特集 疲労
疲労の防止
高桑 栄松
1
1北大衛生学教室
pp.16-20
発行日 1966年7月10日
Published Date 1966/7/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662203686
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I.はじめに
人間が,生活や労働によってひき起こされる疲労からまぬがれることのできないのは,生体としての宿命であるかもしれない.人間は人類誕生の遠い昔から"疲労"をいろいろな場で,またいろいろな度合いで経験してきたのであるが,疲労現象の複雑さからその解明はいまだになされないまま現在にいたっている.疲労問題はきわめて古く,かつまた新しい問題なのである.
近代実験医学の祖といわれているクロード・ベルナールは19世紀末,すでに「生体にとって内部環境の恒常性こそ自由な生命の条件である」と指摘し,現代のストレス学説への道を開いた.現代社会は家庭・職場・地域共同体などの集団のなかで複雑な機構を形成しており,しかもその変貌は急テンポである.この外部環境の大きな変化は,自由な生命を維持するための適応への過程において,生体に心的あるいは生理的に大きな影響をおよぼし,その結果としていろいろな生体機能の変動をひき起すことになる.この変動が正常範囲を越え,内部環境の失調状態をひきおこし,これが長時間にわたり持続する揚合にいわゆる疲労現象があらわれるものと考えることができる.
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