総合リハビリテーション 35巻11号 (2007年11月)

特集 上肢機能障害へのアプローチ

今月のハイライト
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 上肢機能障害は日常生活活動や社会生活にきわめて重大な影響を及ぼします.本特集では,さまざまな疾病や外傷による上肢機能障害の評価,ならびにリハビリテーションアプローチのポイントについてご解説いただきました.

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はじめに

 上肢機能を評価するための検査は,国内外で数多く使用されており,一般的なものから特定の疾患を対象とするものまで多岐にわたる.上肢は,物に手を伸ばす(reach),つまむ(pinch),つかむ(grasp),離す(release),運ぶ(move),定置する(position),押す(push)など多彩な働きをもつ.そのため,上肢機能評価には,あらゆる要素が関係し,その評価はさまざまである.

 上肢を障害像の観点からみると,麻痺や可動域といった「機能障害レベル」と,FIM(Functional Independence Measure)やBI(Barthel Index)の上肢動作に関連する項目で表されるADL(activities of daily living)障害,つまり「能力低下レベル」に二分できる.しかし,上肢の機能・役割は上記にとどまることなく多様であり,また課題を遂行するのに要する時間やパフォーマンスも評価する必要がある.

 生田ら1)は上肢機能検査を,①生産性をみるための検査〔簡易上肢機能検査(Simple Test for Evaluating Hand Function;STEF),手指機能指数テスト(Finger Function Quotient Test ;FQテスト)など〕と,②上肢の働きそのものをみる検査(関節可動域テスト,動作軌跡のコンピュータ処理など)とに分類している.また外里2)は,①一般的な上肢機能テスト(握力検査,Jebsen-Taylor Hand Function Test,Purdue Pegboard Test,Minnesota Rate of Manipulation Test;MRMT,O'Connor Finger Dexterity Testなど),②片麻痺を固有の対象にする検査(Brunnstrom Test,上田による片麻痺機能テスト,脳卒中上肢機能検査,Stroke Impairment Assessment Set;SIASの下位項目など),③職業能力としての上肢機能検査(厚労省の一般職業適性検査など),④作業動作の向上を目的としたもの(MODAPTS法など),⑤乳児の発達段階における上肢機能検査(運動発達年齢検査,遠城寺式乳幼児分析的発達検査法など)に分類している.このように,上肢機能はどの機能に焦点をあてるかによって,分類法や検査内容が大きく異なってくる.

脳卒中片麻痺 藤原 俊之
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はじめに

 脳卒中片麻痺患者において実用手を獲得するのは,リハビリテーション病院入院患者の約30~40%と言われている.実用性の獲得には麻痺肢における手指の分離運動の出現が必要であり,発症3か月以内のStroke Impairment Assessment Set(SIAS)のfinger function testが3点以上であれば実用手の獲得の可能性は高い1).ただし,分離運動まではいかなくとも,手指の集団伸展が可能となると,実際の生活において,補助手として使用できる場面が非常に増える.よって共同運動レベルの患者ではまず手指の伸展の獲得を,さらに伸展運動が可能な例では分離運動の獲得を目指すことにより,上肢の実用度を上げることができる.

 しかしながら,片麻痺患者ではいわゆる健側上肢が存在するため,大抵の場合は健側上肢による代償によりほとんどのADL(activities of daily living)を行うことが可能なため,入院期間の短縮や,能力低下へのアプローチ偏重により,利き手交換のみが行われ,麻痺側上肢機能障害へのアプローチが十分なされておらず,いわゆる学習された不使用「learned non-use」が作られているとの指摘がある2)

 近年,成人脳における可塑性の報告などの最新の神経学的知見に基づき,中枢神経障害による機能障害への治療が脚光を浴びつつある.とくに,脳卒中片麻痺患者の上肢機能障害への治療においてはconstraint induced movement therapy(CI療法),装具,神経筋電気刺激(neuromuscular electrical stimulation;NMES),反復経頭蓋磁気刺激(repetitive transcranial magnetic stimulation;rTMS),経頭蓋直流電気刺激(transcranial direct current stimulation;tDCS),robot therapyなどの治療法が開発され,多く報告されている.本稿ではこれらの新しい脳卒中片麻痺の上肢機能障害へのアプローチを中心に概説することとする.

頸髄損傷 池田 篤志 , 古澤 一成
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はじめに

 脊髄損傷においては,残存運動機能からみた獲得可能なactivities of daily living(ADL)が多くの成書に示されているが,実際にはそこに到達するのに難渋する症例が多い.当然のことながら,ADLには運動麻痺だけでなく多くの要素が関与しているためである.とくに,麻痺域が上肢にまで及ぶ頸髄損傷者では,感覚障害や疼痛,筋緊張異常,関節可動域(ROM)制限などの影響を受けやすい.頸髄損傷者において良好なアウトカムを得るには,複雑な上肢の障害について病態を正確に把握し,適切なゴール設定とリハビリテーションアプローチが必要となる.

 本稿では,頸髄損傷者の上肢機能障害に対する新しい評価の紹介,リハビリテーションを進めていくうえでの評価のポイントやリハビリテーションアプローチに対する注意点を中心に述べていく.

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はじめに

 関節リウマチ(以下,RA)は自己免疫疾患であるが,その原因は特定には至っていない.増悪緩解の経過を繰り返しながら進行する慢性進行性疾患である.

 慢性滑膜炎に伴う破壊性非化膿性関節炎を主病態とし,関節の破壊,変形,疼痛によりADL(activities of daily living)が著しく障害される.障害が上肢に認められると,食事,更衣,整容,トイレ動作,入浴などADLの大部分,さらには料理,掃除,洗濯などのIADL(instrumental activities of daily living)も制限されることとなる.RAは,とくに働き盛りの中高年女性,つまり家庭内でのIADL担当者に多く発症するため,障害が重度になると患者個人のみならず家庭の機能が障害される.家庭内のみならず,その社会的損失は計り知れない.その危機を回避するためには,疾患の管理を十分に行うことが重要である.

 有効なRAの治療・管理のためにはリハビリテーション医療,内科治療,外科治療が三位一体で行われる.患者の状態を正確に評価し,それに応じた治療を選択する.近年は種々の治療の進歩によって,従来のような重度の関節変形を呈する症例や寝たきりのRA患者は新規に発症しなくなった.それでも未だに多くの患者が苦しんでいるのも実情である.RAはわれわれリハビリテーション科医が,日常の診療業務で扱うことの比較的多い疾患である.根本的治療法のないRAにおいては,QOL(quality of life)向上といった観点からも,リハビリテーション科医は重要な役割を担っている1)

 本稿では,RAのリハビリテーションアプローチ,とくに上肢の機能障害へのアプローチについて述べる.

腕神経叢麻痺 田尻 康人
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腕神経叢麻痺とは

 上肢の運動を掌る神経は第5頸神経根から第1胸神経根までの5本の神経根からなり,互いに分枝し,合流して最後は個々の終末枝となる.この神経根から終末枝までの網目状の構造を腕神経叢といい,この部位で生じる麻痺を腕神経叢麻痺という.

 腕神経叢麻痺の原因は,外傷,腫瘍,放射線障害などさまざまである.圧倒的に多いのは外傷であり,外傷性腕神経叢損傷では,オートバイによる高エネルギー外傷が90%を占め,年齢的にも30歳までの若年者が多い.一方,器械への上肢巻き込みや,落下物による腕神経叢麻痺は労務災害の場合が多く,オートバイ事故に比べれば高年齢であることが多い1).腫瘍が原因となるものには,Pancoast腫瘍などの占拠性病変に加え,乳癌などの非腫瘤性浸潤がある.

巻頭言

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 今年7月に,高次脳機能障害研究の先輩であり,また,シンポジストとして意見を交わしたこともあるT教授が急逝されました.先生は認知症症候学の大家である一方,患者さんとご家族を中心とした「脳とこころの医学」を目指しておられました.予定されていた学会や研究会など,先生の脳の中で練られた思いは,お体のご病気のために突然失われてしまいました.しかし,疾病や損傷が生じた脳は,何らかの機能を失いながらも生き続けています.しかも,その脳自体が喪失感を抱いていることが少なくありません.例えばアルツハイマー病であれば,新しい記憶の蓄積が難しくなり,やがて,人生経験を含む判断力,知識,そして,日々の手続き的な記憶も失われていきます.しかし,その変容のなかで,脳は生き,感じ続けています.T先生は精神神経科をご専門とされていましたが,リハビリテーションに携わるわれわれこそ,生き続ける脳を理解し,また,支援することを責務としなけければならないと思います.

講座 体力・4

体力トレーニング 宮崎 義憲
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はじめに

 日本人の日常生活が電気化,機械化されるに伴って身体活動の必要性が減少し,その結果として運動不足に伴う体力水準の低下が問題となっている.最近,運動不足は生活習慣病の重要な要因の一つとして捉えられ,その予防と健康増進のための体力づくりの重要性が社会的にも認識されつつある.

 しかし,実際に生活習慣病を予防し,健康増進のための体力づくりを心掛けようとしても,どのような体力を,どのようにしてトレーニングすれば,その効果が得られるのかについての知識は必ずしも十分とは言えないようである.そこで,本稿では中高年者の健康増進に役立つ体力づくりのためのトレーニング法について記述する.

講座 障害者の権利条約・2

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はじめに

 国際障害者年(1981)のテーマである「完全参加と平等」を実現するために,1982年に国連総会で採択されたのが,障害者に関する世界行動計画(以下,行動計画)1)である.行動計画において,リハビリテーションは,障害予防,機会均等化とともに大きな柱とされた.

 その後,1983年から1992年までの国連障害者の十年の成果として,1993年に障害者の機会均等化に関する基準規則(以下,基準規則)2)が採択された.その名のとおり,障害者の機会均等化を目指すこの国際文書において,リハビリテーションは機会均等化の前提条件の一つとして位置づけられた.

 これらの国際文書は法的拘束力を有するものではなかったが,法的拘束力をもった国際文書として,2006年12月に障害者権利条約3)が採択された(未発効,日本は署名済・未批准).この条約は,その26条として,「ハビリテーションとリハビリテーション」と題する独立した条文を定めた.

 以下においては,まず,時系列的に,1970年代末までの国際諸文書における代表的なリハビリテーションの定義を紹介した後,行動計画と基準規則におけるリハビリテーションの定義が障害者の「自己決定」の視点を含んでいることを指摘する.次に,障害者権利条約における「自立」と「自律」をめぐる解釈の可能性を検討し,それとの関連で本条約26条の意義を探ることにする.

実践講座 疼痛治療とリハビリテーション・3

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はじめに

 慢性疼痛患者は,半年以上にわたり痛みで日常生活が制限ないし障害されているので,気分障害や不安障害など精神症状を合併していることが多い.そのため,治療では身体面だけでなく,心理面からのアプローチも必要である.身体的には,神経ブロック療法や電気刺激療法,手術療法,レーザー療法,リハビリテーションがあり,心身医学的には認知行動療法や自律訓練法,絶食療法などがある.チーム医療のもとで,これらの技法を組み合わせることにより治療成績は向上するが,それでも改善がみられない難治例がある.これらの症例は,解決困難な慢性ストレスを抱え,心理的に怒りを抑圧していることが多い1)

 ここでは,従来の治療に抵抗する難治例に対して新しい試みとして和温療法2)を併用し,良好な結果が得られたので報告する3)

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要旨:〔目的〕高齢者における転倒は社会問題となっており,有用な転倒予防トレーニングが求められている.近年,加齢によって二重課題(dual-task)下での歩行や立位保持などのパフォーマンスが低下することが注目されており,このことが転倒と関係している可能性も示唆されている.本研究では,dual-task下でのバランス訓練を考案し,その有用性を検討した.〔対象〕20名の高齢者(61.4±8.1歳)とした.〔方法〕バランス訓練装置上で認知課題を解くというdual-task下での訓練を2週間実施した.効果判定のための指標には,歩行時体幹動揺(体幹加速度;RMS)を用い,自由歩行RMSとdual-task歩行RMS,および自由歩行RMSからdual-task歩行RMSへの増加率を求めた.〔結果〕1週間の訓練後,2週間の訓練後とRMS増加率は有意に減少し,dual-task下での訓練によって,dual-task歩行は安定する傾向にあった.〔結語〕dual-task訓練は比較的短期間で効果を示すことが示唆され,今後は易転倒傾向にある高齢者を対象に介入研究を行い,転倒予防の新たなパラダイムを形成していきたい.

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要旨:〔目的〕脳卒中などに対するリハビリテーション効果規定要因を基礎研究で特定するために,ラットに適用できる新しい前肢麻痺評価法(Nanakuri Forepaw stage;NAF stage)をBrunnstrom stageと関連づけて作成した.〔対象・方法〕Longaらの方法に準じて中大脳動脈閉塞後再灌流を行うことでSD系雄性ラット24匹に片麻痺を作成し,虚血後24~96時間後にNAF stageを評価した.対照群12匹には中大脳動脈を閉塞しない偽手術を実施した.脳組織はTTC染色を行い梗塞巣の体積を算出し,NAF stageとの関連を検討した.〔結果〕NAF stageと梗塞巣の体積との相関係数は-0.87であった.〔結語〕本研究において,NAF stageの妥当性が高いことが示唆された.NAF stageは口頭命令を聞き分けないラットにおいても麻痺程度を確認可能であり今後の評価方法として有用と考えられた.

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要旨:〔目的〕週7日リハビリテーション(seven days/wk rehabilitation;Sdwr)が大腿骨近位部骨折の治療成績に与える影響について,術後歩行能力の推移から検討した.〔対象〕受傷前に屋外歩行が自立しており,術後早期荷重歩行を開始でき,退院時にT字杖歩行自立となった33例である.〔方法〕Sdwr導入前後でクリティカルパス遂行例の割合,手術から平行棒内起立・歩行開始,歩行器・T字杖歩行自立,自宅退院までの日数について比較した.〔結果〕Sdwr導入後,クリティカルパス遂行割合が有意に増加し,平行棒内起立・歩行開始までの日数も有意に短縮した.Sdwr導入後,T字杖歩行自立までの日数が有意に短縮したが,導入前後で手術から自宅退院までの日数に有意な変化はなかった.〔結語〕Sdwrは早期離床・荷重歩行の獲得には有効であったが,自宅退院の短縮には,自宅環境整備や術後疼痛の解明などを図る必要があると考えられた.

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要旨:〔目的〕本研究では,徒手によって拮抗可能な膝伸展力について調査した.〔方法〕対象は健常成人36名(男性14名,女性22名,年齢21.5±1.1歳)である.大腿四頭筋訓練器を用いて,重錘量によって膝伸展力を調節できる膝伸展運動モデルを考案し,固定可能な最大重量を求めた.〔結果〕最大固定重量は男性27.6±3.9kg,女性19.0±4.1kgであった.女性の固定力は70歳代健常高齢者の平均膝伸展筋力を下回った.最大固定重量と体重,握力,膝伸展筋力の間には,それぞれr=0.68,0.79,0.80の有意な正相関を認めた(p<0.01).〔結語〕徒手固定力はこれまで考えられていたよりも低く,体格の小さな検者では固定性に配慮した筋力測定機器を用いることが必須である.

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はじめに

 情報化社会の新しいコミュニケーション手段としてテレビ電話が登場してきた.テレビ電話は声だけでなく表情や身振り,文字などの視覚情報を伝えられるため,難聴を抱えた高齢者にとって有効なコミュニケーション手段となり得る.

 医療・福祉の分野ではテレビ電話を使った在宅ケア支援(テレケア)が始められている1,2).吉山ら2)は,高齢者の在宅ケアにテレビ電話を導入した.その結果,相互コミュニケーションが活発になり,患者の不安や孤独感が軽減されたことを報告している.在宅ケアを受けている高齢者に限らず,健常高齢者でも不安や孤独感を抱く人は少なくない.少子高齢化が進むわが国において多くの高齢者に安心と連帯感を提供するために,テレビ電話のような新しいコミュニケーション手段は大いに活用されるべきである.しかし,医療・福祉におけるテレビ電話の導入は一部の地域に限られており1,2),通話対象も家族と知人,医療スタッフと患者という組み合わせが多い2,3).テレビ電話によって高齢者の人間関係を広げていく試みはほとんど行われていない.

 そこで本研究は,テレビ電話によって高齢者と若者との交流の機会をつくることを目的とした.健常高齢者と初対面の若者との間でテレビ電話を介した集団レクリエーションを実施したので,その結果を報告する.テレビ電話は表情や身振り手振りなどの「映像」によって感情をいきいきと伝えられることが報告されている1).本研究においても異なる会場にいる参加者達のコミュニケーションを促進する可能性が高い.テレビ電話の利用は高齢者と異なる世代の人々との交流を容易にし,社会的人間関係を広げるきっかけとなるかもしれない.

連載 この分野を知る糸口

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 座位保持装置は,1989年に身体障害者福祉法で支給が開始され,座位姿勢保持の向上に対して処方され,移動時にも車いすに座位保持機能を搭載することにより適切な姿勢を保つことが可能となる.

 車いすは,移動能力の低下した小児に対して屋内外での移動能力の向上を目的として処方される.小児では,身体障害者福祉法の給付制度に基づいて,個々に適合したものが作製される.

連載 地域リハビリテーションのモデル

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 本稿では,ハードとしてのリハビリテーション医療拠点をもたない熊本県において,地域リハビリテーションとしてどのような取り組みがなされ,現在,どのような課題を抱えているのかについて述べる.

Sweet Spot 文学に見るリハビリテーション

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 『ハムレット』(福田恆存訳,新潮社)では,2人の人物が周囲から狂人扱いされている.父親殺しの復讐のために狂気を装うハムレットと,やはり父親を殺された後に発狂するオフィーリアであるが,そこには,善良な狂人と邪悪な健常者という対立の構図を認めることができる.

 まずハムレットであるが,彼については「気高い御気性」の持ち主として,人並み優れた資質が次のように賞賛されている.「王子様にふさわしい秀でた眉,学者もおよばぬ深い御教養,武人も恐れをなす鮮かな剣のさばき.この国の運命をにない,一国の精華とあがめられ,流行の鑑,礼儀の手本,あらゆる人の讃美の的だった」.ハムレットのことは,敵役である国王のクローディアスでさえ,「動きやすい国民のあいだに人気がある」,「あれは民衆に愛されているのだ」と,その国民的な人気を認めている.また,もう一人の狂人であるオフィーリアも,兄から「五月の薔薇」,「いつの世にも恥じぬ美徳の持主.一点,非の打ちどころのない女でございました」と言われ,王妃からもいずれはハムレットの妻になったであろうと評価されている.

Sweet Spot 映画に見るリハビリテーション

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 「情痴 アヴァンチュール」(監督/グザヴィエ・ジャノリ)というタイトルを見れば,ポルノ性を売りにしたものではないかと思うのは当然のことであり,したがってポルノ嫌いの人たちは端から避けるであろう.しかし,その実体はエロチック・サスペンスであり,夢遊病あるいは解離性障害を扱った障害者ものである.

 嫌いじゃないジャンルだ.謎めいた美女.ただならぬ気配.接近したら火傷を負う.わかっていながら接近する男.そんな男のどうしょうもなさを描くのがエロチック・サスペンスだ.障害・病気が心の闇を形成し,その闇の部分が磁場となって人を引き寄せる.

学会印象記

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 私自身,地球温暖化の言葉に慣らされたと思ってはいないが,6月上旬の蒸し暑さにも驚きや不満が薄くなった自分を感じつつ,久しぶりの神戸の地で,学術集会を満喫できた.

 第44回日本リハビリテーション医学会学術集会は,住田幹男先生(関西労災病院リハビリテーション診療科)の会長remarksで幕が開き,本学術集会の主題「実学としてのリハビリテーションの継承と発展」に加えて,副題「トラウマとリハビリテーション」が掲げられた.労働災害におけるリハビリテーション医療の特徴ある活動は,まさに実学であり,日本の医療に果たした役割の大きさを感じ取れる講演であった.実学の話題は福沢諭吉に及んだが,座長の江藤文夫先生は,これに意見がある様子であった.どこかでお二人の討論が聞けないものかと,個人的には期待を抱いている.

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 第30回日本顔面神経研究会学術集会が2007年5月30日(水)~6月1日(金),名古屋市立大学耳鼻咽喉科教室の村山信五教授の会長のもと名古屋市立大学病院大ホールで開催された.本学会は,1本の脳神経を対象として耳鼻咽喉科,形成外科,脳神経外科,神経内科,麻酔科,リハビリテーション科など複数の臨床家と解剖学,生理学などの基礎医学研究者が一同に集い,討論するという特徴がある.

 研究会は通常2日間であるが,第30回という節目の記念集会であることから,今回は前日も使って徹底的に外科的および形成外科的治療について討論を行った.第1日目の手術手技セミナーでは,柳原尚明先生(愛媛大学耳鼻咽喉科名誉教授)は「側頭骨内顔面神経減荷術の意義」で,ヘルペス性顔面神経炎に対して顔面神経管を手術的に開放し,さらに神経鞘を切開し圧迫から開放することが合理的な治療法であることを強調した.手術の適応,手術時期,減荷の範囲,手術手技について研究の余地を残している.欧州で受け入れられているが,米国ではあまり受け入れられていない.したがって,ヘルペス顔面神経炎に対する減荷術に関する論文はほとんど受理されないという.

リハビリテーション関連Q & A

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Q:身体障害者等級表について,とくに肢体不自由の脳原性障害は他の障害者と格差が大きく混乱を招いています.今後見直しは行われるのでしょうか?

(静岡市・M) A:障害者自立支援法が施行され,身障手帳等級とは別に,新たに設けられた「障害程度区分」によって介護給付などのサービス枠が決められることになり,障害者本人へのサービスはそのなかで必要なものが給付されることになりました.これにより等級程度によるサービスの違いは,1・2級を対象としたJR利用のサービスや,地方自治体によって行われている医療費自己負担分の代替などに限られることになりました.

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1.健常者における体力測定結果を踏まえた自転車動作の実際

湘南東部総合病院リハビリテーション科

松栄 亮介・田中  博・今井 一郎

原 久美子・有馬 和美・福室 智美

 前回の脳卒中患者の自転車動作の観察では走行時のふらつきやブレーキの遅れ,曲がる軌跡がふくらむ傾向があった.そこで今回は症例数を増やし,高齢者や脳卒中患者と比較するため,健常者の自転車乗車動作と新体力測定を実施した.対象は,当病院スタッフで週1回以上自転車を利用している健常者17名,20~50歳代とした.内容は,自転車では走る・止まる・曲がる,新体力測定では握力・上体起こし・長座体前屈・開眼片脚立ち・10m障害物歩行・6分間歩行とした.自転車乗車動作と体力測定では大きな問題はなかったが,40~50歳代では自転車動作の直線でわずかな左右の動揺がみられ,体力測定の開眼片脚立ちでは120秒できない人がいた.今後は高齢者と脳卒中患者について検証していきたい.

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高次脳機能障害と異なる発達性障害を理解するために

 本書の書評の依頼を受けていささか困惑した.私にとっては専門外の領域の物事を扱った書物であり,しかもタイトルから察するに,大変難解な内容であるような感じがしたからである.しかし,いざ本を手にして中を読み出すと,各章や,それを構成している各項の概要がそれぞれの冒頭に示されており,これを頼りにして読み進むと,意外に読みやすいことに気づいて,まずは安心した.

 私自身は,これまで成人における失語,失読,失書といったような,一旦獲得した機能が脳病変によって失われたことに基づくさまざまな障害に接し,それらの障害をヒトの大脳における機能局在の原則に従って理解しようと試みる研究に従事してきた.そのような方法論を扱いなれた視点から眺めていると,本書で扱われているような発達性障害の病態を理解することはきわめて困難である.このことを自分自身で強く感じたのは,今からもう十数年前になろうか,本書でも取り上げられているWilliams症候群の患者に初めて出会った時であった.この特異な症候群の患者に図形の模写をしてもらった時,私はそれまで幾度となく経験してきた成人における視覚構成障害とは,根本的に違う何かを感じたのである.自分がそれまで金科玉条として信じていた大脳機能局在論では理解しがたい,何か不可思議なことが起こっているということに気づいたのである.その時が,私にとっての発達性高次脳機能障害への開眼元年であった.

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文献抄録

編集後記 鹿
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 赤福餅よ,比内鶏よ,お前もか.企業の拝金・利益最優先主義はここに極まり,伝統とか信頼など古きよきものを蹴散らし,吹き飛ばしながら,どこへ行こうとしている? 企業にモラルは求めないが,少なくとも法令順守だけはお願いしたい.競争から共生へ.その共生のありようを考えさせる「第30回総合リハビリテーション研究大会」が先月,東京で開催された.30年を節目に「総合リハ」の今までを振り返り,今後を展望するという内容で,「総合」,「連携」をめぐる議論が活発だった.リハではしばしば,障害当事者を中心に据え,多領域の障害の専門家がその周りを囲んで「当事者の自己決定権を専門性で支援する」という図式がでてくる.一面,これは正しい図式なのだろうが,他方,周りを囲む人たちも相互作用のなかで自己変革を求められ,そのこと自体同等に重要な意味をもつ.おりしも政府は「障害者の権利条約」に署名し,今後は批准に向けてさまざまな準備がなされていくが,その過程のなかで共生の中味が問われ,個人や社会の成熟度が問われる.

基本情報

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総合リハビリテーション
35巻11号 (2007年11月)
電子版ISSN:1882-1340 印刷版ISSN:0386-9822 医学書院

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