医薬ジャーナル 55巻3号 (2019年3月)

特集 バイオシミラーの現状と今後の展望

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 バイオシミラーは,国内で既に承認されているバイオ医薬品と同等/同質の品質,安全性,有効性を有する医薬品として,異なる製造販売業者により開発される医薬品である。わが国のガイドラインなどではバイオ後続品の用語を用いているが,最近ではバイオシミラーが一般的となっている。バイオ医薬品は,それぞれの疾病に関する生化学的な研究成果を元に,深い理解に基づいて開発され,疾病の特異的な要因を標的とするために著しい治療効果をもたらし,従来の低分子医薬品では治療困難な疾病にも優れた治療効果を示すことができる。  他方,バイオ医薬品の薬価は高額であるため,保険財政を大きく圧迫していくことが懸念されている。有用な医薬品をより安価に患者に届けることができるバイオシミラーは,今後の医療の場に不可欠なものとして,医療者や患者に正しい理解を広めることが望まれている。

2.バイオシミラーとは 武藤正樹
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 バイオシミラーとは,先行バイオ医薬品の特許が切れた後に先行バイオ医薬品と同等/同質の品質,安全性,有効性を有する医薬品のことである。  現在,日本で上市しているバイオシミラーは,ソマトロピン,エポエチンアルファ,フィルグラスチム,インフリキシマブ,インスリングラルギン,リツキシマブ,トラスツズマブ,エタネルセプトの8成分である。その普及率は成分によってまちまちだ。普及の進まない理由は,高額療養費制度と公費負担制度により,患者側からバイオシミラーへの切り替えの動機が働かないからである。そこで今回,今後のバイオシミラーの普及施策について考えた。

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 バイオシミラーの開発では,先行品と同じ製品品質プロファイルを目標に,重要品質特性の特定が行われ,臨床試験結果も踏まえて品質管理戦略が構築される。その過程では,step-by-stepアプローチと言われるように,広範な品質特性解析と先行品との品質比較試験の結果が基盤となり,先行品との品質特性の高い類似性を確認した上で,必要と考えられる臨床試験が行われる。最終的には,品質特性の差異が臨床的に意味のあるものではなく,先行品と有効性・安全性に差がないことを臨床試験の結果に基づいて示す必要があるが,品質の類似性に関する評価は,バイオシミラー開発における重要事項である。本稿では,バイオシミラーの品質評価・管理の考え方と日米欧の規制文書について概説した上で,最近のトピックとして,品質特性の比較に用いる統計手法に関する欧米の動向を紹介する。

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 本邦でこれまでに承認されたバイオ後続品(バイオシミラー)は16製品(有効成分ベース)であり,今後も,先行バイオ医薬品の特許期間・再審査期間の満了に伴い,開発が進むものと考えられる。バイオ医薬品は化学合成医薬品と比較して複雑な分子構造をとるため,バイオ後続品の開発では後発医薬品と異なるアプローチが必要となる。本稿では,ハーセプチンを先行バイオ医薬品とするバイオ後続品として最近承認された3品目を例にあげ,承認申請時に提出されたデータやそれを踏まえて,審査ではどう判断されたのかを概説する。また,平成30年(2018年)6月にICHガイドラインE17が通知され,地域または属性別集団を併合する戦略が示された。バイオ後続品の開発において国際共同治験が実施された場合に,この考え方をどの程度取り入れることができるかは,今後,議論されるべき課題であろう。

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 近年,バイオ医薬品はさまざまな領域で使われている。関節リウマチ治療の目標は,単に症状を改善することから,関節破壊やそれに続く身体障害の進行を抑制することに変わったが,その実現にはバイオ医薬品が大きく貢献してきた。しかし,一方でバイオ医薬品の高薬価による患者負担は極めて大きい。最近になって,先行バイオ医薬品の特許切れに伴い,わが国でも複数のバイオシミラーが承認され,患者負担の軽減が期待されている。ただ,現状では国産のバイオシミラーはなく,将来,多くの製剤が競合する場合などには安定供給や品質管理などの点での懸念も残る。国策として国産バイオシミラー開発を推進することが望まれる。

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 バイオシミラー(バイオ後続品)は,医療費の削減に大きく貢献する。しかし,その同質性/同等性や外挿の概念に対する医療現場の理解不足や,高額療養費制度による患者負担軽減の弊害が,使用促進のブレーキとなっている。近年,さまざまな臨床試験結果の発表や学会からの声明の発出が,バイオシミラーの普及の第一歩となっている。さらに,最先端技術を応用した付加価値のあるバイオシミラーの誕生が期待されている。バイオシミラーを積極的に選択することが,患者にとっても,医療費の面でも大変有益なものとなる。本稿では,バイオシミラーの普及に向けて,薬剤師の視点から見た現状と課題,展望について概説する。

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 バイオシミラーの普及率に関しては,販売量などの統計データを元に報告されていることが多く,一般的に高額の費用を伴わず詳細な実態を手に取ることは困難である。そこで,厚生労働省のホームページで公表されている,レセプト情報・特定健診等情報データベース(NDB:National Database of Health Insurance Claims and Specific Health Checkups of Japan)のオープンデータを用いて,普及状況の実態把握を試み,その可能性とさらなる活用に向けた可能性を探ってみた。NDBオープンデータは,基礎的な集計表を一定の制約の下に公開したもので,データの数がある程度得られる製剤の場合には,売上数量から得られている市場占有率と同程度の値が得られ,オープンデータの情報公開の状況を考慮した上で,継続して得られるデータとして活用が可能であると思われた。

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 バイオシミラーは,新薬として開発された先行品の特許が切れた後に(あるいは,その特許技術を回避して)市場に参入する点は,ジェネリック薬と同じである。しかし一般に,両者の性状や製造方法,開発プロセスは大きく異なるため,特許等で問題になるポイントにはバイオシミラー特有のものがある。本稿では,新薬市場独占期間を与える制度に関し,バイオ医薬品と低分子医薬品に共通する取り扱いを述べた上で,最近のバイオシミラーに関する特許係争を紹介するとともに,わが国のバイオシミラーにおける特許の課題について概説する。

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 バイオ後続品(バイオシミラー)は,先行バイオ医薬品との品質,安全性,有効性の同等性/同質性を示すデータ等に基づき開発される。バイオシミラーの薬価は先行バイオ医薬品の70%を基本として設定されるため,患者の経済的負担や社会保障費増大の問題を解決するものとして期待されている。日本では2009年に最初のバイオシミラーが承認され,現在までに企業の開発経験,規制当局の審査経験ならびに医療現場の使用経験が蓄積されてきた。しかしながら,欧米と比較してバイオシミラーに関わるステークホルダー間の対話が不十分なため,バイオシミラーに対する正しい理解や,バイオシミラーの開発の効率化に関する議論が十分に進んできたとは言えない。今後は幅広いステークホルダー間の対話を通じてさまざまな課題が解決され,国民がさらにバイオシミラーのベネフィットを享受することを期待したい。

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 炎症性腸疾患の治療において複数の生物学的製剤が使用できるようになり,その治療戦略は激変した。早期の寛解導入と長期間の寛解維持が可能となり,患者のQOL(quality of life)も目覚ましく向上した。民間レセプトデータベースの解析から明らかになった,炎症性腸疾患領域における生物学的製剤が及ぼす医療経済負担を報告する。推計された1人当たりの年間医療費の中央値は,クローン病では1,957,320円,潰瘍性大腸炎では278,760円であった。また,抗TNF(腫瘍壊死因子)-α抗体製剤の使用率はクローン病では55.2%(776人/1,405人),潰瘍性大腸炎では7.5%(433人/5,771人)であった。クローン病に対して生物学的製剤の治療が積極的に行われており,3年間の外来レセプト請求額のうち抗TNF-α抗体製剤の薬剤費がおよそ8割の金額を占めていた。今後は先行品を安価なバイオシミラーへ置き換えることで,医療費を抑制できる見込みの高いことが示唆された。

グラフィック 連載 感染症診断と病理(21)

胃・十二指腸生検にみつかる病原体(2)

グラフィック
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本稿では,主として十二指腸に感染する病原体を紹介する。いずれも頻度は高くない。その分,病理医にとって適切に病理診断することのハードルが低いとはいえない。何か変だと感じて,特殊な感染症の可能性を考えられるかどうかが病理診断のキーポイントであるといっても過言ではないだろう。巻頭図に,感染症との鑑別が求められる熱帯性スプルーの十二指腸生検所見を示す。

医薬ジャーナル論壇 自らの歴史に見る薬剤師の変遷と平成の時代とは

医薬ジャーナル論壇 佐藤博
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 「停滞」が根付く平成時代にあって,薬剤師は飛躍を遂げた稀有な職種である。一介の街薬局の親爺風情が,医薬分業やドラッグストアを梃に,長者番付入りするジャパニーズドリームを体現した。一方,医薬分業の余波で一度は地獄を見た病院薬剤師も,苦渋の研鑽により,「失われなかった20年」を経て,近年,医療におけるステイタスの向上は著しい。問題を先送りして得た一時的な平和のツケを支払うのは,後世であるのは世の常,歴史の摂理であろう。次の元号の時代においても,飛躍し続けるか否かは,今を生きる薬剤師一人ひとりの矜持と覚悟にかかっている。

メディカルトレンド 学会・ニュース・トピックス

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 今年で14回目となる「彩都産学官連携フォーラム2019」が,1月23日,千里ライフサイエンスセンター(大阪府豊中市)で開催された。本フォーラムは,大阪府による創薬支援の一環として彩都産学官連携事業実行委員会が主催するもので,国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所や,彩都に拠点を置くベンチャー企業による創薬研究の状況が紹介された。ここでは,ライフサイエンス産業にイノベーションを起こすと期待されているリアルワールドデータの活用について,産学官の立場から討議されたシンポジウムを取り上げる。

メディカルトレンド・姉妹誌から

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MONTHLY PRESS

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連載・臨床薬学のための病態生理(12) 各論 各種病態と薬物療法のターゲット

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 「うつ状態」と呼ばれる,気分が低下した状態が続く病気をうつ病という。双極性障害は,「躁状態」と呼ばれる気分が高ぶった時と,「うつ状態」と呼ばれる気分が低下した時が,交代して起こる病気である。双極性障害を分類する際,躁状態がある場合を双極Ⅰ型,躁状態はなく軽躁状態までの場合を双極Ⅱ型と分けている。双極性障害自体が,躁状態か,うつ状態のどちらで始まるかの割合は,およそ半々である。この病気が発症する年齢は30歳くらいが平均的だが,中学生から高齢者までさまざまな年齢で発症する1)。現代の医学において,双極性障害を含めた精神科疾患の診断は,症状から診断する操作的診断が主流で,双極性障害の病態メカニズムについてはさまざまな仮説が唱えられ研究されている。治療は薬物療法が中心だが,病態が不明なため治療メカニズムも不明なところが多い。

連載・臨床薬学のための病態生理(13) 各論 各種病態と薬物療法のターゲット

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・統合失調症は比較的頻度の高い慢性の精神障害である。 ・統合失調症の病因は不明であり,有用な生物学的マーカーがないため,診断は臨床症状に基づく操作的基準によって行われる。 ・病態仮説として“ドパミン仮説”が有力であり,薬物療法の主なターゲットは陽性症状である。ドパミンD2受容体をはじめとしたモノアミン受容体の機能調節が作用メカニズムである。 ・現時点では,統合失調症を対象とした特異的な画像検査,生理機能検査や臨床検査は存在しない。

連載・臨床薬学のための病態生理(14) 各論 各種病態と薬物療法のターゲット

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・骨粗鬆症は『骨強度(70%が骨密度,30%が骨質で説明)の低下を特徴とし,骨折のリスクが増大しやすくなる骨格疾患』と定義されている。 ・本邦における骨粗鬆症の約90%は,退行期骨粗鬆症(閉経後骨粗鬆症と老人性骨粗鬆症)によるものである。 ・超高齢社会を迎えた本邦の骨粗鬆症患者数は,およそ1,280万人(男性300万人,女性980万人)存在するものと推定されている。 ・骨粗鬆症は骨密度と脆弱骨折の有無により診断されるが,治療方針の決定や治療効果の判定には,骨代謝マーカーが有用である。 ・骨粗鬆症治療薬には,大きく分けて骨吸収抑制薬と骨形成促進薬がある。 ・骨代謝マーカーの値により骨粗鬆症治療薬を使い分け,まずは骨代謝マーカー値を正常値に近づけることをターゲットに治療することで,その後の骨密度の改善が見込まれる。

連載・臨床薬学のための病態生理(15) 各論 各種病態と薬物療法のターゲット

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 変形性関節症(OA)は,いずれの関節でも起こり得るが,特に膝および脊椎に多く見られる。正常な膝関節では骨の表面を軟骨が覆っており,関節運動に際しては軟骨の表面同士が滑らかに擦れ合う。変形性膝関節症では関節軟骨が摩耗し,軟骨が消失して軟骨の下にある骨(軟骨下骨)が露出する。軟骨が摩耗すると,関節運動の滑らかさが失われるだけでなく,クッションの役目もなくなり,痛みやADL(activities of daily living)障害が生じやすくなる。腰椎では,椎間板が変性し,骨棘ができることにより,腰部脊柱管狭窄症を引き起こす。一方,股関節や足関節,肩関節ではOAの有病率は極めて低い。OAとその主要な症状である痛みとは,必ずしも強い相関があるとは言えないことは注意すべきポイントである1)~3)。軟骨変性や骨棘を改善する有効な治療法はなく,治療の主なターゲットは痛みを和らげることにある。

連載 患者のQOL向上と薬剤師の関わり PARTⅠ.院内製剤(94)

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 吃逆(しゃっくり)は横隔膜の不随意のけいれん性収縮によって生じ,吸気が閉鎖している声門を急激に通過するために特有の音が発生する。通常反復して発生するが,一過性のことが多い。しかし長時間持続し,食物摂取困難,不眠,精神的疲労をきたすこともあるため,その治療法を十分に知っておく必要があると言われている。薬物治療においては,クロルプロマジンを除き適応外使用であるため,エビデンスに乏しい。独立行政法人国立病院機構姫路医療センターでは,吃逆の治療薬として院内製剤の柿蔕(シテイ)の煎じ薬が使用されている。我々は薬剤師として,とりわけがん化学療法中の患者に使われる事例を多く経験したので,それらの事例解析をとおして,柿蔕の位置づけを考察した。

連載・副作用・薬物相互作用トレンドチェック

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1.観察研究のメタアナリシスによると,高齢者ではベンゾジアゼピン系薬の使用,特に長期使用において,認知症のリスクが高かった。 2.台湾の医療情報データベースを用いた症例対照研究によると,統合失調症患者ではベンゾジアゼピン系薬,特にミダゾラム,ジアゼパム,ロラゼパムと肺炎リスクとの関連が認められた。 3.米国の医療情報データベースを用いたコホート研究によると,リバーロキサバン>ダビガトラン≒ワルファリン>アピキサバンの順で上部消化管出血による入院が多く,その入院はPPI(プロトンポンプ阻害薬)併用で減少した。 4.健康成人を対象とした試験によると,カルバマゼピンの併用により,フィンゴリモドおよび活性代謝物であるリン酸化体の血中濃度が低下した。 5.アイルランドの診療録データを用いた調査によると,高齢患者の約半数に潜在的に不適切な処方があり,入院前と比較して,退院後には潜在的に不適切な処方が増加していた。 6.抗てんかん薬と抗菌薬の相互作用に関する系統的レビューおよびメタアナリシスによると,マクロライド系の併用でカルバマゼピンの血中濃度は上昇し,さまざまな有害事象が発現していた。また,カルバペネム系の併用でバルプロ酸の血中濃度は低下し,発作コントロールが不十分となっていた。

連載・医薬品情報(DI)室より 注目の新薬情報〈38〉 一般名:グセルクマブ(遺伝子組換え)

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 「トレムフィア®皮下注100mgシリンジ(グセルクマブ)」(以下,本剤)は,ヒトインターロイキン(IL)-23のp19サブユニットタンパク質と特異的に結合するヒト型免疫グロブリンG1λ(IgG1λ)モノクロナール抗体である。IL-23はT細胞およびナチュラルキラー(Natural Killer:NK)細胞表面に発現する受容体に結合することで細胞の活性を誘導するが,本剤はIL-23受容体へのIL-23の結合を阻害し,細胞内シグナル伝達並びにそれに続く活性化およびサイトカイン産生を抑制することで効果を示す。本剤は既存治療で効果不十分な尋常性乾癬,関節症性乾癬,膿疱性乾癬,乾癬性紅皮症,掌蹠膿疱に適応を有する薬剤であり,2018年11月に生物学的製剤で国内初の掌蹠膿疱症治療薬として適応追加承認を取得した。

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4月号特集内容予告

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基本情報

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医薬ジャーナル
55巻3号 (2019年3月)
電子版ISSN: 印刷版ISSN:0287-4741 医薬ジャーナル社

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