保健婦雑誌 22巻7号 (1966年7月)

特集 疲労

疲労の科学 三浦 豊彦
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 I.はじめに

 疲労とは何か,編集者はこんなことは当然わかったものとして質問してくる.さて疲労とはということになると,疲労研究を看板にしている専門家でも,ひらき直られるとちょっと困るのが普通である.

 何もしていなくても,休日つかれという言葉があるように,つかれるという現象はおこる.けれどもここでは労働と関係のある疲労の方を考えてみよう.もちろん労働といっても,ただ筋肉を動かす労働だけを意味してはいない.

疲労の防止 高桑 栄松
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 I.はじめに

 人間が,生活や労働によってひき起こされる疲労からまぬがれることのできないのは,生体としての宿命であるかもしれない.人間は人類誕生の遠い昔から"疲労"をいろいろな場で,またいろいろな度合いで経験してきたのであるが,疲労現象の複雑さからその解明はいまだになされないまま現在にいたっている.疲労問題はきわめて古く,かつまた新しい問題なのである.

 近代実験医学の祖といわれているクロード・ベルナールは19世紀末,すでに「生体にとって内部環境の恒常性こそ自由な生命の条件である」と指摘し,現代のストレス学説への道を開いた.現代社会は家庭・職場・地域共同体などの集団のなかで複雑な機構を形成しており,しかもその変貌は急テンポである.この外部環境の大きな変化は,自由な生命を維持するための適応への過程において,生体に心的あるいは生理的に大きな影響をおよぼし,その結果としていろいろな生体機能の変動をひき起すことになる.この変動が正常範囲を越え,内部環境の失調状態をひきおこし,これが長時間にわたり持続する揚合にいわゆる疲労現象があらわれるものと考えることができる.

保健婦と疲労 大国 美智子
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 まえおき

 「保健婦と疲労」という題で,何か書くようにすすめられた時,正直のところ,私は,気がすすまなかった.というのは,保健婦さんに関する今までのいくつかの研究は,あまりにも数字や理論で割り切りすぎている感じがしていたし,ことに,"保健婦の疲労"などという問題は,そのような分析の仕方では,到底,その本質に到達し得ないであろうと思ったからである.

 私が保健婦さんたちから,「疲れる」とか「しんどい」という言葉をさかんに聞いたのは,今からもう10年余りも前のことである.当時,それらは「保健婦さんの仕事量があまりにも多すぎる」ということと結びつけて考えられていた.タイムスタディや,登録カードの整備や,集団指導への転換など,さまざまの方法によって,保健婦業務から雑用をなくすように時間を有効に使うようにという努力が始められたのは,それから間もなくのことであった.それ以来,保健婦業務は改善に改善を重ねて今日にいたっている.

私の疲労防止法

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 健康管理者である保健婦自身の疲労をどのように解決しているか,ということで鯖江保健所にご指名をいただいた.保健婦数8名,全員既婚,一番若年の新婚者を除いた7名のものは1人または2人の子を持つ母親であり,孫までもある若々しいおばあちゃんから新婚さんと全くバラエティに富んだ年齢構成ではあるが,平均年齢37歳.もはや育児より手をはなれ,精神的にも,身体的にも,また家庭にあっても,職場にあっても一応のゆとりのある恵まれた者ばかりの職場でもある.

 したがって,連日多忙をきわめる保健婦業務の疲労は,家庭において十分な休養と,安定したやすらぎのなかに十二分にいやされるという,恵まれた環境におかれている人たちばかりである.そのなかにあって,年代的にももっとも負担の多い立場の者が,この場合の適役者であるということから,ご指名をいただいた.

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 身心ともに疲労困憊というハメになるのは年に1度か2度くらいのものであろうか.が,私の身体は原始的にできていて"あっつかれた.おもしろくない,熱が出て2〜3日休みたいな"という逃避欲がおこると,38℃くらいの熱がちゃんとでたり,今より若いころにはいやな夢をみて嘔吐したりもした.

 最近は疲労感も質的な変化をとげたらしくって,以前のように自分の内部からの毒素で,自家中毒の形をとるよりは,今にも治りそうな傷なのにウジウジといつまでも化膿している傷のようなイヤな疲労感に変ってきている.だからその防止対策にしても静かに,丁寧に,毎日少しづつ世話をしてやらなければダメになってきている.曲りなりにも現代人の仲間入りということかも知れない.ところで思うのだが,男と女とでは疲労防止法ということになるとずい分と違う,男の場合,どちらかというと独りでじっと疲労のわれ目をながめているか,パチンコや,プラモデルや,また意味なく天井をながめているといった風に独自の城を作ることでその処置をする嗜好があるようである.マージャンとか,飲みあるきとかは遊びのジャンルであるらしい.女は違う.遊びの世界と疲労解消は一心同体のようである.だからある時は家族団らんでも十分癒されるし,友人とたあいないおしゃべりをすることでその解消を試みたりする.ところで保健婦という職業がさせる疲労感は,どういう時に,どういう形で起るのだろう.

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 昼休みが終り,汗ばんだ顔を冷い水で洗うと何ともいえない快さ,身がギュッとひきしまり生きかえった.今日は1日こまかい集計事務の予定がつまっている.事務的業務の不得手な私は午前中いっぱい椅子にしばりつけられているだけでもうんざりだ.特に数字いじりではなおさらで,肉体労働の方がどんなに良いかわからないと思う.肩は凝り頭はボーッとして冴えなくなる.いわゆる精神的疲労だ.こんな時には昼休みが待ちどおしい.食事をすますとまだ御飯がのどを通過しきれないうちに講堂に走って行く.そこにはピンポン台が1台置いてあり,お互いに誘い合わなくても7〜8人のメンバーが自然に集ってくる.そして自分がプレーをしている時はもちろん,他人のプレーを見ては笑い興じているだけでも身体中の疲れがみんなほぐれて消えてゆく.1時間の昼休みがほど良い運動で身も心もさわやかにしてくれ,また午後の活動への意欲をおこしてくれる.

 私たちの業務の多くは訪問である.たとえ使命感に燃え,生きがいを感じているこの仕事も,1日中埃りだらけの田舎道を自転車で走りまわったら夕方にはぐったりしてしまう.他人の家を訪問するという精神的緊張と,肉体的疲労とが重なり,口を聞くのもいやになる.こんな時きれいな音楽が流れて来たら……ポピュラー,シャンソン,タンゴ何でも良い.美しくしかも気楽に聞きながせる音楽,これこそ心身の疲れを根こそぎ持ち去ってくれる.

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 Iはじめに

 まず楽屋ばなしから始めたい.先日「保健婦さんの疲労回復法」についてというテーマをいただいたとき,ふだんあまり,顔みしりしないたちであるが,すぐに返事はできなかった.それというのは,わたくしの知っている保健婦さんの数は,あまりにも少ない.それもほとんど事業所や保健所の方に限られている.もちろん,ときどき,講習会あたりで知り合いになっても,その人たちが日常どんな生活をしておられるか,何も知らない.事業所や保健所の様子は,およそ見当はつくにしても,そのほかの生活については,万人万様であろう.このことは,親しい保健婦さんについても言えることで,これらの人たちのすべてを知っているわけではない.また,出勤してきてからの仕事も似ているようでもみんなちがう.そのようなことでは,疲労というようなその人の全体から考えなくてはならぬむずかしい問題について皆さんに何かお話するのは,気がとがめるし,また,できもしないというのが第一の理由である.

 もう一つの理由は,わたくしは,疲労について特に勉強したことはない.臨床家の一人として,また衛生管理者の一人として,疲労ということをばく然と考えている程度の者である.したがって,何かよい万人向きの回復法をもっているわけではない.だいいち,そんな方法があるのかしら,あったらぜひ知りたいものである,というのがそのときの気持であった.

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 チヨットした思いつきも時には必要

 東京都の人口が,1,100万人をこしたのが確かこの5月だったと思う.このぼう大な人口を東京都保健所保健婦540名(看護係長61名を含む)が分担している.とくに人口稠密な区部では保健婦1人の担当が3万以上である.

 そこで専門的観点から保健要求を見出して業務計画をたて,健康度の低い対象の健康度を多少なりとも高めるべく業務をすすめている.このように目標を定めて仕事をすすめているのであるが,対象は大きすぎてはてしない努力のくりかえしでありくる日も,くる年もつねに意欲的に仕事と取り組まれるとは限らない.ときには何もかもすててしまいたいような疲労を感じることもある.

グラビア

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 "疲れた"という。たしかに顔つきは変り,動作はにぶくなり,考えもまとまらなくなる。身体もねこ背になり,何となくしまりがなくなる。

 疲労とは何だろうか。ある人は刺激に対する全身の適応症候性の反応だという。またある人は全身機能の低下だといい,まだ確実な定義は下されていない。その不明なものをどうやって計ったらよいのかは大問題である。疲労についての判定法は今までに100種をこえる方法が示されているが、まだこれ一つでいいという方法はない。それだけ疲労の本態が複雑なのだが,現場をあずかる保健婦や衛生管理者にとって困った話である。そうはいうものの今一番多くつかわれているいくつかの方法がある。本グラビアにのせた写真はいずれもその一つで,なかでもフリッカー値測定法は一番ポピュラーなものである。TAF (集中維持機能)測定法は最近北大の高桑教授によって開発されたもので,まだ研究されている最中であるが,学会でも注目されているとい意味からあえて掲載した。これらの方法に一つの欠点がある。それは高価な機械をつかうということ。しかし一面ではこうした手段をとらなければまだ判らないほど疲労が複稚な現象なのだといえる。

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 三重県久居町の稲葉地区は津市から車で30分というところにある.12月も残り少なくなった20日町の保健婦の山本富美子さん,森田幸子さんに案内されて,この地区を訪問する機会を得た.スモッグの街,そして車の洪水,朝夕のラッシュアワーそんな都会生活と比べるとそれは何と静かな環境であろう.部落の一ヵ所に互いに肩をよせあっているように建てられている家々,冷たい雨の日の故か人の姿はまったくみられない.

 部落の中心に農業協同組合がある.その2階大きな畳じきの会議室で,部落の区長さん,婦人会の会長さん,そして支部長さんが私どもをむかえてくれた.高血圧対策を端諸として,展開した地区住民の手による衛生組織活動,そして農休日の制定という話をきいて,地区の人びとの話をききたいという願いをきいてくれたのである.

健康をよろこぶ運動 直江 重雄
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 I.この運動を起こした動機

 国民健康保険の仕事は,病気にかかった人や,怪我をした人に医療を行なうのがおもな目的ですが,もう一本たいせつな柱があるはずです.それは保健対策であります.しかるに従来ややもすれば,保険給付にウエイトを置き過ぎたというよりも,医療給付だけが仕事のように考えられて保健活動がなおざりにされていたと存じます.最近の医療は総合医療とか,包括医療といわれ,治療と予防の一体化,リハビリテーションまで含めたものでなければならないと叫ばれるようになったのも当然のことであります."治療よりも予防"ということは大事なことですが,それではまだ弱いように思います.進んでよい体,強い身体を作るように努力するという積極さがなければならず,健康であることの喜びをもたねばうそだということに気付いたのは3年前のことでした.

 当連合会では,昭和38年の5月診療分から,傷病分類の統計をはじめたのですが,月を逐ってどの市町村にどんな病気がどう発生し,それが県全体でどんな傾向を辿っているかということがわかってきましたので,この生きた統計,新しい統計を片手に持って何らかの運動を展開したいという意欲が出てきました.

読者からの手紙

就職当時の思い出 伊藤 寿美恵
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 昭和34年10月,伊勢湾台風の傷痕もなまなましかった時,始めて現在の刈谷に就職しました.

 当時の保健所はひじょうに暗く古い建物でした.屋根からもれた水は電球の中まではいり込み,天井からは濁水がぽたぽたと流れ落ち,1日にバケツになん杯となくたまり,床はでこぼこになるというまったくあわれな状態でした.

ニュース

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 5月に入り,岐阜市,高山市などの小学校で集団赤痢が発生しているが岐阜県厚生部予防課が5月20日までにまとめたところによると,ことしの赤痢患者は真性212人,疑似21人で,昨年同期の真性219人,疑似19人とほぼ同数,しかし集団発生が目立ち,すでに7件,しかも5月に入って4件も発生している.

 集団発生は,昨年は端浪市の高校で164人の患者が出た1件だけだったが,ことしは2月24日の保育園16人のほか,4月に2件71人(うち保菌者26人),5月に入ってからは,高山市の小学校のほか,10人以上の集団発生が7件も発生している.とくに5月にはいってからの発生件数が多く,予防課では,集団生活で園児が手をつなぐなど接触感染する機会がふえたためとみている.

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 3.訪問指導

 (1)面接者の態度

 対象者または面接者の衛生に関する関心度合いをみると,農山漁村では関心の度合いが低く,市街地・鉱山では高かった(第28表).これは市街地,鉱山には俸給生活者が多く農漁業労働に従事している者よりも,衛生に関する関心をもつ時間的余裕が多いことを示しているものと考えられる.訪問種別ごとに衛生に関する関心度を調べたところ,成人病・妊産婦においては「関心がありすぎる」とするものの率が高く,その他の疾病・結核・乳幼児にあっては「関心なし」とするものの率が高かった(第29表).この関心度は,新聞,雑誌,テレビなどマスコミに影響されるところが大きいと思われる.

 対象者または面接者の,保健婦の指導に対する協力程度をみると第30表のとおり「協力的」が回数を重ねるにつれ少なくなるが,これはケースがむずかしくなるためと考えられる.しかし「どちらでもない」や「非協力」にあっては,回数を重ねるに従って減少していること,他保健婦が訪問指導した場合非協力のケースがほとんどなくなっていたことから,今後の指導においては,回数を重ねて人間関係を密にすることと,必要によっては他保健婦の指導も時折りおりまぜることがたいせつではないかと考えられる.

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 はじめに—岡部町の概要

 静岡県志太郡岡部町は下図のように県中央部に位し,旧岡部町と旧朝比奈村とが合併し,東は宇津の谷嶺をもって静岡市と接し,南部は開けて平坦地となり,焼津市ならびに藤枝市と界し,西北部は山岳重畳として安倍郡清沢村,静岡市および藤枝市の北部につらなり,東南〜西北に長く帯状の町を形成している.北部山岳地帯に源を発する朝比奈川は町の中央部を縦断し,東部宇津の谷嶺から流れる岡部川は町の南端部で朝比奈川と合し,焼津市内を経て駿河湾に注ぐ.また国道1級1号線は町の南部市街地を東西に横断し町発展の基礎となっている.

 なお,産業は温州みかん,玉露および緑茶,筍しいたけと産物が多く,町全般に裕福である.

保健婦のあゆみ

沢口としさんのこと(2)
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 吉田病院時代

 さて,前記しましたように,彼女は満16歳で吉田小児科医院に住み込んだわけですが,人一倍向学心強く,将来,栄養士となることを希望し,そのためには,まず専検を取らねばと,働きながら神田駿河台にある高等予備校に通い,英語と地理を残して他の学科はすべて検定をパスしました。

 しかし惜しいことに彼女が21歳の昭和4年,父が突然亡くなってしまいましたので,やむなく中途で進学を断念し,以後父に代って母や妹たちの相談相手となって,その頃から毎月,母のもとへ妹の学資として送金をつづけるようになりました。そして自身はいよいよ腰を落ちつけて,病院勤務に専念し,昭和6年24歳で看護婦の検定試験に合格して,その暮には吉田医院の婦長となりました。

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 長野県上伊那保健婦部会(北原鈴子部会長,会員36人)は,上伊那地方の過去5年間の脳卒中患者582人の実態を調査していたが,その結果をこのほど下高井山ノ内町でひらかれた日本看護協会保健婦会県支部研究学会で発表した.この実態調査の結果から ①脳卒中患者の家庭看護の必要性とその指導 ②医師への連絡強化と治療の継続 ③後遺症患者の早期機能訓練と生活指導の徹底 ④患者の管理カードによる保健指導の具体案 ⑤若年層にたいする高血圧予防対策 ⑥専門医,学界にたいし,リハビリテーション(社会復帰)の基準の設定要請などの問題点が強調された.

Medical Hi-lite

アニサキス病 H. Y
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 食生活のなかに

 ここ数年において大きな話題の1つは新しい病気アニサキス病である.この病気は,私どもの日常の食生活にきわめて密接したしかも食品衛生または公衆衛生の上からも必ずしもなおざりにできないものであるのでここに紹介しておきたいと思う.この病気は簡単にいえば海の魚の寄生虫,ことに蛔虫の一種であるアニサキスという小さい糸状の虫(線虫という)によって起る胃腸の壁に小さな"こぶ"(腫瘍というが)を作る病気のことを指していうのである.これまで海の魚の寄生虫はほとんど無害であろうと考えられてきたことに1つの大きな波紋が投げかけられた.読者のかたがたは,すでに海の魚ならぬ河川湖沼に棲む雑魚(淡水魚)の生料理(刺身,あらいなど)によって肝臓ジストマなど数種のジストマ(吸虫)にかかることはよくご存知であろう.しかし,海の魚については多くは知らされていない.日本人の蛋白源,栄養源としてたいせつな海の魚にも思わぬ伏兵があることに思いをいたさねばならないことになった.

びぶりおていく

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 首相の条件はビジョンとパーソナリティ

 明治から昭和の今日まで,いったい何人の首相がわが国に存在したか,正確にいえる人は少ないのではあるまいか.なんと62代,39人にも及んでいる事実を知って,あ然とする人のほうが多いだろう.

 ではこの39人の名前をいえる人は,となると,これはもうごく少数の人に限られてしまうだろうと思う.

実態をさぐる

水道事情1966
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 水道の普及

 文化村で赤痢がおこるという奇怪な事件が本年3月にもちあがった。それ以来,ほうぼうの簡易水道が,無届けだったり,管理不充分だったりして,まことにおぞ気をふるう状態であることが,ばくろされてきた。ところで,わが国の水道の普及状態は,どれくらいなのか。

社会の窓

底辺の人びと 野口 肇
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 日本の最底辺ではたらく人たちとして,東京では山谷,大阪では釜ケ崎の住居があります。かれらは1泊100円の木賃宿に夜ごとのネグラをもとめ,朝はやく私設職安のトラックで作業所にはこばれます。この私設職安はゴロツキで,公然と大幅なピンハネをします。横浜や大阪の港で俗にいう風太郎もほぼどうようです.夏など街頭でゴロ寝するのです.

 まだあります.全国の都市,農村いたるところにあるいわゆるエタや朝鮮人の集落がそれです.ここの住民たちは一般に粗暴で犯罪の巣とみなされ,ひどい軽べつと偏見を浴びています.かれらはバタ屋や皮革業屠殺業など賎業につき,その子弟はまともな入学,就職,結婚の道をとざされています.こうした部落民が粗暴といわれる理由は,世間の白眼にたいして一種の自己防衛の集落をつくって団結するからです.

連載 保健と社会・4

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 ■スラムにおける階層間格差と健康問題

 前回で大都市内地域間格差の問題として,米国のサバービア(郊外高級住宅地域)とスラムの2つの典型的地域をとりあげました.地域間格差が住民の階層間格差に対応して存在していることは,指摘したとおりですが,ひとしく地域といっても,その意味内容が階層間においていかに異なるかを,つぎにスラムの実態をとおして素描しておきましょう.

 米国のスラムは,郊外部のサバービアに対して,大都市の中心部に位置していますが,黒人を地域住民の主体としている点に,おおきな特色があります.黒人はかりに経済的条件にめぐまれていても,サバービアでの上流・中産階級白人のように,みずからの地域社会を選択するという自由はゆるされていません.社会的差別という目に見えない心理的壁にさまたげられ,類は友をよぶ式に既成の黒人地域に移動し,定着せざるをえません.人間生態学でいう隔離現象(segregation)がこれですが,白人地域(white community)とは隔離したかたちでの黒人地域(black commu—nity)は,一個の小宇宙的な存在をなしています.ショッピング・センター,レストラン,劇場アパート,ホテル,教会,学校,病院,役所,出張所,いずれも黒人"専用"であり,極端に表現すれば,"ゆりかごから墓場まで"の生活が,この黒人地域では保障されているわけです.

連載 保健指導を科学する・6

保健婦活動の事例をもとにた社会学,社会心理学,臨床心理学的な考察

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中西シゲ 74歳 女子 主婦

老後の生活と不安 波多野 梗子
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 戦後,家族制度の改正にともなって,親の扶養の義務も,財産の相続権も子ども全員に平等に割当てられることになった.よく今の民法では親をほったらかしにしてもよいのだなどという人があるが,これはまちがいで,子どもに親の扶養の義務があることは前の事例でものべた通りである.しかし,現行民法において,親の扶養の義務はあるにしても,それはあくまでも経済的な意味においてであって,昔のように子どものうちだれか1人(たいていは長男)があととりとなり,同居して責任をもって親の世話をするといった「家」制度にもとついたそれではない.仕送りだけは「義務だから」するが,ひきとるのはごめんだ,という子どもがふえ,親がなかなか安住の地を得ることができないとか,ちょっと自分たちの生活が苦しいと仕送りもとどこおる,などのために,家裁の調停にもちこまれることさえ珍しくないのである.

 これは,ある意味では,子ども全員が扶養義務をもつとし,それだけ親の老後の生活を確実に保障しようとした民法改正が,逆効果だったともいえよう.つまり,自分でなく,ほかのきょうだいが世話をすればよい,とみんなが思うようになりやすいし,またあまり広い範囲に扶養の義務を課したことで,この規定自体がなにか現実にそぐわない感じを与えたからである.

保健指導理論から 田中 恒男
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 いわゆる保健指導で,まず大切なのは初回の接触であることはいうまでもない.カウンセリングでは,ラポールができるまでの接触をインテークといっているが,この時期の人間的接触はカウンセリング効果のすべてを支配することさえある.このリポートでは,そのあたりの記述にとぼしく,十分な分析ができない.リポートは客観的な事実をのべてその上で作成者の見解を書くべきだが,このあたりがしばしばあいまいになるのは反省すべき点である.ケース・ワーカーほどの過程記録はいらないがどんなきっかけで話に入ったか,どのような展開をしたか,それに対して相手はどのように反応してきたか,などが明らかにされることが大切なことである.

 たしかに観察として,もっともだと思う分析が加えられているのだが,残念ながらそれに対する裏づけがないので「事によったら思い違いが」といった懸念がないでもない.はなはだ失礼な言い草だが,主観性がすぎるのである.

基本情報

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保健婦雑誌
22巻7号 (1966年7月)
電子版ISSN:2185-4041 印刷版ISSN:0047-1844 医学書院

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