侵襲を少なくすることが,今後アキレス腱治療の発展に必要である。

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要旨:当科ではアキレス腱断裂に対してはエコー検査を行い,足関節底屈時にも断端が接しない場合に直視下縫合術を行っている。手術は伏臥位で駆血帯を用い,直視下にBunnel法とKessler法や結節縫合の組み合わせで端々縫合術を行う。術後は足関節を底屈位として膝下ギプスによる2週間の外固定の後,ヒール高を調節できる歩行用装具を使用する。ヒール高は5~6cmの高さから開始して6週間かけて週に1cmずつ下げ,術後10週間で装具を除去する。装具装着下では全荷重を許可する。非荷重での自動運動はギプス除去時から行う。装具除去後の歩行はゆっくりと歩幅を小さめにするように,また,患肢のつま先をやや外側に向けるように指導している。速歩は術後4カ月以降とし,5カ月でジョギングを許可,本格的なスポーツ活動は6カ月以降からとした。37名(男性22名,女性15名,15~78歳,平均年齢45歳)に行って1名に術後10週での再断裂を認めた。再断裂率は2.7%であった。

アキレス腱断裂の予後 森 淳 , 安田 稔人
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要旨:アキレス腱断裂の予後として患肢機能障害の残存,スポーツ復帰,仕事復帰時期,再断裂を取り上げ,治療法による差異を含めて概説した。治療法にかかわらず受傷側には何らかの機能障害が残ることが多い。したがって,特にトップアスリートでは元のレベルでのスポーツ復帰が困難なことが少なくない。仕事復帰時期は手術療法により早くなるが,スポーツ復帰については手術療法により復帰時期が早まるとはいえない。再断裂率について直視下手術と経皮的縫合術の差はない。従来の保存療法と手術療法の比較では明らかに従来の保存療法の再断裂率が高い。一方,厳格な管理下で行う保存療法,早期運動療法を行う保存療法と手術療法の再断裂率に差はない。保存療法で手術療法と同等の結果を得るには厳格な管理,治療プロトコルが必要といえる。予後を高めるためには治療・評価の標準化,保存療法の適応策定,手術療法の術式改良についてさらなる進展が望まれる。

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要旨:アキレス腱断裂に対する治療には,保存療法や経皮的縫合術,直視下手術などがある。症例に合わせて適切な治療法が選択されるが,多くの治療法において一定期間は足関節の外固定が必要である。そのため,アキレス腱断裂の治療における主要な合併症の一つである深部静脈血栓症(DVT)には,十分注意が必要である。DVTの発生頻度に関しては1%未満とするものから34%まで多岐にわたる。『アキレス腱診療ガイドライン2019(改訂第2版)』では手術療法と保存療法とでは発生頻度に差がなかったとしている。しかし,40歳以上で血栓症の既往がある症例やホルモン剤を使用しているような症例に対して保存療法を選択する場合にはDVT対策として外固定期間の短縮や,早期からの関節可動域訓練などの工夫が必要である。また,その他の注意すべき合併症として,感染症についても述べた。

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要旨:『アキレス腱断裂診療ガイドライン2019(改訂第2版)』が上梓されたことに伴い,アキレス腱断裂診療に関する最新の高いエビデンスに基づいた情報が発信されている。その中でアキレス腱断裂の新たな治療法として,新しい経皮的縫合術や多血小板血漿(PRP)療法の可能性についても触れられている。アキレス腱断裂に対するPRP療法は,腱修復促進を目的としたbiologics治療の一つとして期待されており,保存療法の一環として経皮的に投与する方法と,手術療法(腱縫合術)に併用して投与する方法があるが,いずれの方法も現時点では高い有用性を示す十分なエビデンスが得られているとは言い難い。今後,手術に併用する方法でのさらに組織修復能の高いbiologics治療が期待されている。また,アキレス腱付着部断裂および短断端に対する有効な手術法として,エコーと最新のデバイス(PARSTM)を活用した小切開縫合術(Midsubstance SpeedBridgeTM法)について紹介した。

Personal View

単身赴任と5G 高橋 謙治
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10年前に家族そろって京都から東京に転居し,子供達は都内の学校に入学した。震災の混乱を経験したが,現在,家族は東京に居心地のいいコミュニティーを確立していて,すっかり関東人である。私は日本医科大学で勤務したあと3年間,栃木県那須塩原に単身赴任した。週末に東北新幹線で東京の自宅と職場を行き来する日々が続いた。

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発育性臼蓋形成不全(developmental dysplasia of the hip;DDH)の手術的治療における大きな転換期は1950年前後にある。それ以前のDDHの手術的治療は,大腿骨減捻内反骨切り術を代表とする大腿骨側手術が一般的であった。しかし,術後の再外反や亜脱臼,それに伴う臼蓋形成不全の遺残が問題点となり,それらを解決する手段として,臼蓋側に直接手を加える骨盤骨切り術が脚光を浴びることとなった。本邦においても1960年代からそれらが追試されるようになった。その代表的術式として,Salter法1)とPemberton法2)がほぼ同時に報告され,それらの良好な成績により現在でも手術的治療の主流として世界的に行われている。

医療のグローバル化とその課題

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少子高齢化の時代において,日本のグローバルヘルス人材が国際機関や医療現場に活躍の場を広げることは国際貢献であるとともに,そこで得た知識や経験を日本の医療現場に還元することにより,日本社会にも貢献できる。このためには,日本の潜在的なグローバルヘルス人材を発掘・育成し,海外で活躍してもらうための支援・制度の拡充が必要である。グローバルヘルス人材戦略センター1)(当センター)が提供するキャリア・ディベロップメント支援に加えて,他組織が実施する様々な支援を効果的に組み合わせ最大限の効果を引き出すことが重要である。

腱・靱帯研究のフロンティア

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椎間板は,加齢や過剰な力学的ストレスにより組織の恒常性が損なわれると容易に変性症へと移行する。椎間板ヘルニアや狭窄症,側弯症など,椎間板変性疾患の治療は,ほとんどの場合,症状の軽減を目的とした切除術や上下の椎骨を癒合させる方法が中心であり,機能的な組織再生を伴う抜本的な治療法は存在しない。その主な要因の一つとして,椎間板を構成する多種多様な細胞集団の特性や組織形成機構の理解が分子レベルで進んでいないことが挙げられる。本稿では,ラメラ構造の結合組織である線維輪に焦点をあて,椎間板を形成する細胞の分化成熟や組織の恒常性維持機構について最近の知見を紹介したい。

スポーツ医学 つれづれ草

多くは皆虚言なり 武藤 芳照
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先般,銀行のATM操作の折に,携帯電話に急ぎの重要な連絡が入り,その場でしばらく会話をしていたところ,警備担当の中年の男性行員が遠くから注意深くこちらを見つめていた。「振り込め詐欺に引っかかった哀れな高齢者の姿」に見えてしまったのかもしれない。

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要旨:幻肢痛の発症機序として,患肢についての運動系と感覚系の協応関係の破綻が考えられている。仮想現実(VR)を用いて四肢に関する視覚情報(映像)をインプットすることにより運動系と感覚系の協応関係を再構築する幻肢痛治療を開発した。VR治療の鎮痛メカニズムには一次体性感覚運動野における体部位再現地図の再構築と運動イメージの再構築が関わっている。さらに,整形外科領域では骨軟部腫瘍術後の幻肢痛もあり,VR技術はがんピアサポートにも応用可能である。

机上の想いのままに

自由律俳句について 西野 仁樹
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正岡子規の俳句近代化の試みののち,河東碧梧桐は自然主義の影響を受けて個性重視,接社会を説き,五七五の定型を徐々に破って「新傾向俳句」と称した。子規の跡を継ぎ「ホトトギス」を主宰した高浜虚子は,こうした傾向に対して危機感を覚えて俳壇に復活,季語,花鳥諷詠,客観写生の重要性を主張した。これはなお現代俳句でも主流である。

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要旨:整形外科手術操作による医療従事者の眼粘膜曝露の危険性について検討した。2名のスタッフがバイオクリーン手術室にて,人工膝関節全置換術(TKA)と人工股関節全置換術(THA)の模擬手術を行った。微粒子の飛散状況を微粒子可視化システムで観察し,床上1mの手術台周囲と器械台周囲における浮遊微粒子数を計測した。TKA操作では「ボーンソーでの切骨」時に骨切り面から著明な発塵現象を認めた。THA操作では,「臼蓋トライアルとコンポーネントを打ち込む」際に臼蓋部周囲から液体を含む微粒子が広く飛散した。検出された微粒子数は器械台よりも手術台周囲で多く,特に「TKAの切骨」で最も多かった。患者の体組織や血液を含む体液への曝露は医療従事者の院内感染源として問題視されている。執刀医は助手だけでなく,看護師,麻酔科医,見学者の眼粘膜曝露の危険性について十分に認識し,配慮する必要がある。

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要旨:新潟県は豪雪地帯であるが,都市部の新潟市は降雪・積雪の比較的少ない地域である。しかし,2017年度は久しぶりの急な大雪となり,例年に比べ雪関連の骨折が著しく増えていた。そこで,2014~2017年度の冬期間に,筆者らの関連施設において足関節果部骨折・橈骨遠位端骨折・大腿骨近位部骨折に対して手術を受けた症例を対象として,降雪・積雪と骨折発生の関連を多施設共同で検討した。2017年度の累計降雪量・最大積雪深は例年の約2倍,雪関連の骨折数は例年の6倍であった。過去4年間の気象条件の検討から,積雪量3.5cm以上,当日の最低気温−0.5°C以下,前日の平均気温2.8°C以下が,新潟市における雪関連骨折の有意な危険因子であった。上記の3条件は凍結路面の形成に関連していると考えられ,降雪に関連した骨折において注意すべき気象条件であり,不要不急の外出を控える注意喚起に役立つと考える。

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要旨:骨頭外反型や転子貫通骨折と呼称される特殊な転子部骨折がある。その特徴は大転子と小転子の頂部を結ぶ骨折線を認め,通常の転子部骨折に認められる転子間窩の骨折を認めないことである。5年間に手術を行った転子部骨折267例中2例に本骨折を認めた。本骨折の3D-CTを破壊力学的に検討した。通常の転子部骨折では転倒し大転子部を強打すると,転子間窩外側部に圧縮応力が集中し骨折が発生する。ほぼ同時に頚部基部前内側部付近が引張応力により骨折していくと考えられる。本骨折では良好な骨質で大転子部に大きな衝撃負荷が加わると,頚部基部前内側部に引張応力により骨折が発生する。この骨折は,引張応力が集中する突出部(後方は小転子頂部から転子間稜,前方は転子間線)に沿って裂けていき,大転子頂部に達したと考えられる。衝撃的負荷による引張応力によって発生し完成された骨折であり,圧縮応力による転子間窩の骨折は発生しなかったと考えられる。

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要旨:椎間関節囊腫は椎間関節包や黄色靱帯に微小断裂が起こり,滑液が逸脱し囊胞を形成する病態である。脊椎手術後にもたびたび発生し,神経根を圧迫すると疼痛が出現することがある。今回われわれは腰椎手術後の椎間関節囊腫の3例を経験した。囊腫の発生部位は全例L4/5高位で,術後6~10カ月で片側下肢痛を生じ,MRI上,症状側の椎間関節内側に囊腫を認めた。1例は保存的治療で改善し,2例は囊腫切除と椎体間固定を行い改善した。

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編集後記

基本情報

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整形・災害外科
63巻12号 (2020年11月)
電子版ISSN: 印刷版ISSN:0387-4095 金原出版

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