看護学雑誌 41巻12号 (1977年12月)

特集 看護の場は個を生かしうるか

出口なき看護婦集団 久米 和興
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はじめに

 ‘私という看護婦’として,この病棟に勤務している,と自負できる者は,現状ではまれであろう.むしろいつでも交換可能,使い捨て可能な無名の一看護婦として自らを規定してしまっているのが私たちの姿ではないだろうか.

 私は時々,私の持っている能力が貧弱であるからそうなるのだという見方をしたくなる.けれどそればかりとは言えまい.なぜなら看護婦は看護婦として職務についた時から,属した病棟の看護婦集団の構成員として能力を発揮するよう,要請され続けるからである.

隙間をつくる余裕を 中山 洋子
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外来の看護室にて

 精神科外来の看護室に立っていると,‘看護婦さん,看護婦さん’と呼ぶ声に,研修という身の私も白衣を着た看護スタッフも何度も振り返る.外来を訪れる人々の姿を追ってみると,受け付けを終えた後に何人かの人々は必ずといっていいほど,看護婦の白衣を目指して看護室にやって来ている.

 考えてみれば,私だってそうである.見知らぬ病院で,受け付けは表示を見ながら無事済ますことができても,診察室の前で待ちながら,‘ここで待っていればいいのだろうか’‘果たして自分の名前を呼んでくれるだろうか’と不安になる.そんな時,揺れ動く白衣の看護婦の姿を見るとほっとし,そして,確かめようと思い立つ相手は,白衣を着た看護婦である.

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Tさんの手紙

 富田さん,お元気ですか,私のほうはまいっている状態です.この間,深夜勤務をして,私はほとほとこの病棟がいやになってしまいました.私の看護観というか性格では,とてもこの病棟には不向きということを思い知らされたのです.

 この病棟のナースは,管理・監視で,何事も起こらないようにできるだけ予防する.私はまず,患者が楽に過ごせるようにしようとする,ということです.この病棟では,前者のほうを重視しなければいけないようです.それは私にもよく分かります.でも,あっさりとできません.もうこのあたりでこの病棟のナースとしては失格のようです.

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はじめに

 1961年,バージニア・ヘンダーソンは,メルボルンの第12回ICN大会において,“看護の基本となるもの”1)を発表した.看護の発生以来,先輩たちは,看護の本質がつかめない不安と不満に,日夜悩んでいたという.

 この発表は,先輩たちにとって,光を与えてくれたと言っても過言ではないだろう.1つ1つの看護行為が科学的であったところで,全体を系統化できなかったそれまでの看護界にとって,‘基本的欲求に基づく日常生活への援助である’と打ち出されたのである.卒業して5年目を迎える私は,看護学概論の講義の中で当たり前であるかのように耳にし,実習を重ねる度に,なんと適切な論文かと感激したものである.

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自己を表現したいと思う気持ち

 人間にはさまざまな個性的能力があり,機会をみてはその能力を発揮したり,実現したいという自己実現の欲求をもっている.しかし現実は,だれもが私でなければできない看護をしたいという欲求がありながらも,自己実現が計り知れない代償と犠牲によってしか得られない,という状況である.

 多くの病院で深刻な看護婦不足と過酷な勤務体制に悩まされている.あまりにも労働条件が厳し過ぎると,看護の質を問題にするよりも,まずは量(看護婦の人数)を確保しなければ何もできない──チームナーシングなどできない──と考えられていたようである.実際人数が少なければ,1人で何でも敏速に処置や介助がこなせることを要求された.しかし治療や介助に走り回る看護婦という自分に満足が得られるだろうか.忙しい病院では,看護婦が定着しにくいという.

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はじめに

 個を生かすという問題を考えた時に,“個”とはいったいなんだろうか? と考え込んでしまった.今までは‘個性’とか‘個人’とか,一個(人)の人間’とかいう意味として使ったり,耳にしたりしていたからである.そこで私なりに“個”の意味を 1)1人の看護婦として,専門職の立場にある者のパーソナリティ(個性・人間性) 2)他の職種の中での看護婦集団としての役割(特にゆうかり園のような子供の施設における看護婦集団の特質として)(主体性・独自性) 3)子供,ひとりひとりの(個性・人間性)というように3つを考えてみた.

 このような考え方の是非は別として,これらの個がどのようなかかわりを持ち,生かし合ったり,生かしきれなかったりしているのか,日常のできごとを振り返りながら考えてみたいと思う.

マイ・オピニオン

看護婦を見る眼 千島 染太郎
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 同性の療養者と異性のそれとでは,看護婦を見る眼も大いに異なる.女性療養者の観察眼は,微に入り細にわたって,綿密であり,辛辣(しんらつ)であり,性悪なほど冷薄である.

 その点,異性つまり男性の場合は,看護婦といえども単なるひとりの女性として眺めるのが常である.したがって,看護婦に対する勤務評定的な採点の甘くなるのも,あながち無理からぬ話である.同性意識には同情・共感の親密さより,むしろ本能的な競争意識や敵愾心(てきがいしん)が底意としてある.つまり羨望(せんぼう)・侮蔑・嫉妬・瞑恚(しんい)・怨恨等々……

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はじめに

 頭蓋内出血を伴って出生した児の保育には,看護上でもいろいろ問題があるが,出産した母親および父親にとってはたいへんなショックである.特に児の異常を見て,必ずしも生存を願わない家族が介入すると,両親の苦しみは倍加する.このような場合ナースは,母・父・児の間でどういう姿勢でいたらいいのか迷うことがある.

 Kちゃんの場合は,カンファレンスを重ね,母親の苦しみを援助し,Kちゃんに近づかせたいといろいろ試みたが,固く閉ざした心をなかなか開いてくれなかった.家族の心配はKちゃんが‘泣かない’ということに集まっていることをみつけ,スタッフ一同が家族と一緒に泣き声を待っていたある日,Kちゃんは突然泣いた.その泣き声を電話で家族に送った.その時から父親と母親が養育の希望をみせるようになり,退院の日を待つようになった.

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はじめに

 当院は,僻地中核病院の指定を受けて1年余りを経過したが,この地域の患者の特徴として,初期症状は我慢するかあるいは飲酒等で紛らし,日数を経過して重大な症状を自覚するか,あるいは合併症を起こしてから初めて受診する例がある.

 ここに,私たちが経験した患者は,肺炎を合併して受診し,更に永年飲酒のためか肝機能障害があった.術後経過が良好で,化膿性脊椎炎が再発せずに機能訓練が順調に進められたとしても,下半身対麻痺は残り,車椅子での社会復帰以外はできないと考えていたが,度々の発熱で再発が心配され,更に術後肝炎を併発し,限界状況になり,黄疸が長期にわたり,次第にモチベーションを失って,このままでは起坐もできなくなるのではないかと心配したが,そのような状態から脱して,見事に自力で歩行し社会復帰した事例を経験したので報告する.

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はじめに

 今まで,健康な社会生活をしてきた人間にとって,入院をし,更に手術を受けなければならないとしたら,だれもが大なり小なりの不安を抱くことだろう.しかし,その不安は術前のオリエンテーション等により,多分に軽減されるものである.ここに取り上げた事例は,術前オリエンテーションを施行したにもかかわらず,極度の不安症状を呈した1例である.

 そこで私たちは,患者が心身ともに最良の状態で手術に臨めるようにと,まず原因を知り,それに伴った適切な看護計画と援助を行い,家族の協力を得て,スタッフが統一した働きかけをしたことにより,多少の成果が得られたので,その経過報告をするとともに,看護の反省の機会としたい.

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はじめに

 インスリノーマは比較的まれな疾患で,根本的治療は腫瘍の外科的切除しかないと言われている.本事例はインスリノーマにより空腹時狂暴性を伴う低血糖発作が,急激にしかも頻回に起こり,24時間中全く目を離せない例で,種々の内科的治療の試みも十分な効果を得られなかったが,外科的切除後軽快退所できたので,その看護の経過を報告する.

 インスリノーマとは,膵臓のランゲルハンス島のβ細胞に発生するインスリンを過剰に分泌する腫瘍で,図に示すとおり50gブドウ糖負荷試験では,血糖は正常者および糖尿病者の血糖値と比較するとはるかに低く,インスリン反応は逆に高い値を示している.

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 平均寿命の延びとともに,寝たきり患者が年々増加しつつあります.しかし,これらの患者の家庭療養の実態は詳しく把握されていない現状です.ここに,寝たきりの1ケースを通じて,家庭看護やリハビリテーションを行うことにより,保健婦の働きかけで,どれだけ効果があるか,また保健婦の役割は何かを考えてみたいと思います.

死への看護・12

家族への援助 柏木 哲夫
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はじめに

 ‘死への看護’において家族への援助の問題が大切であることは,これまでにも述べてきました.以前私たちが行った家族へのアンケート調査の結果からも分かるように,死に至る病気を持った患者の家族は,実に様々な問題をかかえこみます.家族への援助を,2人の患者の家族を通して,次の4つの点から考えてみます.

 1)医師が患者に病気をどのように説明するかによって,家族の重荷が変化する.従って,説明を工夫することによって家族を援助できる.2)家族の患者への対応を共に考えることによって援助できる.3)家族間の問題を解決する手助けをすることによって援助できる.4)家族の希望を入れることによって援助できる.

ユニホーム

佼成病院 島田 利子
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襟元を動きやすいものに

 当院のユニホームは 45年に綿を素材にしたものからテトロン製に改めました.その後現場からの意見を随時取り入れ 特に注文の多かった襟元の機能性を考慮してデザインや生地に改良を加え 現在のものを使用するようになりました.

 前あきのものと後あきのものと2種類ありますが どちらも半袖と七分袖とがあり 機能的で動きやすく それぞれの体型や好みに合わせて着こなしているようです.前あきのものは腰のベルトとポケットが 後あきのものは両脇のボタンがポイントになっています.

アイディア

低圧持続吸引器の逆流防止 川畑 安正
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製作目的

 私たちは開胸術後の胸腔内ドレナージ,および開心術後の心のう内ドレナージに,低圧持続吸引器を使用しているが,時として怒咳により,胸腔内圧が一時的に高まり,低圧持続吸引器に対して陽圧がかかり,水圧マノメーターの水が外へ吹き出してしまうことを経験する.

 患者が怒咳する原因はいろいろあるが,当ICCUでは,胸腔内ドレーンの刺激,気管内挿管によるバッキング,人工呼吸によるファイティングなどが多い.

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 昨日までは肩から上に手が上がったのに,今日はできない.明日以降,いくら努力しても手が上がる可能性は絶対にない.こんな現実の中に,ここ東埼玉病院(院長井上満・埼玉県蓮田市黒浜)の筋ジス病棟の子供たちは生きている.

 1日でも長く歩かせたい,できるだけ健康児と同じような生活をさせたい.現実は現実としてあまり甘えさせず,子供自身が自然にその事実を受け入れることができるよう,どんな小さなものでも子供のもっている希望を育てよう,そう思って看護婦は働きかける.現在持っている機能を少しでも長く維持させようとするため,どんなに児が着替えに苦労し何分かかっても,歯みがき粉を出すのに全力を傾けていても,手伝ったりはしない.筋萎縮を防ぐために,どんなに苦しくても,自分のことは自分でさせるようにしている.

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 スイスはヨーロッパの真ん中,通り一遍の旅行じゃ何も分からないし,スイスで働きながらヨーロッパを知ろうということで,日本を出たのは今から9年前.バーゼルにある外国人のための就職斡旋機関に依頼して,バーゼル州立病院に就職した.その後,チューリッヒ州立病院やチューリッヒ市立病院に勤務する.

 日本の看護婦免許だけだと給料も低いし,正式の看護婦として扱われないし,しゃくだったので,スイスでの看護婦免許をとった.短大の教養課程でドイツ語を少し勉強しただけで,ドイツ語の問題にドイツ語で答えなければならない試験に受かった,なかなかのつわものである.

ホームヘルパー跳びある記・12

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 日本のホームヘルパー制度発祥の地といわれる長野県上田市で,訪問活動が始まったのは昭和33年である.そして我が国のホームヘルプ事業が制度化されたのは,老人福祉法の制定より1年早い昭和37年で,その出発当時のヘルパーの数は,全国で約100名だったそうである.現在は1万2000人が社会福祉協議会および市町村自治体管轄のもとに活動している.

 私がこの職に携わって1年半が過ぎた.その間,ただ無我夢中で走り続けたように思えるのだが,‘ヘルパーとしての自分を動かしているものは何か?’と改めて自分に問い直してみるとき,‘こんな私を頼りにして待っててくれる老人たちがいるから……’と,素朴な答えではあるが,真実そう思えるのである.

内視鏡検査と介助の実際・12

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Ⅰ.臨床的意義

 消化管に発生したポリープを特殊なファイバースコープと鉗子を用いて,高周波電流により焼灼切断する方法を内視鏡(高周波)ポリペクトミーと呼んでいる.ポリープは胃に最も多く,次いで大腸,直腸に多いため,この方法は主として胃および大腸に用いられている.食道や十二指腸ポリープの頻度は少ないが,内視鏡ポリペクトミーは可能である.以前,消化管ポリープの治療は開腹手術により行われていたが,昭和48年,我が国で内視鏡ポリペクトミーが開発されてからは,専ら内視鏡的に治療されるようになった.

ICU看護の実際—北里大学病院の場合・12

ICU・CCUの医療機器 伊藤 敦子
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 ICU・CCU(以下ICUと称しCCUを含む)は,院内において最も重篤な急性重症患者に対し,十分整備された設備・器械器具を活用し,集中的にケアすることにより効果をあげる部門として存在している.それゆえにICUに働く看護婦は,それらの機器を使いこなすことが重要な役割でもある.今回,このシリーズの最後にあたり,これまで一部触れてはきたICUの医療機器について述べたい.

救急医療と看護・9

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はじめに

 救急疾患として来院する頻度の高い循環器系疾患は,初期の治療・処置の時期とその方法によって,患者の生命をすぐにでも奪ってしまうこともある.この重篤な疾患に対していかに対処すべきか,主な疾患を上げ,その看護のポイントを述べる.

目で見る移動・介助の実技・22

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 本症(ドゥシャン型)は2-4歳に発症し,病勢の推移とともに移動動作においても,独歩→介助・装具歩行→四つ這(ば)い→いざり→車椅子移動へと変遷し,行動動作の範囲も狭くなり制限されていく傾向が強い.本症の看護・介助にあたっては,長期間機能保持ができるように努力する必要がある.

 本症の移動動作と介助について,2回にわたり述べる.

切り取りカード 看護ミニ事典

基準看護/温灸 小島 ユキエ
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 ‘基準看護’の趣旨は,保険医療機関に入院した患者に対して‘症状に応じた適切な看護’が行われることを主眼としている.そのために一定の基準を定め,その基準に合致した看護を実施している保険医療機関に対して,入院料に一定額の加算をする仕組みになっている.これが社会保険診療における‘基準看護’である.

 したがって基準看護は,保健婦助産婦看護婦法が規定している看護業務,すなわち療養上の世話と診療の補助のうち,療養上の世話(臨床看護)に重点をおき,病院である保険医療機関において,直接看護職員が責任をもって療養上の世話をなし,積極的に入院患者の健康の回復をはかり,適切な看護を全うすることを目標としている.

切り取りカード 新しい薬の知識

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〔商品名〕点滴静注用ミノマイシン(レダリー・タケダ)Minomycin intravenous(for drip use)

〔薬効〕抗感染剤

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基本情報

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看護学雑誌
41巻12号 (1977年12月)
電子版ISSN:1345-2746 印刷版ISSN:0386-9830 医学書院

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