整形・災害外科 62巻3号 (2019年3月)

特集 医療におけるAIの活用

牛田 享宏
  • 文献概要を表示

医療は幾つかの要素によって刻一刻と進歩してきている。医学が古くから中核においてきた生物学的な要素に関しては医学部・薬学部を中心とした研究グループが推し進めてきた面が大きい。整形外科領域でこれをみてみると,抗菌薬,消炎鎮痛薬,骨粗鬆治療薬など様々あり,これらの発展によって結核やポリオなどの病気の激減(消滅),疼痛緩和,脊柱変形や骨折予防など様々な恩恵をわれわれは受けてきた。ところが近年,工学部を中心とした技術革新はわれわれの医療のすべてを変えてしまった。

  • 文献概要を表示

要旨:わが国は少子高齢化が急速な勢いで進んでおり,医療の効率化が急務となっている。そのためには医療の高度化や個別化が必要であるが,これらを実現する手段の一つがAI(人工知能)である。現在主流となっているAIは機械学習と呼ばれる方法で,その一つであるディープラーニングは画像認識で画期的な精度を達成し,AI研究ブームの火付け役となっている。この画像認識を中心に医療データへのAIの応用が進んでいる。まずこの機械学習の概念とディープラーニングについての原理を解説する。AIの適用先として病変写真,病理画像,およびX線画像医療データが挙げられる。また電子カルテや大規模健康調査データに対してAIを用いた発病予測などへも適用が進んでいる。電子カルテの自由記載文や文献などからの自然言語処理による解析,ゲノムに基づく診断にもAIの適用が検討されている。一方,AIは根拠が不明瞭になるなど問題点もあり配慮が必要である。

脊椎外科×AI 渡辺 航太
  • 文献概要を表示

要旨:AIを1つの機能や能力として,脊椎疾患治療のサポートツールに利用することが期待されている。画像診断では椎体骨折,脊椎腫瘍,化膿性疾患などのred flagsに対する自動診断が期待され,既にいくつかの報告が散見されるようになってきている。さらに,小児の外傷,脊柱側弯症,症候性疾患,脊髄腫瘍など専門性が高い疾患への応用も期待される。問診の情報と画像情報からの自動診断も診療のサポートになる可能性が高い。脊椎疾患の治療成績や手術合併症の発生の予測も期待されるツールである。既に腰椎椎間板ヘルニアや腰部脊柱管狭窄症の術後成績予測,腰椎後方固定術や頚椎前方固定術の合併症予測についての報告も散見される。今後は,問診,診察所見,画像所見などを包括的に評価して適切な治療方法の候補が提示されるツールなどの開発も期待されるが,そのためには精度の向上,汎用性の問題などのハードルも越えなければならない。

  • 文献概要を表示

要旨:深層学習の登場により人工知能(AI)によるパターン認識精度が著しく向上し,医療の領域でもAIの応用が広く研究開発されている。アメリカでは日本に先がけて実臨床への利用も始まっており,日本における臨床への導入も遠くないと思われる。株式会社エクスメディオでは皮膚科・眼科診断治療支援アプリケーションを通じて蓄積されたデータを活用し,皮膚疾患,前眼病変に関するAIの開発を行っている。

  • 文献概要を表示

要旨:近年,病理組織標本をスキャンしてデジタル画像化する技術が進歩し,デジタル画像を利用した病理診断が可能になった。これにより,デジタル化された病理画像が蓄積され,人工知能(AI)を病理診断へ応用する試みが始まっている。特に,ディープニューラルネットワークを使用した画像分析では,従来の画像分析がなしえなかった高度な画像認識が実現され,一部の領域では病理医を超える性能を発揮している。今後,AIが病理診断に導入されれば,病理医の負担が軽減され,診断の質が高まることが期待される一方,AI導入による個人情報漏洩や誤診への対応不足,病理医の不要化など,新たなリスクを懸念する声もある。AIに何を任せるか,またAIを活用して病理学がどのように進歩するかは今後の課題である。

  • 文献概要を表示

要旨:従来の評価尺度による精神症状の評価には限界があり,定量評価を可能とする手法が必要とされている。症状の定量化を目指し,バイアスを取り除いて評価をより精緻に行うための中央評価,また最新のウェアラブルデバイスと機械学習を用いたアプローチなどが行われている。筆者らのグループは表情・音声・体動・日常生活活動,および自然言語処理を用いて,精神症状の定量化に取り組んでいる。情報通信技術の進歩とともに従来では考えられなかった新しい形での精神症状の評価が可能となりつつあり,積極的にこれらの技術を取り入れることで,臨床や新薬の開発に関する問題の解決に役立てていくことが望まれる。

  • 文献概要を表示

要旨:認知症支援高度化のための「見立て」の協調学習と「見立て知」の構築について論じ,人工知能に基づくアプローチが認知症の人の理解の深化につながることを示す。認知機能低下をもたらす多数の原因の可能性の中には改善可能な認知症があり,生活の中で現れる様々な症状に本人や身近な支援者が気づく(見立てる)ことができれば,適切な医療につなげることができ,認知症支援の質の改善が期待される。そこで,見立て能力育成のために,ケースを活用してみんなで学ぶ協調学習環境を構築した。本協調学習環境で生み出される対話はお互いの学びを促進させ,ケースの新たな「知」の創出につながることが示された。また,協調学習の場で創られた見立て知を活用することで学びのプロセスの評価につながるという結果が得られた。そして,認知症の人の苦しみをAIのモデルを活用して表現することで,当事者理解の深化につながることが示唆された。

  • 文献概要を表示

要旨:慢性疼痛は,器質的要因だけではなく,家族関係,心理的要因,社会的問題などにもしばしば関連しており,これらの様々な要因が病態を非常に複雑にしている。このような慢性疼痛の治療には通常の単科でのアプローチでは改善しない場合が多い。愛知医科大学病院痛みセンターでは慢性疼痛患者に対して多職種が連携した集学的治療を行っている。その集学的治療のノウハウを学習させた人工知能(AI)を用いた疼痛診療支援AIシステムの研究を進めている。また,痛みに関する様々な情報を多角的に収集・集約する疼痛データバンクの構築を進め,AI技術との学際的領域(医学と工学の連携)の研究に取り組んでいる。

Personal View

研究は専門医を取る前に 岡田 誠司
  • 文献概要を表示

臨床研修必修化以降,若い臨床医が基礎研究を行う機会は徐々に減っているのではないかと感じている。確かに学位の価値基準も曖昧であり,ようやく医師としての道を歩み始めたのであるから,まずは臨床に専念し,専門医を取得したいと考えるのもある意味自然なことであろうとは思う。しかし,専門医取得には研修年数等の一定期間を要するため,仮に専門医を取得してから大学院へ進学し研究を始めるとなると,既に30代半ばとなることも珍しくない。私自身,将来いずれは大学院で基礎的な研究をしてみたいと考えていたものの,整形外科臨床を始めて間もない頃は外傷の手術が楽しくて仕方なく,また,臨床医としての自信をつけたいとの思いから,一介の研修医が僭越ではあったが教授に “臨床を10年程度専念した後に,大学院に進学して研究をしたい” 旨を伝え相談させて頂いたことがある。しかし,その時に頂戴した返事は,「物事には行うのに相応しい時期というものがある。考え方が凝り固まってしまってから研究を始めても得るものは少ない」というものだった。当時はよく理解できず多少不満ではあったが,仮に臨床に10年専念していたらその後に大学院へ進学した可能性は限りなく低かったであろうし,専門医取得が臨床医としての自信や質の担保にはならないことも,専門医を取得して十数年経った今なら断言できるため,これは本当に正しく有り難いご教示を頂いたものと心から感謝している。このように,その時にはよく分からなくても,後になってしみじみとその意味を正しく実感できるようになる指導が,真に価値のある教育だと思っている。

整形外科手術 名人のknow-how

  • 文献概要を表示

腰椎椎間孔部狭窄(lumbar foraminal stenosis;LFS)は見逃しやすい疾患であり,時にfailed back surgery syndromeの原因にもなる。近年では,画像診断技術の向上により診断率は向上しつつあるが,椎間孔内における神経圧迫部位を正確に特定することが困難な症例や,脊柱管狭窄を合併している症例も多く,実際の手術では脊柱管内から椎間孔外まで,神経を全長にわたって除圧する必要に迫られることも多い。このような場合,従来の方法では後方要素を温存することは困難であり,椎間関節切除術と固定術の併用が一般的に行われてきた。

医療史回り舞台

  • 文献概要を表示

昔から「手まり唄」や「子守り唄」はあったが,童謡が創られたのは大正中期からで,今年は童謡が誕生して百年になるという。これに合わせて「からたちの花」や「この道」を生んだ詩人の北原白秋(図)と作曲家の山田耕筰(1886~1965)が主人公の映画《この道》が公開された。白秋は明治期以来の堅苦しい文部省唱歌を批判して「ちんちん千鳥」「とんぼの眼玉」「あわて床屋」「かやの木山の」など多くの名作を生み出した。本稿では「新潮日本文学アルバム『北原白秋』」などを参照しつつ白秋の病歴を綴ってみよう。

  • 文献概要を表示

要旨:椎間板ヘルニアは椎間板中の髄核が線維輪を穿破し脊髄などの神経を圧迫し,下肢痛,腰痛を発症する疾患である。その治療において,保存療法として,非ステロイド性消炎鎮痛剤,ステロイドなどの薬物療法,理学療法,硬膜外仙骨ブロック,神経根ブロック,運動療法などで効果がみられないとき,コンドリアーゼ(C-ABC)化学的髄核融解術(chemonucleolysis)が,手術的治療に至る前の最後の手段として考えられる。このC-ABCは50年前,Proteus vulgarisを培養,その菌体成分から抽出・精製し,そしてFlavobacterium heparinum由来のC-AC酵素とともに駆使しコンドロイチン硫酸異性体の分析に使用した。その過程でコンドロイチン硫酸-デルマタン硫酸ハイブリッド構造の存在を半月板軟骨内に発見した。この酵素が種々の動物実験,臨床治験を通し,腰椎椎間板ヘルニア治療のための椎間板注射剤として純国産で,世界で初めて開発され,今回日本で認可が得られた。C-ABC,C-ACを用いた種々軟骨,尿などのコンドロイチン硫酸異性体の特徴,C-ABCの臨床応用に向けての基礎的研究,使用方法,適応,今後の展望について検討した。

机上の想いのままに

別れの言の葉 西野 仁樹
  • 文献概要を表示

RA関節破壊のレントゲン・スコアであるSHARP Scoreで有名なDr. John Sharpは,死の一カ月前には,友人達全員へ “Things are moving pretty fast, so it is time to say goodbye while I still can.” というメールを送られていたそうです。私にもできるだろうか?

  • 文献概要を表示

要旨:肩腱板広範囲断裂に対する鏡視下debridementの治療成績を検討した。当科で腱板広範囲断裂に対して鏡視下debridementを施行した9例9肩を対象とした。男性4例・女性5例,平均手術時年齢75.4(67~85)歳,平均術後調査期間18.0(6~30)カ月であった。鏡視下にて,主に滑膜切除と肩峰下除圧を行った。日本整形外科学会肩関節疾患治療成績判定基準(JOA score)および肩関節自動屈曲角度を後ろ向きに調査し,これらを術前と最終調査時で比較し術後成績を評価した。最終調査時のJOA scoreは,総計だけでなく,疼痛項目・機能項目・可動域項目とも術前より有意に改善していた。また,最終調査時の肩関節自動屈曲角度も術前より有意に改善していた。鏡視下debridementは,断裂を許容する姑息的手術であるものの低侵襲というメリットがあり,腱板広範囲断裂に対する有効な術式の一つであると考えられた。

  • 文献概要を表示

要旨:60歳以上の上腕骨遠位端骨折に対する両側プレート固定と片側プレート固定の治療成績を比較した。両側プレート固定を行ったD群:13例13肘(男1,女12,平均77歳),外側プレートと内側キャニュレイテッドスクリュー固定を行ったS群:9例9肘(男1,女8,平均77歳)を対象とした。骨折型はAO分類でD群がA2:10,A3:1,C1:2,S群がA2:7,C1:2であった。術後外固定期間はD群0週,S群平均3週で,術後経過観察期間はD群平均9カ月,S群平均14カ月であった。術後合併症はスクリューの緩み・逸脱をD群で1肘,S群で2肘(1肘は骨折部転位のため再手術)に認めた。術後尺骨神経障害はD群で有意に多く,CRPSをD群で1肘に認めた。肘関節屈曲角度がS群で有意に悪かった。両側プレート固定は尺骨神経障害が,片側プレート固定は術後転位,屈曲制限が問題である。

  • 文献概要を表示

要旨:成人男性12例を6例ずつ2グループに分けて随意性咳嗽に伴う体幹筋と股関節周囲筋の筋電計測を行った。腹横筋,腰部多裂筋,大腰筋,腸骨筋には超音波画像ガイド下で微細ワイヤー電極を挿入した。グループAでは腹横筋・内腹斜筋・外腹斜筋・腹直筋・腰部多裂筋,グループBでは大腰筋・腸骨筋・内腹斜筋・外腹斜筋・股関節屈筋の筋活動開始時間を記録した。その結果,随意性咳嗽に伴う筋活動発現時間は内腹斜筋を0秒として,腹横筋,腸骨筋,大腰筋,内腹斜筋,外腹斜筋の順に平均−0.123,−0.123,−0.107,0.00,0.053秒であり有意差を認めた。随意性咳嗽で腹腔内圧が急速に上がる際に腹横筋・内腹斜筋に加えて腸骨筋と大腰筋が早くから作動したことは,体幹運動に伴う急激な腹圧の上昇と股関節屈曲が同時に起こることを示唆していた。

  • 文献概要を表示

要旨:肘関節脱臼を伴う尺骨近位部骨折の治療上の問題点について考察した。対象は9症例で,経肘頭脱臼骨折(TOFD)が5例,後方Monteggia損傷(PMFD)が4例であった。橈骨頭骨折5例,橈骨頚部骨折1例,鉤状突起骨折7例を合併しており,外側側副靱帯(LCL)断裂が2例,部分断裂が1例にみられた。最終経過観察時の平均関節可動域は肘屈曲27°(90°~140°),伸展不足角18.9°(0°~40°),回内66.7°(20°~85°),回外68.9°(20°~90°)であり,MEPSは平均86点,JOA-JES scoreは平均78点であった。合併症としてTOFD,PMFDの各1例で再脱臼が生じ再手術を行った。橈骨頭の粉砕骨折にLCL損傷の合併,滑車切痕の高度粉砕骨折の症例で成績不良となりやすかった。

  • 文献概要を表示

要旨:腰椎後側方固定術後を含む多数回手術後に椎間孔狭窄が遺残し,下肢痛が改善せず40年が経過した症例に対して脊椎内視鏡下手術を行い良好な経過を得た症例を経験した。76歳男性で30歳代より右下肢痛があり,第5腰椎分離すべり症の診断のもと合計6回の手術を行ったが,症状は改善せず当科受診となった。起立歩行および仰臥位にて強い右下肢痛を訴え,右下肢の筋力低下も認めていた。L3-S1高位まで後側方固定は完成していたが,3D-MRIにて右L5神経根が椎間孔入口部で圧痕を形成しており,CTにて同部位にragged edgeの遺残を認めた。右L5神経根ブロックが著効したために手術適応と判断し,脊椎内視鏡を用いて椎間孔内の神経除圧を実施した。術直後より右下肢痛は消失し,筋力低下も改善した。本症のように腰椎固定術後の固定範囲内にも狭窄病変が存在すると神経症状が遺残しうることを念頭に診療にあたる必要がある。

  • 文献概要を表示

要旨:エコーを併用して鏡視下骨片切除術を行った有痛性分裂膝蓋骨の2例を経験した。症例は,16歳男子と57歳男性である。2例とも単純X線像で分裂膝蓋骨を認めたため,分裂部に局所麻酔剤とステロイド剤を注射し,症状は一次消退したが効果は一時的であった。このため手術治療を行った。鏡視では分裂部が不明瞭で,エコーを併用して分裂部を同定し,関節腔から分裂骨片を切除した。術後,症状は消退し速やかに活動復帰した。膝蓋支帯や腱を損傷しない術式により速やかな改善を得た。

  • 文献概要を表示

要旨:感染性脊椎炎は高齢化やcompromised hostの増加に伴い増加している。頚椎感染性脊椎炎は椎体の骨破壊に伴う後弯変形を生じるとともに脊髄症を引き起こし,高率に手術療法が必要になるがgold standardの治療が存在しない。われわれが行った椎弓根スクリューを用いた前後合併手術は感染病巣の郭清とともに強固な固定が得られ早期離床,外固定期間の短縮が得られる有用な治療法であると考える。

--------------------

目次

バックナンバー特集一覧

Information

次号予定目次

告知板

投稿規定

編集後記

基本情報

03874095.62.03.cover.jpg
整形・災害外科
62巻3号 (2019年3月)
電子版ISSN: 印刷版ISSN:0387-4095 金原出版

文献閲覧数ランキング(
2月17日~2月23日
)