連載 保健と社会・4
都市地域生活の類型と保健活動
奥田 道大
1
1東洋大学・社会学
pp.69-73,80
発行日 1966年7月10日
Published Date 1966/7/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662203704
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■スラムにおける階層間格差と健康問題
前回で大都市内地域間格差の問題として,米国のサバービア(郊外高級住宅地域)とスラムの2つの典型的地域をとりあげました.地域間格差が住民の階層間格差に対応して存在していることは,指摘したとおりですが,ひとしく地域といっても,その意味内容が階層間においていかに異なるかを,つぎにスラムの実態をとおして素描しておきましょう.
米国のスラムは,郊外部のサバービアに対して,大都市の中心部に位置していますが,黒人を地域住民の主体としている点に,おおきな特色があります.黒人はかりに経済的条件にめぐまれていても,サバービアでの上流・中産階級白人のように,みずからの地域社会を選択するという自由はゆるされていません.社会的差別という目に見えない心理的壁にさまたげられ,類は友をよぶ式に既成の黒人地域に移動し,定着せざるをえません.人間生態学でいう隔離現象(segregation)がこれですが,白人地域(white community)とは隔離したかたちでの黒人地域(black community)は,一個の小宇宙的な存在をなしています.ショッピング・センター,レストラン,劇場アパート,ホテル,教会,学校,病院,役所,出張所,いずれも黒人"専用"であり,極端に表現すれば,"ゆりかごから墓場まで"の生活が,この黒人地域では保障されているわけです.
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