整形・災害外科 63巻11号 (2020年10月)

特集 アスリートの腰部pain generator―謎の腰痛を攻略する最新の知見

西良 浩一
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これまで,腰痛の85%は非特異的腰痛でそのほとんどが原因不明であるといわれてきた。しかしながら最近の画像学をはじめとした診断技術の進化により,これまで謎であった非特異的腰痛の病態が観察できるようになってきている。代表的な画像がMRI STIR像であろう。これにより,痛い部分が光って見えるようになり,多くの謎が解けるようになったのである。

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要旨:アスリートの腰痛診療において,椎間板性腰痛はまず考えるべき病態の一つである。椎間板性腰痛の診断は,前屈時痛などの身体所見に加え,MRIにおける椎間板線維輪後方の高輝度変化(HIZ)の所見と椎間板造影検査での線維輪の亀裂像(toxic annular tear)の所見などの画像診断が重要である。HIZが椎間板性腰痛患者に特異的な所見であるとする報告がある一方で,無症候性患者にもHIZがある程度の頻度でみられる報告もあることから,未だ一致した見解は得られていない現状であるが,HIZ陽性患者において椎間板造影検査でtoxic annular tearの所見があり,腰痛再現性を確認した症例については椎間板性腰痛と診断している。

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要旨:腰椎分離症は上下関節突起間部の疲労骨折である。新鮮疲労骨折による痛みは動作時に生じる鋭い腰痛であり,適切な治療により腰痛は1カ月程度で改善することが多い。改善不良な場合には徐々に鈍い腰痛を呈することもある。その原因としては合併する椎間板変性や背筋群の緊張などが考えられる。保存治療により骨癒合が得られれば腰痛は改善する。骨癒合が得られず分離部が偽関節化した場合では,患者は無症状な場合も多く,腰痛を有する場合も原因が偽関節自体とは限らない。偽関節以外には分離に併発する椎間板や椎間関節の変性,神経根の障害などが痛みの原因となりうる。このような患者では痛みの性質は多様であり,痛みが腰部に限らず下肢に広がる場合もある。画像検査で腰椎分離を見つけたときには,その分離が “痛い分離” か,“痛くない分離” かを判断し,“痛い分離” であれば病態に応じた適切な治療を選択することが重要である。

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要旨:Modic changeは日常診療でもよくみられる脊椎MRIの信号変化である。最初の報告から30年以上が経過し多くの報告があるが,その病態や対応については未だ統一の見解は得られていない。アスリートでは腰痛が強いModic change type 1の患者を診ることがあり,その対応に苦慮することがある。的確な診断と他疾患の鑑別が特に重要である。保存治療が原則で消炎鎮痛薬の投薬で治療することが多いが,難治例には椎間板内治療を要するときもある。早期復帰を目標とするアスリートは,積極的な治療を要するときもあることを認識しておくべきである。

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要旨:Modic変化は3つのタイプに分類されるが,腰痛の原因となるのは主にType 1である。Type 1の変化は主に密接する変性椎間板と密接な関係があるとされており,最近ではアクネ菌による感染説も提唱されている。治療には椎間板変性と感染の両方に対処することが望ましい。薬物療法においては主に疼痛コントロールを行うが,抗炎症作用を期待してNSAIDsやステロイド投与を,感染に対しては抗生剤投与を検討する。運動療法では腰部負荷を軽減させるべく,joint by joint theoryに基づいた指導を行う。保存療法に抵抗する場合には手術療法を考慮するが,アスリートのための低侵襲治療として全内視鏡手術が選択肢となりうる。

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要旨:椎間板変性や椎間板ヘルニアなどの腰椎疾患による慢性腰痛に対する低侵襲治療は急速に発展・普及してきている。当院ではそれらの疾患に対して保存療法が無効であった症例に対しては,局所麻酔下に手術可能である全内視鏡視下椎間板摘出術(FED)とラジオ波バイポーラを使用したthermal annuloplasty(TA)などの全内視鏡視下脊椎手術(FESS)を行っている。これらの局所麻酔下脊椎内視鏡手術は,新たなテクニックの出現により,安全性・確実性が増してきている。これらの手術を計画・施行するにあたり,個々の患者の術前検査を詳細に検討して,手術適応を決定する必要がある。

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要旨:全内視鏡下椎間板切除術(FED)・経椎間孔法(TF法)はFEDに特有のアプローチであり,椎間孔内ヘルニアや外側ヘルニアに対応できる優れたアプローチである。Outside-in法の利点は,① 椎間関節の大きな症例でforaminoplastyを行うことで椎間板正中部に鉗子類が届きやすくなり,正中部のヘルニアを切除しやすくなること,② ペンシルダイレーターを盲目的に椎間板内に刺入しないためexiting nerve root損傷を避けることができること,③ ペンシルダイレーターを椎間板に刺入しないので椎間板ヘルニアの形態に影響を及ぼさないことであると考える。一方欠点は,椎間板内にカニューラを設置しないためカニューラが固定されず,硬性鏡を適切な位置に保持することが難しくなり,disorientationに陥りやすいことなどである。Outside-in法はinside-out法に比し椎間板に対し愛護的な手技であると考えられ,inside-out法に慣れてきた術者には習得したい技術である。

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要旨:プロ野球選手の腰痛は比較的多い疾患であり,特に慢性の腰痛に関しては症状を有しながら競技を継続している選手も多い。起因となりうる腰椎分離症に焦点を当てて,診断・治療・予防法について考察した。まず診断についてはCTで分離形態の把握,MRIにて分離症自体の骨癒合の可能性や周辺組織の炎症の程度を観察する必要がある。治療法については特に若い選手の新鮮例について,まずは骨癒合を目指していく。しかし選手の置かれたチーム内事情も考慮して治療法を選択する。早期完全復帰のために,例えば体外衝撃波などにて早期骨癒合と除痛の両方を得られる治療を模索していく。予防法については特にメディカルチェックにて終末期分離症の有無や骨端線閉鎖の有無を確認する。また腰痛症の前駆症状を腰部以外に呈している場合もあり,運動連鎖を予防として考えていく必要がある。さらに超音波診断装置を用いた体幹深部筋の滑走状態の確認により発症リスクを下げたいと考えている。

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要旨:ラグビーは,タックル,ブレイクダウン時の強い衝突,スクラムやモールなど軸圧や回旋外力にさらされる競技であり,腰椎,腰部筋や靱帯組織に大きな負荷がかかる。また,ポジションによる特徴的な動作の繰り返しが多く,オーバーユース障害が原因となることもある。腰痛の原因となる器質的な疾患のほか,ラグビー特有の動作による誘発がないか,骨盤,股関節・下肢由来の関連腰痛等がないかを検討する必要がある。運動休止,保存療法・手術療法からのスポーツ復帰には,アスレティックリハビリテーションを担当する現場のトレーナーとの連携が重要である。

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要旨:スポーツと腰痛の関係性について明らかなエビデンスはないが,水泳選手は他のスポーツ選手に比べ腰痛が有意に多い。水中で浮力があり荷重が免荷されている水泳で腰痛が多い理由は,繰り返すキック動作により,下位腰椎の変位が繰り返され椎間板内の水分出納現象が障害され椎間板が変性すると考えられている。しかし体幹の剛性を増すことでその変位が少なくなることがわかっており,トップスイマーでは椎間板の変性が多く腰痛の有病率が高かったが,深部体幹筋のトレーニングにより腰痛は有意に減少した。ジュニアスイマーについては骨成長が最大になる中学生で腰痛は増加し,体幹の左右非対称など脊椎のアライメントに異常が生じることが多く,正しいフォームでの練習や,体幹筋の非対称性の是正などで腰痛は改善する可能性が高い。しかしこの時期に正しく介入しないと難治性の腰痛になる可能性があり,注意を要する。

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要旨:コンディショニングは,パフォーマンスの向上や傷害発生の予防を目的に実施される。Cookらが提唱するパフォーマンスピラミッドの概念では,パフォーマンスの向上,傷害発生の予防には,ピラミッドの基盤にあたる可動性と安定性が重要視される。Joint by joint theoryの概念では,各関節は可動性または安定性のどちらかを主要な機能として有する。Joint by joint theoryに基づく腰痛アスリートのコンディショニングでは,腰椎は安定性,胸椎,股関節は可動性が主要な機能となる点を踏まえた上でのアプローチが求められる。スポーツ種目によって発生しやすい機能低下は異なるが,可動性に対するアプローチでは,胸椎・胸郭の可動性,股関節の可動性改善を図る。安定性に対するアプローチでは,腰椎安定化を目的としたトレーニングを実施する。可動性と安定性は表裏一体の関係にあることを踏まえた上で,可動性低下や安定性低下が生じる原因に対する推察やアプローチが求められる。

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要旨:腰椎骨盤安定性やモーターコントロールの概念について概説する。ローカル筋システムとグローバル筋システムの分類と,腰椎・骨盤の安定性には微調整プログラムが必須であり,腰椎・骨盤領域の特定の深部筋を収縮させ脊椎・関節の機械的支持を高める。またその活動はelastic zoneではなくneutral zoneで行われることが理想であり,他動・自動・神経によるコントロールという3つのシステムが相互に依存することにより,腰椎・骨盤が安定化する。さらに,ローカル筋とグローバル筋を順序を追って正確に賦活化させ協同させることで,腰痛を軽減させる。

Personal View

照一隅 松浦 哲也
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昨年12月4日に,ペシャワール会現地代表で医師の中村 哲さんが銃弾に倒れた。現地の悲しみは深く各地で追悼集会が開かれ,追悼式ではアフガニスタン大統領が自ら棺を担いだ。小生は中村さんのことをよく知らなかったが,生前の取材映像から流れる飄々とした中にも鋭い眼光に惹きつけられた。報道などによればパキスタンで医療活動を始め,その後,アフガニスタンに移ったそうである。アフガニスタンでも医療活動を行っていたが,“薬よりも必要なのは十分な食料と清潔な水だ” と訴え,井戸を掘り農業用水路と取水堰を建設し,砂漠の緑化を成功させた。食料と水が重要と思っても「医者のする仕事ではない」などと考えるものである。中村さんにはこの種の言い訳がなかったのであろう。その背景として中村さんが生前好んで使われた “照一隅” という考え方があると想像する。

整形外科手術 名人のknow-how

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悪性骨腫瘍に対する患肢温存手術は,広範腫瘍切除(画像上の境界から数cm離れた部位で正常の組織で覆った状態での切除)した後に,生じた欠損を種々の方法で再建する手術である。その再建方法として,腫瘍用人工関節が最も普及しているが,感染,破損,緩みなどの合併症が問題となる1)。また,人工関節を設置するためには,腫瘍切除による罹患骨の骨欠損に加えて,隣接関節の関節面の切除も要する。さらに,人工関節には軟部組織の再縫着は困難である。そこで,可能な限り骨を温存し,軟部組織の再縫着が可能である同種骨2)や自家骨移植3),処理骨移植4)~7),骨延長といった生物学的再建術も広く普及している。本邦では同種骨の入手が困難なため,処理骨移植術が発展した歴史がある。

医療のグローバル化とその課題

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本稿では,医療インバウンド(医療ツーリズム)および,短期滞在ビザで訪日した外国人(以下,「訪日外国人旅行者等」とする)患者を診療するにあたっての法令上の諸問題について概説する。

腱・靱帯研究のフロンティア

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腱・靱帯はⅠ型コラーゲンを主成分とする線維で構成されている。コラーゲンは極めて特異なタンパク質で,それらの生合成過程さらに線維形成は精密に制御されている。プロコラーゲン鎖は翻訳後,プロリンやリジン残基の水酸化,プロリン残基の異性化,糖付加などの修飾を受け,三重らせん構造をとる。

スポーツ医学 つれづれ草

この木なからましかば 武藤 芳照
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東京五輪・パラリンピックは,2020年7月24日の開会式から始まる予定であったが,新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的大流行(パンデミック)のために,翌年に延期された。本来,10月の第2月曜日であった「体育の日」も「スポーツの日」とその名を改め,かつ2020年に限って7月24日とされていた。

新しい医療技術

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要旨:われわれは,医療廃棄物である抜歯後の親知らずから約300ラインからなるヒト歯髄細胞を樹立・保管している。間葉系細胞の一種である歯髄細胞は,骨髄から得られる間葉系ストローマ細胞(mesenchymal stromal cells;MSC)と似ているが,分裂寿命が長いなど,MSCとは異なる特徴をもつ。また人工多能性幹細胞(iPS細胞)は,体細胞に山中因子を導入して樹立される多能性細胞である。われわれは歯髄細胞からiPS細胞を誘導したので紹介する。

机上の想いのままに

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江戸近世後期に,大阪を中心に儒学を超え明治を準備したとされる何人かの町人学者がいる。プロテスタントのごとき勤勉哲学を説いた石田梅岩,重商主義を説いた海保青陵,無神論まで至った山片蟠桃,本多利明(1743~1821年),さらに横井小楠は,彼らの思想を福井藩で具現化して財政改革を行い,その弟子の由利公正が明治政府の財政の基本を築いた。

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要旨:ヒアルロン酸(HA)関節内注射の効果が減弱した36例の変形性膝関節症(膝OA)患者に関節鏡視下debridement処置を受けることを勧めた。承諾したdebridement群(14例)と承諾しなかったコントロール群(22例)の間で6カ月後のLequesne重症度指数とVASの改善度を比較した。Debridement群はコントロール群に比べて重症度指数とVASの改善度が有意に優れていた。HAの効果の減弱した膝OA患者にdebridementは有効であると思われた。

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要旨:小児の橈骨頚部骨折においては橈骨頭傾斜角が整復要否の指標となる。筆者らは傾斜角が15°以上の症例に対しては整復操作を実施し,その後に骨折部の不安定性を認めるものにはKirschner鋼線固定を施行している。本研究では整復操作を要した小児橈骨頚部骨折15例を対象として,Kirschner鋼線固定を施行した群と施行しなかった群に分けて治療成績を比較検討した。両群間で手術時間や術後外固定期間,骨癒合期間,術前および最終診察時の橈骨頭傾斜角,最終診察時の関節可動域には有意差を認めなかった。また,術後合併症として固定群で早期骨端線閉鎖を2例,偽関節を1例に認めたが,その発生率はこれまで報告されているものと同等であった。合併症に注意すればKirschner鋼線固定の有無は治療成績に影響を及ぼす可能性が少ないため,骨折を整復した後に骨折部の不安定性を認める症例には実施しても問題ないと考える。

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要旨:超音波ガイド下末梢神経ブロックと局所静脈内麻酔を併用し,下腿遠位,足関節および足部の手術を行った。21名21例(男性12例,女性9例,平均年齢52.7歳)を対象とした。手術は,観血的骨接合術が5例,骨内異物除去術(抜釘術)が14例,創部感染に対する創傷処理が1例,足関節鏡視下手術が1例であった。超音波ガイド下神経ブロックは,大腿・坐骨各神経に対して0.375%ロピバカインを10mlずつ用いて行った。局所静脈内麻酔は,上腕用の駆血帯を下腿近位に設置して,0.5%リドカイン30mlを足部より静脈内投与した。神経ブロック開始から加刀までの時間は平均21.7分,手術時間は平均34.5分,駆血時間は平均56.2分であった。駆血開始から終了までの間に駆血部痛を訴えた症例はなく,術中に創部痛を訴えた症例もなかった。術中に追加の麻酔または鎮痛処置を要した症例はなかった。術直後,術当日就寝前および術後24時間の平均自覚的疼痛スケール(NRS)は,それぞれ0/10,0.24/10,0.81/10で,有害事象はなかった。

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要旨:わが国で増加している高齢者の寛骨臼骨折は未だに明確な治療方針が確立されていない。今回骨盤不連続性のある3例に対し,受傷後3週以降の亜急性期に十字プレートを併用した一期的人工股関節全置換術(THA)を行いADLの早期回復を得られた。年齢,寛骨臼側・大腿骨頭側の損傷による二期的手術によるリスクなど考慮し,一期的THAを行うことは術後早期のADL回復の一助になる。

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整形・災害外科
63巻11号 (2020年10月)
電子版ISSN: 印刷版ISSN:0387-4095 金原出版

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