連載 保健指導を科学する・6
保健婦活動の事例をもとにた社会学,社会心理学,臨床心理学的な考察
老後の生活と不安
波多野 梗子
1
1東大医学部保健学科
pp.76-78
発行日 1966年7月10日
Published Date 1966/7/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662203706
- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
戦後,家族制度の改正にともなって,親の扶養の義務も,財産の相続権も子ども全員に平等に割当てられることになった.よく今の民法では親をほったらかしにしてもよいのだなどという人があるが,これはまちがいで,子どもに親の扶養の義務があることは前の事例でものべた通りである.しかし,現行民法において,親の扶養の義務はあるにしても,それはあくまでも経済的な意味においてであって,昔のように子どものうちだれか1人(たいていは長男)があととりとなり,同居して責任をもって親の世話をするといった「家」制度にもとついたそれではない.仕送りだけは「義務だから」するが,ひきとるのはごめんだ,という子どもがふえ,親がなかなか安住の地を得ることができないとか,ちょっと自分たちの生活が苦しいと仕送りもとどこおる,などのために,家裁の調停にもちこまれることさえ珍しくないのである.
これは,ある意味では,子ども全員が扶養義務をもつとし,それだけ親の老後の生活を確実に保障しようとした民法改正が,逆効果だったともいえよう.つまり,自分でなく,ほかのきょうだいが世話をすればよい,とみんなが思うようになりやすいし,またあまり広い範囲に扶養の義務を課したことで,この規定自体がなにか現実にそぐわない感じを与えたからである.
Copyright © 1966, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.