医薬ジャーナル 55巻1号 (2019年1月)

糖尿病とがん

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わが国では,糖尿病治療の進歩による血管合併症発症率の減少や患者の高齢化に伴い,糖尿病患者の予後に大きな影響を与える疾患としてがんの位置づけが増している。糖尿病は,がんのリスクを増大させることも知られており,また糖尿病が存在するとがんの治療にも悪影響を及ぼす。糖尿病は長期にわたって薬物療法が必要となる疾患であり,治療薬ががんに及ぼす影響も重要であるが,まだ未知の部分が多い。今後,糖尿病患者の健康寿命延伸のためには,がんの発症予防や担がん糖尿病患者のがん治療・糖尿病治療の向上が必要である。このようないくつかの観点について,最新の情報を提供するべく,本特集を企画した。

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糖尿病といくつかのがんとの関連が示唆されている。本稿では,世界およびわが国における糖尿病とがんとの関連,糖尿病の保有率,さらに,がんの要因としての糖尿病の寄与について,最近の疫学的エビデンスを紹介する。糖尿病といくつかのがんとの関連は明らかであるが,そのメカニズムの解明には至っていない。糖尿病とがんとの関連が,肥満や運動不足など他の要因による見せかけのものなのか,独立してがんのリスクを増加させるメカニズムを持ち合わせているのかの疑問に答えるような,更なる研究が待たれるところである。

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近年,糖尿病とがんの関連が明らかになってきている。そのメカニズムとして,糖尿病に特徴的な病態であるインスリン抵抗性と,それに伴う高インスリン血症の関与があげられる。高インスリン血症により,インスリン受容体の下流のいくつかの経路が活性化され発がんを誘導するほか,インスリン様増殖因子-Ⅰ(IGF-Ⅰ)シグナルやエストロゲンなどの性ホルモンを介した機序も想定されている。また,高血糖による酸化ストレスの亢進や,肥満や糖尿病で見られる慢性炎症,低アディポネクチン血症などもがんの発生や進展に寄与する可能性が考えられている。

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糖尿病を有する人は有さない人に比べて,肝臓がん,膵臓がん,大腸がんなどのがん罹患リスクが上昇することが報告されている。メカニズムの一つとして,高血糖そのものが発がんに関与することが想定されている。仮に,高血糖ががんリスクを高めているとすると,糖尿病患者における血糖コントロールによりがんリスクが低減できるかもしれない。しかし,現時点では,血糖コントロールががんリスクを低減させるか否かを判断するための十分なエビデンスは存在せず,今後,綿密に計画された研究により,その関係が明らかにされることが期待される。

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インスリンは,インスリン様成長因子(IGF)と同様に,細胞増殖作用を持つ。2004年の後ろ向きコホート研究で,インスリン治療を受けている2型糖尿病患者の結腸直腸がんの発症リスクは有意に高く,また年数が長いほどリスクは上昇していた。2009年には,欧州糖尿病学会誌Diabetologiaに4本の論文が同時掲載され,インスリングラルギン長期使用時の発がん性の懸念が大きく注目された。現在もインスリン製剤とがんの関連性に結論は出ておらず,継続的に検討が行われている。2016年のグラルギンに関する系統的レビューでは,観察期間の短さや時間関連バイアスなど,方法論的な限界が指摘されると同時に,特に乳がんリスクについては不確実さが残るとしている。

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インクレチン関連薬による治療は,膵癌,甲状腺癌,大腸癌などとの関連が報告されている。発がんのメカニズムについての仮説はあるが,現段階ではインクレチン関連薬が発がんリスクを上昇させる証拠はない。逆に最近のいくつかの研究では,インクレチン関連薬がむしろ発がんリスクを低下させると示唆されている。しかし研究の試験期間は短く,長期的ながんリスクは明らかではない。

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発売後5年が過ぎようとするSGLT2(sodium-glucose cotransporter 2)阻害薬のさまざまなデータが蓄積されている。SGLT2阻害薬の有効性は大規模臨床試験でも証明されているが,長期にわたる投与により生じ得る発がん性などのリスク増加の報告はない。注目された膀胱がんなどの可能性も,現時点では払拭されたと言って良い。むしろ近年はSGLT2阻害薬の抗がん作用に期待する向きがある。SGLT2阻害薬は適応を見極めて使用すれば有用であることは間違いなく,発がんリスクへの懸念は本薬の臓器保護効果といった高い有用性を脅かすものでは全くないと言える。

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チアゾリジン(TZD)薬はインスリン抵抗性改善系の経口血糖降下薬に分類され,PPARγ(peroxisome proliferator-activated receptor γ)のリガンドとして作用する。単独投与では低血糖は少なく,脂肪細胞分化の促進とそれに伴う脂肪細胞の形質回復によりインスリン抵抗性を改善すると考えられており,優れた血糖降下作用を有するが,心不全の悪化や骨折,膀胱がんのリスク増加等が報告されており,慎重に投与の可否を判断する必要がある。

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糖尿病により,がん罹患リスクが上昇することはよく知られている。だが,現在のところ血糖コントロールを厳密にすることでがん罹患率が減少するといった良質なエビデンスは存在しない。しかし,メトホルミン内服によりがん罹患率,がん死亡率が低下することは,メタアナリシスから示唆されている。In vivo,in vitroの実験からメトホルミンの抗腫瘍効果のメカニズムは徐々に解明されつつあるが,近年免疫細胞を介して抗腫瘍効果を発現しているとの報告があり,注目を浴びている。メトホルミンはUKPDS(United Kingdom Prospective Diabetes Study)の報告以降「古くて新しい薬」と言われているが,現在でもさまざまな薬理作用が研究されていることから,今でも「古くて新しい薬」である。

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日本人糖尿病患者の死因の第1位はがんである。糖尿病を有するがん患者では,周術期や化学療法時をはじめ,高カロリー輸液,経管栄養など,がん治療のさまざまな局面で糖尿病に対する特別な配慮が必要となる。また,がん治療中は食欲や体調の変動をきたしやすいことから,シックデイに関する患者教育を十分に行う。一方,ステロイドなどの影響でがん治療中に新たに糖尿病を発症するケースも見られる。最近では免疫チェックポイント阻害薬による1型糖尿病も注目されている。がんと糖尿病,それぞれの専門家の協働がこれまで以上に求められている。

連載 感染症診断と病理(19)

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扶桑薬品工業から提供される「ハイブリゼップ(Hybrisep)」キットは,生体内に侵入した敗血症の原因菌をin situ hybridization法を利用して検出する。末梢血中の白血球に貪食された細菌のDNAが染めだされる。Staphylococcus aureus,S. epidermidis,Pseudomonas aeruginosa,Enterococcus faecalis,Escherichia coli/Klebsiella pneumoniae/Enterobacter cloacae群を認識する5種の標識DNAプローブが用いられる。抗菌薬の影響や皮膚常在菌のコンタミネーションの影響を受けることなく,迅速に(操作時間約8時間)原因菌が検出できる(松久明生ほか:In situ hybridization法による敗血症診断の臨床的有用性.BIO Clinica 14〔1〕:97-101, 1999)。本稿では,末梢血標本に観察される細菌類と糸状虫類を紹介する。巻頭図として,好中球に貪食される黄色ブドウ球菌と緑膿菌のゲノム陽性像を示す。

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80歳以上の高齢入院患者の治療とケアに当たって,事前に患者自身の死生観,価値観,そして自ら望むゴールのあり方などを調べ,その記録を指標としてのケアを進めることで,患者の終末期生活に対する望みがよく理解・尊重され,患者と家族の双方に好印象を与えることが確認されたとする研究結果が,2010年のBMJ誌で報告されている1)。オーストラリアの研究者たちによるもので,「リスペクティング・ペイシェント・チョイシス」(患者尊重の選択:Respecting Patient Choices:RPC)と呼ばれる同国のケアモデルを使用した前向き(prospective)無作為対照比較試験「アドバンス・ケア・プランニング」(事前ケア計画)の成果である。

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第28回日本医療薬学会年会が,平成30(2018)年11月23~25日の3日間,神戸国際会議場ほかで開催された。年会テーマは「医療薬学の持続的進化のための新たなパラダイム構築 ~教育・臨床業務・研究~」,年会長は岡山大学病院教授/薬剤部長の千堂年昭氏。本年会では,肺移植で世界に先んじる先進的な治療で成果を上げている大藤剛宏氏(岡山大学教授)による特別講演をはじめ,近年の社会ニーズに即したテーマで66題のシンポジウムが開催され,チーム医療や病診薬連携における薬剤師の責務などについて討議された。その中から,特別講演1題「肺移植の革新」,シンポジウム2題「抗菌薬適正使用支援チーム(AST)において薬剤師が果たす役割とは?」および「こどもたちに特有な薬のリスクを薬剤師はどれだけ考えているか」を紹介する。

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日本転倒予防学会 第5回 学術集会が10月6,7日の両日,アクトシティ浜松で開催された。集会2日目のランチョンセミナー1で取り上げられた「サルコペニア・フレイルとビタミンD」について,演者の小川純人氏にその要旨についてご紹介いただいた。(編集部)

メディカルトレンド・姉妹誌から

MONTHLY PRESS

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目的  ムコ多糖症Ⅰ型(MPS Ⅰ)患者を対象としたラロニダーゼ(本剤)の長期使用実態下での安全性および有効性について検討した。 方法  本剤を投与されたMPS Ⅰ患者全例を対象に,特定使用成績調査を実施し,日常診療における安全性および有効性データを収集した。登録期間は2006年10月から2016年4月までとした。用法・用量に介入せず,患者の観察期間は投与開始後最長9年間とした。安全性については,有害事象の発現状況,安全性に影響を与えると考えられる患者背景因子,投与量および投与期間と有害事象発現率との関係,ならびに抗体産生と副作用発現の関係を評価した。また,有効性に影響を与えると考えられるこれらの要因と全般改善度(やや改善以上)の関係についても検討した。 結果  安全性解析対象患者40例のうち,有害事象は29例(72.5%)で認められた。主な重篤な有害事象は,てんかんおよび発熱(各2例)であった。本剤との関連性が認められる,もしくは否定されない有害事象は16例(40.0%)158件にみられた。頻度の高いものは蕁麻疹および発熱が6例で最も多く,紅斑およびそう痒症が各3例であった。腎機能障害がみられた1例の転帰は未回復で,その他の事象の転帰は回復または軽快であった。抗ラロニダーゼ抗体(IgG)産生は34例中33例にみられた。統計学的検討を行った結果,抗ラロニダーゼ抗体(IgG)産生の有無と副作用,過敏症(副作用)およびIAR(infusion associated reaction)の発現に有意差は認められなかった。抗ラロニダーゼ抗体(IgG)抗体産生ありの群では,過敏症(副作用)の発現に有意差が認められたが,副作用とIARの発現では有意差は認められなかった。最終評価時の全般改善度は改善(著明改善,改善,およびやや改善)10例(25.6%),不変24例,悪化3例,および判定不能2例であった。全般改善度との統計的な関連性を検討した因子のうちで,年齢,拡張期血圧,投与量および投与期間は全般改善度との相関がみられた。また,α-L-イズロニダーゼ活性,尿中ウロン酸濃度,肝臓サイズの改善傾向が認められた。 結論  本剤との関連性が認められる,もしくは否定されない有害事象の頻度は40%で,ほとんどの副作用は非重篤で転帰は回復または軽快であった。最終評価時の全般改善度(やや改善以上)は25.6%であった。本調査では,ラロニターゼ長期(最長約9年間)投与の安全性および有効性に新たな懸念は認められなかった。

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分かりやすい医薬品包装デザインは,繁忙,複雑な医療現場において調剤過誤防止対策に重要な役割を果たす。京都府立医科大学附属病院薬剤部では,包装デザインが異なるバイアル見本を用いて,調製上の注意点(溶解液および液量)の表記に関する効果的なデザインを検証した。結果,注意喚起はキャップへの表記が最も効果的であった。一方,ラベルの形状工夫は,注意喚起効果は高いものの操作性に劣ることが示された。さらに文字サイズやフォント,色調等の検討を重ね,バイアル包装デザインのモデルを完成させた。医薬品包装デザインには,視認性や操作性に加え,類似名称との区別化を図る等,誤りに気づく機会を増やす工夫が求められる。

連載・クリニカル・パスと薬剤師(81)計画と実践のノウ・ハウ

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利尿薬のトルバプタンは,既存の薬剤とは異なる作用機序で,肝硬変における腹水・浮腫に対し効果を示す。重篤な副作用として,高ナトリウム血症や脱水などが報告されており,血清ナトリウムを頻回測定の上,入院管理下での導入が推奨されている。今回,各種検査指示の漏れ防止およびトルバプタンに対する意識向上を目的に,非代償期肝硬変におけるトルバプタン導入のクリニカルパスを作成し,運用を開始した。そして開始後も,重篤な高ナトリウム血症・脱水は発現することなく経過している。トルバプタンのように特異的な副作用プロファイルを有する薬剤や,継続的なモニタリングが必要な薬剤については,クリニカルパスによる運用が有用である。

連載 患者のQOL向上と薬剤師の関わりPARTⅡ.服薬指導と病棟活動(129)

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超高齢社会の進展に伴い,慢性期・回復期の医療は入院から在宅へと移行している。在宅での医療を安定して継続するためには,患者の服薬管理などを基本的に患者自らが行うか,家族が支援することが重要となる。洛和会音羽リハビリテーション病院では,退院後の環境を見据えた服用薬の自己管理について,独自に作成した自己管理導入指標を用いて患者の服薬管理能力を測定し,個々の患者における自己管理上の問題点の明確化と,効果的な自己管理への移行指導を試みている。初回指導時にこの評価表を用い,「薬物治療に対する理解」,「継続使用の理解」,「服用の手技」などの項目を評価し,自己管理の成否や服薬ミスの有無との関連性などについて調査したので,報告する。

連載・副作用・薬物相互作用トレンドチェック

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〔今月の注目論文のポイント〕 1.米国で行われた調査によると,未成年者の約2割が処方薬を服用しており,また,2剤以上を服用しているうちの約1割に潜在的な薬物間相互作用の問題があった。 2.米国の医療情報データベースを用いた調査によると,高齢パーキンソン病患者でアセチルコリンエステラーゼ阻害薬を処方されている患者の約45%で,作用の拮抗する抗コリン作用の強い薬剤が併用されていた。 3.米国の医療情報データベースを用いた症例対照研究によると,TNF(Tumor Necrosis Factor)阻害薬を半年~1年前に使用していた場合,メトトレキサート+疾患修飾抗リウマチ薬を使用していた場合よりも末梢神経障害のリスクが高かった。 4.米国の皮膚筋炎患者を対象としたコホート研究によると,自己抗体である抗SAE-1/2(small ubiquitinlike modifier 1 activating enzyme)抗体陽性の場合はヒドロキシクロロキンによる発疹のリスクが高く,抗MDA-5(melanoma differentiation-associated gene 5)抗体陽性の場合は同リスクが低かった。 5.韓国で行われた健康成人を対象とした薬物動態試験とin vitro試験によると,紅参(オタネニンジン)の併用は薬物動態に関与する代謝酵素やトランスポーターを介した相互作用を起こさないと考えられた。 6.健康成人を対象とした試験によると,単回投与時には空腹時投与よりも食後投与でドキシサイクリンの血漿中濃度と皮膚間質液中濃度は低下したが,反復投与によりその影響は消失した。

連載 医薬品情報(DI)室より 注目の新薬情報〈36〉

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◆ 製剤の特徴  アトピー性皮膚炎および関連するアトピー性/アレルギー性疾患の病態には,2型炎症反応(2型ヘルパーT〔Th2〕反応を含む)およびTh2細胞の活性化が重要な役割を果たすと考えられている。その中で,IL(interleukin)-4およびIL-13シグナル伝達経路は,この2型炎症反応およびTh2細胞の活性化等に寄与することから,デュピクセント皮下注300mgシリンジ(デュピルマブ〔遺伝子組換え〕)は,アトピー性皮膚炎に対して薬効を示すことが期待され,ステロイド外用剤やタクロリムス外用剤等の抗炎症外用薬で効果不十分なアトピー性皮膚炎患者に対する治療薬として開発が進められてきた。その結果,ステロイド外用剤の効果が不十分な中等症~重症の成人アトピー性皮膚炎患者を対象とした臨床試験において,単独療法またはステロイド外用剤との併用療法で有効性と安全性が確認されたため,成人における「既存治療で効果不十分なアトピー性皮膚炎」の適応で,2018年1月に製造販売承認を取得した。

基本情報

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医薬ジャーナル
55巻1号 (2019年1月)
電子版ISSN: 印刷版ISSN:0287-4741 医薬ジャーナル社

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