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研究は専門医を取る前に
岡田 誠司
1
Seiji OKADA
1
1九州大学生体防御医学研究所,病態生理学分野
pp.209-209
発行日 2019年3月1日
Published Date 2019/3/1
DOI https://doi.org/10.18888/se.0000000792
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臨床研修必修化以降,若い臨床医が基礎研究を行う機会は徐々に減っているのではないかと感じている。確かに学位の価値基準も曖昧であり,ようやく医師としての道を歩み始めたのであるから,まずは臨床に専念し,専門医を取得したいと考えるのもある意味自然なことであろうとは思う。しかし,専門医取得には研修年数等の一定期間を要するため,仮に専門医を取得してから大学院へ進学し研究を始めるとなると,既に30代半ばとなることも珍しくない。私自身,将来いずれは大学院で基礎的な研究をしてみたいと考えていたものの,整形外科臨床を始めて間もない頃は外傷の手術が楽しくて仕方なく,また,臨床医としての自信をつけたいとの思いから,一介の研修医が僭越ではあったが教授に “臨床を10年程度専念した後に,大学院に進学して研究をしたい” 旨を伝え相談させて頂いたことがある。しかし,その時に頂戴した返事は,「物事には行うのに相応しい時期というものがある。考え方が凝り固まってしまってから研究を始めても得るものは少ない」というものだった。当時はよく理解できず多少不満ではあったが,仮に臨床に10年専念していたらその後に大学院へ進学した可能性は限りなく低かったであろうし,専門医取得が臨床医としての自信や質の担保にはならないことも,専門医を取得して十数年経った今なら断言できるため,これは本当に正しく有り難いご教示を頂いたものと心から感謝している。このように,その時にはよく分からなくても,後になってしみじみとその意味を正しく実感できるようになる指導が,真に価値のある教育だと思っている。
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